朝起きられないもう一つの病気「起立性調節障害(OD)」にどう対処するか(下)

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はてなブックマーク - 起立性調節障害の診断と治療 | MEDICAL LIBRARY PREMIUM | ラジオNIKKEIのエントリは、思春期の子どもに発症しやすく、誤解を招きやすい病気 起立性調節障害(OD)について説明した前後編のエントリの後半です。

前半のエントリでは、起立性調節障害(OD)にはどのような症状が表れるか、よくある誤解にはどんなものがあるか、という点を考えました。

この後半のエントリでは、起立性調節障害(OD)はどのように診断されるか、どのようにして対処できるかを考えます。

特に朝起きられない子の意外な病気 - 「起立性調節障害」患者家族の体験から (中公新書ラクレ)を参考にした部分には、ページ数を併記してあります。

前半のエントリのほうはこちらからどうぞ。

朝起きられないもう一つの病気「起立性調節障害(OD)」にどう対処するか(上) | いつも空が見えるから

 
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起立性調節障害(OD)を診断する3ステップ

起立性調節障害(OD)の診断は小児心身医学会ガイドライン集に掲載されている小児起立性調節障害診断・治療ガイドラインに基づき、次の3ステップで行われます。

1.よく似た疾患の除外

起立性調節障害(OD)を診断する場合、まず鉄欠乏性貧血など、他のよく似た疾患を除外します。ただし、もし小児慢性疲労症候群(CCFS)子どもの脳脊髄液減少症の場合は、通常の医療機関では除外診断できないので注意する必要があります。

小児慢性疲労症候群(CCFS)と起立性調節障害(OD)ー何が違うか(上)小児慢性疲労症候群(CCFS)と起立性調節障害(OD)ー何が違うか(上)

 

起立性調節障害(OD)と診断されたのに実は脳脊髄液減少症だったという例については高橋浩一先生がブログに掲載してくださっています。

小児の脳脊髄液減少症 - Dr.高橋浩一のブログ小児の脳脊髄液減少症 - Dr.高橋浩一のブログ

 

2.新起立試験法

これは従来の起立試験に「起立後血圧回復時間測定」を加えたものです。

ベッドに横になり、10分後に三回血圧を測る

起立した直後に測る

起立したまま1分ごとに測る

この過程により、以下の4つのサブタイプが判明します。これらのサブタイプは、田中英高先生たちのグループが世界に先駆けてまとめたものです。

(1)起立直後性低血圧(INOH)…起立直後に強い血圧低下が起こる
(2)体位性頻脈症候群(POTS)…起立による血圧低下はないが心拍が増加する
(3)神経調節性失神(NMS)…起立中に突然 血圧が低下し、意識低下や消失を起こす
(4)遷延性起立性低血圧(delayed OH)…起立3-10分後に血圧が低下する

加えて、近年、新しいサブタイプが2つ報告されています

(5)過剰反応(Hyper response)型
(6)脳血流低下型

この2つは、起立性調節障害の15%を占めるとされていますが、新起立試験では見分けることができません。連続血圧を指先だけで測れる連続血圧・血行動態測定装置フィナプレス(Finapres)や近赤外分光計を使う必要があります。

また、(2)の体位性頻脈症候群には、さらに2つのタイプがあり、
■横になっているときでも起立しているときでも頻脈を起す子ども(Su群)
■横になっているときは問題ないが起立した場合に頻脈になる子ども(SI群)
では、それぞれ病態や自律神経機能に違いがあるのではないかと報告されています。

3.心身症としてのOD診断チェックリスト

小児起立性調節障害診断・治療ガイドラインの「心身症としてのOD診断チェックリスト」を用いて心理的な側面を調べます。以下の6つのうち4つに該当すれば、身体的治療に加えて、心のケアも行います。(p50)

  1. 学校を休むと症状が軽減
  2. 身体症状が再発、再燃を繰り返す
  3. 気になることを言われると、症状が悪化する
  4. 1日のうちでも身体症状の程度が変化する
  5. 身体的訴えが2つ以上ある
  6. 日によって身体症状が次から次へ変わる

心理面のケアについては、心療内科医である森下克也先生の著書うちの子が「朝、起きられない」にはワケがある―親子で治す起立性調節障害に詳しく書かれています。

どのように対処するか

起立性調節障害(OD)は思春期がすぎると回復する割合が高いそうですが、それまでの間、薬物療法を除けば、自身の生活スタイルを見直すことで対処することが必要です。(p203)

ODには心理的ストレスが関係しているとはいえ、多くの場合、必要なのは身体症状への対処です。子どもの心身症ガイドブックにはこう書かれています。

患者への接し方において、主治医が心理・社会的側面に注意を払いつつも、『ODを身体的疾患として治療する』というスタンスを示し、かつ丁寧に患者の身体診察・検査を行い、「きみの身体の辛さを一緒に治そう」というメッセージを伝えることが重要である。

例えば、以下のような工夫が効果的です。

1.姿勢

下半身に血液が滞るのを防ぐため、以下のような姿勢を取ると楽になります。ODの子どもは、無意識にこのような姿勢をしていることもあります。

◆前かがみになって、床を見たまま立ち上がる
◆30秒以上かけてゆっくりと立ち上がる
◆脚をクロスして立ち、お互いにしぼる
◆屈伸をする
◆片足を椅子に乗せて立つ
◆膝を胸に引き寄せて座る
◆キャンプ用の椅子のような低い椅子に座る
◆足置きを用いる
◆椅子ではなく床に座る
◆膝に手をおいて前屈みで座る

さらに、弾力ストッキングや加圧式腹部バンドなどの下半身圧迫装具を使用することも助けになります。

また歯医者などの自動でリクライニングされるイスでは、起き上がるのを自分で調節できないので、事前にゆっくり操作してもらうようお願いしておきます。

2.環境

以下の状況を避けます。

◆暑い場所や暑い日
温度が高いと血圧が下がり、心拍数が上がるので、炎天下に長い時間立っていないようにします。
◆長風呂や熱い風呂、サウナ
失神のおそれがあります。ODの子どもは夜の熱い風呂が好きですが良くありません。
◆長時間立ちっぱなしでいる状況
◆起立・座位での頭を使う長時間の作業

脳への血流が低下しているので疲れやすくなります。
◆人ごみ
◆緊張・ストレスの多い状況

3.食事

◆食塩を大量に摂取する
ODの子どもは塩辛いものを好みませんが、塩分は浸透圧の関係で水分を保つため、1日10-12㌘程度の食塩摂取が必要です。特に起立直後性低血圧、体位性頻脈症候群に効果があります。 (p60)

◆水分を十分に摂取する
1日1.5-2㍑を摂取し、血流をよくします。(p58)

◆お酒は適量にとどめる
アルコールは血管を広げ、血圧を下げます。特に飛行機に乗っているなど、気圧が低い場所では酔いが回りやすいので注意します。

4.睡眠

◆自律訓練法
自己暗示によってリラックスし、入眠を助けます。自律訓練法などのリラクゼーションの方法については以下のエントリを参照してください。(p60)

small休息と運動、慢性疲労症候群と闘う二本の柱(2)休息をとる3つの方法

 

◆メラトニンと光療法
睡眠相後退症候群(DSPS)の治療の場合のように、生活のリズムを整えます。詳しくは以下のエントリを参照してください。(p61)

small夜眠れず朝起きられない「睡眠相後退症候群(DSPS)」にどう対処するか(4)診断と治療

 

子どもの心身症ガイドブック「規則正しい生活はODの患者にとって困難な場合が多い」としながらも、「昼寝はしない、夕方に散歩する、夜は11時までにベットに入る、欠席した日の日中に身体を横にしない」ことを勧めています。

ゲームやパソコン、携帯電話など、ブルーライトが強い機器を夕方以降に使わないことや、朝しっかり日光を浴びることも大切です。

5.運動

日中はできるかぎり横にならず、可能な範囲で体を動かします。昼間から寝ていると、重力に対する身体の仕組みが弱まるデコンディショニングにより、交感神経の機能が低下します。 (p61)

6.薬物療法

血圧を下げる薬を中心に、症状に応じて幅広い薬を用います。 (p52)

起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応のp96以降には、ミドドリン塩酸塩、メシル酸ジヒドロエルゴタミン、メチル硫酸アメジニウム、プロプラノールなど自律神経に影響する薬が紹介されていますが、医師の処方に従うことが大事です。

7.周囲の理解

どんな子どもの病気にも共通する点ですが、家族で病気について学び、正しい知識を得ることが病気に対処するカギです。“子どもの病気”ではなく“わたしたちの病気”と考えましょう。一緒に医師に相談し、学校関係者にも理解してもらうことが大切です。

これは決して簡単なことではありません。起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応のp30には、「親にも“学校と闘う”くらいの気持ちが絶対に必要です。学校は、なかなかわかってくれませんから」とあります。

特に、学校環境への対処や、進学の選択方法については、起立性調節障害(OD)の田中英高先生の著書起立性調節障害の子どもの日常生活サポートブックにとても詳しく書かれています。

起立性調節障害の予後

起立性調節障害(OD)の多くは、大人になると回復します。時間はかかるものの、1年後の治癒率は50%、2-3年後は70-80%とされています。ただし、ODの症状は完全に消えるとは限らず、20-40%の大人にはいくくらか残ります。

問題は、数年たっても治癒しない残りの子どもたちです。子どもの心身症ガイドブックのp89には「不登校を伴った難治性ODの1年後の復学率は30%であり、不登校状態の改善率は高くない」と書かれています。

このような子どもの場合、ODだけでなく、別の症状を合併しているのかもしれません。ほぼ間違いなく小児慢性疲労症候群(CCFS)の診断基準を満たすでしょう。どうぞ以下の一連のエントリもご覧ください。

smallその不登校ーもしかして小児慢性疲労症候群?はてなブックマーク - その不登校ーもしかして小児慢性疲労症候群?

 

起立性調節障害(OD)についてさらに知りたいなら

最後に起立性調節障害(OD)の治療に役立つサイトや書籍を紹介したいと思います。

日本小児心身医学会のサイトには、起立性調節障害(OD)の研究の第一人者である大阪医科大学小児科学教室の田中英高先生によるODの説明や、日本小児心身医学会による認定医の一覧が載せられています。

日本小児心身医学会日本小児心身医学会 はてなブックマーク - 日本小児心身医学会

 

田中英高先生は、このエントリを書いた時点では、大阪医科大学附属病院発達小児科で子どもの心身症を診ておられます

小児科 || 大阪医科大学附属病院小児科 || 大阪医科大学附属病院 はてなブックマーク - 小児科 || 大阪医科大学附属病院

 

その後、OD専門クリニックを開業されました。

OD低血圧クリニック田中 - OD低血圧クリニック田中

 

小児慢性疲労症候群(CCFS)を診ている子どもの睡眠と発達医療センター|兵庫県立リハビリテーション中央病院でも、起立性調節障害をCCFSの関連症状として扱っているようですが治療のアプローチは異なります。

小児睡眠・発達障害 | 診療科目 | 兵庫県立リハビリテーション中央病院

 



このブログのリンク集には、起立性調節障害(OD)や小児慢性疲労症候群(CCFS)、その関連疾患について学べるサイトや、それらの病気を診察できる病院をまとめています。

起立性調節障害(OD)の参考書籍はいくつかありますが、朝起きられない子の意外な病気 - 「起立性調節障害」患者家族の体験から (中公新書ラクレ)は、患者家族の視点から書かれているため、当事者である子どもにとっても、子どもを支える親にとっても、共感でき、病気との付き合い方が学べる良書です。また、このエントリを書いた時点で最新の関連書籍です。

ほかにも田中英高先生は起立性調節障害(OD)について、
子どもの心身症ガイドブック
起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応
起立性調節障害の子どもの日常生活サポートブック
など多数の書籍でODについて解説しておられます。

なお起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応 と 起立性調節障害の子どもの日常生活サポートブックは見た目が似ていますが、前者は病気の基礎知識、後者は患者の社会生活への適応という、まったく別の目的のために書かれた本なのでご注意ください。内容はほとんど重複していません。

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