“地獄の大釜”に花冠をービオラ・ケイランティフォリア

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121129テイデ・バイオレット像を絶する過酷な環境、たとえば“地獄の大釜”の中で、力強く生きていくことは可能でしょうか。

重度の病気や障害は、まさにそのような逆境かもしれません。先ごろ慢性疲労症候群(CFS)から這い上がって、J1優勝に貢献した森崎和幸選手は、その病気を「地獄」と呼びました。

興味深いことに、植物の世界には、まさに“地獄の大釜”で力強く生きている花があります。その花とは、ビオラ・ケイランティフォリア(Viola cheiranthifoliaまたはTeide Violet)です。

このビオラが生きている場所が“地獄の大釜”と呼べるのはなぜでしょうか。過酷な環境の中でもどのようにして力強く生きているのでしょうか。わたしたちが、ビオラ・ケイランティフォリアのひたむきさから学べることはありますか。

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「地獄の大釜」で生きる

ビオラ・ケイランティフォリアは、わたしたちがよく知っているスミレの一種です。しかし生育している環境は、想像を絶するほど過酷です。

このビオラは、大西洋カナリア諸島の最大の島、テネリフェ島にそびえる、スペイン最高峰のテイデ山(3718m)にのみ見られる固有種です。このビオラについて最初に記述したのは有名な博物学者アレクサンダー・フォン・フンボルトだそうです。

テイデ山 - Wikipediaテイデ山 - Wikipedia

テイデ山は火山島であるテネリフェ島そのものの一部で、海底からの高さは7500mにもなります。これまで何度も壊滅的な噴火を繰り返してきたので、先住民族の言葉で“地獄”を意味する“テイデ”と名づけられました。

ひときわ目を引くのは、外周16キロメートルにも及ぶ異様な大きさのカルデラです。かつてクリスティアン・レポルト・フォン・ブーフ男爵が、この巨大な噴火跡を調べ、スペイン語で“大釜”を表すカルデラと呼んだことから、今日、噴火跡の窪地を一般にカルデラと呼ぶようになったと言われています。

テイデ山は、高地と火山岩という2つの不利な条件が重なっているため、山頂部は強烈な直射日光や紫外線、極端な強風や温度変化にさらされ、水分が絶対的に不足します。

ビオラ・ケイランティフォリアが生きる場所は、比喩的な意味でも文字通りの意味でも、「地獄の大釜」と呼ぶにふさわしい過酷で異様な環境なのです。

不毛の山に花冠を添える

テイデ山のカルデラは想像を絶する過酷な環境なので、植物はほとんど見られません。火山の斜面はまるで動植物が死滅したかのように荒涼としています。

しかし生きることが不可能に思えるこの場所にも、環境に適応した少数の草花が見られ、そのうち最も高地の、最も厳しい場所に生きているのがビオラ・ケイランティフォリアです。

ビオラ・ケイランティフォリアは、テイデ山の山頂3700㍍付近で花を咲かせる唯一の植物です。興味深いのは、この植物が多年草だということです。どのようにして過酷な環境を乗り切っているのでしょうか。

この粘り強い花は普段、岩と岩のはざまに群生して、烈風や気温の変化をしのいでいます。冬場になると、雪に覆われ、死んだかのようになります。ところが、春になると、雪解け水から力を得てあざやかに生き返り、美しい花を咲かせるのです。

ビオラ・ケイランティフォリアが花をさかせているのはわずか3週間ほどです。そのとき、不毛のテイデ山は、あたかもスミレ色の花冠を戴いているかのように美しく装うといいます。その短い憩いの季節に、ビオラ・ケイランティフォリアは受粉し、再び訪れる逆境に備えるのです。

ひたむきに生き続ける

わたしは今回、ちょっとした興味から、このビオラ・ケイランティフォリアという花について調べることになったのですが、その生き方にたいへん心を打たれました。

テイデ山というと、もっと麓に繁栄している固有の花、“宝石の塔”エキウム・ウィルドプレッティが有名です。国内数カ所でも開花を見られるということで、わたしも見に行ったことがあるのですが、ビオラ・ケイランティフォリアについては、ほとんど知られていないようです。

エキウム・ウィルドプレッティ - Wikipediaエキウム・ウィルドプレッティ - Wikipediaはてなブックマーク - エキウム・ウィルドプレッティ - Wikipedia

言うまでもなく、きらびやかに咲き誇るエキウム・ウィルドプレッティはすばらしい花です。しかしだれよりも過酷な環境でひたむきに生きているビオラ・ケイランティフォリアも、同じくらいすてきな花だと思うのです。

わたしたち慢性疲労症候群(CFS)の患者は決して目立つ存在ではありません。社会的にはほどんど役に立たないかのように思われているかもしれません。しかし不毛で過酷な環境においても、ビオラ・ケイランティフォリアのように、強く可憐に生き抜くことができます。

ビオラ・ケイランティフォリアを見ていると、どんな状況でもひたむきに生きることは可能だ、ということが学べます。逆境に耐えたある人は、どう生きるかに影響するのは「心構えが90%であり、状況は10%にすぎない」と言っていました。

いつもは目立たないビオラ・ケイランティフォリアが、不毛のテイデ山に花冠を添えるように、わたしたちも粘り強く生き続けるなら、その生き方はだれかの励みになるかもしれません。

たとえ病気という“地獄の大釜”に生きていようとも、また、焼けつくような日差しに照りつけられ、根こそぎえぐるようなつむじ風にあおられようとも、友の励ましや小さな喜びという雪解け水を力に変えて、わずかな時間と体力を鮮やかに花開かせていきたいと思います。

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