「画像で分かる脳脊髄液漏出症」と脳脊髄液減少症

LINEで送る
Pocket

脊髄液減少症を取り巻く環境は、昨今大きく様変わりしました。2011年10月に、画像診断で異常が見られる場合のみを“脳脊髄液漏出症”と呼び、今年5月には、それらに先進医療保険を適応することが決まったのです。

この決定には疑問が残るという患者も少なくありません。なにせ、脳脊髄液減少症の患者の8割は、“脳脊髄液漏出症”ではないからです。

この不可思議な事態の背景について知り、“脳脊髄液漏出症”と脳脊髄液減少症はどこが違うのかを知るのに役立つ本として、画像でわかる脳脊髄液漏出症を紹介したいと思います。

スポンサーリンク

これはどんな本?

厚生労働省の脳脊髄液減少症研究班の研究成果をまとめた本です。表面的には、脳脊髄液減少症の典型例として“脳脊髄液漏出症”を紹介している本に思えます。

しかし読み進めていくと、今回研究班が提唱した“脳脊髄液漏出症”と、篠永正道先生が以前から提唱している脳脊髄液減少症はいくらか違うものであるとも書かれており、複雑な事情がかいま見えます。

このブログで脳脊髄液減少症についてたびたび取り上げているのは、脳脊髄液減少症は慢性疲労症候群(CFS)と症状が似た病気だからです。たとえ慢性疲労症候群(CFS)と診断されても、脳脊髄液減少症の可能性を疑っておくのが良いでしょう。

しかしこの本を読んでみて気づいたのは、典型例である“脳脊髄液漏出症”は慢性疲労症候群(CFS)とそれほど似ていないということです。慢性疲労症候群(CFS)患者が髄液漏れを疑う場合、「脳脊髄液減少症」のほうを扱った以下の本のほうがしっくりくると思います。

脳脊髄液減少症の歴史

では脳脊髄液減少症と“脳脊髄液漏出症”にはどのような違いがあるのでしょうか。単に画像診断で異常が見られるかどうか、といったこと以外に、さまざまな違いがあるようです。

まず研究の歴史を見てみましょう。  (p5-9)

◆1938年:ドイツのSchaltenbrand先生が脳脊髄液圧の低下による起立性頭痛(起き上がると頭痛が生じ、横になると治る)を報告。

◆1990年代:アメリカ・メイヨー・クリニックのMokri先生が起立性頭痛の患者をMRIで調べたところ、脳脊髄液が漏れ出していることに気づく。「特発性低髄液圧症候群」として報告。「特発性」とは原因不明という意味。

◆2000年ごろ:「特発性低髄液圧症候群」の報告が相次ぐ。病気として国際的に確立される。

◆2001年:日本の篠永正道先生が、むち打ちの患者と「特発性低髄液圧症候群」が似ていることに注目。脳脊髄液の漏出が検査で見つからない例でも、脳脊髄液が減少しているとして「脳脊髄液減少症」を提唱。ブラッドパッチという治療法によって改善することを確認。脳脊髄液減少症研究会を立ち上げる

◆2004-2007年:いくつかの診断基準が発表される。

◆2011年:日本で厚生労働省研究班が、「特発性低髄液圧症候群」を「脳脊髄液漏出症」と呼び、「脳脊髄液減少症」と区別することに決める

この歴史を見ると、これまで主に、特発性低髄液圧症候群という名前で国際的に研究されてきたことが分かります。

しかし篠永正道先生のグループが、特発性低髄液圧症候群は軽度な外傷によって、もっと一般的に発症するのではないかと考え、より間口の広い「脳脊髄液減少症」を提唱しました。

しかし、やはり脳脊髄液減少症と特発性低髄液圧症候群を区別する必要を感じた研究者たちが、国の支援を得るために、特発性低髄液圧症候群を“脳脊髄液漏出症”と呼ぶことにしたようです。髄液の“漏出”は検査でわかるが、“減少”は推測の域を出ないとも書かれています。(p10)

“脳脊髄液漏出症”の原因

このように脳脊髄液減少症と“脳脊髄液漏出症”は同じ源から出ているものの区別されています。しかし、こと原因について言えば、どちらの場合も変わりはないようです。

脳と脊髄はつながっていて、クモ膜や硬膜に覆われて、脳脊髄液の中に浮かんでいます。これらの膜が破れて、脳脊髄液が漏れだすと、脳脊髄液の圧力が低下し、脳が下にずり落ちて、さまざまな神経の異常が現れます。(p15)

原因は非常に多岐にわたります。カイロプラクティックにより、首に負担がかかったり、交通事故に遭ったりして発症することが多いようです。しかし子どもの頭が顎にぶつかる、しりもちをつくなどの軽度の刺激で発症する人もいるそうです。どんなわずかな衝撃でも、不幸なことに髄液が漏れだしてしまうことはあるのです。(p20,84)

どの年齢・性別の人にも発症しますが、どちらかといえば、30-40代のスラリとした女性に多いとされています。(p21)

“脳脊髄液漏出症”の典型的な症状

問題となるのは症状です。簡単に言えば、“脳脊髄液漏出症”は比較的典型的な症状が多く、脳脊髄液減少症はもっと多彩な症状が見られるとされています

結論から言えば、慢性疲労症候群(CFS)と非常に似ているのは、脳脊髄液減少症のほうであって、“脳脊髄液漏出症”はかなり違う、ということになります。

しかし典型例を知っておくに越したことはないので、“脳脊髄液漏出症”の主な症状を紹介しておきましょう。 (p17,22-28)

◆1.起立性頭痛

立ち上がると頭痛が起こり、横になると改善します。このメカニズムについては、以下のエントリでは分かりやすく解説しています。

【7/5 FNNニュース】「あなたの頭痛 大丈夫?原因不明は“髄液漏れ”か」まとめ

典型的な例では、横になるとびっくりするほど症状が楽になるようですが、発症から年月が経つと、姿勢に関係なく頭痛がひどくなることもあるようです

◆2.肩甲骨の間の痛み
起立性頭痛と肩甲骨の間の痛みの両方がある病気はほかあまりになく、ほぼ間違いなく脳脊髄液漏出症を見分けることができます。

◆3.視覚障害
視神経が引っ張られるため、物がかすんだりチカチカしたりします。ものが二重に見える複視になることもあります。

◆4.聴覚障害
耳が詰まった感じや聴力低下、めまいが生じます。

◆5.顔面のしびれ

顔の感覚をつかさどる三叉神経の異常によります。

◆6.意識障害
ときに脳幹部が圧迫され、意識障害が起こり、命の危機につながる場合があります。

◆7.脊髄症
脊髄の神経が圧迫され、運動障害や感覚障害、手足の痛みやしびれが生じます。

◆8.項部硬直
力を抜いて横になった状態で医師が頭を持ち上げると、正常な場合は首は柔らかくスムーズに持ち上がりますが、項部硬直があると抵抗を感じたり、体と一緒に持ち上がったりします。

以上が“脳脊髄液漏出症”の典型的な症状です。もし慢性疲労症候群(CFS)と診断されている人でこれらの症状があれば、髄液漏れを疑うべきです。

しかし、たとえば“無頭痛型”という起立性頭痛のない症例があることも知られていますし、何より、“脳脊髄液漏出症”の範疇に当てはまらない脳脊髄液減少症では、もっと多彩な症状が見られることを忘れてはなりません。(p79,124)

“脳脊髄液漏出症”の検査

脳脊髄液減少症と“脳脊髄液漏出症”では検査もずいぶん違います。“脳脊髄液漏出症”では、ここに挙げるいくつもの検査で異常が見つかりますが、脳脊髄液減少症ではRIシンチグラフィーでしか異常が見つからないことがあり、議論の的になっています。(p28-64)

◆1.頭のMRI
直接脳脊髄液の漏れは分かりませんが、脳脊髄液が漏れたことによる脳の形の変化を発見できます。これを間接所見といいます。

通常の横方向の輪切り(水平断)だけでなく縦方向の輪切り(矢状断)が必要で、医師の観察眼も重要なので、専門病院でのMRI撮影でなければ、異常を見逃してしまいがちです

◆2.脊髄のMRI
脊髄の形の変化を見るだけでなく、漏れた脳脊髄液を発見することもできます。これを直接所見といいます。

◆3.腰椎穿刺
腰から細い針を入れ、脳脊髄液の圧力を測定します。 もし脳脊髄液の圧力が低下しているなら、漏れ出していることになります。しかし脳脊髄液が減少すると、静脈が拡張して補おうとするため、正常な人もいます。

またこのとき採取した脳脊髄液を分析することにより、他の病気と区別できます。

◆4.RI脳槽シンチグラフィー
腰椎穿刺により検査薬を注入し、脳脊髄液が漏れている部位を探します。 特に脳脊髄液減少症の場合は、脳や脊髄のMRIで異常が見つからないことが多く、RI脳槽シンチグラフィーが最も重要な検査とされています。

しかし、準備のための腰椎穿刺で腰椎から髄液が漏れることがあるので、RI脳槽シンチグラフィーのみで脳脊髄液減少症を判断して良いものかどうか議論になっています。(p125,128)

◆5.CTエミログラフィー
腰椎穿刺により造影剤を注入し、脊髄のCTを撮ることで、漏れが映ることがあります。しかしタイミングが難しく、放射線を曝露するため何度も行えないのが難点です。

◆6.MRエミログラフィー
脳脊髄液を画像化する研究段階の技術です。

◆7.聴力検査など
自覚症状がなくても、かなりの確率で聴力障害があります。

“脳脊髄液漏出症”の治療法

治療法については脳脊髄液減少症も、“脳脊髄液漏出症”も同じと見て良いようです。 (p73-79)

◆1.保存的治療
厳格な安静と点滴を2週間行います。その間、トイレ以外は昼間でもずっとベッドに横になっていることが必要です。

◆2.硬膜外自己血パッチ法
有名なブラッドパッチです。血液の凝固作用で髄液漏れの部位を塞ぎますが、痛みを伴います。

◆3.手術
ブラッドパッチで改善しない場合や、明らかな嚢胞がある場合には手術で硬膜を修復することもあります。

疑問が残る“脳脊髄液漏出症”

この本を読むと、なぜ画像検査で異常の出る患者だけが先進医療の適用を受けられるのかがよく分かります。画像診断で異常が見られない脳脊髄液減少症の場合、RIシンチグラフィーに頼るしかなく、その確実性には疑問が差し挟まれているわけです。

先進医療の適用に漕ぎ着けるため、脳脊髄液減少症の患者を区別したことについては、良く考えれば、一部の患者が優れた医療を受けられるようになったと取ることができます。

しかし、悪く考えれば、当てはまらない患者が切り捨てられたように感じられ、現時点では典型例から外れた患者の方たちは複雑な気持ちかもしれません。

しかし現実には、篠永正道先生のように、典型例から外れた患者のために奮闘しておられる先生がいらっしゃいますし、マスメディアにとって有名なのは依然として脳脊髄液減少症のほうです。

今は、一部の患者しか先進医療を受けられないとしても、やがて研究が進み、脳脊髄液減少症の全容が明らかになるのではないかと思います。

慢性疲労症候群(CFS)の分野でも、今後、似たような事態の進展が起こる可能性があります。CFS研究班は、今後、慢性疲労症候群(CFS)を、病因に基づくいくつかの病名に分割することを考えているようですが、はたしてどうなるでしょうか。

個人的には、もし病名が変更されることで、一部の患者だけでもよい医療を受けられるのであれば、それは構わないと思っています。たとえわたし自身がその範囲に含まれないとしても、仲間の患者の環境が改善されるのであれば、それは願ってもないことです。

どちらにせよ、納得のいく検査法や治療法が発見され、すべての患者が辛い病気から開放される時が来ることを願ってやみません。

▼追記

なおこの“脳脊髄液漏出症”の診断基準について、最近、専門医の高橋先生も、ご自身のブログでコメントしていました。やはり、今後の発展につながる意義があるものの釈然としないと書いておられます。

脳脊髄液漏出症画像判定基準 -Dr.高橋浩一のブログ

 

スポンサーリンク
LINEで送る
Pocket

▼こちらの記事もおすすめです


スポンサーリンク