あまり知られていない優れたCFSの本(4)トンネル

LINEで送る
Pocket

し将来の夢に期待をふくらませている学生時代に、突然難病に襲われ、健康をことごとく奪われ、友だちから引き離され、日常生活が崩壊してしまったなら、どんな気持ちになるでしょうか。

若くして発症する慢性疲労症候群(CFS)には、大人の慢性疲労症候群にはない、独特の葛藤や苦悩がつきものです。その耐えがたい苦しみは人生で初めて味わうものですし、まだ確立していない自分の存在意義、すなわちアイデンティティが容赦ない攻撃にさらされます。

その状態を「大きな口を開けて私を吸い込んでいった巨大な闇」と表現した方がおられます。その方の名は月夜さん。高校二年生の冬休み、2002年1月10日に、突然、慢性疲労症候群(CFS)を発症されました。

あまり知られていない優れたCFSの本の第四回は、月夜さんが書かれた闘病記トンネルを紹介したいと思います。特に小児慢性疲労症候群(CCFS)の方やその家族にはぜひ読んでほしい本です。

スポンサーリンク

これはどんな本?

月夜さんのトンネルは、わたしにとって非常に共感できた本のひとつです。わたしも学生のころに慢性疲労症候群(CFS)を発症し、月夜さんと同じような経緯をたどってきました。

わたしは平静さを取り戻し、感情を整理できるまで時間がかかりましたが、月夜さんは発症してから数年、21歳のときにトンネルを書かれています。それでも考えがよくまとめられていて、とても読みやすい本です。

2005年に発刊されましたから、ずっと闘病している慢性疲労症候群(CFS)の患者の間ではよく知られた本かもしれません。しかしWebを調べてみると、感想を書いている人はほとんどいませんでした。それで最近CFSを発症された方のために、ぜひこのブログでも紹介しておきたいと思います。

共感を誘う本

この本には、劇的に治った治療法や、CFSについての医学的情報が書かれているわけではありません。この本の真価は、若くしてCFSを患った月夜さんのリアルタイムの苦悩やまっすぐな考えが、そのままの形で封じ込められていることにあります。

それらの思いは、CFSを発症した人が必ず経験することばかりなので、今まさに闘病している人の心に強く訴えかけます。たとえば、以下のような記述に共感を誘われました。

あなたは嘘つきでもずるいやつでもない

「やらなきゃならないことから逃げるために、私は具合が悪くなったふりをしているのではないか?」とか、「みんな同じくらいつらいのに平気な顔をして笑っていて、自分だけ弱いんじゃないか?」と自分を責め続ける日々だった。

診断がくだるまでは、「自分は病気でもないのに、病気のふりをしてみんなに心配をかけている嘘つきでずるいやつかもしれない」と何度も思った。

何度も何度も思った。

そんな不安をホームページのチャットでうち明けた。
たくさんの励ましの言葉をもらった。真夜中のチャットだった。
真っ暗な部屋でパソコンに向かい、涙がぼろぼろと流れた。

「あなたは嘘つきでもずるいやつでもない。本当にずるいやつは自分を責めたりしない」

一番印象に残っている言葉だ。自分では気づかなかった言葉だ。(p6,17-18)

わたしも発症からかなりの間、このように感じていました。

若いころは社会的な経験が浅く、自分に自信がもてません。権威のある医師から、「気の持ちようだ。現実から逃げて、家族を困らせるんじゃない!」と一喝されれば、どれだけ自分が正しいと思っていても、本当にそうなのかもしれない、と自分を責めるようになってしまいます。

また、自分についてそれほど深く考えたこともないので、元気な自分とはどういうものか、はっきり覚えていません。「みんなそれぐらいのことは我慢しているんだ!」と言われれば、本当はこれぐらいの体調が普通で、自分は特別に心の弱い人間なのだろうか、と思ってしまいます。

実際、フクロウ症候群を克服するのp33によると、小児慢性疲労症候群(CCFS)の不登校の子どもたちは、CCFSという病気だと告げても、「おれは何も異常はない、怠けで学校に行かないだけだ」、と言うそうです。

しんどいと言ってもだれにも信用されないことがあまりに長い間続き、責められ、なじられ、罵倒され続けたので、間違っているのは自分のほうで、自分はダメな人間なんだと考えるようになるのです。

小児慢性疲労症候群(CCFS)の専門外来では、そのような子どもに対して、本当に昔と同じほど元気なのか考えさせ、客観的な検査データも見せて、病気であることを納得させるそうです。わたしも疲労検査のデータによってやっと自分を説得することができました。

月夜さんのころにはまだ疲労検査がなく、慢性疲労症候群の認知度も今よりさらに乏しいものでした。病院も北海道から大阪に出てくるしかなかったので、苦悩はひときわ深かったことと思います。

もうがんばれないからつらいんだ

なんでもそうだ。私を含め、すべての人は、自分が体験したことでないとわからない。どんなにつらかろうと、その人の痛みを推し量ることさえできないのだ。

だからつらくてつらくてもうがんばれない、一歩もたち行かなくなっている人につい、「がんばれ」などと言ってしまうのだ。

励ましのつもりなのは充分わかっているが、こんなに心に刺さる言葉はないだろう。もうがんばれないからつらいんだ。周りの人に迷惑をかけたくない、この状態を早く抜け出したい、誰よりも自分が一番そう思っているのに。 (p30-31)

この本の帯で紹介されている部分です。

だれよりもがんばりたいと思っている、そしてだれよりも精いっぱいがんばっている。そこへ「がんばれ」と言われる。そうしたら、もう無言のまま涙を流すしかない。「もうがんばれないからつらいんだ」。それがわたしたちCFS患者の気持ちです。

「うつ」とよりそう仕事術 (Nanaブックス)の酒井さんも、自分は断崖絶壁に必死にしがみついていているので、「がんばれ」とロープを差し伸べられても、それをつかむことができないとおっしゃっていました。(p132)

月夜さんは、自分が苦しんだ経験から、苦しんでいる人の立場にたって、一緒に壁を乗り越えたいと書いておられます。遠く離れて「がんばれ」とロープを垂らすのではなく、屈みこんで今にも落下しそうな体を抱え上げ、「一緒にがんばろう」と言ってもらえるほうがよほど嬉しいのです。

誰かのトンネルに穴をあけられたら

私が死ぬまでにしておきたいことがひとつある。

…それは「自分が生きた印をどこでもいいから残しておきたい」ということ。…私の言葉や行動で誰かのトンネルに穴をあけられたら、それが私の最高の印だ。

そうやって月日が流れても、私は人の心の中にできればいつまでも生き続けたいのである。

…私の使命である「CFSを皆さんに知っていただく」「トンネルに光をさす」ということが、実際にこの本を書くことでできたのだろうか?

この本がわたしの生きた印になれば私はとても嬉しいし、幸せだ。(p85-86,91)

この本を書いた2005年の時点で、月夜さんは、週3日、二時間ほど「先生」として子どもたちを教えていますが、まだCFSのままでした。それでも、他の人の力になりたいと感じ、この本を執筆されたそうです。

わたしもまだCFSは治っていませんが、抱いている気持ちは似ています。このブログをはじめたのは生きた証を記録するためです。いささかおおげさな表現ですが。

また、まだCFSであるさなかから、自分にできることをしたいと考えています。

月夜さんは、他の人の歩むトンネルに一筋の光を差し入れたい、と述べておられますが、少なくとも私にとっては、この本がほのかな明かりとなり、今も続くトンネルを勇気をもって歩む手がかりが得られたことを、このブログにしたためておきたいと思います。

そして現在、どうしておられるか分かりませんが、願わくはCFSから解放され、トンネルの中ではなく、希望に満ちた光の中を目標へと歩んでおられるよう望んでやみません。

10代でCFSを発症した方に

ちょっとした紹介のつもりが、かなり長くなってしまいました。自分の経験とリンクしている本なので、書きたいことをすべて書けば、別の本が一冊ができあがってしまうでしょう。

この書評では、若くして慢性疲労症候群(CFS)を発症した月夜さんの心の葛藤に焦点を当て、あえて体の症状や病気の経過には触れませんでした。しかし、それらの部分も共感を誘う描写的な内容で、言い表しにくいわたしたちの気持ちが的確に表現されています

文芸社発行のため、現在は中古ぐらいしか手に入らない、91ページの短い本ですが、若くしてCFSを発症した人にはぜひご一読をお勧めしたいと思います。

スポンサーリンク
LINEで送る
Pocket

▼こちらの記事もおすすめです


スポンサーリンク