文章の意味が分からない「後天性の失読症」にどう対処するか(上)

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130108読書2んな経験はありませんか?

文章を読もうとすると、ひとつひとつは見慣れた文字なのに、文章の意味がつかめない。だれかと話そうとすると、適切な言葉が出てこない、何度会っても人の顔を覚えられない…。

慢性疲労症候群(CFS)の方であれば、少なからず、こうした症状に悩まされているのではないかと思います。どれもなかなか説明しにくい症状ですが、それぞれ軽度から中程度の、“失読症” “失語症” “相貌失認症”に似ています。

後天性の失読症、および失語症と相貌失認症にはどんな症状が現れるのでしょうか。そしてどのように対処できるのでしょうか。少々長いので、対策のみ読みたい場合は後半をご覧ください。

CFSの症状は、一般的な失読症の定義とは異なっています。しかし、オリヴァー・サックスの心の視力に書かれている後天性の失読症の症状とは似通っています。それで、一般的ではないとはいえ、この記事ではCFSの症状の一部を失読症と表現しています。

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失読症ー文字は見えるが意味は分からない

オリヴァー・サックスの著書心の視力―脳神経科医と失われた知覚の世界には、後天性の失読症について、幾つかの興味深い経験談が載せられています。ここではそのうち、2人のエピソードをごく簡単に要約しましょう。

楽譜が読めなくなった演奏家

名演奏家であるリリアン・カールは、あるとき楽譜を開くと、「五線や音符一つひとつははっきり見えるのに、まったく意味をなしていないように思える」ことにあわてました。その症状は不安定で、「疲れているときや体調の悪いときはほとんど読み取れないが、元気なときは今までどおりすばやく楽に初見演奏」ができました。(p13)

やがて文章の読み取りにも支障が表れます。「これもまた調子が良い日と悪い日があるばかりか、読む能力が一瞬にして変わるように思えるときさえある」と書いています。「字を読むことはできたが、ゆっくり一字一字しか読めない」状態でした。(p14,16)

さらに症状が進み、彼女は「絵を絵として認識することにも苦労」するようになりました。そして“後部皮質萎縮(PCA)”による失読症と診断されました。記憶力・知力・洞察力・人格は損なわれないのに、文章や人の顔や物が認識できなくなってしまう脳の障害です。(p18,26)

本が読めなくなった小説家

探偵ベニー・クーパーマン・シリーズで知られるカナダの作家、ハワード・エンゲルは、ある朝、突然失読症になりました。いつも読んでいる英字新聞が、キリル文字かハングル文字、あるいはセルボ・クロアチア語に見えて、一瞬、だれかのいたずらかと思ったほどです。(p67)

不思議なことに、書く能力は正常でした。彼にとって書く行為は、歩いたり話したりするのと同じく自然に無意識にできましたが、自分の書いたものは一語も読むことができなかったのです。

やがて脳卒中によって、脳の左側の視覚野の一部が損なわれていたことが分かり、彼は読む能力は損なわれていない“純粋失語症”と診断されました。(p70)

これらふたつの経験から、後天的な失読症は、脳の障害とともにある日現れ、症状が日々変動し、文字を図形としては見ることができても、意味がつかめなくなることが分かります。

失語症ー言いたい言葉が出てこない

この本では失語症の人のエピソードも取り上げられています。

失語症とは、言語そのものが失われ、話すときに文章を組み立てられなくなることを言います。何かをしゃべっても、表現力に乏しい「電文のような」ことしか口に出せません。

ごく軽い症状の場合は、「言葉がなかなか見つからないことや、間違った言葉を使いがちなことで、文の全体的な構造には障害がない」こともあります。(p47)

しかし大切なこととして、失読症と同じように、知的能力は失われません。会話ができないだけで、論理的に考えたり、計画を立てたり、思い出したりすることはできるのです。(p49)

相貌失認症ー何度会っても顔を見分けられない

相貌失認症(失顔症)とは、人の顔を見分け、記憶することができなくなる障害です。本書ではオリヴァー・サックス自身が、中程度の相貌失認症の患者として登場します。彼はその問題をこう述べています。

「自分の誕生日パーティーでさえ難関だ。…私は『ぼんやりしている』と非難されるし、確かにそのとおりだ。

しかし『内気』『引きこもり』『社会性の欠如』『変わり者』、はては『アスペルガー症候群』などさまざまな言われ方をするが、そのほとんどが顔を認識できないことの結果であり、それを誤解されているのだ。(p103)

親しい友だちは見分けられるのに、他の大勢の人は何度会っても覚えられず、恥ずかしい思いをしていると述べてます。(p101)

慢性疲労症候群(CFS)の後天的な失語症

CFS患者の認知機能障害はひとりひとり違うので一概には言えませんが、「新聞の意味が分からない」「本が理解できなくなった」という表現はかなり頻繁に聞きます。わたしの場合、失読症は一番最初に現れた症状のひとつでした。

NPO法人 筋痛性脳脊髄炎の会(ME/CFSの会)さんが翻訳された筋痛性脳脊髄炎(ME)のための国際的合意に基づく診断基準には後天性・労作性の失読症についての記述があります。

サックスは失読症のメカニズムについて、意味のある文字のような“表象”の認識には、脳が複雑なシステムを特別に構築する必要があると述べています。文字を読む、絵や記号を理解するというのは後天的な能力なので、脳の異常に伴って失われやすいのです。(p21-22)

慢性疲労症候群(CFS)は脳の損傷ではありませんが、血流の低下や炎症、萎縮は見られると報告されているので、さまざまな脳機能異常が表れても不思議ではありません。

体調によって変動する

失読症の重さは体調によって変動します。サックスは「そのような変動は、原因に関係なく、損傷を受けたあらゆる神経系によく見られるものである。…系が損なわれているときには、余力や余裕が少ないので、疲労、ストレス、薬物、感染症のような偶発的要因によって混乱しやすい」と述べています。(p39)

興味深いことに、CFSの症状も、そのときどきで程度が違います。CFSの失語症について言えば読む内容によっても程度が変わるかもしれません。そのため、患者は自分の症状を説明しにくく感じますし、周りの人は、この前と言っていることが違う、とイライラします。

しかしCFS患者の脳を見ると、広範な部位の血流が低下していて、異常が現れたり消えたりしているそうです。わたしはこれを人に説明するとき、しばしば渋滞しやすい道路にたとえます。

渋滞しやすい道路は、基本的には混んでいますが、スムーズに流れるときもあります。日によって目的地まで何分で行けるかは異なります。

同様に、CFSの症状の多くは、脳血流の渋滞に関係しています。基本的に滞りやすくなっているとはいえ、体調が良ければスムーズに流れるので、症状が軽くなる時もあります。どれくらい渋滞しているかは日々変動しているので、いつも以上に長い時間作業できる日もあれば、まったくできない日もあるわけです。

書く能力は残る場合がある

CFS患者の中にも、ハワード・エンゲルのように、読むことは難しくても、書くことはわりとできる人がいます。

実業家のオスカー・Cも失読症を患ったとき、「読むことはできないが、患者は…どんな題材を書き取らせても、すらすらと間違えずに書ける。しかし書いているフレーズの途中で邪魔が入ると…混乱して再開できない。さらに、間違えてもそれを見つけられない」と述べています。(p72)

サックスによると「読むときには書かれた言葉の意味と、場合によっては文字の美しさに関心を向け、その行為を可能にしているさまざまなプロセス」が働いています。読むことは書くことより「たくさんのプロセスに依存していて、それがいつ崩壊してもおかしくない」のです。(p70)

わたしの場合は、発症当初に書いたメールや手紙を今読むと、語彙が少なく、文体も読むに耐えませんが、今ではかなりの程度書けるようになりました。

失語症と相貌失認症を伴うこともある?

CFSの人の中には、失読症だけでなく、適切な言葉がなかなか見つからない軽い失語症を併発している人も多いように思います。CFSが脳の一部分の損傷ではなく、広範囲の血流低下によって生じることからすれば、幅広い症状が表れるのも当然といえます。

顔を全然覚えられない相貌失認症(失顔症)を、CFSの人が併発するかどうかはよくわかりません。後天性の相貌失認症は比較的まれだと言われているからです。少なくともわたしのCFSの知人は、みなわたしを見分けてくれます。(p123)

▼相貌失認の詳しい解説
相貌失認について、原因や症状、対処法などの詳しい解説はこちらの記事をご覧ください。

人の顔が覚えられない「相貌失認」は記憶力のせいではない―3人の有名人とその対処方法 | いつも空が見えるから

小児慢性疲労症候群(CCFS)の認知機能障害について、研究者の三池先生は書籍 不登校外来―眠育から不登校病態を理解するのp122に、「時には読書能力が残っている。あるいは回復することもある」と書いています。

こうした認知機能障害に具体的にどのように対処していけばよいのでしょうか。後半のエントリで考えます。

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