文章の意味が分からない「後天性の失読症」にどう対処するか(下)

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130108読書1字の形は見えるのに、いくら読んでも意味がつかめない、話したいのに思うような言葉が出てこない、人の顔が見分けられない…。

前半のエントリでは失読症、失語症。相貌失認症という3つの認知機能障害について、オリヴァー・サックスの著書心の視力―脳神経科医と失われた知覚の世界から引用し、CFSとの関係を考えました。

CFS患者の場合、先天性や脳の損傷による症状ほどひどくはないものの、軽度から中程度の失読症はそれなりに多いように思います。軽い失語症や相貌失認症もあるかもしれません。これらの認知機能障害にどのように対処できるでしょうか。

読むのが難しい人へのアドバイスを、長い文章で書くのは矛盾しているのですが、副見出しを頼りに、気になる部分だけ読んでいただけたらと思います。

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後天性の失読症どう対処するか?

最初に登場したリリアン・カールについて、オリヴァー・サックスはこう述べています。

「リリアンは発病してから11年か12年のあいだ、工夫を凝らして適応していた。視覚、音楽、情緒、知性、あらゆる種類の潜在能力を自分のために役立てた。家族、友人、夫と娘はもとより、教え子や同僚、スーパーや街で出会う親切な人々など、誰もが彼女が対処するのを助けてきた」。(p39)

ポイントは、他の能力を用いることと、生活を工夫することです。CFS患者の認知機能障害はひとりひとり違うので、対処法を一概に書くことはできませんが、本書の経験談から、さまざまなヒントを探してみたいと思います。

を用いる

リリアンは、形ではなく色によって区別するように身の回りの物を色分けしました。表象の識別に比べ、色での識別は原始的な感覚なので損なわれにくいのです。(p38)

わたしの場合、自分が読む本や用いるノートは、かなりカラフルに色分けしています。本を読むときは必ずラインマーカーやフィルム付箋(ポスト・イット)を用います。Webの記事を読むときにさえ、カラフルなラインマーカーを用いているほどです。

あとあと資料を参照しようとすると、一度読んだ文章でも意味がつかめず、再び解読する必要にかられることがよくありました。しかし、色でマーキングしておけば、どの文や単語が重要かひと目で分かり、意味を思い出しやすくなると感じています。

また、ふだん用いているマインドマップは言わずもがな、世界一カラフルなノート術です。Evernoteでつけている日記も、内容に合わせて文字色を変えています。たとえば、体調についての記述なら紫、友人についての記述なら緑、といった具合です。

他の人に頼る

リリアンは、自分では物を認識できないので、買い物に行くと、自分が持っているものを見せて、これと同じものを用意してくれるよう、近くにいる人に頼むといいます。他の人に頼ることは、弱さのように思われがちですが、能力が限られた人にとっては重要な手段です。

失読症について言えば、理解してくれそうな家族や友人には、読むのが難しいことを、あらかじめ正直に伝えておくのが良いでしょう。読む必要のある資料については、一緒に読んで要約してくれるよう、ときどき頼むとよいかもしれません。

特に、CFSについての新しいニュースや資料を一緒に読んでくれるよう頼めば、自分一人で読むより理解しやすいだけでなく、身近な人に病気の理解を深めてもらう機会にもなります。もちろん、節度を保ち、丁寧な態度でお願いすることは大切です。

また、他のブロガーの書評やまとめに目を通せば、本を一冊読んだり、テレビ番組をだらだら見たりしなくても、労力をかけて調べるべき情報かどうか、おおまかに判断できます。

を用いる

作家チャールズ・スクリプナー・ジュニアは失読症になったとき、オーディオブックを活用しました。彼は自分の文筆家としての生活を、視覚モードから聴覚モードへとシフトしたのです。

「このような音声本が、自分の知的生活と気晴らしの読書の大半を占めるようになるとは思いもしなかった。…皮肉なことにテープで本を読むようになって、読むスピードがかつてないほど上がり、記憶力も相変わらず確かだ」と述べています。(p78)

わたしの友人の50代のCFS患者は、書籍を読むとき、オーディオブックと印刷された本の両方を用意して、聞きながら目で追うという読書スタイルをもっています。わたし自身も、数年前からオーディオブックを試して、ときどき活用しています。

しかし耳から聞くのも疲れるので、ときどき聞くぶんには良い気分転換になるのですが、聴覚主体の生活はわたしには合いませんでした。オーディオブックがよいかどうかは、個人差があるようです。前回登場した作家のハワード・エンゲルもオーディオブックは今ひとつだったようです。(p79)

リハビリする

リハビリすることは、一見すると遠回りのようですが、思いのほか効果的です。オーディオブックがあまり役立たなかったハワード・エンゲルは、ひたすら読もうと努力しているうちに、文字がクロアチア語ではなく、普通の英字に見えるようになってきました。

自身が患者であり、神経学者でもあるイアン・マクドナルドも「楽譜を読む能力は、とくに練習すると次第に回復した」と述べています。(p39)

わたしの場合も、どうしても読むことが必要だったので、ひたすら読もうとしているうちに失読症はある程度改善しました。

リハビリが役立つ理由として、サックスは「組織の一部が回復したか、または脳が別の経路を使う(または、ひょっとするとつくる)ようになったことにあるかもしれない」「大人の脳には十分な可塑性があるので、…回路の一部が臨界期を過ぎても生き残っていれば、ずっとあとになって再活性化されることがある」と述べています。(p80,163)

可塑性とは「機能不全や損傷の見られる脳の部位やシステムの機能を、別の部位やシステムが引き継ぐ可能性」のことです。脳は厳密に区画分けされているわけではなく、機能低下した部位に代わって別の部位を割り当てることができるのです。(p109)

記憶帳をつける

ハワード・エンゲルは、ちょっと前に聞いた言葉でも忘れるので、考えたらすぐに記憶帳につける習慣を作りました。記憶帳は頼りない記憶力を安定させる備忘録になり、アイデンティを強化する日記にもなりました。(p88)

わたしも、日記をつけることやメモ帳を持ち歩くことの大切さを、このブログで何度も書いてきました。大切なことを聞いたら、即座にメモを取る、簡単な絵を描く、その日のうちに日記としてまとめておくことは大切な要素だと思います。

書籍神が愛した天才数学者たちによると、 かの有名なアイザック・ニュートンは、おびただしい読書ノートをつけていて、ペンを持たないでは本を読めなかったと言われています。ニュートンは学習障害があったと言われていますが、書き留めることで読む能力を補ったのです。

ガイド内的音声化を用いる

ニュートンはペンを文字通り書くために用いましたが、ペンを持つことは、別の意味でも読書の助けになります。

フランスの神経学者ジャン=マルタン・サルコーによると、「印刷されたものを読むときは手にペンを持つといい」そうです。これは指やペン先を、文章をなぞるガイドとして用いるという意味です。

さきほどのハワード・エンゲルは「無意識に手を動かし、目には理解できない単語や文の輪郭をなぞる」ようになりました。失われた読む能力を、“書く”能力で補ったのです。(p89)

また、内的音声化によって、読む能力を“話す”能力で補うこともできます。内的音声化とは、心の中で音読しながら、本を読むことです。英国の教育者トニー・ブザンは、書籍マインドマップ読書術の中で、ガイドや内的音声化を読書の万能薬と述べています。

ガイドで単語や図をなぞりながら読んだり、内的音声化で特定の語句を叫ぶように強調したりすれば、記憶に役立ちます。またガイドと内的音声化のスピードを早めれば、読む速度も上がります。

新たな技術を修得する

リリアンは「音楽的記憶力と音楽想像力が前より強くたくましくなり、同時に適応性も増しているので、以前にはできなかったことだが、とても複雑な音楽を暗記し、頭の中で編曲し直し、再現できる」ようになりました。(p34)

さきほどのチャールズ・スクリプナー・ジュニアも、オーディオブックによって、本を聴覚モードで“読む”というスタイルに転換しました。二人とも、今まで馴染み深かった方法を捨て、まったく別の方法で“読む”ことにしたのです。

わたしの場合も、読む方法を根本的に変えました。分からない文は気にせず読み進め、ジグソーパズルのように後から再構築する読み方です。文章を読み取る能力は十分回復したわけではありませんが、本を定期的に読むことができています。

身振り姿勢に注目する

失語症の患者は「代償として言語以外の能力やスキルを著しく高める傾向」があります。身振りや姿勢、しぐさ、表情、声の抑揚から多くの情報を読み取るのです。(p54)

軽い失語症の場合でも、こうした言葉以外のものを用いるコミュニケーション技術は非常に役立ちます。わたしはCFSになってから、NLP(神経言語プログラミング)の本を何冊か読みました。

言葉が見つからなくても、相手の言葉を繰り返すことで会話をつなげるバックトラッキングや、相手と同じ姿勢をとることで、相手をリラックスさせるミラーリングなど、NLPには会話のハードルを下げるテクニックがいろいろあります。

賢くごまかす

サックスは、「相貌失認症の人には機転と創意工夫が必要であり、自分の弱点をうまくごまかす戦略を見つけなくてはならない」と述べています。(p109)

たとえば、声や姿勢や歩き方、顔の変わった特徴に注目することができます。焼け石に水とはいえ、努力しないよりはましです。

また「状況と予想が最重要」です。これから行く場所で会いそうな人についてあらかじめ想定し、前にその人と会ったときの日記や直前のメールを見返して、何を話すか考えておきます。準備することは、言葉が出てこなくなる問題にも役立ちます。(p109)

できるなら、だれかと会うときには、一人で会うのではなく、相手を見分けられる人と一緒にいるよう努めます。名前が会話に上るまで自分は当たり障りなくふるまいます。「他人を頼りにとんでもない失態を免れる」のです。(p110)

もし失態に陥ったときは、ただ「あなたのことを覚えていない」と言うのではなく、「申し訳ありませんが、私は人の顔をちっとも覚えられないんです。自分の母親の顔さえよくわからないんです」などと少しユーモアを交えて、丁寧に話せるかもしれません。(p104)

相貌失認症という問題があることを正直に話すのもよいですが、軽度から中程度の相貌失認症の場合は、まったく誰も見分けられないというわけではないので、余計な混乱を招く可能性があります。サックスの言うとおり、ごまかすほうが良いかもしれません。

休憩をはさむ

前回のエントリで述べたように、脳機能異常による後天性の失読症は、コンディションの影響を受け、程度が変動します。もともと読む能力がないわけではなく、血流低下などによって抑制されているだけだからです。

慢性疲労症候群(CFS)の症状の多くに言えることですが、作業の前に十分休養をとったり、作業の途中に意図的に休憩を挟んだりすることで、パフォーマンスの低下を抑えることができます。

また遠回りになりますが、頭に霧がかかったような症状への対策も役立つかもしれません。

創意工夫によって対処する

色を用いる、他人に頼る、耳を用いる、リハビリする、記憶帳を用いる、ガイドや内的音声化を用いる、新たな技術を修得する、身振りや姿勢に注目する、賢くごまかす、休憩をはさむ。

これらはヒントにすぎないので、役立つものもあれば役に立たないものもあるでしょう。人によって症状は違うので、自分にあった対処法を編み出すことが大切だと思います。

前述のハワード・エンゲルはこう述べています

「問題は決してなくなりませんが、私はそれを賢く解決できるようになりました」(p93)

認知機能障害はとても厄介ですが、ぜひとも「賢く解決できるように」工夫を重ねていきたいところです。

この一連のエントリでは、オリヴァー・サックスの心の視力―脳神経科医と失われた知覚の世界を用いましたが、引用したリリアン・カールやハワード・エンゲルの経験はほんの一部です。全体を通じて非常に興味深い内容なので、ぜひ実際に読んでほしいと思います。

おすすめの一冊です。

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