「脳脊髄液減少症を知っていますか: Dr.篠永の診断・治療・アドバイス」を読んで

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脳脊髄液減少症を知っていますか1日出版された、篠永正道先生の最新書籍脳脊髄液減少症を知っていますか: Dr.篠永の診断・治療・アドバイスを読みました。

結論から言うと、脳脊髄液減少症の歴史や現状がよく分かる、とてもすばらしい本でした。何より、弱い立場にあり、人知れず苦しんでいる患者ひとりひとりへの気遣いがこもっていることに感動しました。

この本を読んで、慢性疲労症候群(CFS)の患者として有益だった点の感想を残しておこうと思います。これから買おうかどうか考えている人の参考になれば幸いです。

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これはどんな本?

この本は脳脊髄液減少症を提唱し、長らく患者の盾となって治療にあたってきた篠永正道先生の最新書籍です。篠永正道先生は2000年に、交通事故後のむち打ち症と脳脊髄液の漏れを関連づけ、医学会の注目の的になりました。

脳神経外科 篠永教授TOP | 国際医療福祉大学熱海病院

篠永先生はこの本について、序文でこう書いておられます。

脳脊髄液の減少が多彩な症状をもたらすということは、現在の医学の常識ではありません。これからこの本で述べることは、常識を覆す内容です。真のイノベーションは既成の概念を覆すことから生み出されるので、脳脊髄液減少症は医学・医療のイノベーションと言えなくもありません。(p12)

交通事故や転倒によって発症する脳脊髄液減少症は比較的新しい概念ですが、決してまれな病気ではありません。この本は、慢性疲労症候群(CFS)や線維筋痛症(FMS)と誤診されることも多い脳脊髄液減少症を知るのに最適な一冊です。

脳脊髄液減少症を知っていますか?

この本では何より、脳脊髄液減少症とはどんな病気か、という点について詳しく説明されています。そうした点はこのブログでも過去に取り上げてきました。

【7/5 FNNニュース】「あなたの頭痛 大丈夫?原因不明は“髄液漏れ”か」まとめ

この本の中で、篠永先生は、脳脊髄液減少症をに例えています。

それによると、人体におけるエンジンは脳で、エンジンをスムーズに動かすエンジンオイルは脳脊髄液です。エンジンオイルが不足すると、エンジンがかかりにくくなってエンストしたり、坂を登るのに時間がかかったりします。同様に脳脊髄液が不足すると、神経系の機能が低下して、さまざまな症状が出るのです。(p21)

なぜ脳脊髄液が減少すると多彩な症状が出るのでしょうか。いくつかの説が挙げられていました。(p24-26)

(1)脳が沈下し、脳と硬膜をつないでいる架橋静脈が引っ張られ、痛覚細胞や脳神経が影響を受ける。
(2)Monro-Kellieの法則にしたがって、血液量が増加し、脳がうっ血する。
(3)脳脊髄液が担う神経伝達物質などを輸送する役割が十分果たせなくなる

その症状にはありとあらゆるものが含まれていますが、一定の特徴があります。絶対ではないとはいえ、以下の点に注目すれば、自分の異常が脳脊髄液減少症によるものかどうか見当がつくかもしれません。(p35-49)

◆横になると楽になる
◆天候が悪化する前に増悪する
◆午後から夕方に悪化する
◆脱水により症状が悪化する

似ている病気との比較

第3章には、「脳脊髄液減少症の周辺病態」として、さまざまな病気が挙げられています。このブログのテーマは慢性疲労症候群(CFS)なので、それにかかわる部分に注目しておきたいと思います。

慢性疲労症候群

慢性疲労症候群(CFS)は病的かつ異常な疲労や疲れやすさを特色とする病気です。篠永先生は、慢性疲労症候群と線維筋痛症は、特に似ている病気だと述べ、こう書いています。

脳脊髄液減少症、慢性疲労症候群、線維筋痛症の症状はオーバーラップしている点が多く、慢性疲労症候群、線維筋痛症の中には脳脊髄液減少症が少なからず含まれると考えられる。(p58)

脳脊髄液減少症の患者さんに脳血流検査を行うと、前頭葉、とくに前頭前野と呼ばれる部分の血流が低下していることがあります。慢性疲労症候群でも、前頭前野の血流低下が報告されていますから、共通した原因がありそうです。(105-106)

線維筋痛症

線維筋痛症は激痛を特色とする病気で、しばしば慢性疲労症候群(CFS)に合併します。篠永先生はこう書いています。

脳脊髄液減少症に線維筋痛症が合併することはまれではなく、一割ぐらいは線維筋痛症様の痛みを訴えます。(p104)

ブラッドパッチにより改善する場合と悪化する場合があるため、治療において気をつける点も工夫されています。(p84,103-105,169) また、線維筋痛症と診断されたのに、投薬で改善せず、ブラッドパッチで回復した16歳の女の子の話も載せられています。(p121-123)

起立性調節障害

子どもの場合、近年柔道による発症がクローズアップされていますが、マット運動やバスケットの発症も多いようです。多くは精神的な不登校、偏頭痛、起立性調節障害、線維筋痛症と診断されていると書かれていました。(p56,60-63)

この本を見る限り、起立性調節障害と脳脊髄液減少症の日内変動は逆なので、そこに注目すれば見分けやすいかもしれません。

ほかに軽度外傷性脳損傷、身体表現性障害、パーキンソン病などとの関連が興味深く思いました。(p107,110,152)

ブラッドパッチ以外の治療法

脳脊髄液減少症の治療法というとマスメディアで報道されるのはほぼブラッドパッチ一択ですが、この本ではさまざまな治療法が提案されています。

たとえば人口髄液アートセレブ(p64,90-92,180-181)と、生理食塩水硬膜外注入[生食パッチ](p64,81,87)について詳しく書かれたp82の図は、ブラッドパッチとの違いを理解するのに役立ちます。自己血が使用できない場合は持続生理食塩水注入があります。(p85)

アートセレブの効果については山王病院の高橋浩一先生のブログで触れられていました。

アートセレブ治療の現状 - Dr.高橋浩一のブログ

まだ症例が充分でないので、きっちりと統計を取っていませんが、アートセレブの有効率は、約50%程度かと思います。

効果の発現は、治療後にすぐに表れる方もいれば、数か月経過して症状が軽減される症例もあります。

効果の持続期間も、人それぞれです。

アートセレブ治療を多く施行し、その後に髄液漏出を併発した症例があり、治療回数は多くすべきでないと考えています。

ほかにもフィブリン糊パッチ(p84)、点滴(p65,87)、漢方薬(p93-94,185-186)、ウォーキング、眠り、水分補給(p89,173-178)、そして慢性疲労症候群との関係で、倦怠感に効果的とされるコエンザイムQ10が挙げられていました。(p106,175)

【10/31 マイナビ】還元型コエンザイムQ10が慢性疲労症候群(CFS)に効果的!

第5章では、章全体がQ&Aになっていて、とてもわかりやすく対処法が学べます。(p166-187)

なお脳脊髄液減少症の検査については最近、RIシンチグラフィーという検査の正確性が疑問視されていますが、それに対する反論も展開されていて、脳MRIだけでは診断できなかった症例も含められています。(pp75,146,211)

新しい概念への批判をかいくぐって

慢性疲労症候群(CFS)との関係でぜひとも取り上げておかなければならないのは、篠永先生が、医学会の猛烈な批判や中傷をかいくぐった末に述べている重みのある言葉です。

交通事故で脳脊髄液が漏れるという医学会の批判は凄まじく、医学会での吊しあげや医学論文での辛辣な批判が続きました。

…医学論争は大いに結構ですが、患者の救済に水を差す議論は考えものです。批判するからには有効な治療法の対案を出すべきであると思いますが、一度も対策を聞いたことはありません。常識の範囲内で説明できない時は、常識を超えないと新たな考えは生まれてきません。(p198)

医学論文は査読といって、“有識者”があらかじめ論文を審査し、内容が医学雑誌にふさわしくないと判断されたら掲載されません。…新しい概念は既成の常識を超えるところから生じるのですから、“常識人”によって行われる査読を通過できないのです。(p201)

これは慢性疲労症候群(CFS)や線維筋痛症(FMS)、化学物質過敏症(CS)の分野でも同じです。既存の医学で説明できないために、これらの病気の患者は、医師からうつ病の一種や心身症、挙げ句の果てにはヒステリーや詐病というレッテルを貼られてきました。

しかし篠永先生の言うように、批判する人たちが苦しんでいる患者に寄り添い、解決策を示してくれたことは一度もありません。「こころの問題」と決めつけて、さじを投げているにすぎません。

睡眠障害の観点から小児慢性疲労症候群(CCFS)を提唱してきた三池輝久先生も、同じ問題に直面し、不登校外来―眠育から不登校病態を理解するにおいてこう述懐しています。

“こころの問題”とはどのような問題であろうか。…何もかも曖昧で、明確な方向性を示すことができない医療現場の“逃げ口上”ともいえる。

不登校で苦しむ彼らを医学生理学的に評価する方法を持たない医療は、漠然としてとりとめのない無責任な言葉、“こころ”に逃げ道を求めたに過ぎないのではないか。

現代の医療レベルの発展を考えるとき、医療に従事する者が“こころの問題”などと逃げること自体が許されないことだと考えている。(p12)

苦しんでいる人を気遣う必死の努力を川向こうから声高に批判し、その一方で患者の苦しみには決して関わろうとしない、そもそも理解しようとさえしないそうした人々は確かに無責任であるといえます。

一緒に悩みぬいたからこそ

この書評では、脳脊髄液減少症についておおよそのことは知っているという前提で、CFS患者として有益に思えた点をまとめてきました。

しかしこの本は脳脊髄液減少症を多方面から丁寧に解説した本なので、これから脳脊髄液減少症を知りたいという人にこそおすすめできます。

最後に、理解されにくい病気を抱える患者たちの盾となり、彼らを一番すぐそばで支えてきた篠永先生ならではの言葉を引用して締めくくりたいと思います。

脳脊髄液減少症の歴史は、この言葉に要約されているかもしれません。

脳脊髄液減少症の患者さんは、どの患者さんを見ても発症から治療まで苦労の連続です。…一人一人がテレビドラマのよう主人公のような辛い体験をしています。

…このような患者さんと接して、日々一緒に悩んでいます。

悩みぬいたからこそ、人工髄液による髄液補充治療など、新たな治療法が生み出されてくるのです。(p221)

 

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