「人は人の優しさに触れて自分に強く、人に優しい人間になれる」

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学生のころに、起立性調節障害(OD)を発症された方の経験談が掲載されました。当時は起立性調節障害の病名がまだあまり知られておらず、理解を得られなくて追いつめられたこと、しかし、思いやりのある小児科医と出会い、乗り越えることができたことが書かれています。

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わたしの場合は、小児慢性疲労症候群(CCFS)という病気でしたが、この話を読んで、思い出すことがいろいろありました。起立性調節障害と小児慢性疲労症候群は、どちらも思春期に発症し、理解されにくい点で似ています。大人の病気にはない、独特の葛藤があります。

この方の経験談には、思春期に不登校になった子どもとして、周りの大人にはこう接してほしいと思えることが具体的に書かれています。わたしの経験も交えて、考えをまとめておこうと思います。

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病気よりも辛いこと

子どものころに理解されない病気を発症すると、身体だけでなく心も痛みます。

起立性調節障害にしても小児慢性疲労症候群にしても、命に関わる病気ではないかもしれません。この経験談の方が述べておられるように、それくらいで音を上げていては「必死に病気と闘っている人に対して申し訳ない」と思うこともあります。

しかし、理解されない、見た目には分からない、家族の期待に答えられない、学校に行けない、みんなと同じようにできない、友だちが元気に登校しているとき、ベッドに縛られていなければならない、そうしている間にも刻一刻と時間が過ぎ、いつしか友だちから置きざりにされてしまうという苦悩は、病気そのものと同じほど、いえそれ以上に辛いのです。

この方も「当時は毎日を乗り越えることが精一杯で、周囲に気を配ることができなくなっていた」「学校に行きたくても行けない、頑張っても報われない苦しさが、積もりに積もって生きる意欲を失った」と書いておられます。

冷たい雪交じりの風の中で

そのような絶望に追い込まれているにもかかわらず、周囲の大人たちは「心が弱い」とか「未熟」だと決めつけ、挙げ句の果てには「仮病」であり「学校嫌い」であると見下します。

そのように厳しくあしらってしまう理由はわからないでもありません。大人の側としても、なんとかしてあげたいと思いつつ、どう接していいかわからないのでしょう。

例えば、大国真彦先生の著書起立性調節障害―朝、起きられない子どものためにには、不登校の子どもの親の気持ちについてこう書かれています。

不登校児の親の反応

A.他の子のできることが何故できないかという嘆き
B.苦しんでいる様子を見ていられぬ痛み
C.高校を出ないと社会的に落ちこぼれるというあせり
D.わが子ならせめてこの位という見込みのはずれた怒り
E.何でもいいからもうこれ以上手間をかけないでくれという面倒みる側のつらさ
F.出来が今ひとつの子どもを持つ恥ずかしさ    (p24)

子ども自身だけでなく、周りの大人も苦しんでいることは確かです。しかし以前の書評に書きましたが、厳しい叱咤激励は、子どもにとって逆効果だと思います。そのような言葉は学校という競争社会で散々聞かされてきたのです。

何より、不登校になってしまった子ども自身が、だれよりも苦悩し、落胆し、打ちのめされています。だれかに指摘されるまでもなく、なんとかしなければいけない、という不安と焦りで、何も考えられないほどに追い詰められてしまっています。

この経験談の方は、現実に直面している生活を「二月の冷たい雪交じりの風」と重ねあわせています。冷たい風あらしの中で凍えている子どもに、さらに吹雪を浴びせたところで、何が期待できるというのでしょうか。

心の問題があるのは確かです。起立性調節障害にしても小児慢性疲労症候群にしても、医学的には心身症に分類されます。「気のせい」という意味ではなく、心身が複雑に絡み合っているという意味です。

しかし自分のアイデンティティを確立した大人と違って、まだ揺らぎやすい子どもである以上、体の問題に加え、心の苦悩を抱えたとしても当然ではないかと思うのです。それは決して心の弱さではありません。

温かい共感が心を動かす

理解されにくい病気のため、不登校になってしまった子どもにとって必要なのは、精神論や根性論ではなく、共感してくれる人と、体調を改善するための適切な医療です。

この経験談の方は支えてくれた小児科医について、こう書いておられます。

私にとっては競争社会で勝ち抜き、医師という職業に就いている人に、こんな私を受け入れてもらえるなんて、信じられないことだった。

けれども先生は、人生に勝ち負けはなく、自分という人間であることに幸せを感じられるかが大切だと私に話してくれた。

子どもはふつう、慢性的な病気のような人生の危機を経験したことがありません。どのような心構えで闘病していくべきか、それさえも知りません。だれかから教えてもらわねばなりません。

それを教えてくれるのは、突き刺すような、傷をえぐるような言葉ではなく、雪解けを誘う春の日差しに似た温かい励ましだと思います。こう書かれています。

しかし、毎日の先生とのやりとりの中で、徐々に私はここで甘えていてはいけない、と思えるようになった。

退院してからも、生活がうまくいくことはなかった。貧血状態でベッドの上で苦しむか、自分の居場所のなくなった教室で、耐える日々だった。

それでも、自分に負けたくないと歯をくいしばることができたのは、今の自分を受け入れて、今できることを頑張りたいという思いからだった。

すばらしい楽器でも、乱暴に奏でるなら、耳障りな不協和音を鳴り響かせるだけです。同様に、どれだけ良い動機がこもっているとしても、突き放すような厳しい言葉は、何の役にもたちません。

それに対し、優しく伸びやかに奏でられた音楽は人の心を揺さぶり、意欲を沸き立たせます。辛抱強く理解しようと努め、励ましてくれる人がいるなら、たとえ時間はかかるにしても、病気に立ち向かう勇気が湧いてくるのです。

以下の記事もよろしければ参照してください。

苦しんでいる人を思いやる3つの方法はてなブックマーク - 苦しんでいる人を思いやる3つの方法

病気の人にかけてはいけない3つの言葉はてなブックマーク - 病気の人にかけてはいけない3つの言葉

自分の経験から

わたしの場合も、発症からしばらくの間は、何も考える余裕がなくなり、ひたすら混乱し、迷走していました。どうしても学校に行きたいのに、疲労や痛みのためどうしても行けないと訴えましたが、ほとんどの人は信じてくれませんでした。

学校では心の問題のため不登校になったと説明され、医師からは意欲の問題だと諭され、ある著名な精神科では、血液検査でも心理テストでも異常がないのだから「仮病」であると言われました。親が、精神科医ではなく、わたしのほうを信じてくれたのは幸いでした。

そんな中、慢性疲労症候群の家族を持つ10歳年上の知り合いが、県をまたいで何度も元気づけに来てくれました。はじめのころ、わたしはふさぎこんでいて、とても失礼な対応をしていましたが、その人は、ずっと顔を見に通ってくれました。励まそう、元気づけようと身構えるでもなく、ごく普通の友だちのように、対等に接してくれました。

また慢性疲労症候群と診断された後、ずっとお世話になっている小児科の先生は、とても親身に話を聞いてくださる方で、効果的な治療を一緒に探してくださいました。

そうした人たちのおかげで、時間はかかったものの病気と闘って生きていこうと思えるようになりました。治療もある程度上手く行き、睡眠障害はかなり改善しました。体力面の問題こそ残っていますが、思考力のほうは、社会とつながりを持てるまでに回復しました。

優しさに触れて強くなれる

この経験談の方は、高校生になって体調が戻り、順調な人生を取り戻しました。結論としてこう書いておられます。

中学生の時、先生と出会い、消えかけていた私の生きる意欲に火をつけてもらえなければ、私は前に進むことができなかっただろう。

人は人の優しさに触れて自分に強く、人に優しい人間になれることを私は先生から教わった。

わたしたちは、甘やかしてほしいわけではありません。同情して哀れんでほしいわけでもありません。ただ辛抱強くあって、優しさを示し、共感してほしいのです。

黒一色に塗りたくられた恐ろしい暗闇の中でも、手元にわずかな明かりがたったひとつでもあれば、足を踏み出し、歩いていくことができます。

真剣に耳を傾け、優しさを示してくれる人がたった1人でもいるなら、理解されにくい病気ゆえに不登校になってしまった子どもでも、絶望から抜け出し、前に進む勇気を持つことができる。わたしはそう思います。

▼起立性調節障害(OD)とは
詳しくは以下の前後編の記事をご覧ください。

small朝起きられないもう一つの病気「起立性調節障害(OD)」にどう対処するか(上)

 

▼小児慢性疲労症候群(CCFS)とは
以下のページに、関連する記事をまとめています。

smallその不登校ーもしかして小児慢性疲労症候群?はてなブックマーク - その不登校ーもしかして小児慢性疲労症候群?

 
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