3.11 津波をくぐりぬけて成長したアサリの物語

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アサリの障害輪日本大震災から2年になります。先日防災についてのエントリを書きましたが、今もって2011年3月11日金曜日,午後2時46分の記憶はぬぐい去れるものではありません。

震災は何も人間にだけ、破壊的な影響を及ぼしたわけではありません。震災後、わたしは自然界のとあるエピソードを知って励まされました。

災害や病気によって人生が一変してしまったとしても、再び力強く生きていける、という勇気を与えてくれる、二枚貝のアサリについての話です。

わたしたちは、消えない傷を心に負ったとしても、どのようにして逆境をくぐりぬけ、成長することができるでしょうか。東邦大学の大越健嗣教授たちの研究を見てみましょう。

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殻に刻まれた障害輪

大地震は自然界の生きものに、どれほど大きなダメージを与えたのでしょうか。

大越教授らが、震災後の5月に、福島県の沿岸でアサリの貝殻を調べたところ、なんと9割ものアサリで、殻の途中に溝ができ、それを境に色や模様が変わっているのが見つかったそうです。

この溝は「障害輪」と呼ばれ、アサリが大きなストレスにさらされたことを物語っています。津波で長い距離を転がされたり、環境が急に変化したりしたことが原因なのでしょう。この研究は以下のニュースで報道され、動物学会でも発表されました。

asahi.com(朝日新聞社):震災、アサリにもストレス 東邦大調査、殻の模様に異変 - 東日本大震災はてなブックマーク - asahi.com(朝日新聞社):震災、アサリにもストレス 東邦大調査、殻の模様に異変 - 東日本大震災

アサリの障害輪と同様、災害によって残された心の傷も、あまりに深く刻まれて、おそらく終生消えないでしょう。震災後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)について繰り返し報道されました。

阪神淡路大震災で両親を亡くしたわたしの知り合いも、「きっともう二度と笑顔になることはないのだろうと思った」、と話してくれたことがあります。

今回の地震が起こったとき、わたしはパーキンソン病の友人と一緒にいたのですが、異様な揺れに恐れを感じて、すぐGoogleリアルタイム検索を覗き、徐々に明らかになる事態の大きさにぞっとしたのを覚えています。

地震後は、病気があるので特に何かできたわけではありませんが、周囲で急いで物資をまとめている様子を見ていました。後にたまたま気仙沼の方とお会いすることができ、じかに撮った写真を見せてもらったり、メッセージカードを書いたりしました。しかし、あらゆることがわたしの理解できる範囲を超えていました。

津波をくぐりぬけて成長した希望の環

大災害は、人々の心にもアサリの貝殻にも消えない傷を刻みました。しかし希望を感じさせてくれる話題もあります。アサリの貝殻は、障害輪のところで途切れているわけではなかったのです。それを境に色や形が変わっていますが、ずいぶん成長していました。

研究した大越教授はこう述べています。

貝にとって殻は履歴書のようなもの。貝殻の模様の変化は、一度はストレスで成長が止まったが、その後は順調に育っていることを示す。

自然写真家の永幡嘉之さんのブログによると、大越教授は、次いで、アサリの障害輪をこう表現したそうです。

希望の環(リング)|世界のブナの森はてなブックマーク - 希望の環(リング)|世界のブナの森

津波をくぐりぬけて成長した『希望の環』

被災地の人たちが、各々生活を立てなおそうと奮闘しておられる様子には心を打たれます。心の傷を抱えながらも再び人生を歩みだしているからです。たやすい問題でないことは承知していますが、その姿は希望を感じさせてくれます。

わたしの“障害輪”

わたしの人生の履歴書にも、はっきりとした障害輪が刻まれています。学生時代の11月16日の朝、慢性疲労症候群(CFS)の発症と共に生活が一変し、それ以前とそれ以降はまったく別の人間の人生を送っているかのようです。

これを読んでくださっている方の中にも、あるときを境に人生が一変したという方がおられるかもしれません。それは被災や事故、あるいは病気や身近な人の死かもしれません。ご自身やご家族の問題を境に、多くのことが変わってしまったかもしれません。

わたしは今でも、この新しい人生には戸惑いを覚えます。CFSが発症した直後のできごと、怖れや焦りや苦悶に呑み込まれた時期のことを、わたしは幾度となく繰り返し、夜の夢の中で見てきました。

学校の教室で、どれほど頑張っても体が動かなくなり、いつしか先生にも友だちに置き去りにされる悪夢です。場面や登場人物はその都度変わりますが、毎回わたしは夢のなかで同じ苦しみを味わいます。

辛い記憶を乗り越える

それでも、わたしはCFSを発症して以後、すべてが台無しになってしまったとは考えていません。「一時はストレスで成長が止まった」かもしれませんが、模様や色を変えて、今では新しい人生を歩んでいます。

CFS発症以降、ひどいときは毎日眠るたびに見ていた上記の夢も、最近ではときどき見る程度になり、内容も変わってきました。不思議なことに、動けなくなるまでは同じなのですが、夢の中で気持ちを落ち着け、対処できるようになったのです。

アサリの殻にくっきりと障害輪が刻まれていたように、心の傷は決して消えません。過去のできごとはどうあがいても変わりませんし、辛い記憶はいつまでも心に残ります。

しかし、消えない傷は覆われない傷ではありません。辛いできごとは、過去に縛られるなら“障害輪”ですが、未来に生きるなら“希望の環”です。

障害輪を乗り越えて成長したアサリのように、わたしたちも辛い記憶を乗り越えて歩き出すことができます。大津波のような試練が襲いかかり、生々しい爪あとを残そうとも、わたしたちは未来へと歩んでいくことができます。

アサリという小さな貝の履歴書が教えてくれた教訓を、わたしはこれからも心に留めて生きていきたいと思います。

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