睡眠を削る学校社会は脳に傷をもたらすか

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絶望一連のエントリでは、社会的虐待という観点から、小児慢性疲労症候群(CCFS)の問題を考えてきました。

2番目のエントリでは、慢性的な睡眠不足を成長期の子どもたちに強いる現代の競争社会は、社会的な虐待と呼んでも差し支えない異常な環境となる場合があることを確かめました。

この3番目のエントリでは、個人的な推察の域を出ませんが、虐待された子どもと小児慢性疲労症候群の子どもに見られる類似性に注目してみたいと思います。

注記) これは医学的情報ではありません。すでに定義された問題を別の観点から見た、個人的なコラムにすぎないことをお含みおきください。

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小児慢性疲労症候群を虐待の結果として分析する

虐待による脳機能の変化と、CCFSの脳機能の変化は別のものですが、似ている部分があると感じました。以下に4つの点を挙げてみたいと思います。

1.感受性期に脳がダメージを受ける

最初のエントリでは、虐待について、「決定的に重要な時期(感受性期)に虐待を受けると、厳しいストレスの衝撃が脳の構造や機能に消すことのできない傷を刻みつけてしまう」という言葉をいやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳から引用しました。

子供の脳には、感受性期というものがあり、どの時期に虐待を受けるかによって、ダメージを受ける部位が変わるそうです。3-5歳ごろのトラウマであれば海馬、9-10歳なら脳梁、14-16歳ごろなら前頭葉が重篤な影響を受けると書かれています。(p78)

では、感受性期に睡眠が削られた場合に、同様の問題が脳に生じることがありうるでしょうか。

子どもの睡眠の研究の草分けである瀬川小児神経学クリニック院長の瀬川昌也先生はこう述べています。

 

正常の情緒の発達のためには、出生時より少なくとも6歳まで、昼夜の明暗の区別にしたがった生活リズムをとることが必須である。 (p232)

いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳にはこうあります。

 

出生前の母体環境や生後繰り返し受けるさまざまな刺激によって神経回路が柔軟に変わりうる“可塑性”をもっているという子どもの特性がある。

たとえば年少の子どもに、不眠という過覚醒状態が長く続くと、本来一過性であるべき状態が持続し、ひいては“体質”に変わってしまうと警告されている。(p125)

幼いころに睡眠が削られると、慢性的な脳機能異常がもたらされる可能性があることが推察できます。

神山潤先生は、その“体質”を「夜ふかし後遺症」と呼んでいます。小児期に睡眠不足を経験すると、その後の人生で慢性的な時差ぼけ(概日リズムの内的脱同調)になりやすくなり、ストレスを感じやすくなるといいます。

不登校外来ー眠育から不登校病態を理解するは、年長の子どもについて次のように警告しています。

発達途上の子どもたちが長期に[概日リズムの]脱同調状態にさらされると、徐々に脳機能低下が固定化してしまう可能性がある。 (p59)

以上から、各感受性期に慢性的に睡眠不足を強いられるなら、ダメージを受けやすい“体質”になり、脳の機能の低下が“固定化”する場合があることが分かります。その場合、脳の傷が、軽いものであるとは決して言えません。

また学校を捨ててみよう!にはこう書かれています。

前頭葉の廃用性萎縮が子どもたちにもおこっていることはすでに報告したが…これが不登校状態の子どもたち、とくに学校にしがみつきなんとか残りつづけたあと、大学にたどり着いたという人たちにときどき認められるのである。 (p152)

これに対し、いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳では、被虐待児の脳の変化を治療する希望として、ある「成人を対象とした先行研究」が引き合いに出されています。(p93)

それは脳と疲労 ―慢性疲労とそのメカニズム―で紹介されている、成人の慢性疲労症候群(CFS)に関する研究です。成人のCFSでも、前頭葉の萎縮が認められ、オランダのグループによると、その萎縮は認知行動療法によって改善しました。

研究者から見て、虐待による脳の変化と慢性疲労症候群の脳の萎縮はある程度比較しうるものであることがわかります。

CCFSになった子どもは、回復しても過眠や易疲労性、学習・記憶機能障害の傾向が残りやすいと言われています。なかには何十年と回復せず、社会的ひきこもりに至る場合もあります。

大半は、睡眠を意識した治療によって元気になるとはいえ、生涯にわたって後遺症に苦しめられるとしたら、それは虐待と大差ありません。

最近の研究では、慢性的な睡眠不足が脳に不可逆的な影響を及ぼし、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経疾患を加速させるという報道もありました。

【3/20】慢性的な睡眠不足で脳に不可逆的な変化が生じる(追記あり)| いつも空が見えるから

2.異常な日常への適応

虐待によって脳が傷つくのは、ダメージではなく適応であるということは以前のエントリで書きました。幼少期の柔軟な脳が、異常な環境を何とか生き抜こうとして、必死に適応した結果が虐待による脳の傷の正体でした。 (p112)

生まれたときから異常な環境が日常なので、その環境を疑うこともできず、逃げ出すという選択肢がありません。どれだけストレスフルでも、適応するしかないのです。

CCFSの場合はどうでしょうか。高度経済成長期とともに生きてきた大人は、脳が形成期にある子どものころは十分に睡眠を取っていました。

それに対し、今の子どもは生まれたときから、睡眠不足を強いる競争社会に育ちます。日本は子どもの睡眠時間を、世界で最も早い速度で削っている国ですが、それは異常な環境と言わざるを得ません。

いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳にはこうあります。

 

地震や台風などの自然災害、戦争や事故などの人為的な災害は、衝撃的ではあるが、長い日常の中のほんの一部で生じた、非日常的な事件である。それに対して虐待では、子どもにとってごく当たり前の存在である親が、事件をひきおこす。

親の「しつけ・教育」が虐待であるならば、それは幼児が生まれてきてからの生活そのものが虐待という現象の中に組み込まれているということを意味する。つまり、幼児にとって虐待とは“非日常的”ではなく紛れもない“日常”の姿なのである。森田はこれを家庭内の“文化”であると表現している。  (p107-108)

ある家庭においては、幼少時からの天才教育や、一流大学への進学を美化する“文化”が、親の「しつけ・教育」という形で、生まれたときから子どもの睡眠時間を慢性的に削っているかもしれません。しかし子どもはその中で適応し、生きていくしかありません。

また睡眠を極限まで削り、知識を詰め込むことを求める学校社会も、子どもにとって疑うことのできない日常です。個性を押し殺して集団活動を求める自己抑制的な教育環境もしかりです。いかにストレスフルでも、子どもにとってはそれがすべてなので適応するしかありません。

書籍学校を捨ててみよう!―子どもの脳は疲れはてているによると、CCFSの子どもの脳機能の変化は、過酷な学校社会のもとで自分を押し殺した一種の適応、自己防衛的な逃避反応でした。(p151-153)

もちろん、すべての子どもがそのような状況に置かれているわけではありません。子どもの遺伝的特性や家庭の状態、学校の指導方針はそれぞれ違います。しかし悪い条件が重なりあうなら、ごくふつうの日常が、子どもにとって異常な環境となるかもしれません。

3.環境を捨てるかどうか

虐待の場合、治療の第一歩は何でしょうか。それは、虐待者の劣悪な環境から子どもを引き離すことです。

ところが、いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳によると、虐待を受けた子どもは、異常な環境のもとで何とか生きていこうと適応するあまり、「虐待者に対する強い愛着を示したり、それを何としても失わないようにふるまったりする…戦争体験などにはみられない、特異な反応の仕方」を見せます。(p108)

CCFSの場合はどうでしょうか。CCFSの解説書が学校を捨ててみよう!と名づけられているのは興味深いことです。子どもにとってのストレスフルな環境である学校を離れ、10時間睡眠を確保することが治療の第一歩となるはずです。

すべての場合がそうではありませんが、CCFSの子どもの中にも「学校にしがみつきながら登校できない」人がいます。学校嫌いのレッテルを貼られることや、不登校児と呼ばれることを過度に恐れています。学校を捨ててみよう!には、「子どもたちはけっして学校を離れようとはしない」と書かれています。(p73,145)

どれだけ異常な環境でも、子どもにとってはそれが「日常」であり、「当たり前」です。その環境が全てであり、そこでしか生きていくことを知りません。そのため、自分にとって過酷な環境であっても、強い愛着を示し、何としても失わないようにふるまいます。

しかし、原因となるストレスフルな環境にとどまっているようでは、問題は解決しません。三池先生はこう述べています。

私は過去、学校へ戻りたいと願う生徒たちをなんとか学校生活に戻そうと努力してきた。

しかし1997年に不登校状態の生徒を学校に戻すことをやめた。若者たちの誰も自らすき好んで学校を離れるものなど存在しない。(p123)

いくら愛着を示すといっても、虐待者のもとへ子どもを送り返すことは考えられないことです。学校を捨ててみよう!では、学校に戻ろうとすると症状が悪化するのはPTSD(心的外傷後ストレス障害)だとも書かれています。 (p66)

4.脳機能のバランスの問題

いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳によると、虐待された子どもは発達障害に似た特有の育てにくさを示すことがあります。

そのため、「虐待の延長上にある脳の器質的疾患としての発達障害、という新しい観点」が紹介されています。つまり、虐待は脳に変化をもたらし、発達障害に似た症状を引き起こす、という意味です。(p133)

CCFSの子どもも、発達障害に似た症状を呈することが指摘されています。

不登校状態の子どもたちに様々な診断名がつきはじめている。…「PDD」、「Asperger症候群」の病名が目立つ。そう簡単にこのような病気を作られて良いとは思えない。

…なぜなら、治療により回復した彼らから発達障害と診断する根拠が消えることが少なくないのである。 (p82,85,97)

どちらの場合も、脳機能に大きなダメージが及んでいることが分かります。

このエントリでは虐待による脳の影響と、小児慢性疲労症候群(CCFS)を比較して、似ている点を4つ取り上げました。

学校社会がいかにストレスフルだといっても、実の家族による虐げほど過酷ではないかもしれません。

しかし、国立精神神経センターの三島部長の研究で示された通り、慢性的な睡眠不足のもとでは、ストレスに対処する脳のシステムがうまく動作せず、不安情報や抑うつを処理できなくなります。

CCFSは複数の要因が重なりあって発症します。睡眠欠乏により抵抗力が低下しているところへ、心身の負担がかかると、そのダメージは周囲が思うよりずっと大きくなるのです。

最後のエントリでは、この一連のエントリを総括し、ごく普通の家庭や学校が子どもにとって虐待にならないためにどうすればよいか、ということを考えます。

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