脳科学が解き明かすうつ病のメカニズム―「NHKスペシャル ここまで来た! うつ病治療」

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はてなブックマーク - NHKスペシャル|ここまで来た!うつ病治療けもわからず涙が止まらない、やっとの思いで椅子にたどり着いても、呆然としたまま反日が過ぎる、世界が色あせてモノクロに見える。砂を食べているように味わいがない、頭に霧がかかったようにモヤモヤしている。(p28,42,61,186)

うつ病の症状は、とても辛く厳しいものです。それが治療で思うように改善しない場合はなおさらです。抗うつ薬が効かない場合、どのような対策があるでしょうか。

書籍NHKスペシャル ここまで来た! うつ病治療では、脳科学により解き明かされてきた、うつ病の新しい姿が解説されていました。

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これはどんな

この本は2012年2月12日に放送された「NHKスペシャル ここまで来た! うつ病治療」をベースに、放送できなかったエピソードや、放送後に取材した内容をまとめたものです。特に海外のうつ病治療の最新の知見がまとめられています。

NHKスペシャル|ここまで来た!うつ病治療はてなブックマーク - NHKスペシャル|ここまで来た!うつ病治療

 わたしとしてはこの放送を見ていなかったので興味深く読むことができました。また、慢性疲労症候群(CFS)患者の観点から、脳機能異常を治療するどのような手法があるのか、ということに興味がありました。

慢性疲労症候群(CFS)はうつ病とはまた異なるメカニズムで脳機能異常が生じているとされる病気です。この本に挙げられているさまざまな治療法は、今後慢性疲労症候群の治療に導入されていくかもしれないと思いました。

うつ病の原因とは

これまで、うつ病はモノアミン系の神経伝達物質のひとつ、セロトニンが脳内で不足する病気だと考えられてきました。しかしそう言われるようになったのは、セロトニンを増やす薬であるSSRIに効果があったからにすぎません。(p128)

近年、うつ病の1/3には抗うつ薬が聞かないことが明らかになり、この説は危うくなっているそうです。本書ではセロトニンが原因とする従来説に変わる、うつ病の原因が掘り下げられています。

アメリカでの研究によれば、うつ病の原因とかんがえられるのは、脳の3つの部分、DLPFC、扁桃体、そして25野です。

DLPFC(背外側前頭前野)

DLPFCは前頭葉の外側にあり、認知や意欲と深い関係があります。うつ病の人はこの部分の働きが低下しているため、考えたり判断したり意欲を持ったりすることができません。DLPFCには扁桃体の暴走を止めるブレーキ機能もあります。(p23,38-39)

扁桃体

扁桃体は不安や悲しみを生み出します。うつ病の人ではここが暴走状態になっているため、圧倒される悲しみを感じたり、わけも分からず泣いてしまったりします。(p38)

25野(帯状回膝下野)

アーモンド状の小さな場所で、うつ病に関わる重要な領域として、世界中の研究者の注目を集めています。「うつ病の原因回路のハブ(基点)」であり、DLPFCや扁桃体に影響します。うつ病には25野の働きが低くなっているタイプと高くなっているタイプがあります。(p63-66,163)

こうした新しい発見から、うつ病の新しいメカニズムの仮説が提唱されています。

極度のストレス
  ↓
抗ストレスホルモンのコルチゾールが過剰に分泌される
  ↓
脳の神経細胞が破壊される。
神経細胞を成長させるBDNF(脳由来神経栄養因子)が減る
  ↓
25野やDLPFCのコントロールが失われる
  ↓
扁桃体が暴走する。  (p78)

▼慢性疲労症候群(CFS)とコルチゾール

このメカニズムを見る限り、うつ病と慢性疲労症候群(CFS)はやはり異なるようです。CFSでは、コルチゾールは増加するのではなく低下しています。2009年には、コルチゾールのレベルがもともと低い人がME/CFSを発症しやすい可能性が示唆されていました。

BBC NEWS | Health | Stress hormone 'a marker for ME'はてなブックマーク - BBC NEWS | Health | Stress hormone 'a marker for ME'

うつ病と慢性疲労症候群(CFS)の違いについては以下のエントリにまとめています。

small慢性疲労症候群とうつ病の違い(上)―まず知っておくべき類似点3つ

SSRIが効く理由、効かない理由

もしうつ病のメカニズムが従来の説と異なるのであれば、セロトニンに作用する薬であるSSRIが効いていたのはなぜでしょうか。そして、効かない場合があったのはどうしてでしょうか。

効く理由本書によると、これまでSSRIが効いていたのは、SSRIがセロトニンを増やし、セロトニンがBDNF(脳由来神経栄養因子)を増加させ、神経細胞を修復していたためではないかとされています。(p79)

効かない理由(1):逆にSSRIが効かない人は、セロトニンと同じモノアミン系の神経伝達物質ドーパミンが不足し、神経細胞の活性が低下しているのではないか、と言われています。SSRIはセロトニンしか増やさないため、ドーパミンの不足は補えません。(p73)

効かない理由(2):また、うつ病の1/3に抗うつ薬が効果がない理由として、うつ病患者の4割が、実際には双極性障害(躁うつ病)だったことも書かれています。特に双極性障害Ⅱ型の場合は、躁の時間が短く、当人も「たまたま調子がいい」と思う程度なので、うつ病と間違えやすいそうです。(p90,101-103)

このような誤診を防ぐために本書では光トポグラフィー検査が紹介されています。NIRS(近赤外光脳計測装置)で脳を流れる血流を画像化し、うつ病と双極性障害、統合失調症を見分けられるそうです。

光トポグラフィーを実施している病院については以下の44番をご覧ください。(p95-98)

先進医療を実施している医療機関の一覧|厚生労働省はてなブックマーク - 先進医療を実施している医療機関の一覧|厚生労働省

新しい治療法

以上のように、さまざまな理由から、抗うつ薬が効かない場合があるとされています。しかし、苦しんでいる患者にとって、効かないでは済まされません。抗うつ薬が効かず、双極性障害でもないうつ病の場合、どんな治療法があるのでしょうか。

本書で取り上げられているのは、経頭蓋磁気刺激法(TMS)、脳深部刺激療法(DBS)、認知行動療法(CBT)、ニューロフィールドバックの4つです。

ここでは簡潔に取り上げますが、本書では、それぞれかなりページ数を割いて、効果がある理由や、治療を受けた患者の患者の声などが掲載されています。この部分が本書のハイライトと言えるでしょう。

経頭蓋磁気刺激法(TMS)

磁気刺激によって脳のDLPFCに間接的に電気信号を流す治療法です。2008年に、アメリカ食品医薬品局(FDA)により認可され、日本でも一部で実施されています。

効果:扁桃体の暴走を抑える
    ドーパミンを増やす
    左右の脳機能の不均衡を正す(p19-54,72-76)

脳深部刺激療法(DBS)

脳に電極を埋め込み、絶えず刺激を与える治療法です。FDAによって、振戦やパーキンソン病、強迫性障害の治療法として承認されています。日本でもパーキンソン病の治療法として一般的です。(p56-60)

効果:25野に直接働きかける。
    難治性患者の75%が順調に回復している。(p70-71)

最近読んだ別の本書きたがる脳 言語と創造性の科学(2006年出版)のp166にも、DBSは「まだ初期段階だが、今のところ、ほかの治療に反応しない重症のうつ病患者に効果を上げている」と書かれていました。

パーキンソン病への効果については、つい最近ニュースになっていました。

small【1/16 日経】脳深部刺激療法の作用メカニズムを解明はてなブックマーク - 【1/16 日経】脳深部刺激療法の作用メカニズムを解明

認知行動療法(CBT)

イギリスでは国を挙げて認知行動療法を導入したところ、半数以上の患者が改善され、しかも再発率が低いという優れた結果が報告されたそうです。

効果:自分でDLPFCを制御できるよう訓練する。
    25野の働きが低下しているタイプの人に効果がある。(p146,154,163)

ニューロフィードバック

偏頭痛や自律神経失調症の治療に用いられてきたバイオフィードバックの応用です。fMRIでリアルタイムで脳の様子をモニタに映すといいます。

効果:自分で扁桃体の活動をコントロールできるよう訓練する。
    日本でもうつ病やアスペルガー症候群を対象に研究されている。(p165-173)

うつ病の治療はどこへ向かうか

うつ病の研究は着実に進展していますが、認知行動療法の療法の指導者の不足(p152,208)や、電気けいれん療法などの古い治療法への信頼(p181-182)、経験と勘に頼る非科学的な多剤処方(p198-203)、更新制でない医療者免許(p221)、デバイス・ラグ(p80-86)などの問題のため、日本ではなかなか新しい治療法が普及しないようです。

また患者が受け身であることや(p196)、現代社会特有の新型うつの登場も問題となっています。(p174-178,213-214)

うつ病は、その時代の社会、その土地の文化の有りようとも深く関わっている病気です。脳科学的な治療だけでなく、心理療法も必要ですから、一概に海外の方法が良いとも言えず、事情は複雑なようです。(p213)

国内の医療の良い部分は残しつつ、海外の革新的な医療も導入して、治療の選択肢が増えればよいのですが、なかなか難しい問題かもしれません。

なかなか痒いところに手が届かない感はありますが、この本の内容は、うつ病の研究に脳科学の観点を導入した点で、画期的なものだと思いました。

慢性疲労症候群(CFS)の場合も、理化学研究所の渡辺恭良先生たちによって、同じく脳科学方面から研究が進んでいるので、新たな治療法の発見に期待したいと思います。

▼脳科学と慢性疲労症候群(CFS)

脳科学は、同じく脳および全身の問題と考えられている慢性疲労症候群(CFS)のメカニズムも解き明かしつつあります。以下のエントリもご覧ください。

small脳科学が解明する「脳と疲労―慢性疲労とそのメカニズム」はてなブックマーク - 脳科学が解明する「脳と疲労―慢性疲労とそのメカニズム」

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