長引く病気の陰にある「愛着障害 子ども時代を引きずる人々」

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ご自分が不安定型愛着を抱えているかもしれないし、恋人や配偶者や子どもや同僚がそうかもしれない。

カップルのどちらかが不安定型愛着を抱える確率は何と50パーセントを超えるのだ! さらに三人の人がいて、そのうち一人でも不安定型愛着を抱えている可能性は、七割にも達する!

不安定型愛着がどういうものかを知らずに世渡りすることは、片目を眼帯で覆って車を運転するようなものだと言えるだろう。 (p49)

安定型愛着? 聞きなれない言葉です。しかもそれが身近に大勢いるというのです。自分がそうかもしれないとも書かれています。これは血液型占いのような根拠に乏しい話なのでしょうか。

不安定型愛着とは愛着障害にまつわる用語のようです。最近わたしが読んだ本、いやされない傷 児童虐待と傷ついていく脳にも愛着障害についてのコラムがありました。遠い世界の話かと思っていたのですが、どうやらそうではないようです。

その本では、虐待やネグレクトは愛着障害をもたらし、脳の発達に破壊的な影響を及ぼすという研究が紹介されていました。

では虐待やネグレクトほど過酷でないものの親の育て方や幼いころの養育環境によって、子どもが一生、影響を受けるということがありうるのでしょうか。

少し興味があったので、わたしの先生が、分かりやすかったと紹介してくれた本、愛着障害 子ども時代を引きずる人々 (光文社新書)を読んでみることにしました。

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これはどんな本?

愛着障害 子ども時代を引きずる人々 (光文社新書)は、遺伝子と同じほど人生に影響を及ぼしているとみられる愛着の問題について、バラク・オバマやビル・クリントン、夏目漱石、太宰治といった有名例を交えて、文学的に説明された書籍です。

お父さん、お母さんとの、子どものころの結びつき。それを愛着といいます。従来、愛着の傷、すなわち愛着障害は、悲惨な家庭に育った子どもだけにみられる心の傷と考えられてきました。

ところが、最近では、わたしたちすべてに多かれ少なかれ影響を及ぼしていることがわかってきたといいます。明確な境界線はないことから、著者は愛着スペクトラム(=連続性)障害という名前を提唱しています。

人にばかり気を遣ってしまう、素の自分を出すのが苦手で内気、拒否されたり傷ついたりすることに敏感、つい意地を張ってしまう…。こうした性格の背後には、子供のころの愛着の問題があるかもしれないのです。

愛着障害とは何か?

もっと子育てを効率よくしよう。かつてイスラエルの集団農場キブツで、そんな実験が行われました。複数の親が分担して子育てをすれば、時間の節約になり、子どもも自立するはずだ、と考えたのです。

ところが、成長した子どもたちは、周囲に無関心で、無気力になり、対人コミュニケーションがうまくできませんでした。親という特別な存在の結びつきがなかったため愛着障害を抱えてしまったのです。(p23)

愛着理論の生みの親、ジョン・ボウルビィによると、愛着の絆で結ばれた相手を求める純粋さを愛着行動といいます。メアリーエインスワースは愛着がもたらす安心を、安全基地と呼びました。(p26,32)

この2つがしっかりしていれば、わたしたちはどんな試練にも耐えられます。安心感があるので、安全基地から外の世界に出て、いろいろなことにチャレンジします。ショックを受けても、愛着行動により安全基地に戻り、心の安らぎを得ます。

たとえば、有名な「夜と霧」の作者ヴィクトール・E・フランクルは、アウシュビッツ収容所において、愛する人(安全基地)のことを回想して(愛着行動)、心の平衡を保てました。(p35)

しかし不幸にして、子どものころに親を失ったり(死別)、親が愛情を注いでくれなかったり(虐待、ネグレクト)すると、愛着が損なわれ、反応性愛着障害と呼ばれる病的状態になります。(p29,46)

反応性愛着障害については、友田明美先生や、杉山登志郎先生の研究が有名です。このブログでも取り上げているのでご覧ください。

だれも知らなかった「いやされない傷 児童虐待と傷ついていく脳」(2011年新版)| いつも空が見えるから

(友田明美先生による虐待の脳科学の研究)
 

本当に脳を変えてしまう「子ども虐待という第四の発達障害」| いつも空が見えるから

(杉山登志郎先生による、愛着障害の研究)
 

そこまでひどくなくても、子どものころの愛着パターンは大人になると愛着スタイルに発展し、七、八割の人で生涯影響を及ぼすと言われています。

たとえば、以下のような特徴は、子どものころの満たされない気持ちからくる愛着障害かもしれません。(p45)

■ 親との確執を抱えたり過度に従順だったりする
■ 自尊心に乏しく、モノやお金に依存する。性的な問題も抱えやすい
■ 自分を過度に高く評価し、特別な人間だとみなそうとする
■ 人を信頼しにくく心から愛せない
■ 人前で違う自分を演じる
■ ほどよい距離が取れない
■ 傷つきやすく、ネガティブ。ストレスにもろい。負の感情にとらわれる
■ 過去の傷にとらわれ、過剰反応する
■ 悪い点にとらわれて、良い点が見えなくなる
■ 心や性格より、家柄や容姿、学歴に関心を示す
■ 意地っ張りでこだわりやすい
■ 不器用で場当たり的。計画性がない
■ 発達障害と診断されることもある
■ 小さい子どもとどう接していいかわからない、子どもが苦手
■ 感情を感じにくくなる失感情症、空腹など体の声が聞けない失体感症
■ 特にひどい場合は境界性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害になる

不安定型の愛着スタイルは3タイプあり、依存したり人とべったりした関係になりやすい場合を不安型、人とつながったり、失敗したりするのを過度に恐れる場合を回避型、どちらも強く、人に頼りたいけれど頼れない悩ましい状態を恐れ・回避型と呼ぶそうです。

こうした不安定な愛着スタイルは、幼いころの養育環境が原因で身につくものですが、これは必ずしも、親を悪者にすることを正当化するものではありません。

子育てを完全にできる親は一人もいません。ほとんどの親はみな一生懸命に子どもを育てていますが、不慮の死や、他の兄弟との兼ね合いによって不幸にも、ある子どもが満たされない思いをしてしまうことがあります。

何より、たとえ虐待やネグレクトをするようなひどい親であったとしても、そもそもその親自身が、子ども時代に親から愛されず、愛着障害を抱えていたのかもしれません。

そうすると、だれが悪いのか、という論争は、いわばニワトリが先かタマゴが先か、といった答えのでない問題につながります。

「不安定な愛着スタイル」という苦しみや、「愛着障害」という病的状態が存在するからといって、単純に親が悪いと非難するわけにはいかないのです。

原因はもっと根深いところにあるからこそ、愛着からくる問題は、これほどまでに厄介で、人類史全体を通して、あらゆる人種、文化、国家において息づいてきたといえます。

愛着障害の有名人たち

愛着障害は、何も悪い面だけが際立っているわけではありません。不安や悲しみを原動力にして創造力を発揮したり、安全基地がないために大きな賭けに出て成功したりした有名人は大勢います。

この本には以下のような有名人の例が出てきます。ほとんどが事後診断であり、勝手に愛着障害だと決めつけるわけにはいきませんが、生い立ちが波瀾万丈の人生に関わっていたというのは確からしいと思います。

ジャン=ジャック・ルソー:幼いころに母を失い、父に溺愛され、度の過ぎたいたずらなどの問題行動が目立った。(p61,173,260)

夏目漱石:歓迎されざる子として生まれ里子に出された先で裏表のある親に溺愛され、押し付けがましい愛情にさらされた。斜に構えた性格で、心から人を信じられなかった。(p65,126,283,300)

川端康成:幼いころに父母を失い、ずっと虚弱体質だった。年下の女性を愛するロリータ・コンプレックスであり、女性自身ではなく、体の各部分に美意識を感じた (p57,130,274)

太宰治:母に、乳母に見捨てられ、愛着障害から境界性パーソナリティ障害、失感情症に発展し、「生まれて、すみません」と書いた(p75,156)

ビル・クリントン:祖父母に育てられ、自らアダルトチルドレンと告白している。人の顔色に敏感で、相手にうまく合わせて、自分を演じ、嘘をつくようになった。(p43,90,290)

アーネスト・ヘミングウェイ:気の強いわがままな母に、女の子の格好をさせられたりと人形のように育てられた。依存症やうつを抱え、自殺した。(p94,116,132,143,149)

ほかにも中原中也(p99)、ミヒャエル・エンデ(o88)、スティーブ・ジョブズ(p147,291)、バラク・オバマ(p41)、ヘルマン・ヘッセ(p138)、エリク・H・エリクソン(p150,250,288)、ジャン・ジュネ(p161,272)、谷崎潤一郎(p175)、チャールズ・チャップリン(p178)、釈迦やムハンマド(p180)、高橋是清(p181)、マーガレット・ミッチェル(p255)などが登場します。

これらの人たちは、いくら書いても描いても挑んでも癒されない愛着の傷があったからこそ、果てしなく成功へと進み続けて、安住の地を見いださなかったのです。

「創造する者にとって、愛着障害はほとんど不可欠な原動力であり、愛着障害を持たないものが、偉大な創造を行った例は、むしろ稀と言っても差し支えないだろう」と著者は述べています。(p74,182)

愛着障害と心身症

愛着障害の症状の中で述べたように、愛着障害はさまざまな病気と関わっている可能性があります。

たとえば、境界性パーソナリティ障害や解離性障害は、不安定な愛着スタイルと密接に関わっていることがわかっています。

白と黒の世界を揺れ動く「境界性パーソナリティ障害の人の気持ちがわかる本」 | いつも空が見えるから

 

この本には書かれていませんが、慢性疲労症候群線維筋痛症のような、ストレス性の難治疾患も例外ではないと思います。

愛着障害そのものが原因というわけではありませんが、不安定型愛着があると、さまざまなストレスに対する耐性がもろくなります。

本書では、どんな病気でも治療が難しいケースにこそ、愛着障害がかかわっており、心理療法や認知行動療法が効かず、治療者との関係もこじれやすいと書かれています。(p242)

症状となって表れた段階を「疾患」として捉えるのが、現在の診断体系であるが…ドミノ倒しの最初の段階に関わっているのが、愛着障害であり、最後の段階が、さまざまな「疾患」なのである。

…愛着障害の人は、しばしば神経過敏で、自律神経系のトラブルにも見舞われやすい。(p122)

慢性疲労症候群においても、三浦一樹先生は、「家族や周囲、職場の人間関係の破綻にともなう重大な心的/身体的トラウマが底辺にあると、発症しやすくさらには治りにくい要因となっている」と述べています。

また村上正人先生は、患者について、「感情の認知や的確な表現が失われている失感情症、疲労や空腹などを十分に認知できず、体の声を聞くことができない失体感症を抱えていることが多い」としています。

本書では太宰治が失感情症(アレキシサイミア)を持っていたことが触れられています。(p156)

ですから、難治性の心身症には愛着障害が関わっている場合がありそうです。その場合には、病気を治そうとするだけでなく、心の空洞を満たしてもらうことも必要なのです。本書にはそのための方法が幾つか書かれています。

■良い安全基地となってくれる存在にめぐり合う
■未解決の傷を癒やす
■親との関わりで幼いころの不足を取り戻す
■遊んだり、表現したりする子どもらしいことを楽しむ
■傷ついた体験を語り尽くす
■親と、また過去と和解する
■やるべき役割を担い、周囲との関係を築く
■自分で自分の親になる
■人を育てる

詳しくは本書をご覧ください。

▼2016/08/追記
愛着障害が様々な身体的問題を招くのは、愛着という現象が心の問題ではなく、生物学的なメカニズムを有しているからです。厳密に言えば、愛着障害は脳の発達そのものを変化させうるものです。詳しくはこちらをご覧ください。

また岡田先生の近著(086)絆の病: 境界性パーソナリティ障害の克服 (ポプラ新書)では、ウェブデザイナーの咲セリさんが、境界性パーソナリティ障害と闘ってきた実体験を通して、愛着障害の人の苦しみや、克服するのに役立った方法などが具体的に書かれています。

特に、不安型の愛着スタイルの人にとって、とても共感しやすい内容で、治療のための取り組みも自分ですぐ実践できるものばかりだと思いますので、克服のためのヒントが得たい方にはおすすめです。

自分の愛着スタイルを調べる

ここまでのところで、わたしも愛着障害に違いない! と思う人がいるかもしれません。しかし誰にでも該当するあいまいな記述を、自分に当てはまると思い込む心理学の現象「バーナム効果」には注意が必要です。

巻末の「愛着スタイル診断テスト」をやってみると意外な結果に驚くかもしれません。

わたしはというと、自分はかなり不安型だろうと思いながら、テストしてみたところ、意外にも、「愛着回避が強いが、ある程度適応力があるタイプ」でした。

わたしがなぜ回避傾向が強いのかは定かではありませんが、やはり、幼いころの環境に原因があるのでしょう。

こうしたテストで自分の愛着スタイルに気づくと、いかに幼少時の環境が今に至るまで根深い影響を及ぼしているかに気づき、沈鬱な気持ちになるかもしれません。

しかし愛着障害があっても、むしろそれを創造への原動力と変えることができる。愛着障害を克服し、より深みの増した人生を送ることができる、本書はそう励ましてくれていると思います。

著者は最後にこう書いています。

愛着障害を克服した人は、特有のオーラや輝きを放っている。その輝きは、悲しみを愛する喜びに変えてきたゆえの輝きであり強さに思える。

そこに至るまでは容易な道のりではないが、試みる価値の十分ある道のりなのである。(p303)

 

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