奇跡のシステム「体内時計の謎に迫る」の7つのポイント

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はてなブックマーク - 夜眠れず朝起きられない「睡眠相後退症候群(DSPS)」にどう対処するか(4)診断と治療ぜ渡り鳥は決まった季節に決まった場所へ移動することができるのでしょうか。なぜ冬眠するクマは、雪の下で眠っているときも一定の生体リズムを刻み続けることができるのでしょうか。

近年、さまざまな生物が刻む生活リズムの源は、生物時計という、驚くべきシステムにあることがわかりました。しかもそのシステムは5億年以上前の生物を含め、あらゆる生物に備わっているらしいのです。(p3)

特に人間に備わる生物時計、つまり体内時計は、わたしたちが意識していない日常生活のほとんどすべての面に関係し、さまざまな病気や老化とも関わっていることもわかってきました。

体内時計というだけでもこのブログと関わりがありますが、慢性疲労症候群についても書かれているという情報を得たので、体内時計の謎に迫る ~体を守る生体のリズム~ (知りたい!サイエンス)を読んでみました。

▼シリーズ記事「小児CFSの本」

小児CFSの本では、子どもの慢性疲労症候群に直接言及している本を紹介しています。

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これはどんな本?

体内時計の謎に迫る ~体を守る生体のリズム~ (知りたい!サイエンス)は時間医学の専門家 東京女子医科大学東医療センター大塚邦明先生の著書です。

大塚先生は、哺乳類の体内時計が発見されたまさにその年、1972年からずっと、時間生物学を研究しておられるそうです。この本では、体内時計の研究の歴史や、明らかになった驚くべき仕組みが、高校生向けに分かりやすく説明されています。

第一章は、体内時計についての研究の歴史です。第二章では、どんな病気がどの時間に起こりやすいかが各時間帯ごとに書かれています。

第三章では体内時計について最新の研究成果が解説され、第四章では、宇宙のリズムと人のリズムの関係について考察されています。第五章、第六章では、生体リズムの乱れと、生活習慣病や老化の関係について書かれています。慢性疲労症候群も少し登場します。

知っておきたい7つのポイント

この本の興味深かった点は山のようにあるのですが、特に印象に残ったところを7つのポイントにまとめてみました。

1.体内時計の研究は始まったばかり

私たちはいま、植物だけでなく、人にもサーカディアンリズムがあることを発見したぞ!!

ド・メランはオジギソウの葉にサーカディアンリズムがあることを発見したが、それは植物にだけではなく、人にもあったのだ!! (p43-44)

ルーマニアのフランツ・ハルバーグが時間生物学という研究分野を開拓したのは、割と最近の1959年です。

これまで人間が朝起きて夜眠るのは、明るさという外的要因によるものだと思われていましたが、1962年、ドイツのユルゲン・アショッフが、洞窟での隔離実験で、明るさのない場所でも、人間の身体は昼夜のリズムを刻むことを発見しました。上記の言葉はそのときのものです。

やがて1972年、哺乳類の体内時計が脳の視交叉上核にあることが発見されます。そして、20世紀も終わりの1997年、ついに時計細胞の中にある時計遺伝子が発見されました。ようやく、時間生物学が最先端の科学として広く受け入れられるようになったのです。

2.体内時計は3つある

その結果をみて、時間生物学者は驚きました。

時計遺伝子のありかを示しているはずのホタルの発光が、体の至るところから観察されたのです。

脳の体内時計はもちろんのこと。そこだけではなく、血管や心臓あるいは肝臓や腎臓など、ほとんどの抹消組織において、日周発現する遺伝子群の存在が確認されたのです。(p81)

最新の研究によると、人間の体内時計は3種類あるそうです。

第一の時計「親時計」(中枢時計)は脳の視床下部の下、「視交叉上核」(SCN)と呼ばれる10000個以上の時計細胞にあります。視交叉上核を損傷すると、睡眠や体温のサーカディアンリズムがなくなってしまいます。

第二の時計「子時計」(抹消時計)体じゅうの組織にあり、自律神経やホルモンのネットワークによって親時計と同期しています。

第三の時計「腹時計」は親時計と独立していて、視交叉上核(SCN)のとなりの「視床下部背内側核」(DMH)に中核があると考えられているそうです。前述のように視交叉上核を損傷した場合でも、食事のリズムを中心とした新しいサーカディアンリズムが現れるといいます。(p92,215)

ふと思ったのですが、もしかすると不登校の子どもが「食べて寝るだけ」状態になるのは、脳の中枢にある「親時計」のシステムがダメージを受けて、「腹時計」のほうのリズムに従っているからなのかもしれません。

3.体内時計は体の調節システムの中枢

現在では、体内時計は自律神経中枢としてだけではなく、病気を予防し健康を保つための3大調節系、すなわち、神経調節系、内分泌調節系、免疫調節系の、すべてを統括する働きをになっていると考えられています。(p85)

体内時計は、単に時を刻むだけでなく自律神経中枢を制御しています。たとえばアロマや音楽でリラックスするのは、体内時計中枢を介して、自律神経に働きかけるからだそうです。 (p96)

そればかりか、体内時計は、神経・内分泌・免疫系の働きまでも統御しています。体内時計というと睡眠時間だけに関わっているように思えますが、実はホルモン分泌や体温の変化、細胞の再生、エネルギーの生産など、あらゆる働きをリズミカルに制御しているのです。

この本でも取り上げられている慢性疲労症候群は、神経・内分泌・免疫のバランスが破綻することが原因とされている病気です。

不登校外来ー眠育から不登校病態を理解するには、慢性疲労症候群について「自律神経症状だけを取り出した自律神経失調症という考え方は全体的な評価を損なう」と書かれていました。(p136)

慢性疲労症候群は起立性調節障害のような自律神経の病気ではなく、それより上位のシステムである視床下部、すなわち体内時計中枢に異常がある、中枢神経の病気なのです。

4.体内時計の研究は病気を予防する?

私たちの身体には、サーカディアンリズムという約24時間の時計だけではなく、90分や1週間、そして想像すらされていなかった1.3年のリズムなどがあります。(p5)

病気を予知し、病気にならないための工夫を抽出し、健康寿命を予測して行くことを目標とした学問体系。これがクロノミクスです。 (p154)

突然発症するように見える病気、たとえば心筋梗塞や脳梗塞の発症には生体リズムの周期が関わっていることがわかってきたそうです。たとえば心筋梗塞は午前8時から10時に最も多くなります。(p56)

人間の体には、90分、1日、1週間、1ヶ月、1年、さらには1.3年などさまざまなリズムが多重的に組み込まれていて、多くの病気の突然発症や悪化はそれらのリズムと一致しているといいます。(第二章)

1日のリズムは地球の自転、1ヶ月は月の公転、1年は地球の公転と関わっているようですが、90分や1週間、1.3年は果たして何と関係しているのでしょうか。

この本では太陽風や宇宙線にそれらと同じリズムが見られることから、人間は無意識のうちにそれらを感じとっているのではないか、というロマンあふれる壮大な話が展開されています。(第四章)

5.生体リズムの乱れが癌や老化を引き起こす

最近、サーチュインと体内時計は、互いに協力して老化を制御していると考えられるようになりました。規則正しい生活リズムが、乱れたサーチュイン活性のバランスを正常にもどし、老化を防いでいるらしいのです。 (p184)

サーチュインというと、飢餓状態で寿命が長くなる研究で有名な長寿遺伝子です。

生体リズムが乱れると体のさまざまな機能がうまく働かなくなり、ホルモン分泌が乱れて生活習慣病になったり、骨の形成リズムが乱れて骨粗鬆症になったり、細胞分裂のリズムが乱れて癌細胞が生じたり、果ては老化が早くなったりするそうです。(第五章)

年をとると血圧が高くなる、朝早く起きるようになる、糖尿病になる、脳梗塞や心筋梗塞を突然発症する、というのはすべて生体リズムの乱れだったのです。(p183)

6.体内時計の障害は地球での生活を困難にする

慢性疲労症候群は子どもにみられることも少なくなく、その場合、しばしば不登校の原因になっています。

小児の慢性疲労症候群についてもいろいろな立場からいろいろな研究がなされ、その背景に生体リズム異常があることがつきとめられています。(p190-191)

この本を読んではじめてわかったことがあります。

なぜ不登校外来ー眠育から不登校病態を理解する「概日リズム障害は地球での生活を困難にする」「[睡眠相後退症候群]は日常生活を不可能にする究極の睡眠障害である」と書かれているのか。

なぜ慢性疲労症候群ではありとあらゆる症状が見られ、「“地球上にすむ生物として当たり前の”1日を送ることすら、困難に」なるのか。(p27,56-59)

この本には「生体リズムとは、地球上の生物が地球に生き残るために必須の生理機構」だと書かれています。それは前述のように、身体のあらゆる働きを統御する中枢です。(p26)

子どもの慢性疲労症候群は、手や足や内臓といった肢体の一部の障害ではありません。慢性的な睡眠不足を発端とする、生体時計の障害です。

視床下部を中心とした全身のコントロールタワーが損なわれる中枢神経の病気だからこそ、睡眠リズムがおかしくなったり、血圧や血糖値が乱れたり、エネルギー生産がうまくいかなくなったり、免疫が低下したり、あらゆる活動が困難になったりするのです。

7.体内時計の乱れを予防するには

真夜中に光が当たると、体内時計が一時的に止まる。1970年、そんな不思議な現象が発見されました。

…2000年になっても、この謎が解けず、正体は謎のままでした。それで理化学研究所の上田泰己博士らがその謎に挑みました。

…そして、意外なことがわかりました。細胞の時計は、どの時計も止まっていなかったのです。…時計が一時的に止まったように見えたのは、数多くの時計細胞がバラバラに時を刻んでいたためだったのです。(p189)

体内時計の乱れを防ぐには、おもに2つの方法があります。

親時計を調整するのはです。夜の光をシャットアウトして朝の光をしっかりあびることが大切です。夜に光を浴びると、1万個を超える時計細胞が、夜なのか朝なのか、時刻を進めればよいのか遅らせればよいのか混乱し、それぞれが別々に時を刻み始めてしまうそうです。

腹時計を調節するのは食事です。特に空腹(飢餓)の時間が長いほど、体内時計の周期が短くなり、時刻合わせの効果が高いそうです。つまり朝食が大切です。(p214)

しかし生体リズムの乱れが特にひどくなった状態、睡眠相後退症候群(DSPS)や慢性疲労症候群を発症してしまったなら、その2つのポイントに加え、以下のような医療の助けを受けることが必要になるでしょう。

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体内時計をめぐる壮大な疑問

もし生体時計が損なわれてしまったなら、それは回復するのでしょうか? 残念ながら、その答えはこの本からは得られませんでした。子どもの慢性疲労症候群を治療する先生方は、その疑問と闘っているともいえます。

まだまだわからない部分もありますが、体内時計の謎に迫る ~体を守る生体のリズム~ (知りたい!サイエンス)は時間医学や時間生物学、時間栄養学といった脳科学の最新のトピックスが目白押しで、とても勉強になります。

わたしたちの身体に備わる生体リズムとはそもそも何なのか。そして、それらのリズムは、いったい何に合わせて時を刻んでいるのか、という深遠な疑問にも切り込んでいます。体内時計こそが壮大な宇宙とミクロの細胞をリンクするGlocalなシステムかもしれないのです。

体内時計について知りたい人、あるいは慢性疲労症候群や睡眠相後退症候群など、生体リズムの病気と闘っている人にとっては、とても興味深い一冊です。

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