自己愛性パーソナリティ障害代理症―人をモノ扱いする夫を持つ妻と子どもの苦痛

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大で横柄な人、というのは身の回りにときどきいるものです。ところが、その程度が度を越していて、家族や部下が当惑したり、被害を受けたりする場合があります。

以前本を読んだ境界性パーソナリティ障害と対をなすものとして、自己愛性パーソナリティ障害という概念があるそうです。少し気になることがあったので、さまざまなパーソナリティ障害を説明している本、パーソナリティ障害とは何か (講談社現代新書)を読んでみました。

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これはどんな本?

この本は、境界性パーソナリティ障害についての著書もある、三田精神療法研究所所長の牛島定信さんの本です。

不登校、高校中退者、ひきこもりといった不適応を起こしている若者の存在がある。彼らは学生時代に不適応を起こしたまま、年齢相応の社会的第一歩を踏み出せないでいる人たちである。(p6)

こう書かれていることから、パーソナリティ障害はこのブログの話題と一部かかわっていることがわかります。この本は、そのような問題を遺伝や脳機能障害ではなく、発達段階の問題としています。

最近では、パーソナリティ障害といえども脳組織あるいは脳機能と結びついた概念という考え方が拡がっているが、幼児期にしろ、思春期青年期にしろ、そうした発達段階でのトラウマ的な体験がその後の発達に影を落としているという視点を堅持したかった。(p220)

この書評では、個人的に興味があった自己愛性パーソナリティ障害について取り上げますが、この本は、他のさまざまなパーソナリティ障害、あまり本が出ていないものについても取り上げているので参考になります。

またパーソナリティ障害とまではいかない、個性といえるレベル、つまりさまざまなパーソナリティについても光を当てています。

自己愛性パーソナリティ障害とは何か

この本では、自己愛性パーソナリティ障害についてp122-135で解説されています。

自己愛性パーソナリティ障害は境界性パーソナリティ障害と対をなす、比較的新しい概念だそうです。1971、H・コフートが誇大的な自己を露呈するケースについて名づけました。

二面性があったり、突然激しく怒ったりするなどの点は、境界性パーソナリティ障害と似ています。しかし、境界性が「見捨てられた」という自尊心のなさを特徴としているのに対し、自己愛性は尊大さを特徴としているそうです。

以下に自己愛性パーソナリティ障害の特徴を5つ挙げましょう。

1.自分は特別な人間だ。

自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分を特別な人間と思っています。自分には才能も業績もある、という想いに裏打ちされたもので、それを周囲に認めさせようとしてひそかな努力をするので、ある程度の成功を収めている場合があります。

たまたまもらった有名人の名刺を見せて、さも親しいつきあいがあるかのように振舞うなど、自分を偉大に見せよう、華美に見せようとすることがあります。

このような誇大自己は、ときにアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の人にも見られることがありますが、アスペルガー症候群の人は裏表がなく純粋なのに対し、自己愛性パーソナリティ障害の人は人によって態度を変えるなど二面性を使い分けるのが上手です。

2.他の人は道具にすぎない

自分に対して並々ならぬ関心がある一方、他人に対しては思いやりがありません。恋人、配偶者、友だちを、自分の都合に合わせて使用する道具としか考えていないように思えます。

自分の目的を達成するために他の人たちを不当に利用するなど、良心のかけらもないといった印象を与えます。

自己愛性パーソナリティ障害の人は一見サイコパス(反社会性パーソナリティ障害)のように他人を扱いますが、サイコパスが自分にも他人にも同情しないのに対し、自己愛性の人は、自分に対する愛があるという点で異なっています。

サイコパスについて詳しくはこちらをご覧ください。

25人に1人?「良心を持たない人々」サイコパスの10の特徴とあなたが身を守る方法 | いつも空が見えるから

 3.突然の激しい怒り

「自己愛的怒り」と呼ばれます。周囲の称賛や賛同を得られないときや、批判的なことばや拒否に直面したとき、激しく怒ります。憤りを超えて、自殺念慮を伴う抑うつになることもあります。

このような問題は、結婚を機に、配偶者が自己愛的欲求に答えてくれたないため表面化することが多いそうです。就職して、上司との折り合いが悪くなることで表面化することもあります。

4.二面性がある

尊大さの背後に、自分は人間として決定的に大事な資質が欠落しているというコンプレックスをもっています。

若いころは尊大な自分が弱い自分を押さえ込んでいるため活躍しますが、人生に陰りが見え、無理が利かなくなってきたとき、弱さが露呈し、自分をダメ人間と想い、抑うつ状態になります。例として三島由紀夫が挙げられています。

この二面性を本人が意識することはありません。これに対し、回避性パーソナリティ障害(森田神経質)の人は両者が内面で葛藤し、嘆き苦しみながら克服しようと努力します。自己愛性の人はそのようなことはありません。

また自分を誇大に見せるためであれば平気で嘘をついたりもしますが、そのような二面性についても本人は意識せず羞恥心を感じたりはしません。これはサイコパスと同様です。

5.甘えられない

羞恥心がとても強いため、ごく当たり前の欲求や依頼さえできません。上手に甘えることができず、恥を感じることなく他者と本当の気持ちを通わせることが難しいのです。

自己愛性パーソナリティ障害代理症

この本を読んで、特に関心をもったのが、「自己愛性パーソナリティ障害代理症という考え方でした。

自己愛性の人は社会で活躍することも多く、年齢が進むまで破綻しないこともしばしばです。自己愛性パーソナリティ障害が問題となるのは、当人が辛いというより、自己愛的な人の周辺で、精神科患者が量産されてしまう、ということのほうです。

やり手の部長が絶対的な掟で縛った職場にうつ病患者が大量発生したり、支配的な亭主関白の男性の家庭で、妻がうつ病に、娘が境界性パーソナリティ障害になったりします。

そのような状態になってしまったら、できれば、自己愛性パーソナリティ障害の人から距離を置くか、関係を断つかしたほうがいいと思います。しかしそれができないようなら、相手のメンツを立てて、したてに出たり、すぐ謝ったりして、忍耐強く接するしかないでしょう。

どこに原因があるの?

自己愛性パーソナリティ障害の原因は「母親の共感を得られなかった子ども」時代にあるのではないか、と書かれています。幼児期に母親にけなされたり、ダメ人間だと思わされたりした結果、反動的に誇大になってしまうということのようです。

境界性パーソナリティ障害と同様、おそらく一種の(不安型または混乱型の)愛着障害なのだと思います。

長引く病気の陰にある「愛着障害 子ども時代を引きずる人々」 | いつも空が見えるから

場合によっては、境界性パーソナリティ障害と同様、根底にADHDが潜んでいることもありそうです。

ADHDのあまり知られていない12の特徴―脳の未熟さや運動障害、覚醒レベルの低さ、過集中など | いつも空が見えるから

どうやって治療するの?

自己愛性の人が治療を求めることはあまりありませんが、劣等感を抱いて治療を求めてくる場合もあるそうです。

しかし治療をはじめると、治療者を理想化したり、かとおもえば辛辣になり、説教じみた批判をしたり、突然怒ったりするので、治療は「そんな生易しいものではない」と書かれています。境界性パーソナリティ障害の場合と同様です。

治療のためには患者が否認してしまっている自信のない弱々しい自己と向き合うよう促す必要がありますが、激しい抵抗に遭います。「自己愛性パーソナリティ障害の治療者が異口同音に“忍耐”を口にする」と率直に述べられています。

他の障害とは違い、「治療者が率直に謝る心の準備をしておく必要がある」そうで、失敗はつきものと認識して、知らないうちに患者を傷つけてしまったときにはお詫びの気持ちを伝えることが大切だそうです。

これは、自己愛性パーソナリティ障害と接する家族の場合も同様でしょう。

それでも治療できる場合には、以下のような方法が役立つそうです。

■退行的言動(人格上の欠点)が露呈したとき、それをとがめたり、行動制限を課したりするのではなく、どうして退行的言動に至ってしまったのか、原因となったストレスを見つけ出し、それにうまく対処できるよう助ける。

■失敗はあってはならないと思い込んでいるので。ソーシャルスキル、コミュニケーションスキルを学べるよう助ける。マイナスの感情を受け入れ、対処する方法を学ぶ。いろいろな世代の男女が混じった職場やアルバイト、趣味その他のグループに参加して適応していくようにする。

■上手に甘えられないことで誇大自己を作っているので、甘えられる対象になってあげることができれば、他者を見下さずにすみ、穏やかさを取り戻すことがある。

といっても、自己愛性パーソナリティ障害代理症の項でも述べたように、一般の人は、自己愛性パーソナリティ障害やサイコパスの知人を治そうとするよりは、関わりを避けたほうがいいと思います。

医師でさえ手を焼くという、このようなタイプの人たちに関わり続けることで、人生を台なしにしてしまうのは、非常に残念であり、危険なことです。

この本は他のさまざまなパーソナリティ障害についても触れていて、気づきが多くあります。

「本書の文章が完全に一般向けになっているかというと、まだ完全に改まっているわけではない」との弁の通り、少し読みにくい文体ですが、自分や周囲の人のパーソナリティの問題に直面している人にとっては読んでみると良い本だと思います。(p218)

 

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