発達障害や慢性疲労症候群と関わる「子どもの夜ふかし脳への脅威」

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「子どもの脳は柔軟性があるから眠らなくても大丈夫でしょう」

「先生、土・日に『寝だめ』をしていれば平日はいくら夜ふかしをしてもOKですね?」

「うちの子は受験、塾、クラブ活動と超多忙なんです。高校受験も迫っています。ショートスリーパーになる方法を教えてください」 (p11)

はてなブックマーク - 子どもの睡眠と発達医療センター|兵庫県立リハビリテーション中央病院日発刊された三池輝久先生の新刊子どもの夜ふかし 脳への脅威 (集英社新書)を斜め読みしました。早くレビューしたいので頑張りましたよ!

上に挙げたのは、著者が保護者から聞いてびっくりした睡眠の「常識」だそうです。

睡眠は大切、とよく報道されますが、いまだ、日本社会は他のどの国よりも睡眠を削る社会として知られています。

特に子どもの睡眠不足は、もっと深刻な問題、発達障害や慢性疲労症候群(CFS)とも関係しているのではないか、と著者は考えているようです。

この書評ではさっそくその内容を紹介したいと思います。

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これはどんな本?

この本は、2013年3月まで、兵庫県立リハビリテーション中央病院・子どもの睡眠と発達医療センターでセンター長を務めておられた三池輝久先生の最新の著書です。

子どもの睡眠と発達医療センター|兵庫県立リハビリテーション中央病院子どもの睡眠と発達医療センター|兵庫県立リハビリテーション中央病院はてなブックマーク - 子どもの睡眠と発達医療センター|兵庫県立リハビリテーション中央病院

医師としての30年間に、乳児から10代までの、生活困難をきたすほど睡眠問題が悪化した子どもたち4000名を診て、1万人を対象に実態調査を行ったそうです。先生は、疲労学会とつながりのある、慢性疲労症候群(CFS)の研究者としても知られています。

この本では、その臨床経験と、近年の医学論文に基づき、以下の3つの要点について説明されています。

1.日本は短眠大国である
2.乳幼児の睡眠不足は発達障害の引き金になる
3.学生の睡眠不足は小児慢性疲労症候群の引き金になる

この書評では、それぞれについて簡潔に紹介したいと思います。

1.日本は短眠大国である

日本人の平均睡眠時間が国際的に短いことは、このブログでも繰り返し取り上げてきました。実のところ、1年に1分ずつ短縮しているといわれています。

【9/11】さらに減っている日本人の睡眠時間【9/11】さらに減っている日本人の睡眠時間

NHK放送文化研究所のデータによると、1960年には8時間13分だったのが、2010年には7時間14分になっていました。(p18)

さらに「かねてより子どもの睡眠研究者は日本の乳幼児の短眠傾向に危機感を募らせて」いたそうですが、2010年のイスラエルのアビ・サデー氏らの研究によれば、主要17ヶ国のうち、最も短いことがわかりました。

このブログでも取り上げたニュースにも触れられていて、全国の中高生の8.1%が病的なネット依存に陥って、睡眠不足につながっていることも書かれています。

【8/4】睡眠障害を引き起こす深刻なネット依存症【8/4】睡眠障害を引き起こす深刻なネット依存症

こうした睡眠不足はなぜ深刻といえるのでしょうか。このブログでも取り上げた別のニュースが参照されていました。

東北メディカル・メガバンク機構の瀧靖之教授らによると、睡眠時間が短い子どもは、そうでない子どもより、海馬の灰白質が小さいことがわかったのです。

脳のその部分は、新しいことの記憶に関わっているだけでなく、「アルツハイマー病やうつ病に関係する重要な部位」であり、「海馬の体積が大きいことは、その後の人生におけるいくつかの病気を回避するのに重要」なのだそうです。(p28)

ニュースのアーカイブニュースのアーカイブ
(12 9/17の日経新聞のニュース)

また、睡眠時間が5時間以下の若者はうつ病になるリスクが71%も高いという、ニューヨーク・コロンビア大学のメディカルセンターの研究にも言及されています。(p118)

就寝時間が遅い若者はうつ病のリスクが高い、米研究 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News就寝時間が遅い若者はうつ病のリスクが高い、米研究 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

睡眠時間が短いことは、乳幼児にとっても若者にとっても深刻な問題を引き起こすことがわかります。それら深刻な問題には、これから述べる発達障害や慢性疲労症候群も含まれます。

2.乳幼児の睡眠不足は発達障害の引き金になる

近年、発達障害は増加しているといわれています。遺伝的な問題であるはずの発達障害が増加するのはなぜでしょうか。このことは多くの研究者を悩ませてきました。

専門家の杉山登志郎先生は、遺伝子にはエピジェネティクスの働きがあるので、同じ遺伝子をもっていても、環境要因によって、発症しやすくなり、患者が増えることもあると述べていました。

あまり知られていない「発達障害のいま」の5つのポイントあまり知られていない「発達障害のいま」の5つのポイントはてなブックマーク - あまり知られていない「発達障害のいま」の5つのポイント

三池先生もそれと同じ考えであり、発達障害をOTC欠損症という遺伝病と比較しています。OTC欠損症は明治以降、肉を食べる生活が社会に浸透することで発症することが増えました。こう説明しています。

発達障害もこれと似たようなものとは考えられないでしょうか。つまり、発達障害の子どもは、先天要因として(OTC欠損症における遺伝子異常)何らかの問題をもっていて、その問題を引きだしてしまうような現代社会に共通した環境要因(OTC欠損症におけるたんぱく質の過剰摂取)が存在するという考えです。(p47)

そして、最近の研究からすると、その先天要因とは「体内時計の問題」であり、環境要因とは「睡眠リズムの形成不全」である可能性があると述べています。

近年、発達障害の子どもは体内時計や概日リズムに何らかの問題があるために、安定した睡眠・覚醒リズムが作れず、それが脳機能障害を引き起こしている可能性があると考える研究者が増えてきました。(p63)

この概日リズムの「何らかの問題」については、今のところ、2つの説が有力だそうです。

1つ目は「体内時計の形成が未熟な状態で生まれてきた」という説です。体内時計は出産間近の8ヶ月ごろから機能し始めるので、しばしば議論される早産と発達障害の関係を説明するものといえます。(p63)

もうひとつは「概日リズムが長めで生まれてきた」という説です。生まれつき概日リズムが長めの人がいることは、三島和夫先生によって研究されていました。

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こうした要因が睡眠リズムを損なって良質な睡眠を妨げ、発達障害の引き金になる可能性があるとされています。

先天的に体内時計に問題のあるお子さんは、もともと睡眠が安定せず、良眠が得られにくいので、シナプスや神経伝達物質の機能の弱体化が起こり、脳の情報ネットワークの形成不良につながると考えられます。(p72)

これは、裏を返せば、乳幼児の睡眠を治療すれば、発達障害の症状を緩和できる可能性を示唆しており、この本には実際にそうした症例が載せられています。

睡眠障害の赤ちゃんすべてが自閉症スペクトラム障害やADHDになるわけではありません。しかし睡眠が安定している赤ちゃんより発達に影響を受けやすいのはほぼ確かなので、早期に治療することが勧められています。(p82)

3.学生の睡眠不足は小児慢性疲労症候群の引き金になる

乳幼児期の睡眠不足が発達障害の引き金になるとすれば、それより後の時期、学生になってからの睡眠不足はどうなのでしょうか。

この本の残りの部分では、このブログの本題である、慢性疲労症候群との関わりについてまとめられています。

子どもの慢性疲労症候群には次のような特徴があります。CFSの人や家族にとっては馴染みのある事柄だと思いますので、本書からそのままの表現を引用したいと思います。

1.判断力や記銘力が低下する~ひどいときはひらがなを読むのも難しくなる~

1つ目は、自分の考えをまとめて相手に伝えることができなくなることです。頭がぼんやりしていて、すっきり考えがまとまらない、言葉が出にくい。また、記銘力や判断力が低下します。

…学校に通わなければならない子どもたちにとって、一番困るのは、新しいことが覚えられなくなるということです。

…この状態では広範囲の脳機能において、疲労に伴う低下があり、人生を考えるにはあまりにも混乱し、不適当な状態に陥っていると考えられます。(p112-115)

2.生涯つづくかもしれない「疲れやすさ」

2つ目は極度の疲労感や倦怠感です。一度フクロウ症候群に陥り、生体リズムが混乱して昼夜逆転の生活を経験した子どもの半分以上に、最終的に厄介な問題が残ります。

それはエネルギーを生産する能力が低下したまま、回復せず、疲れやすい状態が将来にわたって延々とつづく状態です。これを専門用語で「易疲労性」(いひろうせい)と言います。

この状態が数年から数十年持続してしまう人たちもいます。休養をとる、治療を受けるなどして少し意欲が戻ってくると、大多数の子どもが「何とかしなければ」とあせりますが、少し頑張るとすぐにまた疲れがでてしまうので、何をやっても長つづきしません。(p116)

エネルギーの生産ができず、補充されないため、エネルギーは使われると枯れてしまい、わずかな運動でもすぐに疲れてしまうのです。

わずかな運動とは、移動したり、電車に乗ったりするなど、健康な人にとっては、どれも些細と思われる行動です。

…ひどい場合は、トイレに行くのも苦労するほど、日常生活を送ることが困難になります。(p120-121)

3.自己否定など性格が変わる

1.2.の症状がひどくなると、自分は生きている価値のない人間だという思いにかられる子どももいます。

…まるで「うつ」のような精神状態は症状としても重く、あまりにも長い間つづきます。

その重苦しさは家族でも理解するのが困難で、本人でなければわかりにくいことだろうと思います。(p117)

こうした深刻な問題を伴う、小児慢性疲労症候群はどのようにして発症するのでしょうか。

多くの場合、子どもの慢性疲労症候群は、頑張って睡眠を削る生活が長い期間つづき、感染症を含む、さまざまな形のストレスが重なったときに発症するとされています。(p95)

いよいよ脳機能が短眠に耐えきれなくなり、また極度のストレスにも耐えきれなくなると、短眠から一転、10時間以上の長時間睡眠が始まります。

このとき脳機能の低下と体内時計のシフトが起こるので、その子がもともともっている24時間12-30分リズムが頭をもたげ、地球時間である24時間リズムが維持できなくなります。(p110)

そのようにして概日リズム睡眠障害を伴う、小児慢性疲労症候群が出現します。

いくつかの治療法が挙げられていますが、短期間のうちに回復する方法は今のところありません。最も大切なことについて、こう書かれています。

長年の臨床経験から、ご家族にとって、子どもを救う方法のほぼ唯一の結論があります。

それは、「私たちには理解できないが何か重大な問題が子どもの身体に起こっているのではないか。そうでなければ日常生活に支障がでるほどの混乱を抱えるはずはない」という思いです。

そこを出発点に、「どのように社会が子どもを非難しようと私たちは子どもの現在を理解し、理不尽な非難から守る」という強い意志と根気がいると実感します。(p136)

子どもの慢性疲労症候群については、このブログの以下の記事を参照してください。

その不登校ーもしかして小児慢性疲労症候群?その不登校ーもしかして小児慢性疲労症候群?はてなブックマーク - その不登校ーもしかして小児慢性疲労症候群?

への脅威

ここまで本書の内容を足早にまとめました。詳しいことは、ぜひ本書を買うなり借りるなりしてお読みください。

この本で取り上げられていた、睡眠不足と関連した2つの問題、発達障害と慢性疲労症候群には共通点があります。

どちらも、慢性的な睡眠不足の段階で治療すれば、症状を緩和できますが、ひとたび発症すると、生涯にわたって苦しめられる可能性があるということです。

最近のニュースで、慢性的な睡眠不足は脳に不可逆的な変化をもたらすことが述べられていました。まさに脳への脅威です。

【3/20】慢性的な睡眠不足で脳に不可逆的な変化が生じる(追記あり)【3/20】慢性的な睡眠不足で脳に不可逆的な変化が生じる(追記あり)

最後に子どもの慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎(CCFS/ME)についてわたしが思うことを少しだけ。

大人の慢性疲労症候群の場合、一般的な概念として「仮面うつ病」というものがあり、慢性疲労症候群(CFS/ME)は結局はうつの一種ではないか、という考えが根強く残っています。

同様に、子どもの慢性疲労症候群(CCFS/ME)にも、一般的な概念として「起立性調節障害」があり、わざわざ慢性疲労症候群という概念を持ち出す必要はないのではないかという人もいます。

ですが、実際に患者当人にとってみれば、うつ病や起立性調節障害という概念ではしっくりこなくて、自分は違うと思うのです。そのことは「トンネル」の著者の月夜さんも書いておられました。

確かなのは、原因が慢性的な睡眠不足であれ、過労であれ、感染症などその他の要因であれ、ある日突然極度の疲労感に襲われ、そのまま元に戻らなくなってしまった子どもや若者は実在するということです。

それは起立性調節障害で言われるような一過性のものとは限りません。本書で言われていたように、「生涯つづくかもしれない疲れやすさ」が特色なのです。

慢性疲労症候群・筋痛性脳脊髄炎(CFS/ME)は現実の病気であり、子どもにも発症することがあります。

この日本でも、少数ながら、この病気を研究しておられる先生方がいて、風当たりが強いにもかかわらず、わたしたち患者の助けとなってくださることを嬉しく思います。

子どものCFSについては、軽症者も含むため、起立性調節障害との異同が問題になるのだと思いますが、重症患者の実態についても明らかになってほしいと思います。そして願わくば根本的な治療法が見つかることを願ってやみません。

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