治りにくい病気の背後にある大人の発達障害「重ね着症候群」とは

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「重ね着症候群」。子どもの人格発達の障害 (子どもの心の診療シリーズ)いう本を読んでいて出くわした興味深い概念です。

統合失調症やパーソナリティ障害、摂食障害、さまざまな治りにくい精神科疾患、いろいろな身体症状を訴える心身症。その背後に、子どものときから見過ごされていた未診断の発達障害がある、ということが、最近の臨床研究からわかってきたそうです。

それらの疾患は、一般には心因原性と思われていますが、重ね着症候群の場合には、じつはそうではなく、発達障害の治療をすることでよくなるといいます。

特に言及されていませんが、心身症の中には、慢性疲労や慢性痛も含まれているかもしれません。

このエントリでは、広島市精神保健福祉センターの衣笠隆幸先生による記述や、他のネット上の資料にもとづいて、「重ね着症候群」の実態に迫りたいと思います。

 

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重ね着症候群とは

衣笠隆幸先生による重ね着症候群の定義は、次のようになっています。

■受診時18歳以上(広義には16歳以上)

■知的障害はない(IQ85以上)

■受診時主訴は、ひきこもり、統合失調症、躁うつ病、てんかん、パーソナリティ障害、心身症、神経症など、多岐にわたる

■学業成績などは良好で、就学時代に発達障害を疑われたことがない

このように、病院を受診する時点では、本人は、発達障害の可能性を考慮に入れていません。さまざまな精神症状や身体症状(ここでは心身症とされている)が問題となったので受診したにすぎないのです。

見えてくる大人の発達障害

しかし、まず、養育者、特に母親の情報から、患者は幼少時から、軽度の発達障害に特徴的な傾向を持っていたことが明らかになります。たとえば、言葉の遅れ、早熟、過剰記憶、人と遊ぼうとしない、関心が偏るなどの特徴です。

ここでいう軽度の発達障害とは、不注意や衝動性の見られるADHDや、自閉症スペクトラム障害(ASD)のうちのアスペルガー症候群などです。その中でも、程度の軽いものが多いようです。

それらは部分一過性で、養育者は特に問題としていないことがほとんどです。剥奪体験(親との死別など)や虐待などの家族葛藤は見られません。

一部の患者は、幼少期、学童期、思春期前期(中学生)などに、不登校や神経症などを一時的か慢性的に経験したことがありますが、そこで発達障害が疑われたことはありません。

しかし、それこそが、大人になってから明らかになる未診断の発達障害の特徴といえます。

図解 よくわかる大人の発達障害にはこう書かれています。

商品の詳細

こうした特性は幼少期から現れるのですが、成績がよく、問題行動を起こしたりしない人ほど気づかれにくく、大人になってはじめて社会不適応が明らかになり、ようやく発達障害とわかったというケースが多くみられます。

当事者のなかには、子どものころから「自分はほかの人とどこか違う」と思い悩み、生きにくさを感じながら成長してきたため、発達障害であることが判明してむしろホッとしたという人が少なくありません。

こうした、子どものころからの違和感について、発達障害であると診断するのは早計でしょうか。子どもはみな個性的であり、多かれ少なかれ、他人と違う点で悩んでいるものだと言う人もいます。

もちろん、情報が氾濫することによって過剰診断が下されるようになってきたのは事実です。

しかし、最近のトレンドを見ても、子どもたちは「個性的」であることより「ふつう」であることに悩んでいるという指摘があります。

今年一世を風靡した、クロスメディア作品「妖怪ウォッチ」の作者である日野さんはこのように述べていました。

『妖怪ウォッチ』快進撃! ヒットメーカー・日野晃博氏が語る『妖怪ウォッチ』ブームの秘密と今後の野望!【インタビュー完全版】 - ファミ通.com

ドラえもんの図式を使いつつも、キャラクター設定などはいま風にアレンジしています。たとえば現代では、のび太くんほどドジな子は、そうそういないんですよ。

じゃあいまのいちばん残念な子はどんな子なのかと言うと、すべてのステータスがふつうで、特徴のない子が辛いんですよね。平均的な能力で、個性がない。それが現代の助けてあげたくなる主人公像なのだろうと思って、それを投影したのが主人公のケータくんなんです。

だから、「ケータってふつうだよね」ってフミちゃんからも言われる(笑)。でもそういう、ダメでもなく、よくもなく、いつも「ふつうだね」と言われるのが、主人公像として、みんなが共感できるんです。

今の世の中の子どもが共感できるのは、「ふつう」の人なのです。それに対して、自分が子どものときから、「のび太」や「ジャイアン」に似ている点があったと思うなら、発達障害を疑ってみるのは、当を得たことです。

大人の発達障害とされる人たちは、幸か不幸か、子どものころには、その二人のように注目の的となることはありませんでしたが、その分、周囲との違いにこころの中で悩んできたのです。

なお、重ね着症候群の診断には、各種心理テストが参考になります。(p266)

■AQ-J…26点以上はアスペルガーの傾向が見られ、32点以上は確定診断の可能性が高くなる。
おそらくMisakids Street - Asperger Test はてなブックマーク - Misakids Street - Asperger Testなどいろいろな所で公開されているものだと思います。

■WAIS Ⅲ…ウェクスラー成人知能検査。言語性IQと動作性IQの差が12あれば傾向が見られ、15以上あればほぼ確定診断。

■ミネソタ多面人格目録(MMPI)…不安指数が平均よりかなり高いタイプ。反対に不安指数がかなり低く情動が低活動のタイプ、抑うつの指数が極端に高く、社会参加が困難なタイプの3つが典型。

■ロールシャッハ・テスト…ほとんど想像作用が機能せが、回数数が少ない低生産型。部分に対するこだわりと想像の偏りが全体に及ばないタイプ。認知機能のゆがみが強く、統合失調症に似ているタイプなど。

じつは心因性ではなかった

このような大人の発達障害を背景に持つ精神科疾患や心身症には、共通の特徴が見られるといいます。

それは、治療経過や予後が、一般の精神科疾患と異なり、慢性化しやすく、治りにくいということです。また、主治医との関係が安定的でなく、依存したり、刹那的だったりするそうです。

こ れまでであれば、そのような患者は、パーソナリティ障害など養育者との対人関係のこじれが原因となっているとされていました。しかし、詳細に調査すること で、一部の患者には特有の雰囲気と、発達史的特徴が見られ、背後に高機能型広汎性発達障害があることで、問題がこじれている可能性があることがわかってき たといいます。

このような患者には、「心因原性」であると考えて、精神分析的精神療法をほどこしても、ほとんど効果が見られません。短期間でドロップアウトしたり、あるいは、数年間、精神療法を続けたにも関わらず、ほとんど変化しなかったりします。

発達障害としての特性があると、非常にストレスを溜め込みやすかったり、周囲との軋轢が生じたりします。そのため、ストレスを原因とする多彩な病気・症状が出現しやすくなります。

もともとあった発達障害という特性の上に、いろいろなストレスからくる病気を「重ね着」してしまうので、下に着ている発達障害という服があまり注目されないでいるのです。

治療としては、発達障害に焦点を当てた療育的な精神療法や、認知の歪みや衝動性を抑える薬物療法が有効なことが多いといいます。

それで、こう書かれています。

重要なことは、重ね着症候群の治療に関して、薬剤選択や精神療法などの選択において、背景の高機能型広汎性発達障害を考慮に入れておくことで、治療がうまくいくことが多いのである。(p262)

ところで、発達障害と同様に、長引く病気の陰にある可能性のあるものとして、愛着障害があります

前述したように、重ね着症候群では、家族葛藤はほとんど見られませんが、機能不全家庭で育った場合や、広義のマルトリートメント(不適切な養育)を受けた場合は、愛着障害が潜んでいるかもしれません。

発達障害の程度がひどいと、それが原因で虐待につながり、愛着障害が起きることもあります。こう書かれています。

患者本人が、両親などから虐待を受けたり、剥奪体験をもったり、スパルタ的な厳しい養育を受けたりしている場合には、二次的に激しい衝動的な情動をもったパーソナリティを持っていることが多い。(p265)

ここで書かれているように、それは生来の発達障害とは異なる「二次的」なものです。

長引く病気の陰にある「愛着障害 子ども時代を引きずる人々」| いつも空が見えるから

重ね着症候群の具体例

本書には、重ね着症候群の具体例も載せられていました。

登場する女性は、依存性パーソナリティ障害やパニック障害のある19歳の大学生です。

大学に入学してしばらくして、突然きっかけもなく、パニック発作のため、電車に乗ることができなくなり、抑うつが出現しました。

一年間抗うつ薬を飲んでも改善せず、精神分析的精神療法をはじめました。

幼少時には特に問題がなく、両親との関係も良好。しかし精神療法が始まってから、発達障害に特有のタイムスリップ現象が現れ、小学校のときにいじめられていた体験を細かく思い出すようになりました。また、中学、高校と孤立していたこともわかりました。

そこで、ウェクスラー成人知能検査やミネソタ多面人格目録、ロールシャッハ・テストなどを行うと、背景に高機能型広汎性発達障害があるらしいことがわかったといいます。

発達障害について説明したところ、その女性は、自分が今まで情緒をうまくコントロールできなかったことや、対人関係が苦手だったことに納得がいった様子でした。

そして、抗うつ薬や抗不安薬をやめて、低力価の抗精神病薬(ペルフェナジン)を処方したことろ、対人関係や衝動性が改善されたそうです。

なお、重ね着症候群の場合の予後は、単なる精神科疾患の場合と異なって長引き、発達障害に対する長期間の服薬と、療育的助言、リハビリテーションなどの支援が必要だそうです。

発達障害が背景にある場合、薬物療法などがどう違ってくるのか、という点については、杉山登志郎先生の著書「発達障害の薬物療法」に関するこちらの記事をご覧ください。

精神科の薬の大量処方・薬漬けで悪化しないために知っておきたい誤診例&少量処方の大切さ | いつも空が見えるから

重ね着症候群についてのほかの文献

重ね着症候群は、今のところそれほど有名な概念ではありません。Googleでキーワード検索にかけてみると、1220件しか該当しませんでした(2014/12/29)。その概念がどれくらい正しいのかどうかについてもまだ議論があるようです。

とはいえ、大人の発達障害を診ている専門家の中には、重ね着症候群に注目している方もいます。

たとえば、杉山登志郎先生の発達障害のいまでは、これまで難治性とされていたジゾイド(統合失調質)の摂食障害などは、発達障害が背景にあるとされています。そのほかの精神科疾患についても、発達障害が背景にある場合について述べられています。

また大人の発達障害の医師として有名な星野仁彦先生によるダイヤモンドオンラインの記事では、はっきり重ね着症候群に言及されていました。

成績優秀なのに仕事ができない“大人の発達障害”に向く仕事、向かない仕事|男の健康|ダイヤモンド・オンライン

星野医師によると、子どもの頃から、ADHDやアスペルガーの症状はある。中・高校時代、不登校になって、大人になると、うつ病や依存症になった。それを「重ね着症候群」と呼ぶそうだ。

さきほど取り上げた本図解 よくわかる大人の発達障害にも(重ね着症候群という言葉は出てきませんが)こう書かれています。

商品の詳細

発達障害の人は、精神疾患をあわせもっていることがあります。これを「併存障害」といいます。

…とくに成人の場合は、統合失調症などの精神障害と発達障害の鑑別がむずかしく、併存している発達障害を見落とされてしまうことがあります。

もし、何らかの精神疾患と診断され、それに対する治療を受けても、一時的に症状が改善されるかもしれませんが、発達障害による「生きづらさ」から解放されることは期待できません。(p32)

身体の時間―“今”を生きるための精神病理学 (筑摩選書)という本の著者の野間俊一先生は、解離や摂食障害に詳しい方ですが、重ね着症候群の問題にも言及しておられます。

広汎性発達障害の人たちは幼少期から特有の生きづらさを抱えているため、その生きづらさを少しでも軽減させるべく、二次的にさまざまな精神症状や逸脱行動が生じる可能性があると指摘されるようになった。

たとえば、幻覚妄想、気分の易変性や衝動性、自傷、過食嘔吐、などであり、それぞれ、統合失調症、境界性パーソナリティ障害、摂食障害、といった疾患に当てはまる。

…この病態は衣笠隆幸によって「重ね着症候群」(2004)と名づけられた。そもそもは広汎性発達障害なのに、生育歴のなかで、さまざまな精神症状や問題行動が、まるで一枚一枚衣服を身につけていくように複合的に組み合わさって前景化し、もとの発達障害の病像を隠してしまっている病態を指す。

この場合はさらに診断が難しくなるが、正しく発達障害を見抜かないと、適切な治療や対応ができない、というのが、この「重ね着症候群」という概念が提起された主旨である。(p103)

また、小児慢性疲労症候群や若年性線維筋痛症には、素因として自閉スペクトラム症やADHDが見られるケースが多いことがわかっています。

発達障害(AD/HDやアスペルガー)と慢性疲労症候群は関係があるのか | いつも空が見えるから

京都大学こころの未来研究センターの井芹聖文氏による自らの病の名を知ること、つけること 自己診断を手がかりにでは、「重ね着症候群」の概念の有用性について認めつつも、自己診断や過剰診断の問題点についても書かれています。

以上のことから、自分が重ね着症候群に該当すると感じる場合でも、自説を固守するのではなく、専門家の判断を仰ぎ、適切な治療を受けるのが望ましいといえます。

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