「慢性疲労症候群」は適切な病名? 誤解や偏見が生まれるわけ


近、慢性疲労症候群(CFS)がたびたびメディアに取り上げられているので、この病気に馴染みのない方でも、名前ぐらいは聞いたことがおありかもしれません。

メディアで報じられているのは、「慢性疲労症候群という病名を変えたい」、と思って活動しておられる患者会の皆さんの活動です。

患者会が、病名変更のひとつの選択肢として紹介しているのは、「筋痛性脳脊髄炎(ME)」という英国・カナダで用いられている名称です。もっとも、患者会はふさわしい名前を望んでいるのであって、「筋痛性脳脊髄炎」という名称にはこだわっていないようです。

病名の変更が望まれているのはなぜでしょうか。一言で言うと、慢性疲労症候群という病名は、たいへん紛らわしいものだからです。一人の患者であるわたしの観点からは、例えば、次のような3つの問題があります。

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(1)「慢性疲労」と間違われる

「慢性疲労」は、ストレスとなる状況に長く多かれると、だれもが感じる生理的なものです。それに対し、「慢性疲労症候群」は、健康な人にある日突然発症する、明らかな疾患です。健康な人が感じる疲労と、慢性疲労症候群の患者が感じる疲労とは同じ言葉で表すのが不自然なくらい、まったく別のものなのです。

しかし、これらを混同して、

「過度のストレスが続くと、疲れが抜けなくなって、慢性疲労症候群になりかねません」

というような説明がされているのをしばしば見かけます。好ましくないことに、医療関係のホームページでも、そのように記載している例があります。「慢性疲労症候群」という名前は誤った第一印象を与えかねないのです。

(2)重症度が伝わらない

みなさんは「燃えつき症候群」「むずむず足症候群」というものを聞いたことがおありでしょうか?

非常に分かりやすい名前で、すぐにイメージが湧きます。同時に、それほど辛い症状には聞こえないかもしれません。

ところが、これらの病気は、生活レベルを著しく損なうほど重症化する病気です。

「慢性疲労症候群」という病名も、同じように受け取られかねません。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)も認める正式な病名でありながら、まるでメディアが作った造語のように、軽い印象を受けます。

わたしも、「慢性疲労症候群という病気で…」と自己紹介すると「疲れが抜けにくいの?」と聞かれることがあります。確かに、この病名では重症度が伝わりません。

(3)症状の多様さが伝わらない

「慢性疲労」というのは、あくまで慢性疲労症候群の多彩な症状の一つにすぎません。確かに、疲労感は、わたしたち患者の主訴です。しかし、ほかにも多くの苦痛を忍んでいることを知ってもらいたいと思うのです。

この病気を慢性疲労症候群と呼ぶのは、喘息を慢性咳症候群と呼ぶほど言葉足らずなものです。慢性疲労症候群は、決して単純な病気ではないのです。

このように、「慢性疲労症候群(CFS)」という病名には、確かに問題点があります。多くの患者が、病名の変更を切望しているのも当然といえるでしょう。

しかしこのブログでは、当面は「慢性疲労症候群」という名称で統一するつもりです。その理由は以下の3つです。

(1)医学界の見解がまとまっていない

慢性疲労症候群(CFS)はまだ研究途上です。多くの患者に共通する異常は見つかっていますが、すべての患者に共通する異常はまだ見つかっていません。

すべての患者の脳に炎症があるわけではないため、筋痛性脳脊髄炎という名称は適切でないと考える医療従事者も多くいらっしゃいます。今後の研究をもう少し待ったほうが、より万人にふさわしい病名になるでしょう。もし病名が正式に変更されたら、このブログでの名称もすぐに変更するつもりです。

(2)「慢性疲労症候群(CFS)」という病名にも利点がある

前の記事でも少し触れましたが、この病名は誤解されやすい反面、わかりやすい、想像しやすいというメリットがあります。一度聞いただけでイメージできるので記憶に残りますし、検索サイトでこの病気について調べる人たちも、まずは「慢性疲労」と入力するでしょう。今違う病名を宣伝するよりも、「慢性疲労」いうキーワードからたどり着いてきた人たちに、文章によって正確な知識を得てもらうほうがよいと考えています。

また、自己紹介の際、「わたしは慢性疲労症候群という病気で…」と言うと、相手が会話のできる人かどうか見極めることができます。頭ごなしに「だれだって疲れている!」と言う人には、それ以上病気について話すのは得策ではないでしょう。他方、誤解しながらも「それって疲れが抜けないってこと?」と聞いてくれる人には、分かりやすく説明し、誤解を正すことができます。イメージしやすい病名だからこそ、会話のきっかけを作れる、ということもあるのです。

(3)病名の変更による恩恵には限界がある

「慢性疲労症候群」という名前を適切なものに変えることができれば、周囲の無理解に苦しんでいる患者たちにすばらしい恩恵があることは間違いありません。

そしてわたしは、病名を変更すること以外にも必要なことがあると思っています。それは、患者個人個人が、自分の病状をわかりやすく説明できるようになることです。わたしは適切な病名をつけられた患者でも、周囲の人たちから心無い扱いを受ける例を見てきました。

たとえば、ある若年性パーキンソン病の友人は、パーキンソン病の専門医から、「そのような病気はない」と突っぱねられました。医者の側の不勉強だったのです。どれほどもっともらしい病名がついたところで、病気の人を見下げる人の反応は変わらないでしょう。耳を傾けようとしない人たちを振り向かせることは、どうやってもできません。

また、どのような病名であっても、わたしたち患者の気持ちをすべて代弁してくれるわけではありません。症状や状況は、患者ひとりひとり異なります。患者自身が、自分の言葉で、自分の体調を周りの人に分かりやすく説明することは不可欠です。それができれば、たとえ病名が変わらなくても、今、耳を傾けてくれている人たちは、わたしたちの力となってくれるでしょう。

このような理由から、わたしは、今のところ「慢性疲労症候群」という病名を用いたいと思います。そして、このブログの目的は、病名の変更や政治制度の変革ではなく、患者一人ひとりの日常生活や、身近な家族とのコミュニケーションに役立つ情報を発信することにあります。

すでに苦しんでいる患者の側にさらなる努力を強いるようで心苦しいのですが、置かれた境遇を良くするには、わたしたちの側の工夫がやはり不可欠だとわたしは思うのです。このブログの情報を通して、その負担が少しでも軽くなれば幸いです。

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