このエントリは、「CFSの原因はレトロウイルスの感染にある」という国際ニュースを受けて書いた、一連の記事の5番目です。結局、このニュースは否定されましたが、ウイルスだけが原因だとする考えは、海外ではいまだ根強いようです。わたしはウイルスだけが原因だと考えるのは望ましくないと思っています。その4番目の理由をお書きしましょう。
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(4)仲間の患者を切り捨てることになる
断定的にはなれませんが、わたしの印象では、慢性疲労症候群(CFS)患者のうち、ウイルスが発症に関わった患者は、一部分に過ぎないのではないかと思います。もし慢性疲労症候群(CFS)がウイルス発症でなければならない、と定義するなら、ウイルス発症ではない他の患者たちはどうなるのでしょうか。
たとえで考えてみましょう。あなたのパソコンが壊れたとします。修理に持っていくと、こう言われます。
店員:
「あなたのパソコンが壊れた原因は何か思い当たりますか」
あなた:
「そうですね…たぶん、初期不良ではないかと思うのですが…。はじめから様子がおかしかったんです」
店員:
「それは残念です。実はこのパソコンは、コンピューターウイルスの感染による故障しか保証していないのです。それ以外は修理できません。申し訳ありませんがお引き取りください」
慢性疲労症候群の原因がウイルスだけと定義するのもこれと似ています。そうなれば、初期不良(=遺伝的弱さ)で発症したと思われる患者はどうなるのですか。環境(=化学物質や極度の精神的ストレス)が関わっていると思しき患者はどうすればいいのでしょうか。衝撃(事故や極度の酷使)をきっかけに発症した人はどこへ行けばいいのですか。
慢性疲労症候群(CFS)は今のところ、こうしたいろいろな精神的・肉体的ストレスが複合的に組み合わさって、神経・免疫・内分泌系の同じ故障を引き起こす病気だと考えられています。同じ症状なのに、原因が異なるだけで弾かれるとすれば、なんと不公平なことでしょう。
わたしたちのことも忘れないでほしい
今、脳脊髄液減少症の分野では、これと似たことが生じており、注目されています。脳脊髄液減少症の治療は、今年7月から先進医療に認定され、部分的に保険が適用されるようになりました。しかし、すべての患者が恩恵を受けられるわけではありません。画像診断によって異常がみられる患者だけが対象なのです。その数は患者全体の1-2割にすぎません。他の人たもは、同じ症状で苦しんでいるのに、同じ治療が受けられないのです。慢性疲労症候群(CFS)を感染後CFSだけに限定するなら、同じようなことが起こるかもしれません。
誤解のないように書いておくと、わたしは、こうした難病の治療が普及し、一般的になることはたいへん素晴らしいと思っています。はじめのうちは、患者の一部分しか保険適用されないとしても、大きな進展である、ということも承知しています。
慢性疲労症候群の場合も、一部の患者のウイルス感染、というわかりやすい異常が証明されれば、スムーズに医療上の第一歩を踏み出せるかもしれません。そうなれば、それは歓迎すべきことです。
ですが、脳脊髄液減少症の患者たちが、画像診断に異常が反映されない仲間の患者たちのことを決して忘れていないように、ウイルス感染によって発症したと思われる慢性疲労症候群(CFS)患者の方々にも、別の原因で発症した同病者がいる、ということを忘れないでいてほしいのです。わたしも恐らく、ウイルス感染による発症ではないCFS患者の一人です。
まとめ
このようにわたしは、今のところ慢性疲労症候群(CFS)はウイルス感染だけが原因とは考えていません。その理由は以下の4つでした。
(1)医学の進歩についていくため
(2)精神疾患の患者の気持ちを顧みるため
(3)柔軟に治療を受けるため
(4)仲間の患者切り捨てないをため
2010年からこのかた、慢性疲労症候群(CFS)の患者たちはXMRVのニュースに振り回されましたが、各国の患者たちを取り巻く環境が、一日も早く穏やかなものに戻ることを願っています。
将来的には、ある患者たちの場合に確かにウイルスが関わっていて、ワクチン接種などで良くなる、ということが明らかにされるかもしれません。原因別に治療が確立されたり、そもそも今慢性疲労症候群(CFS)として知られている病態は複数の別々の病気だったと分かったりするかもしれません。しかしそれはどれも、医学の進歩を待たなければわからないことなのです。
そうであれば、今のところは、明らかになっていることを越えて、特定の見解に固執するのは得策ではありません。同じ患者同士協力しあって、すでに分かっていることをもとに、治療に励んでいくべきではないでしょうか。一患者として、少なくともわたしはそう思います。