線維筋痛症の痛み、慢性疲労症候群の疲労 その違い


日新聞デジタル:アピタル(医療・健康)「線維筋痛症友の会」代表の橋本裕子さんについての記事が掲載されました。年若いころからつきあってきた激痛を通して「痛みの意味」を考えた簡単な経験談がつづられ、著書「そうまでして生きるわけ」とWEB新書「線維筋痛症 痛みの意味 ~患者を生きる~」が紹介されています。

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慢性疲労症候群(CFS)と線維筋痛症(FMS)の違い

慢性疲労症候群(CFS)線維筋痛症(FMS)は、よく似た病態だとしばしば言われます。別の症状を持つ同じ病気として表現されることもあります。痛みが強く出るのが線維筋痛症(FMS)、疲労が強く出るのが慢性疲労症候群(CFS)、とおおまかに分けられますが、両方を合併している患者の方も多くいらっしゃいます。

慢性疲労症候群(CFS)について研究されている倉恒弘彦先生は、書籍疲労の医学 (からだの科学primary選書2)の中で、「CFSの病態は…サイトカインの産生異常に基づく脳機能異常としてまとめることができるのではないか」p232と述べておられます。そして以下のような興味深い点を指摘しています。

脳内セロトニン輸送体の発現量と痛みとの関連を調べてみたところ…痛みと逆相関を示す部位は、これまでfMRIやPET検査によって痛みの処理を担っていると報告されてきた部位と一致しており、脳の痛みセンターと呼ぶこともできるようなところです。

一方、疲労病態と関連して脳内セロトニン輸送体の発現量が低下していた部位は痛みセンターの部位とは明らかに異なっていて、疲労そのものに密接に関係している脳の部位(疲労センター?)が存在している可能性も考えられます。p231

つまり、脳内に、「痛みセンター」「疲労センター」が存在している可能性があるということです。線維筋痛症と慢性疲労症候群は同じ脳機能異常だと仮定した場合、異常が生じているセンターが「痛みセンター」か「疲労センター」か、あるいは両方か、というところで、症状の違いが生じてくるのかもしれません。

なお、線維筋痛症診療ガイドライン2011の慢性疲労症候群(CFS)との鑑別診断を解説した項では、「同じFSSの病態の中で,線維筋痛症は多彩な症状のうち身体の広汎な部位の激しい慢性疼痛が前面に出たもので,CFSは比較的急性に激しい疲労・倦怠感が前面に出たもの」と指摘されています。

活動量にも違いが表れる

上記の記事の中で、わたしが印象に残ったのは、次の言葉でした。

痛みを少しでも紛らわすために寝ることもなく勉強、仕事に熱中した日々

わたしの友人に、線維筋痛症の方がいらっしゃるのですが、わたしはかねてから、その方について不思議に思っていたことがありました。わたしには、到底不可能なほど多くのことに取り組んでいて、しかも体調が良いから働いている様子ではなく、動かないではいられない、といった雰囲気でした。

あるとき理由を尋ねてみると、その方はこうおっしゃいました。「じっとしていると痛くてたまらないから、少しでも気を紛らわすために、体に鞭打って動いているんです」。ちょうど、今回の橋本裕子さんの言葉を見て、これと同じだ…と思いました。

じつは、線維筋痛症の方のこうした傾向、すなわち、痛みを紛らわすために忙しく活動するという傾向は、研究によってデータとしても現れています。

線維筋痛症患者のうち、うつを伴わない群と健常者とでは覚醒時の活動量に有意な差はないと報告したのに対し、CFS患者のうち、抑うつなどの精神科的問題を伴わないサブグルーブであるCFS1群と健常人の比較でも同様の[日中の活動量が低下するという]有意差がみられた。

この点は類縁疾患といわれる線維筋痛症患者において報告されていた結果と異なり、痛みを主とした疾患と疲労を主とした疾患の違いを示しているのかもしれない。ー日本臨牀 2007/6 p1062

つまり、慢性疲労症候群(CFS)の患者は日中疲れてぐったりしている一方、線維筋痛症(FMS)患者は健常人と同じほど日中忙しく活動している、というデータがあるのです。

もし身近に線維筋痛症など、絶えざる痛みに苦しんでおられる方がいたら、この点を思い出してあげてください。その人はもしかすると、非常に忙しく働いていて、とても病人には見えないかもしれません。しかし、寝食を忘れて集中しなければ耐えられないほどの激しい痛みがため、本当は体を休めたいのに忙しくしている、ということもあるのです。

もっとも、すべての人の場合にそうではなく、文字通り身動きの取れない状態にある方もいらっしゃいます。ですから、どうか、目の前にいるその人の話す内容をすなおに信じてあげてほしいと思います。

興味深いことに、線維筋痛症と慢性疲労症候群は、近縁疾患とはいえ、発症率の社会経済的パターンは正反対だそうです。

線維筋痛症と慢性疲労症候群の発生率の動向 : 腰痛、肩こりから慢性広範痛症、線維筋痛症へー中枢性過敏症候群ー  戸田克広

これらの解析によるとCFS/MEの記録された診断は2001年以降漸減し、FMの診断は増加した,

CFS/MEの診断は最も貧しい地域で低い率であるがFMの診断は高率であるという社会経済的パターンが逆である。

経済的に裕福な地域でCFSが多く、貧しい地域ではFMが多い、というのは、単なる貧富の差が症状の違いに影響する、という問題ではないように思えます。

同様の傾向を示す障害の中に、発達障害の自閉症とADHDがあり、自閉症はCFSと同様、経済的に裕福な層に多く、ADHDは貧しい層に多いとされています。

ADHDは、注意欠陥多動性障害の名のとおり、やはり線維筋痛症と同様に活動量が高い傾向があり、一方の自閉症は社会的に無活動になりやすく、CFSの活動量低下と共通しているといえます。

これは突き詰めていけば、外向的か内向的か、つまり、もともとの愛着スタイルが不安型か回避型かという違いに由来しているのかもしれません。

もしそうだとしたら、線維筋痛症の人は幼少期の養育環境のゆえに、不安型の愛着スタイルを身に着けている傾向が強く、それが痛みへの過敏性や多動傾向の根本である可能性があります。

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他方、慢性疲労症候群の人は、幼少期の養育環境ゆえに、正反対の回避型の愛着スタイルを身に着けている傾向が強く、それが失感情症や活動量低下として現れるのかもしれません。

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単に貧富の差が両者を分けているのではなく、それぞれの経済層に典型的な養育環境が愛着スタイルの違いをもたらし、それが成人後、痛みが主となるか、疲労が主となるかの違いにつながっているのではないかと推測できます。

もしそれが正しければ、慢性疲労症候群と線維筋痛症を合併している人、つまり疲労も痛みも強い人は、不安型と回避型が両方とも強い、無秩序型の愛着を持つ人に多いのかもしれません。

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「そうまでして生きるわけ」

橋本裕子さんが、このたびそうまでして生きるわけ―線維筋痛症だからといって、絶望はしないという本を出されたのは、ニュースで聞いていました。今は読む本がたまっていてまだ読めていないのですが、近いうちに、このブログでもレビューを載せたいと思っています。橋本裕子さんは上記の記事の中でこう述べています。

「生きる意味は見つかっていないけれど、生きる義務はあると思います」

難病を抱えると、どうしてもこの点を考えざるを得ません。わたしは、「生きる意味」について自分なりの答えを持っていますが、他の患者、それもわたしよりはるかに重い症状を長い間忍んでおられる方が、どのように考え、どのように生きるようになったのか、ということには興味があります。積読本を解消して、この本を読むのを楽しみにしたいと思います。

▼追記
感想を書きました。

「そうまでして生きるわけ―線維筋痛症だからといって、絶望はしない」ための3つの処方箋
書籍「そうまでして生きるわけ―線維筋痛症だからといって、絶望はしない」の書評です。線維筋痛症を患う橋本裕子さんの闘病記から、難病のもとでも絶望しないための秘訣を3つ要約しています。
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