画期的! 「医学の忘れ物」である疲労を測る3つの慢性疲労症候群(CFS)診断指針が作成中!


 “慢性疲労”、それは苦しむ人が非常に多いにもかかわらず、医療において見過ごされてきた分野です。発熱、痛みと合わせて身体の三大アラームと言われるのに、医療の対象にはならない医学の忘れ物でした。

しかし今、疲労の医療が大きく変化しようとしています。その一つとして、前回のエントリでは疲労を測る検査が確立されつつあることをお伝えしました。

厚生労働省疲労研究班 | 平成23年度厚生労働科学研究障害者対策総合研究事業(精神の障害/神経・筋疾患分野)

このエントリでは、それら確立されつつある客観的な検査に基づき、新しいCFSの診断手順と診断基準が提案されたことについて資料からまとめます。

これによって、わたしたちの身近にある普通の病院でも、疲労を客観的に測り、CFSを診断できるようになることが期待できるようです。

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なぜ新しい診断基準が必要だったか

これまでの診断指針には、以下の3つのような問題があったようです。

◆操作的診断基準だった
「操作的」とは医師が臨床で症状の兆候を診て診断する方法のことです。例えば、心療内科では、患者が訴える自覚症状に基づいて診断が下されています。

この方法には、医者がひとりひとりをじっくり診て判断できるというプラス面もありましたが、客観性に欠けるという問題点がありました。

特に、検査による客観的なデータを重視する内科系の医者にとっては受け入れがたく、慢性疲労症候群(CFS)という病気の存在が医師の間でも疑われる原因の一つになっていました。

◆簡単に診断できなかった
正確な診断をするためには、医師に熟練の鑑識眼が求められました。幾人ものCFS患者を診てきた医師でないと、類似疾患との鑑別が難しく、慢性疲労症候群(CFS)の診断のハードルが高くなっていたのです。

専門医でなくても簡単にCFSを診断できるフローチャートのようなものが必要とされていました。

◆複数の疾患をひとつにまとめている可能性がある
旧来の慢性疲労症候群(CFS)の診断基準を満たす患者には、精神症状のほとんど見られない人もいれば、強い抑うつが見られる人もいました。そのため、別々の幾つかの疾患を一つの症候群としている可能性が指摘されてきました。

患者一人ひとりに合わせた治療をするには、疲労を数値化できる検査を取り入れ、もっと詳細に分類できる基準が必要とされました。

3つの新しい診断手順、診断基準

これら3つの問題点を改善すべく、平成23年度の疲労研究において、以下のような、3つの新しい提案がなされました。

(1)開業医のための診断手順
(2)基盤病院のための診断手順
(3)専門病院のための新しいCFS診断基準

これらは、今のところ試案に過ぎませんが、改良を重ねて、近いうちに、医療現場で一般的に用いられるものとなるでしょう。この記事では、(1)と(2)の特徴を概説したいと思います。

(1)開業医のための診断手順

PDFでは、プライマリー・ケアを担う医師のための診断決定木と紹介されていました。わかりやすく言うと、なんでも相談に乗ってくれる地元のお医者さんが、CFSを診断するときに参考にできる、ツリー型フローチャートのことです。

開業医のお医者さんは、いろいろな病気に対応しなければならないので、CFS診断に特化した設備を持つことができません。それで、簡単にできる3つの検査を用いて、CFSをおおまかに診断できる方法が提案されました。

◆自律神経機能
◆睡眠時間+覚醒時平均活動量
◆単純計算課題

この3つをフローチャートに当てはめて検査するだけで、80%の確率でCFSが診断できるそうです。これにより、CFS診断の間口が広がると期待されます。

(2)基盤病院のための診断手順

PDFでは、セカンダリー・ケアを担う医師のための診断決定木と紹介されていました。わかりやすく言うと、開業医から紹介されて受診する、地域の大病院のお医者さんが用いる、CFSを診断するためのツリー型フローチャートのことです。

大病院では、CFSの専門外来がなくても、ある程度の設備が整っているものです。それで、開業医が行う先の3つの検査に、あと2つ検査を追加することが提案されました。

◆酸化ストレス
◆起立検査

この2つを追加して検査するだけで、95%の確率でCFSが診断できるそうです。

これら(1)(2)の診断フローチャートは、この平成24年度に検証され、修正が施されてから実施されるとのことです。

研究報告書のPDFにはこのように書かれています。

「慢性的な激しい疲労で苦しむ多くの患者が診療を受ける施設を探すのにも苦慮している」。

これまで、疲労を訴える人たちは、地元の開業医のもとに足を運んでも、「だれだって疲れている」とぞんざいに扱われたり、「休みをとって、リラックスしてくださいね」と当り障りのない言葉で追い返されたりするのが常でした。

しかし、この2つの診断手順が普及すれば、疲労が数値化できるようになるので、口先だけで「疲れた」と言っている人と、ほんとうに疲れている人との区別が付くようになります。さらに、普通の疲労病的な疲労も見分けられるようになります。

疲労の検査が普及すれば、医療の現場に大きな変化がもたらされるでしょう。“慢性疲労”を訴えて病院を受診する人が、路頭に迷うことなく、適切な医療を受けられるようになる日は、そう遠くないのかもしれません。

(3)専門病院のための新しいCFS診断基準

専門病院では、(1)(2)の5つの検査に加え、以下のような専門的な検査がなされる可能性があります。

◆唾液中のヘルペスウイルスの測定
◆血中メタボローム(代謝物)解析
◆血清中のα-MSH(メラノサイト刺激ホルモン)測定

それに加え、客観的な検査法の確立にともなって、CFSの診断基準も一新されようとしています。

PDFで紹介されていた新しい診断基準の試案は、2007年の日本疲労学会による新たなCFS診断指針が基本となっていますが、細部に追加修正が加えられています。

変わっていない部分

従来の部分をごく簡単に説明すると次のようになります。

1.併存疾患

認めるのは、気分障害、身体表現性障害、不安障害、線維筋痛症だけ。
疲労を来たす別の病気があればCFSではない。

2,四つの特徴が不可欠

1.急激に発症 2.回復しない 3.原因不明 4.日常生活が困難

3.少なくとも五つ当てはまる

自覚症状7つ:疲労、筋肉痛、関節痛、頭痛、咽頭痛、睡眠障害、思考力低下、
他覚症状3つ:微熱、リンパ節の腫れ、筋力低下

これに加えて、新しい基準では、CFSの分類に重点が置かれています。

付け加えられた部分

以下の説明には、以前から用いられていた分類も含まれていますが、詳しく分類することそのものが新しく追加された特徴なので、ひとまとめに扱います。

1.上記の診断基準に当てはまるか

臨床的CFS…当てはまる。つまり慢性疲労症候群。
特発性慢性疲労(ICF)…当てはまらないが慢性疲労がある

2.ウイルス感染があるか

感染後CFS…感染症後の発病が明らかな慢性疲労症候群

3.併存疾患があるか

A群…併存疾患がない
B群…途中で併存疾患が発症
C群…最初の診察から併存疾患がある

4.客観的な検査で異常があるか

5つの検査をします。

レベル0…客観的検査では健常人と変わらないCFS
レベル1…1項目だけ異常があるCFS
レベル2…2項目異常があるCFS
レベル3…3項目だけ異常があるCFS
レベル4…4-5項目に異常があり、健常人と明らかに違うCFS

何のための分類

CFSは多種多様な病態を1つの症候群としてまとめている可能性が指摘されているそうです。ですから、分類には以下のような意図があるのかもしれません。

原因に応じた治療をする

CFSの原因はさまざまで、それによって治療が異なることが知られています。たとえば、感染後CFSと分類され、ウイルス感染が原因と分かれば、米国で行われているようなある種の抗ウイルス薬を用いた治療が効果的だとされるかもしれません。

症状に応じた治療をする

レベル分けによる分類は、「治療法の選択や治療効果の判定にも有用」だと書かれています。たとえば、酸化ストレスが強い患者には抗酸化治療を施すなど、患者それぞれの症状にあった治療が期待できそうです。

関連疾患に応じた治療をする

疲労研究班や疲労学会の医師たちは、線維筋痛症脳脊髄液減少症、化学物質過敏症、ほかには眼瞼下垂症などの専門家とも意見交換をしているそうです。将来的には、それら疲労を来たす類似疾患を鑑別することを念頭に置いて、分類しているのかもしれません。

何のための分類ではない

このような客観的な検査を取り入れると、これまでCFSではないとされていた人が診断されるようになる一方で、これまでCFSと診断されていた人が、検査で異常が出ないということもありうるでしょう。

ようやくCFSという病名にたどり着くことができたのに、また病名がなくなり、理解されない辛い生活が始まるのではないか、と考えて不安になる方もいるかもしれません。わたしたちはCFSであることを望むわけではありませんが、病名が無い中で闘病しなければならないというのは大変つらいものです。

幸い、慢性疲労症候群(CFS)を研究している医師たちは、PDFの最後で、患者に向けて、次のような温かい言葉をつづっています。(文字色は引用時に編集)

前述のようにCDCの診断基準を満たすCFS患者には多種多様な患者が含まれており、我々のCFS患者に対してME診断基準を用いて診断した場合には大半が除外となる可能性が高い。

CFS患者は、原因が明らかでない激しい疲労が長期間続くために、日常生活、社会生活が崩壊していることが多く、漸くCFSという診断にたどり着き、治療が始まった多くの患者を、再び無病名の状況に陥らせることは、絶対に避ける必要がある。

今回の臨床研究により、CFSは詐病のように偽りの症状を訴えているのではなく、訴えている慢性的な疲労症状に対応する病態が存在することが明らかになってきた。

最終的には、CFSと診断された患者すべての病因が明確となり、その病因に基づいた病名が構築されることが一番望ましいことは言うまでもないが、それまでは現在の医療体制の中で対応が可能な臨床検査により、CFSを客観的に診断して、対応してゆくことが現実的であると考えている。

今後、CFSの病因解明に向けた臨床研究の継続が極めて重要であり、この臨床研究の中で病因が明らかになってきたサブグループを順次CFSという病名から卒業させて、その病因に基づいた客観的な臨床検査による診断名を与えて対応してゆくことが、最終的にCFSという病名の解消につながるものと信じている。

わたしも同じ点を以前の主治医に尋ねたことがありましたが、たとえ検査で異常が出ない場合でも、現に疲労がある以上、なぜ疲労が起こっているのか原因を究明して、治療していきたい、とおっしゃっていました。

はじめに書いたように、医学における忘れ物、と言われている“疲労”ですが、そのメカニズムが解明され、慢性疲労に苦しむすべての人が治療を受けられるようになれば、わたしたちの社会の状態は大きく様変わりすることでしょう。

その一歩として、疲労を客観的に測定する、これら3つの診断手順、診断指針がまとめられたのは喜ばしいことではないでしょうか。疲労の研究はまだ始まったばかりとはいえ、これからの進展に大いに期待したいところです。

 

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