日本の疲労研究が明らかにした「慢性疲労に陥るメカニズム」と対処法まとめ


9/4(火)17:00から、病気と闘う市民大学が主催する健康の市民大学 アピタル夜間学校特別講座~慢性疲労に陥るメカニズムと評価・対処法がUstreamにてライブストリーミング配信されました。

この一連の記事では、講義「慢性疲労に陥るメカニズムと評価・対処法」の内容から、慢性疲労症候群(CFS)研究の第一人者で、危ない!「慢性疲労」 (生活人新書)の著者である倉恒弘彦先生の解説をまとめています。

日本の疲労研究の歴史や、明らかになった慢性疲労症候群(CFS)の原因、疲労を測定する検査方法、疲労への対照法などを取り上げます。

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なぜ疲労を研究するのか

日本で率先して慢性疲労症候群の研究をしてこられたのは、関西福祉科学大学教授、大阪市立大学客員教授、東京大学特任教授の倉恒弘彦先生です。倉恒先生は歴代の疲労研究班に参加してこられた疲労研究の第一人者です。

◆文部科学省「疲労・疲労感の分子・神経メカニズムの解明とその対処法の開発プロジェクト」(1999年~2004年) 総合推進委員

◆厚生労働省「疲労を訴える患者に対する客観的な疲労評価法の確立と診断指針の作成」研究班(2009年4月~2012年3月) 代表研究者

◆厚生労働省「慢性疲労症候群の実態調査と客観的診断法の検証と普及」研究班(2012年4月~) 代表研究者

日本ほど疲れが問題になっている国はそう多くありません。倉恒先生はまず、平成10年から10年間で、過労死の申請が二倍に増えたことを指摘して、日本の疲労の重大さを強調しました。

しかし現在の医療体制では疲労を診ることができません。疲れを訴えて内科を受診しても、病気ではないので対処できない、と一蹴されることがほとんどです。検査しても原因が分からず、医者としても心療内科を紹介する以外に選択肢がありません。

調査によると、うつと診断された人の8割が疲労を訴えるそうですが、わたしたちはだれでも、うつと疲労は別のものであることをよく知っています。疲労を適切に診断することが必要です。

そのため、疲労を客観的に調べて数値化する方法が研究され始めました。

まず見つかったのは脳機能異常

疲労の客観的な研究は、まず脳を調べることから始まりました。 疲労は脳で感じるものだからです。

脳神経細胞は糖をエネルギーに変換することで働いています。その変換には酸素が使われ、酸素は血液が運びます。よって血液の量を調べれば、脳の機能低下が分かるはずです。ポジトロンCTを使えば、脳の血流の低下を調べることができます。

調べた結果、疲労が長引いている人では、大脳の前の方で血流が低下していることがわかりました。例えば、以下のような機能異常がみられました。

◆前帯状回
自律神経中枢。ここの血流が下がることが、自律神経失調症の実態です。

◆眼窩前頭野
感情を司る。ここの血流が下がると、イライラして心にも無いことを言ってしまったり、女性の場合であれば、涙が止まらなくなったりします。

◆前頭葉
海馬や側頭葉から記憶を引き出す。ここの血流が下がると、ちょっとしたことを思い出せなくなります。また、セロトニンという癒しを司るホルモンに低下も見られました。

このように、ポジトロンCTを使えば確かに疲労を客観的に評価できることが、研究の初期に明らかになりました。今まで主観的なものだった疲労が、客観的なデータとして分かるようになったのです。

しかしポジトロンCTは特殊かつ大がかりな検査です。しかも保険も利きません。開業医や市民病院で疲労を評価できる、もっと簡単な方法が必要です。

そのため、疲労の簡便な評価法を開発するプロジェクトが始まりました。どのような進展があったのでしょうか

発明! 疲労のシンプルで客観的な評価法

以下の内容は、平成23年度の研究報告書からのものだと倉恒先生は話しておられました。その内容はこのブログでもまとめたので、以下の記事をご覧ください。

検査でわかるようになる? 研究でわかった慢性疲労症候群(CFS)の10の異常
平成23年度の最新の慢性疲労症候群(CFS)の研究について紹介するエントリです。CFSは、これまで検査では異常が出ないとされていましたが、客観的な10の検査法が確立されつつあります

1.活動量を調べる

睡眠ウォッチことアクティグラフという機器を用います。アクティグラフは、加速度センサー(ジャイロスコープ)が組み込まれた腕時計型の機器で、身につけた人の加速度を測ることができます。

れは無重力空間で宇宙飛行士の活動と睡眠を計測できるものです。

アクティグラフとは|米国A.M.I社の日本及びアジア地区総代理店 サニタ商事株式会社

得られたデータを特殊な方程式で分析すると、睡眠ポリグラフと9割一致するほどの正確な睡眠データが得られます。たとえば、授業中にちょっと居眠りをしたことさえ感知するのです。

また逆に、寝ているあいだの中途覚醒も判別できます、本人は気づかないようなちょっとした睡眠の途切れが分かります。

このアクティグラフによって、健康な人と、疲労が長引く人とでは、活動量や睡眠時間、居眠り回数に明らかな違いがあることがわかりました。

2.自律神経を調べる

自律神経は、活動をつかさどる交感神経と、癒しをつかさどる副交感神経からなります。この2つのバランスが崩れたり、それぞれの活動量(パワー値)が低下したりすると、疲労を感じます。

自律神経の活動を調べる方法としては、昔から心電図がよく知られていました。心拍のゆらぎを調べれば、バランスが分かるというわけです。

最近では、心拍のゆらぎが脈波に伝わることを利用して、指先の脈波を2分間計測するだけで、自律神経のバランスを調べることが可能になっています。

U-Medica Inc. 株式会社ユメディカ – 加速度脈波測定システム「アルテット」で血管老化度・血管年齢を測定、自律神経機能評価ソフトで健康管理・生活習慣病予防対策医療

 では、自律神経のバランスは、健康な人と、疲労が長引く人とでどう違うのでしょうか。以下のような違いが見られました。

◆健康な人
倉恒先生は、ご自分を例に挙げて、講義中だと、交感神経が10-15倍ぐらいに跳ね上がると言われました。しかし休んでぼーっとしていると、副交感神経が働き、すぐ1:1のバランスに戻ります。

◆疲労が長引く人
休んでも副交感神経が働かず、3:1ぐらいの比率で交感神経が昂ぶったままになります。睡眠中もずっとそのままなので体が休まりません。

特に不登校児の場合、常に交感神経が2-3倍に優位で、夜中の睡眠中、15回ぐらい目が覚めているというデータがあるそうです。これはいわゆる小児慢性疲労症候群(CCFS)のデータだと思われます。

加えて、糖尿病や加齢の場合、バランスは一定でも、交感神経と副交感神経の活動量(パワー値)そのものが低下して、疲れが生じます。

CFSの場合も、軽症から中程度では、交感神経優位ですが、重症になると、パワー値が低下するそうです。以前、障害年金一級相当のある友人から、検査データを見せてもらったことがありますが、交感神経も副交感神経も働いておらず、棒グラフが髪の毛のような高さになっていました。

3.ウイルスの再活性化を調べる

口唇ヘルペスに代表されるように、疲れると、体内のウイルスの再活性化が生じます。このウイルスとは、だれもが感染して体内に持っているもので、離乳食などを通して、不顕性感染しています。

唾液中のウイルス量を検査すると、疲れている人の場合、ウイルス量が10倍になるそうです。過労状態になると、そのウイルス量が休んでも減らなくなります。

現在、株式会社ウイルス医科学研究所にて、疲れの度合いが簡単にわかるリトマス試験紙のようなものを開発中とのことです。これが普及すれば、だれもが自分で自分の疲れをチェックして、休み時を察することができます。

評価試験事業・バイオマーカー開発事業|株式会社総医研ホールディングス

4.簡単な計算で調べる

簡単な計算を5分間してもらうと、健康な人と、疲れている人とで、明らかな違いが現れます。以下のような項目を調べたそうです。

◆正答率:元気な人も疲れている人も変わりません。
◆回答時間:疲れている人は遅くなります。
◆回答時間のばらつき:疲れている人では一定ではなくなります。これは、集中力の欠如を意味しています。

5.活性酸素を調べる

活性酸素を調べると、健康な人、急性疲労、亜急性疲労、慢性疲労、慢性疲労症候群(CFS)の区別がつくことがわかりました。健康な人を基準にして、以下のような違いが見られます。

◆健康な人:酸化ストレス- 抗酸化力-
◆2時間労働した人(急性疲労):酸化ストレス↑ 抗酸化力↑
◆2週間徹夜が続いた人(亜急性疲労・慢性疲労):酸化ストレス↑ 抗酸化力-
◆慢性疲労症候群(CFS):酸化ストレス↑ 抗酸化力↓

酸化ストレスは体へのダメージ、抗酸化力は回復する力を意味しています。疲労が重くなるほど、回復させる力が追いつかなくなるのです。

3.11の後に試してみた

倉恒先生たちは、これらの検査を3.11の東日本大震災のとき、気仙沼市職員に試してもらったそうです。

すると、大抵の人は、活動量が下がっていて、酸化ストレスは上昇してましたが、抗酸化力も上昇していて、疲れているけれどまだ頑張れる、急性疲労の状態でした。

しかしごく一部の人たちは抗酸化力が低下していて、活動量も他の人以上に低くなっていました。慢性疲労や慢性疲労症候群(CFS)に近い状態です。

震災後の復興にあたっているさなかでしたから、普通であれば、周りが頑張っているのだから自分も、と疲れた体に鞭打って働くことが求められます。

しかし、疲労の客観的な検査によって、周りの人以上に疲れている、危険な状態にある人を発見することができたのです。

疲労の簡便な検査法によって、未病の状態にある人を探し出し、病気を予防できる可能性が示されたといえるでしょう。

さて、このようにして疲労の客観的な評価法が確立しつつあります。しかしそもそも疲労の原因は何なのでしょうか

疲労の原因は何?

倉恒先生によると、長引く疲労の原因・メカニズムは、大きく分けて2つあります。ここで先生は、一般向けの講演のため「長引く疲労」という言葉を用いておられましたが、この場合は病気としての慢性疲労症候群(CFS)を指しています。

1.ストレス

人体は、【神経】―【内分泌】―【免疫】という三本の柱が互いに支えあって成り立っています。この相互作用をクロストーキングと言います。

しかし、強いストレスがかかると、これらのバランスに歪みが生じます。そのストレスには次のようなものがあります。

◆精神的ストレス…一般に言われるストレス
◆肉体的ストレス…過重労働
◆科学的ストレス…化学物質
◆物理的ストレス…紫外線、熱中症、騒音
◆生物学的ストレス…細菌、ウイルス、リケッチア

人体は、これらストレスがかかっても、通常はホメオスタシス(恒常性)によって歪みをカバーします。しかし、あまりにストレスが大きかったり、長引いたりするとそうはいきません。三本の柱のバランスが崩壊してしまいます。

特に免疫系が弱ると、ナチュラルキラー細胞が働かなくなり、体内のウイルスが再活性化します。するとそれを抑えこもうとインターフェロンTGF-βという神経伝達物質が脳に送られ、脳の神経細胞が痛みや疲労、抑うつなどを感じるのです。

それに加えて、もう一つ疲労の原因となる要素があります。

2.遺伝的背景

ネズミの実験では、部屋を狭くしていくという環境の変化をもたらした場合、一部のネズミは変化に適応しにくいことがわかりました。

人間でも同様に、環境の変化に弱い人がいます、完璧主義や固着性の気質の人の場合、疲れが長引きやすいようです。

このように、疲労の原因とメカニズムもおおかた明らかになりつつあります。しかし、多くの人が知りたいのは、何よりも疲労への対処法でしょう。

倉恒先生は、講義の最後の部分で、疲労への対処法にもスポットを当てました。わたしたちはどんなことができるのでしょうか。

疲労の対処法

倉恒先生は、疲労の対処法として、(1)笑い、(2)香り、(3)食事 に言及されました。

(1)笑い

笑いが疲労に効果があることは昔から知られていましたが、なぜか国内でも海外でも、その効果を検証した実験がありませんでした。

それで大阪大学の精神科の教授が筋電図を用いて実験したところ、笑いはナチュラルキラー細胞を元気にする効果があることがわかりました。

その効果はあまり長続きしないことから、倉恒先生は、慢性疲労症候群(CFS)の患者に対して、午前と午後の二回、心から笑える時間を持つよう勧めているとのことです。

(2)香り

急性疲労を抱えた人たちに、一方は都市部の日陰、他方は森林浴で休んでもらう実験をしました。すると、以下のような違いが生じました。

◆疲労感:どちらも回復
◆意欲やイライラ、落ち込み:森林浴のグループだけ回復
◆活性酸素:森林浴のグループだけ減少

つまり、都市部で休んだ人は、休んだ気になっただけで、森林浴をした人たちは、本当の意味で体が休まっていたということです。

この違いは、緑の香り(Green Odors)にあるそうです。

ネズミの実験でも、サルの実験でも、緑の香りは、元気なときには効果は見られませんでしたが、疲れているときには活動量を回復させる効果が見られました。つまり、疲れの予防には役立ちませんが、回復には役立つということです。

人間の場合は、交感神経の昂ぶりを鎮めるデータが得られたそうです。睡眠ウォッチによると、睡眠効率や日中の活動量も回復しました。

この緑の香りは、大阪のプロジェクト、「疲労バスターズ」(@busters_master)によって商品化され、グリーンリフレッシャーとして販売されています。

(3)食事

慢性疲労症候群(CFS)の人をメタボローム解析すると、エネルギーを生み出すクエン酸回路に関わる各種物質が低下していることが分かったそうです。

食べ物は、ブドウ糖→クエン酸→イソクエン酸→エネルギー という経路を経て活用されますが、CFS患者では、イソクエン酸以降の変換を担うクエン酸回路の働きが低下していました。

これは理化学研究所 細胞機能イメージング研究チームの片岡先生らによって分かったことで、疲労を客観的に評価する方法として、特許の取得が進められています。

倉恒先生は、このクエン酸回路にかかわる栄養素をとるよう勧めらておられました。それには以下のようなものがあります。

◆ビタミンC
酸化ストレスを処理できます。ネズミに負荷をかけて水泳させたところ、ビタミンCを含む餌を与えたほうが、浮いている時間が延びました。

◆フルスルチアミン(ビタミンB1)
クエン酸回路において重要な役割を果たします。この吸収を助けるのが、アリナミンの由来になったアリチアミンで、ニンニク、タマネギ、ニラに含まれます。

◆クエン酸
クエン酸やコハク酸の燃えカスがクエン酸回路を働かせます。クエン酸は黒酢などに含まれている有機酸で、コハク酸は貝類に含まれています。

◆コエンザイムQ10
クエン酸回路の先にあるエネルギーの工場、ミトコンドリアを安定化させます。慢性疲労症候群(CFS)の患者でも欠乏している人が多く、コエンザイムQ10の服用により症状が改善する人もいます。幸いコエンザイムQ10は多く摂っても副作用がありません。

疲労に関わるQ&A

最後に質疑応答時間が設けられました。質問は全部で5つありました。

1.疲れにくい体質にするには?

まだ答えがないとのことです。今はまだ、予防する方法を調べている段階です。

しかし、幾つかの企業では、疲労を客観的に評価する検査法を用いてフィードバックしながら、疲れにくい体質を作るトレーニングプログラムを試行錯誤しているようです。

2.疲れをとる運動は?

ストレッチなどの軽い運動によって、溜まっている老廃物を再び血液中へ流すことが効果的です。

しかし慢性疲労症候群(CFS)の人の場合は注意が必要です。運動が良いと聞いて行い過ぎると症状が悪化する危険があります。ボーダーラインは、翌日も疲れが残るかどうかです。疲れが残るようなら運動量を減らします。

3.どんな食事がいい?

ビタミンB1の吸収を助けるニンニクや、クエン酸を含む酸っぱいものが勧められました。しかし残念ながら普通の酢は酢酸であり、クエン酸の効果はありません。望ましいのはレモンを一日一個取ることです。

よくバランスの良い食事が勧められますが、疲労回復に効果のある栄養素をピンポイントで大量に摂取することも必要だと言われていました。

4.寝る前のお酒は?

お酒を飲んで眠ると交感神経が下がらず、眠りの質が悪いそうです。お酒を飲むことにはメリットがありますが、眠る目的で飲むのは良くないとのことでした。

5.眠りを改善するには?

幾つか方法が挙げられました。

◆軽いストレッチ
寝る前に行うと、自律神経のバランスを改善します。

◆アロマ
自分にあったものを見つけると効果的です。

◆入浴
37-39℃のお湯に10分ほど浸かると、深部体温が上昇します。そしてその後30分ぐらいのあいだに深部体温が下がっていき、それと共に眠気が生じます。

倉恒先生は、すべて用事を終わらせてから入浴するよう、慢性疲労症候群(CFS)の患者さんたちに勧めているとおっしゃっていました。歯磨きや家事はすべて終わらせ、入浴後には寝床へ直行して電気を消します。すると、うまく寝つけるとのことです。

終わりに

最後に倉恒先生は、疲労はマイナスのアラームではなく、体の変化を教えてくれる信号だと言われました。

そして、これから活発に情報発信するので、薬に頼ることなく、疲労をリセットする方法をいろいろ試して、健康管理をしてほしいと述べて締めくくられました。

最後に、番組内で紹介された書籍及びリンクを引用します。

危ない!「慢性疲労」 (生活人新書)
倉恒弘彦先生の著書。疲労研究の内容がまとめられている。

 ◆厚生労働省疲労研究班
疲労に関する研究の情報発信地

日本疲労学会
疲労を研究する人たちの集まり

大阪市立大学医学部附属病院 疲労クリニカルセンター
慢性疲労症候群(CFS)の診察の中心地

ちなみに、この一連のエントリは、放送時に速射マインドマップをとってまとめました。かいたマインドマップは乱雑でお見せできませんが、マインドマップはこうした速記メモに適しています。

短時間で見栄えのいいマインドマップをかく方法
マインドマップで講演のノートやメモをとるとき、カラーペンを使ってカラフルに書いていると時間が足りませんし、かといって走り書きすると、あまり見返したくないマインドマップになりがちです
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