続・思考に霧がかかった状態「ブレイン・フォグ」にどう対処するか


「まるで頭に霧がかかったようだ」

120815ブレインフォッグそのように思うことはありますか。思考がうまく働かず、人と会話するのも、文章を読み書きするのも、ちょっとしたことを記憶するのも煩わしい。こうしたCFS独特の症状は「ブレイン・フォグ」と呼ばれるそうです。

以前のエントリで、このブレイン・フォグとは何か、そしてどう対処できるかという点を考えました。この追加記事では、ブレイン・フォグの原因やメカニズム、対処法についてさらに詳しく考察します。

 

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子どもの慢性疲労症候群の研究から

 ブレインフォグとは、CFS特有の高次脳機能障害、思考に靄がかかったような状態の通称です。これによって人の名前が覚えられない、日常会話が難しいなど、多彩な症状が生じます。踏み込んで言えば、思考の混乱に近い状態です。

思考に霧がかかった状態「ブレイン・フォグ」にどう対処するか
慢性疲労症候群(CFS)の主要な症状のひとつに「ブレインフォッグ」というものがあります。「思考に霧がかかったような」と表現され、記憶や会話や読み書きが困難になることが特徴です。この

ブレインフォグは、なぜか慢性疲労症候群(CFS)の研究では、あまり取り上げられることのない症状です。ところが、別の疾患の研究においては、非常に深い考察がなされています。その疾患とは小児慢性疲労症候群(CCFS)です。

小児慢性疲労症候群(CCFSとは

小児慢性疲労症候群(CCFS)は、これまで大阪市立大学の倉恒先生のチームとは別に研究されてきた慢性疲労症候群(CFS)の一形態です。

2001年、三池輝久先生を班長とするCCFS研究班が組織され、診断基準や治療法が制定されました。その活動は諸外国とも連携し、現在は「小児慢性疲労症候群国際基準」に基づいて診断・治療・研究が行われています。

わたしの知る限り、小児慢性疲労症候群(CFS)について解説した資料のうち、最も分かりやすいのは、学校を捨ててみよう!―子どもの脳は疲れはてているという三池輝久先生の著書です。より詳しいことは不登校外来―眠育から不登校病態を理解するに書かれています。

子どものCFSの主な症状の一つ

CCFSは非常にはっきりした特徴を持つことで知られています。多くの子どもたちに見られる共通症状は(1)強い易疲労性 (2)睡眠相後退症候群 そして(3)学習・記憶機能障害です。最後の学習・記憶機能障害が、いわゆるブレイン・フォグではないかと思います。

これらは、大人の慢性疲労症候群(CFS)にも見られる特色です。しかし、小児慢性疲労症候群においては特に顕著なため、中核症状と表現されています。

混乱状態

わたしはブレイン・フォグを、単なる「思考に靄がかかった状態」以上のもの、「混乱」に近いと表現しました。

ブレイン・フォッグは、丁寧に整理した書類を、床に散らけてしまった時の惨状に似ています。すべてがバラバラになり、拾い集めて整理する労力を考えると途方に暮れてしまうのです。ブレイン・フォグは思考がバラバラになった状態です。

興味深いことに、三池先生は、「小児型慢性疲労症候群では情報の混乱がおこっており、情報が正しく伝えられていない」と指摘しています。また「神経線維間の情報の伝達に混線が起こり始めている、すなわち脳の働きに混乱が生じている」と述べています。

わたしは当初、ブレイン・フォグを「シナプスがバラバラに崩壊したようだ」と表現していたのですが、三池先生がずっと以前から「シナプスの混乱」という表現を用いていたことを知り、驚きました。まさにそのとおりの症状でした。

この認知の障害はいろいろな場面に影響を与えます。不登校外来―眠育から不登校病態を理解するにはこうあります。

読書をしても頭に入らない、暗記物は何とかこなせるが、文章読解問題や作文が嫌だ、またさらには雑誌やマンガを読むことさえ苦痛である、テレビやラジオを視聴するのが疲れて視聴したくなくなった、目では見ているがストーリーは入っていかない、手芸や絵を描くことが好きだったが面倒くさい、絵は描くが写し描きばかりするようになった、という声を聞く。(p73)

人とのかかわりに障害が起こり、人と会うことに異常な疲労を覚える状態になっている。

…脳機能のバランスを欠くために脳全体の細胞群を総動員して興奮させなければならず、エネルギー消費が高度となり脳神経細胞に対する負担が大きくなる。(p85)

学習・記憶機能障害の原因

学習・記憶機能障害はどのような原因で起こるのでしょうか。

そのひとつは、脳の血流の低下にあります。小児慢性疲労症候群(CCFS)の子どもは、前頭葉や視床において、血流が低下していることがわかっています。

二つ目に、三池先生たちは、MRSを用いた検査によって、前頭葉にコリンという物質が蓄積していることを発見しました。

コリンは記憶や学習をつかさどる神経伝達物質、アセチルコリンの材料です。ところがアセチルコリンが造られなくなってしまって、材料だけが不良在庫になっているのです。

その原因のおおもとは、ミトコンドリアの機能障害にあると見られています。ミトコンドリアという発電所によって、コリンからアセチルコリンを造るためのエネルギーが供給されるからです。

大人のCFSのブレイン・フォグ

大人の慢性疲労症候群(CFS)でも、これらと似た研究結果があります。

たとえば、CFSで初めて明らかになった他覚所見は、脳機能異常だったそうです。CFS患者の脳では、前頭葉をはじめ、さまざまな部位で血流が低下していることは、以下のエントリで書きました。

日本の疲労研究が明らかにした「慢性疲労に陥るメカニズム」と対処法まとめ
慢性疲労症候群研究の第一人者、倉恒弘彦先生の講座「慢性疲労に陥るメカニズムと評価・対処法」を参考に、日本の疲労研究の歴史や、慢性疲労の原因などをまとめました。

いっぽう、最近明らかになった点としては、大人のCFS患者の脳内のコリンが低下しているという事実があります。論文によると、「この結果は認知能と関連するCFS患者における集中力低下の原因を証明した」と考えられています。

検査でわかるようになる? 研究でわかった慢性疲労症候群(CFS)の10の異常
平成23年度の最新の慢性疲労症候群(CFS)の研究について紹介するエントリです。CFSは、これまで検査では異常が出ないとされていましたが、客観的な10の検査法が確立されつつあります

子どもの場合はコリンが蓄積し、大人の場合は低下しているわけですが、わたしは専門家ではないので詳しい意味はわかりません。調べた場所が違うのでしょうか。

どちらにしても、ひとつ言えるのはアセチルコリンの産生低下につながっているということです。どうやら、ミトコンドリアの機能障害におおもとの根っこがあるようです。

学習・記憶機能障害を克服するには?

ここまでブレイン・フォグをCCFSの学習・記憶機能障害と比較して、原因とメカニズムに焦点を当ててきました。では、どうすれば、この思考の混乱状態に対処できるのでしょうか。

学校を捨ててみよう!には、対処法として、以下の3つ+αが書かれています。(p203-206)

■ジクロロ酢酸ナトリウム
小児慢性疲労症候群(CCFS)では、血液中のピルビン酸が増えていて、血糖が高く、糖からのエネルギー生産が低下しているそうです。

そこで、ミトコンドリア病に効果のあるジクロロ酢酸ナトリウムを使い、ピルビン酸脱水素酵素複合体を賦活すると書かれています。

■中鎖脂肪酸をつかった食事
成人型の慢性疲労症候群(CFS)において飢餓療法が功を奏する(脂質からのエネルギー生産性が保たれている)ので、中鎖脂肪酸を含む食事で、エネルギー生産を狙います。

中鎖脂肪酸を含む食事は、ミトコンドリアにおけるエネルギー生産性に優れています。ミトコンドリアに物資を運ぶには、カルニチンという“運送トラック”が必要ですが、中鎖脂肪酸の場合はそれが必要ないのです。

中鎖脂肪酸は酢やチーズ、ココナッツオイルに含まれるほか、中鎖脂肪酸油(MCT)という100%中鎖脂肪酸の油も販売されています。

■抗コリンエステラーゼ
前述のように、中枢神経においてコリンが蓄積しているので、アルツハイマー病に関係する抗コリンエステラーゼを用いるそうです。

アルツハイマー病では、コリン作動系神経細胞群が減少しています。これはアセチルコリン(ガソリン)はあるものの、車(神経細胞群)がない状態です。小児慢性疲労症候群(CCFS)。では、車はあるものの、ガソリンがない状態なので似ています。

抗コリンエステラーゼを使った治療は、アメリカでは、学習・記憶力障害や、ADHDの子どもの治療に効果を上げているとのことです。

追記:
前編で取り上げたように、線維筋痛症のブレイン・フォグ(Fibro Fogとも言われる)で、メマンチン(memantine)が有効だったという研究がありました。

線維筋痛症の痛みやブレイン・フォグにメマンチン(認知症の薬)が効く?
線維筋痛症の治療にメマンチンが有効だそうです。

ブレイン・フォグに対処する

ブレイン・フォグは慢性疲労症候群(CFS)の症状において、かなり厄介な部類であり、後遺症として残りやすいとも言われています。

しかし、ブレイン・フォグを学習・記憶機能障害として見れば、すでにメカニズムがかなり明らかになっている症状に思えます。ポイントはエネルギーの生産機構の正常化であり、そのための具体的な手段も、決定だとはいえないものの、いくつかあります。

このエントリに挙げたことは個人では試しにくい点ばかりですが、これからの進展に、少しは希望が持てるのではないでしょうか。

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