不登校は「心理的な問題」と漠然としていてつかみようもない解釈がなされつづけてきたが、実際には中枢神経機能障害、ホルモン分泌機能障害、免疫機能障害の三大障害を伴うものであり、人生最大の危機に発展する例があることが分かってきた。(p3-4)
このブログを読んでくださっている方であれば、上の説明を読んで、ある病気の名前が思い出されるかもしれません。そう、神経・内分泌・免疫系の複合障害である慢性疲労症候群(CFS)です。
書籍「学校を捨ててみよう」はそのセンセーショナルな題名に隠れがちですが、子どもたちの慢性疲労症候群(CCFS:childhood chronic fatigue syndrome)を徹底的に分析した、いわばCCFSの教科書です。
個人的には、この本は、「危ない!慢性疲労」に並ぶCFSの必読書だとさえ思います。大人のCFS患者にとっても、比較的若い慢性疲労症候群(CFS)患者にとっても、そして子どもの不調に悩む親の立場の方にとっても、参考になります。
この一連のエントリでは、書籍「学校を捨ててみよう!―子どもの脳は疲れはてている 」を中心に、関連する幾つかの書籍の情報も加えつつ、CCFSについて5回にわたり解説します。
目次 ( 各項目までジャンプできます)
これはどんな本?
著者の三池輝久先生は、熊本大学医学部附属病院長として長年、子どもの筋疾患や発達障害を診てこられた方です。現在は、子どもの睡眠と発達医療センターのセンター長を務めておられます。
三池先生は、長年不登校の子どもたちを診察してこられましたが、1990年ごろ、自らの意志に反して登校できない子どもたちの場合、多くが、慢性疲労症候群(CFS)の診断基準を満たしていることに気づくようになりました。
不登校の子ども、引きこもりの子どもが増えていることは、もはや久しい社会問題です。熱血教師が反抗的な子どもたちを救うドラマや、“自分探し”が流行したこともあり、不登校は多くの場合、“心の問題”とされてきました。
また子供の非行が増えたり、凶悪な少年犯罪が生じたりすると、“家庭の問題”という言葉で片づけられ、あたかも対岸の火事のようにみなされてきました。だれも、自分たちに責任があるとは考えず、責任の所在がないがしろにされてきたのが不登校の歴史です。
ところがこの本では、そうした子どもたちの問題は、今の社会、学校教育、そしてそれらを作ってきた大人たちすべてに責任があると断言されています。そして、そのような環境がつくり出した病のひとつとして、CCFSの詳細なデータが挙げられています。
小児慢性疲労症候群(CCFS)とは
小児慢性疲労症候群(CCFS)は、世界的に研究されている子どもたちの病です。p34には、『イギリス、アメリカ、オーストラリアの小児科医たちもまた「登校できない子どもたちの多くが慢性疲労症候群を抱えている」との認識』を示したと書かれています。
小児慢性疲労症候群についてのラジオの医学講座によると、1985年には、アメリカで群発の202例が報告され、そのうち65例、33%が18歳以下の子どもでした。
2004年には、厚生労働省研究班により、国内におけるCCFS診断基準が制定され、2007年には、マイアミで開かれたIACFS総会において、CCFSの国際的な診断基準が定められました。
CCFSは「頭痛・腹痛が目立ち保健室に行く回数が増えたり、週に一日なんとなく休みがはじまるなどの状態」が発症の兆候ですが、『家族や学校側も「こころが弱い」「怠け」等と若者たちを責め、叱咤激励して無理に登校を強いて』 しまい、重症化します。(p38)
しかしついに学校に行けなくなっても、小児科医や精神科医たちは「お宅の子どもさんは医学的に何の問題もありません」と主張し、一方的に「学校嫌い」のレッテルが貼られます。(p56)
三池先生は不登校の子どもたちがこうした無理解にさらされることについて以下のようにつづっています。
「不登校は病気ではなく、何らかの心理的葛藤から登校できない状態」の認識は深く浸透してしまって、固定されてきた歴史がある。
…[しかし]心身ともに健康で、食事や睡眠時間は規則的であり、しっかりした日常生活も楽しめていて、思考もしっかりしており、社会のために何らかの社会活動さえ可能であるなどという不登校はありえない。
まず、きわめて強い易疲労性(ミトコンドリアにおけるATP生産性の低下による)と、勉強が頭に入らない学習・記憶障害が合併する。(p58)
しかし、あえて言わせてもらうなら、彼らがいかに自分の不調を訴え、なんとか現状を打開しようともがいたところで、両親にしろ教師にしろ、最初から疑って信用していないのであるから、彼らの苦悩が見えるはずもないのである。(p100)
線維筋痛症の専門家、戸田克広先生は著書線維筋痛症がわかる本―原因不明の痛み、治らない痛みに悩んでいるあなたへの中でこう述べています。
日本では、大人でさえ慢性疲労症候群と診断されることは少ないため、小児の診断はなおさら困難です。小児は語彙の不足から、自分の症状を適切に表現できないことがあります。
親や医師に病気そのものを否定されてしまうと、しばしば症状を訴えなくなります。親や教師が、慢性疲労症候群の小児を怠け者とみなしてしまうと、大人の患者さん以上に孤立してしまいます。
疲労感や痛みを訴えるいわゆる引きこもりや不登校の青少年に対して、さまざまな検査を行っても異常が見つからない場合には、慢性疲労症候群や線維筋痛症を、あるいはそれらの合併を疑うことが望ましいと思います。(P164-165)
大人の慢性疲労症候群の専門家、倉常弘彦先生や渡辺恭良先生による本危ない!「慢性疲労」 (生活人新書)の中では、小児と大人の慢性疲労症候群の接点についてこう書かれています。
小児期に発病し、「不登校」と診断された子どもが、大人になり慢性疲労症候群と診断されて治療を受けているというケースも数多く報告されております。
今後は小児科と内科、精神科などが密接に連携して診断と治療に当たっていく必要があります。(p96)
「自らを責めながら生きている」
小児慢性疲労症候群(CCFS)は重い病気です。それは、日常生活がままならないほど症状が重いためでもありますが、なかなか病気と認めてもらえないため、自分で自分を責めさいなんでしまう、という心理的問題もあります。
人生経験の浅い子どもたちは、自分の不調について、これは病気だと自信をもって断言することができません。周囲から「怠けている」「仮病だ」と言われ続ければ、そうではないと思ってはいても、自分は特別にダメな人間なのだろうかと思うようになってしまいます。
三池先生は、小児慢性疲労症候群(CCFS)の子どもたちが置かれている状況を次のように要約しています。
大人といえども、一日の大部分を寝て暮らさなければならない慢性疲労症候群に陥ったとき、絶望と戦いながら生きつづけなければならない。
学生にしても同じことである。彼らは日常生活が半分以上も制限されるなかで、登校できない自らを責めながら生きている。
登校できなくなった初期には、一日のほとんどをごろごろして過ごしているのである。
そのあと、しだいに回復には向かうものの、その速度はきわめて緩やかであり、元通りの元気な状態に戻るには数ヶ月から数年を要することはほとんど知られていない。 (p68)
大人の慢性疲労症候群(CFS)は、ここ数年、患者会の活動やメディアの報道を通して、少しずつ知られるようになってきました。しかし小児慢性疲労症候群(CCFS)については大人のCFS以上に無知と無理解と偏見とが横行しています。
そのため、いまだに適切な治療を受けられず、小児科医や精神科医、教育者、場合によっては家族からさえ人格を否定され、「責められ、なじられ、馬鹿にされつづけ」、周りの人をだましている、大げさに言っている、意欲の問題だなどと「叱咤激励され」、追い詰められている子どもたちは跡を絶ちません。(p58、220)
CFSは単に大人だけの問題ではありません。子どもの場合も、CCFSという独特な問題があることを、不登校の子どもの家族の方や、大人のCFS患者の方たちにも知ってもらいたい。そう思って、このエントリを書いています。
続く2番目のエントリでは、小児慢性疲労症候群(CCFS)の症状の12の特徴を、医学的なデータとともに紹介したいと思います。