夜眠れず朝起きられない「睡眠相後退症候群(DSPS)」にどう対処するか(3)原因と予防


121003睡眠障害のエントリは、CFSに合併しやすい概日リズム睡眠障害のひとつ、睡眠相後退症候群(DSPS)について解説する一連のエントリの3番目です。

2番目のエントリでは、DSPS特有の症状をまとめました。この3番目のエントリでは、DPPS発症の原因、予防する方法について解説します。

 

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発症の前触れ 睡眠不足症候群(BIISS)

睡眠相後退症候群(DSPS)はある日突然発症するわけではありません。前段階として、睡眠不足症候群(BIISS)を伴います。BIISSは“Behaviorally insyfficient sleep syndrome”の略で、直訳すると「生活習慣により引き起こされる不十分な眠り症候群」となります。

BIISSは学業や仕事など、社会生活に適応するため、睡眠時間を削る生活が日常化した状態です。何らかのストレス背景により生じる慢性的な睡眠不足といえるでしょう。

BIISSの初期は、脳が不安・緊張状態に適応しようと興奮するため、一時的にエネルギーの生産性が上がります。そのため、とても活動的に見え、子どもの場合は成績が伸びることも珍しくありません。

しかし、ある時期を超えるとエネルギー生産が停止し、代わりに熱が作られるようになります。次いで、限界に達し、一日10時間以上眠る過眠型睡眠障害に移行します。その一つが睡眠相後退症候群(DSPS)です。

BIISSも、DSPSと同様、本人は気づきにくい睡眠障害です。しかしこちらは周りの人の目には「怠けている」様子ではなく、異常ながんばりとして映り、心配されることがあります。

以下のサイトにはBIISSの11の特徴が載せられています。この特徴に気を配り、BIISSを避けるなら、睡眠相後退症候群(DSPS)という難治性疾患の発症を予防できます。

A:睡眠不足症候群 | 子どもの睡眠と発達医療センター | 兵庫県立リハビリテーション中央病院 はてなブックマーク - A:睡眠不足症候群 | 子どもの睡眠と発達医療センター | 兵庫県立リハビリテーション中央病院

睡眠相後退症候群(DSPS)の発症

睡眠不足症候群(BIISS)が長引くと、徐々に、場合によってはある日突然、睡眠相後退症候群(DSPS)へ移行します。それまで数時間しか寝ていなかったのが、毎日10時間も眠らなくては生きていけなくなるのです。

BIISSから発症するといっても、DSPSは次のようなものではありません。

◆BIISSの睡眠不足を補う 単なる過眠ではない
睡眠相後退症候群はその名のとおり、単なる「入眠時間」の後退ではなく、「睡眠相」、つまり視床下部視交叉上核(SCN)にある数万個の時計細胞の障害です。

書籍 不登校外来―眠育から不登校病態を理解するでは「眠らせる脳の機能が低下し、次に眠る脳の機能が障害を受けたものである」と書かれています。(p29)

◆夜間勤務などのために夜型にシフトした生活リズムではない
たとえ睡眠リズムが夜型にシフトしていても、眠れるときに寝て、起きられるときに起きる気ままな生活ではDSPSは発症しません。単なる夜型生活の場合は、体温やホルモン分泌のリズムも睡眠リズムと一致して移動し、バラバラになることはないからです。

自分の睡眠リズムに合わない社会生活時間に従うべく努力し続け、睡眠不足状態を重症化させた結果、DSPSを発症するのです。ダメージが中枢神経にまで及び、慢性疲労症候群(CFS)小児慢性疲労症候群(CCFS)を併発することも少なくありません。

◆時差ボケではない
睡眠相後退症候群(DSPS)の症状は時差ボケ(時差症候群)に似ています。しかし、時差ボケの場合は睡眠・体温・ホルモン分泌のリズムが一時的にずれても、すぐに同期しはじめます。

一方DSPSでは、一度バラバラになったそれらのリズムはなかなか同期せず、いつまで経っても時差ボケが治らないかのようになります。専門的には、時差ボケは「外的脱同調」と呼ばれるのに対し、DSPSの状態は「内的脱同調」と呼ばれます。すなわち内的要因によって起こる慢性的な時差ボケ状態に相当するようです。

DSPSの発症は次のような状況に例えられます。

1.鉄棒から転落する子どもに似ている

書籍 不登校外来―眠育から不登校病態を理解するp27にはこうあります。

それまで、両手で鉄棒にぶら下がって鉄棒の上に上がろうとしていた子どもたちが次第に耐えきれず、片方の腕だけになり、指一本になり、ついには転落した状態に似ている。指一本でもぶら下がっている状態と、鉄棒から落ちてしまった状態では、“天と地”程の差である。

まだ鉄棒にぶら下がっているときであれば、手を差し伸べれば、引き上げることができます。しかし転落してしまえば取り返しがつきません。

同様に、睡眠不足症候群(BIISS)の時点では、対処できますが、ひとたび睡眠相後退症候群(DSPS)を発症すれば、治療は極めて困難です。

2.慢性疲労と慢性疲労症候群(CFS)の関係に似ている

睡眠不足症候群(BIISS)と睡眠相後退症候群(DSPS)の関係は、慢性的な疲労が、さまざまな因子と組み合わさって限界を迎え、慢性疲労症候群(CFS)という病気に発展することにも似ています。

「慢性疲労」の段階では休めば回復します。しかし、ひとたび「慢性疲労症候群(CFS)」を発症すると、神経・内分泌・免疫系のシステムが破壊されるため、容易に回復しません。症状も、「慢性疲労」の段階とは比べ物にならないほど桁違いに深刻さを帯びます

同様に、睡眠不足症候群(BIISS)、つまり単なる入眠時間後退の段階であれば、生活習慣の調整によって、睡眠不足を補うことができます。しかし、ひとたび限界を迎えて睡眠相後退症候群(DSPS)を発症すると、回復することは至難の業になります。

前述の鉄棒の例えの続きで、睡眠相後退症候群(DSPS)はこのように形容されています。

この状態の過眠(10時間睡眠)の多くは睡眠相後退型で睡眠相後退症候群(DSPS)とよばれる昼夜逆転傾向をもつ難治性の睡眠障害であり、日常生活を不可能にする究極の睡眠障害である。

学校過労死

とりわけ、子どものDSPSには、共通する典型的な原因がしばしば見られます。書籍 不登校外来―眠育から不登校病態を理解するによれば、問題となるのは次のような理不尽な環境です。

「10歳前後のまだまだ未熟な脳を抱えた子どもたちを真夜中まで“お勉強”に向かわせる」、
「スポーツ少年団と称し夜遅くまで子どもたちを働かせている」、
「仕事だといって夜遅く帰っては子どもを起こして風呂に入れたりする」、
「子どもを真夜中にコンビニに連れていく」(p120)

そのうえで、部活の朝練や“早起き運動”と称して、「大人たちの勝手な自己満足」を押し付け、子どもたちを慢性睡眠欠乏状態のままハードな競争社会へ送り込む。(p86)

学生の場合、クラブ活動や、塾、習い事、大量の宿題が課せられるにもかかわらず、朝早く起きなければなりません。しかも、それらに選択の自由がないため、睡眠時間が欠乏しがちなのです。

小児慢性疲労症候群(CCFS)とその中核をなす睡眠相後退症候群(DSPS)は、このようないびつな社会環境によって引き起こされる病態なので、三池先生は学校過労死―不登校状態の子供の身体には何が起こっているかという本を書いています。

DSPSのその他の原因

そのほか、DSPSの原因には、慢性的な睡眠不足以外の因子も関係していると言われています。それには以下のようなものがあります。

◆遺伝
DSPSは家族性の傾向があり、遺伝が関係しているとみられています。ですから、家族に難治性の昼夜逆転傾向の人がいる場合、発症のリスクが高まるかもしれません。

体内時計の謎に迫る ~体を守る生体のリズム~ (知りたい!サイエンス) にはこう書かれています。

睡眠相後退症候群では、…時計遺伝子per3に異常があることが、その原因とされています。

647番目のバリン残基がグリシン残基に置き換わっている遺伝子多型がその原因です。 (P186-187)

◆体内時計の個人的特徴
DSPSを発症する人は、光によって体内時計を調節する能力が低下しているか、生まれつき通常より長い概日リズムの周期を持っている可能性があります。体内時計が特に長い場合は、DSPSを通り越して、非24時間型睡眠覚醒症候群と診断されるようです。

三島和夫部長らの研究グループが、睡眠リズム異常の原因を解明| 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター はてなブックマーク - プレスリリース詳細 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター

◆ADHDなどの発達障害

ADHD(注意欠如多動症)などの、生まれつきの脳の発達障害は、睡眠リズムが乱れやすいリスクになると言われています。

たとえば、ADHDの子どもは、乳幼児期になかなか寝てくれないなどの睡眠異常を示すことがよくあります。乳幼児のころのこうした睡眠障害が発達障害傾向を悪化させるという見解もあります。

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ADHD(注意欠如多動症)の人は、疲れているのに夜寝つけない、ついつい夜更かししてしまうなどの睡眠リズム異常を抱えやすいといわれています。その原因が意志の弱さではなく、脳の前頭葉な

◆慢性疲労症候群(CFS)への合併
体内時計の謎に迫る ~体を守る生体のリズム~ (知りたい!サイエンス) によると、生体時計が狂うことが疲労を引き起こす場合がある一方で、慢性疲労による視床下部の破綻から生体リズムの乱れが引き起こされることもあるとされています。(P191)

つまり、DSPSをきっかけにCFSを発症することもあれば、その逆もある、ということがわかります。健康であれば、睡眠相の後退を食い止められていたのが、日常生活が困難になると、抗う力がなくなってしまうからかもしれません。

よって、慢性疲労症候群(CFS)の発症につながるあらゆることが、DSPSの引き金になりえます。

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睡眠相後退症候群(DSPS)を予防する

睡眠相後退症候群(DSPS)は睡眠不足症候群(BIISS)の時点で予防するに越したことはありません。子どもの睡眠と発達医療センターやアメリカの睡眠医学会(AASM)の予防策をまとめると次のようになります。

1.就寝

◆入眠時間を一定にする
◆夜遅くとも0時までに就寝する
◆就寝前6時間の活発な行動は避ける
◆入浴は睡眠の1-2時間前にする
◆寝室にコンピュータやテレビを持ち込まない
◆寝室は静かで暗く、涼しくしておく
◆夜は飲食を控え、刺激物を取らない。空腹にはならないようにする
◆リラックス法を学ぶ
◆自分に必要な睡眠時間(個人差があるが、少なくとも6時間以上)を確保する

2.起床

◆起床時間を一定にする
◆朝は遅くとも8時までに起床できるよう生活を組み立てる
◆15分朝日を浴びる
◆何らかの形で朝食を摂る

3.日常生活

◆食事の時間を一定にする
◆土・日に睡眠不足を解消するようなひずみを避ける
◆学生の場合、徹夜の試験勉強や、課外活動は避ける
◆睡眠ログをつける

これらの点に普段から留意して、DSPSを予防するに越したことはありません。

それでも、ひとたびDSPSを発症すれば、こうした方法では改善できません。DSPSを治療するために、どのような方法があるでしょうか。一連のエントリの最後の部分では、DSPSの診断と治療について解説します。

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子どもの慢性疲労 / 概日リズム睡眠障害