発達障害を防ぐ「子どもとねむり」の大切さ


ちゃんのころに睡眠が欠けると、ADHD自閉症アスペルガー症候群などの発達障害になりやすい。さらには肥満アルツハイマー、小児慢性疲労症候群(CCFS)のリスクを伴い、寿命が短くなるかもしれない…。

最近の研究で、これまでまったく見過ごされていた、乳幼児期の眠りの大切さが注目されつつあります。書籍「子どもとねむり」は親の立場にある方にとって欠かせない一冊であり、そうでない人にとってもたいへん興味深い“眠育”の本です。

このエントリでは書籍「子どもとねむり」から、ねむりにはどんな役割があるのか、子どもの睡眠不足にはどんなリスクがあり、どのように対処できるのか、という点を紹介したいと思います。

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これはどんな本?

発育障害、小児神経・精神疾患、慢性疲労症候群などを専門とする子どもの睡眠と発達医療センター|兵庫県立リハビリテーション中央病院のセンター長、三池輝久先生が、子どもたちの睡眠の大切さを説明した本です。

特に乳幼児期の睡眠が、発達障害の発症を左右し、バランスの良い心をつくるカギを握っている、ということが論じられています。

「睡眠は大切」と口では言っていても、寝ずにがんばって他の人と差をつけることが美徳とされ、他のどんな国よりも速いスピードで平均睡眠時間を削っている日本の競争社会に警鐘が鳴らされています。

なぜこの本を手にとったか

睡眠は、疲労の科学においても、慢性疲労症候群(CFS)の研究においても、最も重要なキーワードの一つと考えられています。

疲労回復を左右する最も大切な要素が睡眠の質であり、慢性疲労症候群(CFS)の治療のカギを握るのもまた睡眠であり、小児慢性疲労症候群(CCFS)にいたっては、発症の原因そのものが睡眠不足と関係しています。

ですから、慢性疲労症候群(CFS)について情報を集めているこのブログで、睡眠の大切さを取り上げるのは、適切なことだと思いました。

慢性疲労症候群(CFS)と睡眠の関係については詳しくは以下のエントリをご覧ください。

夜眠れず朝起きられない「睡眠相後退症候群(DSPS)」にどう対処するか(1)DSPSとは
朝どうしても起きられない、夜なかなか寝つけない、一度眠ると10時間以上目が覚めない…そうした悩みは症状は睡眠相後退症候群(DSPS)の症状の可能性があります。一連のエントリの最初で

ねむりの役割

睡眠は大切だ、ということは古くからの常識ですが、それにしても睡眠はどんな役割を果たしているのでしょうか。具体的には次の3つの重要な働きがあるとされています。(p35)

1.神経伝達物質返還

活動時に使用した神経伝達物質をシナプス小胞に返還します。つまり、昼間使った神経伝達物質の在庫を補充するわけです。

2.ミトコンドリア休養

エネルギーをつくる役割を果たすミトコンドリアが、神経突起から細胞内に移動し、複製されます。つまり、疲れたミトコンドリアが自宅に帰って休養するのです。

3.神経伝達物質の再分配

脳幹調節機構とその他の部位で、神経伝達物質が再分配されます。つまり、家計簿を計算して、次の日のためにバランスよく予算が組まれます。

こうして、休養と調整が行われると、全身の時計機構のバランスが整えられます。良質のねむりがあってはじめて、一日の生活で生じた体の各部のアンバランスが解消されるというわけです。(p112)

それにしても「そもそも、子どもにましてや赤ちゃんに睡眠障害などあるのだろうか?」と考える方も多いでしょう。

しかし、親の夜型生活や人工白夜化された社会環境の影響で、日本の赤ちゃんと子どもの睡眠時間は世界で類を見ないほど少ないそうです。日本は、睡眠を世界一速いスピードで削っている国として知られています。(p15.26,54)

睡眠不足が発達障害の原因!?

これまでADHDや自閉症、アスペルガー症候群などの発達障害は、「先天的な背景」がある「子どもの個性」と説明されてきました。そのため、打つ手がなく、臨床心理士などに丸投げされていました。(p126)

睡眠問題はそれらの病気の随伴症と考えられていただけで、発症の原因であるとは、だれも考えもしなかったのです。(p110)

しかし最近、睡眠と発達障害の関わりを調べた論文が増えはじめ、睡眠を本来のものに戻すことで、DQ(Developmental Quotient:発達指数)が改善することが知られるようになったそうです。(p99)

三池先生はこう書いています。

人の生活は、さまざまなリズムによって行われています。…健康に生きるには、脳のはたらきを調整する生体時計のはたらきが全身でほぼ一致していることが大事なことだと考えられています。

このリズムが身体、あるいは脳のはたらきのあちこちでばらばらになる状態が現れると、どうなるでしょうか。

…「うまくはたらいてくれる脳」と「疲れが出てうまくはたらけない脳」が混ざり合って、ちぐはぐな状態になるのです。この状態が発達障害ではないかと考えられるのです。(p119)

最近、アスペルガー症候群の子どもたちの非常に高い脳機能が注目されています。にもかかわらず、彼らは発達障害の一つと考えられています。

…端的に言うと、ADHDや自閉症を含め、発達障害とは「脳機能の高低差が激しく、バランスを欠く状態」だと考えることができます。(p122)

最近読んだ書籍「アスペルガーですが、 妻で母で社長です。」の著者アズ直子さんも、眠りの浅い育てにくい子どもだったことを明かしておられました。

また、発達障害は遺伝的なものではないのか、という意見については、三池先生は次のようにコメントしています。

発達障害はたしかに遺伝的背景をもっていると思われますが、生活環境要因が加わって初めて問題が起こるのです。(p127)

ですから、発達障害はもともと遺伝的な要素はあるものの、乳幼児期の環境や睡眠障害を通して初めて表面化する、というのが三池先生の意見です。

さらに、睡眠不足は統計的に見て、肥満アトピーアルツハイマー、寿命の短さとも関係している、というデータも紹介しています。(p24,27,61,149)。

発達障害を予防するために

乳幼児に以下の状態が見られるときは、睡眠の問題を疑い、治療を受けるよう三池先生は勧めています。(p93-94)

1.なかなか入眠できない

2.睡眠中何度も目が覚めて、睡眠がまとまらない

3.一度目が覚めると1時間以上起きている

4.睡眠時間が9時間以下

5.不機嫌でないてばかりいる

6.母親が疲れ果てている

7.アトピーなどアレルギー疾患がある

具体的な治療法としては、まず睡眠表をつけ、問題を明らかにすること。そして家族のメンバー全員が遅くとも夜9時までに寝る生活を心がけることが勧められています。

それでも改善しない場合は、薬物療法として、おもにサプリメントのメラトニン、大人の血圧を下げる薬であるクロニジン、統合失調症治療薬のメジャートランキライザーであるリスペリドンが信頼されているようです。(p75,122,131-135)

三池先生は「勇気を持って思い切った処方を行うことが、治療成功の秘訣です。それには経験のある医師に相談することが大事でしょう」と書いています。(p125)

睡眠障害による健康問題は、年齢が進むほど治療が難しくなり、各発達障害は言わずもがな、睡眠相後退症候群、そして小児慢性疲労症候群(CCFS)などの難治性の睡眠問題に発展することもあります。(p85)

赤ちゃんの睡眠問題は、「子どもとはそういうものだ」とあしらわれがちですが、親は目ざとくあって早めに発達障害や深刻な睡眠障害の芽を摘むことが必要です。

“眠育”が必要

「ねむりを削ってがんばれば勝てる」などという塾があったり、「4時間半熟睡法」「三時間睡眠」がはやったりしている昨今、人々はねむりは削っても大丈夫と考えていて、ねむりの正確な知識をほとんど得ていません。(p16,149)

しかし、睡眠欠乏は、短期的に見ても長期的に見ても問題だらけであることが分かっています。

上記のフレーズは、理解を伴わず、ひとり歩きしています。わたしは、上記の「4時間半熟睡法」などの本を読んだことがありますが、そうした本では、毎日短時間睡眠で過ごすのは不可能で、睡眠時間を補充する必要があることが書かれています。

また、そうした短時間睡眠をいくらかでも取り入れることができるのは大人だけであり、子どもの睡眠時間を削って良い理由はどこにもありません。さらに、多くの場合、超短時間睡眠は特殊な才能であり、ふつうの人には不向きです。

ですから、近視眼的で根性論に基づいた“貧しい教育”をやめて、科学的なデータをもとに、子どもたちの将来を見据えた“眠育”を大切にするべき時代が来ているのではないでしょうか。

本書の中で、睡眠は子どもたちの「人権問題」だと言われています。確かに、睡眠をないがしろにする社会環境が発達障害や小児慢性疲労症候群(CCFS)の子どもたちを増やしているとすれば、それは明らかな人権侵害です。 (p142)

睡眠欠乏を美徳とするゆがんだ価値観に惑わされず、睡眠という自分や家族の大切な権利を擁護し、守っていきたいものです。

三池先生の“眠育”の取り組みについては以下の記事でも紹介しています。

アートチャイルドケアの「睡眠と生活リズム改善プロジェクト」三池先生らと協力
10/1付のMarkeZineに、アートチャイルドケアが、「睡眠と生活リズム改善プロジェクト」を実施することが掲載されました。小児慢性疲労症候群の研究者として有名な三池 輝久先生が
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ASD(自閉スペクトラム症) / 子どもの慢性疲労 / 概日リズム睡眠障害