睡眠リズムがどんどんずれていく非24時間型睡眠覚醒症候群(non-24)の原因と治療法まとめ

■同じ時刻に眠ることができず、睡眠時間帯が毎日遅れてゆく
■朝早く起きれるときもあれば睡眠リズムが逆転してまったく起きれないときも
■その時々で起きている時間帯が違うため、予定がうまく立てられない
■必死に学校や職場に合わせようとすると、時差ぼけ症状に苦しむ
■頑張りすぎて体調を壊し、ときには慢性疲労症候群(CFS)と診断される

24時間型睡眠覚醒症候群(non-24・非同調型・自由継続型)は、まだ分かっていない点が多い特殊な睡眠障害です。以前に睡眠相後退症候群について書きましたが、どちらも子どもの慢性疲労症候群(CCFS)に併発しやすい睡眠障害として知られています。

non-24の人の苦しみは並大抵ではありません。non-24が特集されている日経サイエンス2016年1月号の中で、専門医がこう述べていました

ボストンにあるベス・イスラエル・ディーコネス医療センターで睡眠科医を務め、概日リズム障害が専門のトーマス(Robert J.Thomas)は、「正直、どちらを選ぶかと聞かれたら、自分はnon-24よりも心臓病になったほうがましだと思う」と言う。

「それほど患者は苦しんでいる」。(p45)

non-24とは何でしょうか。どんな特徴があるのでしょうか。どんな原因により発症し、慢性疲労症候群と関わってくるのでしょうか。そして、どうやって治療するのでしょうか。

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非24時間型睡眠覚醒症候群とは何か?

非24時間型睡眠覚醒症候群(non-24:Non-24-hour sleep-wake syndrome)は、概日リズム睡眠障害(睡眠覚醒スケジュール障害)の一種です。自由継続型、非同調型などと呼ばれることもあります。

以前は全盲の人にみられる睡眠障害とされていましたが、今では、そうでない人たちの間にも広く発症すると言われています。

夜眠れず朝起きられない「睡眠相後退症候群(DSPS)」にどう対処するか(1)DSPSとは に書いた通り、慢性疲労状態の不登校の子どもなどに伴いやすい概日リズム睡眠障害は、おもに以下の3つに分類されます。

DSPS寝る時間は遅くなるが、周期は一定。不登校の子の多くはこのパターン。
non-24寝る時間はバラバラだが、周期は一定。難治例に見られる。
不規則型寝る時間も周期もバラバラ。乳幼児期から問題を抱えている場合がある。

non-24はDSPSと同様、慢性疾患であり、意志の力や家族の声かけなどでは治らず、社会生活に深刻な影響を及ぼします。

non-24の特徴は睡眠時間帯が毎日少しずつずれていくことです。体内時計を修正できず、睡眠時間帯がずれていくことをフリーランといいます。

どれくらいの周期でずれていくかは人によって異なります。睡眠障害の対応と治療ガイドラインによると、だいたい1時間前後が多いものの、3時間ずつずれる人や、日によって1-3時間ほどずれる度合いが変わる人もいます。(p205-209)

通常、non-24の睡眠記録表はとても特徴的な階段状になるので、一見診断しやすい病気に思えますが、そうとは限りません。

メラトニン研究の最近の進歩p179で国立精神神経センターの内山真先生(現日本大学医学部附属板橋病院)はこう述べています。

患者自身が一定の時刻に就寝し覚醒しようと努力する場合、周期的に不眠や覚醒困難として自覚される。

昼間に睡眠時間帯が出現する時期に日中無理に覚醒していても、眠気や注意力低下、集中力持続の困難や、易疲労感、倦怠感が出現する。

これらの症状のため、慢性疲労症候群と診断されることもある。こうした疲労症状は、患者の概日リズムにまかせて、毎日睡眠時間帯が遅れていくような生活をした場合は消失する。(p179)

同様のことは、日本臨牀 2007年 06月号 の中で、子どもの不登校(慢性疲労症候群)を研究している友田明美先生も指摘しています。

non-24患児は、入眠障害、入眠時刻が毎日遅れていくことに対して、一定の時刻に就寝しまた覚醒しようと自身で努力する場合、1ヶ月のうち10日ほどは著しい夜間不眠と日中過眠を示すなど、周期的な不眠や覚醒困難として自覚される。

これらの状況では、昼間に睡眠時間帯が出現する時期に日中無理に覚醒していても、眠気や集中力低下、集中持続困難や易疲労感、倦怠感が出現する。

遅れている睡眠時間を矯正することが困難なため、遅刻や欠席が多く、また日中に強い眠気に襲われたり、授業に集中できないといった障害が起こる。

無理をして社会のリズムに合わせようとすると逆に大きく睡眠のリズムを乱すこともあり、このように社会に適応できない状態が続くと二次的に抑うつ状態となることもある。(p1131)

たとえ体が求める睡眠時間帯は毎日ずれていくとしても、社会がそのような自由な生活を許してくれません。non-24を発症している患者は、学校や会社や家族の予定に合わせるため、毎日一定の時間帯に起床・就寝しようと努力していることがほとんどです。

そのため、睡眠記録表を取ると、月に10日ほど眠ることができない不眠症や、睡眠時間帯がばらばらに分断されている不規則型睡眠覚醒パターンのように見えることがあるようです。

確かな診断を得るには、ある程度長い期間にわたって睡眠記録表をつけることが必要かもしれません。

睡眠障害の対応と治療ガイドラインによると、DSPS(またはDSPT:delayed sleep-phase type )は2週間の睡眠記録表で診断できるのに対し、non-24(非同調型)は1ヶ月半の記録が必要だと書かれています。

無理やり社会生活に合わせているため睡眠記録表で判断しにくい場合は、深部体温の連続測定血中メラトニンリズムの測定が決め手となります。

非24時間型(non-24)の睡眠表2わたし自身、今は薬で抑えているものの、過去にnon-24の診断を受けていて、ある時期の睡眠表は右図のようになっていました。

後述するようにnon-24の症状は変動性があるため、もっとずれ幅が大きかった時期や、不規則型に近い睡眠表になっていた時期もあります。

このようにnon-24は、困難な症状を伴うものの、しばしば不眠として見過ごされていることもある不思議な睡眠障害です。

non-24の特徴は?

次に、non-24には、どのような特徴があるのかを知るために、通常の睡眠障害や、同じ概日リズム睡眠障害の、極端な宵っ張りの朝寝坊、しかし日によってずれていったりはしないタイプである睡眠相後退症候群(DSPS)と比べてみましょう。

■眠気:
メラトニン研究の最近の進歩によると健常者と比較して、睡眠相後退症候群(DSPS)や非24時間型(non-24)ではメラトニン分泌が始まっても眠くならないことが報告されています。

これは睡眠中枢が反応不良を起こしているためとされています。脳の興奮を鎮めることができず、寝ようとしても眠くならないので時間がずれていくのです。(p183)

■睡眠薬:
同書によると「通常の睡眠薬の投与で睡眠のタイミングを正常化しようと試みてもなかなか成功しない」と書かれています。(p179)

睡眠障害の対応と治療ガイドラインでも睡眠薬として一般的な、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は生体リズムに関与しないため、効果は期待できないとされています。(p209)

■深部体温のリズム:
メラトニン研究の最近の進歩
によると、健康な人では、睡眠の“後半”、つまり深夜4時ごろに深部体温(体の芯の温度)が最も低下するという自然なリズムが見られます。(p178)

しかしDSPSでは時間がずれているので、睡眠の“中ほど”に最低体温が現れます。このため、朝起きようとしても、深部体温が最も低い時間と重なるため、起きることが困難です。

これに対し、non-24では最低体温が睡眠の“前半”に出現し、しかも毎日ずれていきます。毎日の予定を立てることが非常に難しく、睡眠の質も日によって不安定になります。

そして小児慢性疲労症候群(CCFS)ではそもそも深部体温が下がらず、深部体温のリズムが平坦化しています。これはお年寄りに見られるパターンと似ていて、成人の慢性疲労症候群にはあまり見られないそうです。

深部体温のリズムが平坦化していると、眠りの質が悪く、疲れが回復しないことが考えられます。ですから、DSPSやnon-24は単独でも厄介な病気ですが、慢性疲労症候群が合併すると、睡眠リズム異常に疲労感が上乗せされ、日常生活が不可能になります。

■光への反応性:
メラトニン研究の最近の進歩によると、朝の高照度光によって睡眠リズムが修正されて前倒しになる反応が起こりにくくなっているか、あるいは夜の光により睡眠リズムが後ろへずれこむ反応が起こりやすくなっていると考えられています。(p180-181)

つまり光反応性が低下している場合と、過敏になっている場合があるようです。朝日を浴びても睡眠リズムが元に戻らず、夜にちょっとした光を浴びるだけで、睡眠リズムが狂いやすいということのようです。

うつとの関わり:
以下のニュースにはこう書かれています。
睡眠時間がずれていく!非24時間睡眠覚醒症候群とは [不眠・睡眠障害] All About

ある程度の期間、非24時間睡眠覚醒症候群が続くと、多くの患者さんがうつ状態になります。

これは、昼間に会社や学校へ行けず、社会生活ができなくなることへのストレスのほか、日光に当たる時間が短くなることや、体内時計がうまく働かないことも原因だと考えられています。

non-24の人はもともともうつ傾向があるわけではありません。もしうつ病と誤診されるとしたら、non-24の苦労による二次障害が出ているためです。

わたしの場合、十分な睡眠時間を取っていれば、うつは感じません。しかし、無理やり社会の時間に合わせようとしていた時期はイライラしたり落ち込んだりしやすくなりました。ときには徹夜せざるを得ないこともあり、睡眠時間も不足しました。

最近の三島和夫先生の研究で示されていましたが、うつ状態になるのは、社会の時間に合わせようとすることで生じるストレスに加え、睡眠不足も関係しているかもしれません。

平日わずか5日間の睡眠不足が抑うつリスクになる - QLifePro医療ニュースはてなブックマーク - 平日わずか5日間の睡眠不足が抑うつリスクになる - QLifePro医療ニュース

■年齢により悪化する?:
主治医によると20歳を過ぎてから悪化する例が多いそうです。わたしの場合も、non-24が悪化して治療法を変えた時期がありました。活動量を増やしたためだと考えていたのですが、年齢の影響とも考えられます。

脳科学と学習・教育にはこう書かれています。

年齢が上がるにつれて24時間生活を保つ力が減少し、生活リズムが次第に24時間より長くなると同時に生活リズムの幅が大きくなってパラける傾向を示した。また24時間リズムに戻す力が衰退していくことが分かった。 (p77)

■他のタイプへの移行:
ここまで見てきたようにnon-24とDSPS、そして不規則型は一見ずいぶん異なるようですが、互いに移行することもあるので、3つに明確な境界線はないとも言われます。

睡眠障害のトピックス:睡眠・覚醒リズム障害について - 日本医科大学の中で現やまでらクリニックの山寺博史先生はこう述べています。

非24 時間型睡眠・覚醒障害や睡眠相後退症候群や不規則型睡眠・覚醒パターンを治療して経過をみていると非24 時間型睡眠・覚醒リズム障害が睡眠相後退症候群に移行したり,逆の経過をたどったりとこの3 群のなかで移行が認められることがある。

…これらのことから,睡眠・覚醒リズム障害は確かに存在するが,上記の下位カテゴリーでの分類を疑問視している研究者もいる。

この考え方では、DSPSとnon-24の病態は連続していて、DSPSがより重症化したものがnon-24だとされています。

non-24の原因は何か?

non-24の原因は長い間よく分かっていませんでしたが、昨2012年、国立精神神経センターの三島和夫先生の研究グループが手がかりを発見しました。プレスリリースにはこう書かれています。

プレスリリース詳細 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センターはてなブックマーク - プレスリリース詳細 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター

概日リズム睡眠障害(睡眠・覚醒リズム障害)の一型である非同調型の発症に体内時計周期の異常が関連していることを世界で初めて明らかにしました。

…本研究の結果、標準型生活者の体内時計周期(その人の一日の長さ)は平均24時間7分であったの対して、非同調型では平均24時間29分と大きく延長していました。

非同調型では周期が異常に長いため、遅れてゆく体内時計を24時間の昼夜リズムに日々時刻合わせをすることが困難になっている(慢性的な時差ぼけに陥っている)ことが明らかになりました。

つまり、non-24の患者は、遺伝的に体内時計の周期が長いようです。もともと遺伝的なリスクがあり、そこへ夜型生活や病気などの環境が重なると、発症してしまう場合もあるようです。

遺伝的な体質が原因である点についてさらにこう書かれています。

概日リズム睡眠障害の患者さんの多くでは幼少時から夜型傾向が見られます(環境ではなく体質が強く関連)

周期が長いほど睡眠リズムを調節する治療(時間療法)の効果が得られにくかったことも、非同調型の発症と治療経過に体内時計の周期の長さが重要な役割を果たしていることを示唆しています

 

全容が明らかでないことに加え、情報が少ないので、間違っている可能性もありますが、今のところ、わたしは以下のような意味だと理解しています。

健康な人:体内時計の周期がほぼ24時間10分前後なので、環境を変えれば、朝型にも夜型にもシフトすることができる。(環境の影響>遺伝的影響)

DSPS:遺伝的に体内時計の周期が長めなため、睡眠時間がずれ込み、遅い時間で安定させるのがやっと。(環境の影響=遺伝的影響)。

non-24:体内時計の遺伝的な周期がさらに長く24時間30分に近いので、日々ずれていくのを食い止めることさえ困難。(環境の影響<遺伝的影響)。

つまり、DSPSとnon-24は連続した病態であり、明確な境界線はないことがわかります。

この三島和夫先生の研究については、ナショナルジオグラフィックの連載記事で詳しく解説されています。皮膚や毛根などの細胞を培養して時計遺伝子の転写周期を調べることで、体内時計の周期が簡単に分かるようになったそうです。

第5回 世界初!睡眠・覚醒リズム障害の原因を解明 | ナショナル ジオグラフィック(NATIONAL GEOGRAPHIC) 日本版公式サイト はてなブックマーク - 第5回 世界初!睡眠・覚醒リズム障害の原因を解明 | ナショナル ジオグラフィック(NATIONAL GEOGRAPHIC) 日本版公式サイト

▼特定の遺伝子多型が関与
2014年に三島先生のところの新しい研究で、non-24には特定の遺伝子多型が多いことが明らかになりました。しかもその遺伝子多型は、睡眠相後退症候群では多くありません。

それが何を意味するのかはまだよくわかりませんが、もしかすると、睡眠相後退症候群は環境や生活習慣など、外的要因の要素が大きい病気であり、non-24は遺伝子多型など内的要因の要素が大きい病気であることを示唆しているのかもしれません。

詳しくは以下のまとめをご覧ください。

非24時間型睡眠覚醒症候群(フリーラン型)に関係する遺伝子PER3が見つかる
時計遺伝子PER3の違いが概日リズム睡眠障害の発症や夜型指向性に関連していることが明らかになったそうです。

その後、2017年に、non-24では体内時計の周期が長いのに対し、DSPSでは健常者とさほど変わらないという結果も報告されました。non-24では体内時計の周期が長いほど時間治療の効果が薄くなるそうです。

概日リズム睡眠障害の非24時間型と睡眠相後退型の違いが見つかる―体内時計が真の夜型かどうか
概日リズム睡眠障害と体内時計の周期についいての研究から、非24時間型睡眠覚醒症候群と睡眠相後退症候群の違いについて考えました。

ここまでのところで、non-24とDSPSの類似点や違いについて書いてきました。どちらも概日リズム睡眠障害であり、互いに移行することがある類似した睡眠障害です。

しかしDSPSが比較的診断しやすいのに比べ、non-24であるか診断するには、長い期間、睡眠記録表をつける必要がありました。

またDSPSが、夜型生活や、それに伴う慢性的な睡眠不足の延長として発症することもあるのに対し、non-24ではより遺伝的な要因が強いようです。

自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害が関係?

近年、non-24の発症につながる素因の一つとして、自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害が注目されています。ASDには、以前からアスペルガー症候群として知られていた人たちも含まれます。

日経サイエンス2016年1月号のnon-24の特集記事では、そのようなASD当事者で、元々、睡眠相後退症候群(DSPS)の体質を持っており、その後non-24を発症した人のエピソードが書かれています。経過がわかるように少し長めに引用します。

ジョーンズ(Sparrow Rose Jones)は人が奇異の目で見るほどの夜型人間で、これまでの人生の大半を朝方に就寝し夕方近くに起きて過ごしてきた。

ケンタッキー州ルイビルでの少女時代には学校生活でも問題があった。自閉症(自閉症スペクトラム)で人づきあいに苦労したからでもあり、いつも疲れているからでもあった。

…ジョーンズは優秀な学生で、何度か優等生表彰者リストに入ったこともある。しかし無理に昼間の時間割に合わせなければならず、そのための努力は苦行だった。疲労困憊し、経験したことのない状態になった。

…その間、睡眠時間はますます不規則になった。ある夏、仕事を入れず目覚まし時計もなしで自分の睡眠を記録し、自分が普段の夜型に戻っていくのではないことを知った。むしろ就寝時刻と起床時刻が毎日ずれていくようだった。

…自作の睡眠記録表を見せたところ、医師はあっと思い、珍しくも興味深い病気に気づいた。「非24時間睡眠覚醒症候群」、略してnon-24だった。(p41)

このエピソードによると、自閉スペクトラム症の少女ジョーンズは、子どものころからずっと極端な夜型、つまり睡眠相後退症候群(DSPS)の傾向を持っていて、とても疲れやすい体質でした。

それが、大学生活で、昼間の授業に合わせようと無理をしたところ、体調を壊し、DSPSからnon-24へと発展したのでした。

これはわたし自身の経験とよく似ていて、わたしも元々強い夜型でしたが、10代のころの学生生活で疲労困憊したとき、non-24に移行しました。

後ほど説明しますが、もともとnon-24の遺伝的傾向を持つ人の中には、ギリギリのところでフリーランをとどめていて社会生活に適応しているものの、強いストレスなどが加わると耐え切れなくなってしまい、DSPSからnon-24に移行する人たちがいるようです。

ジョーンズ自身が認めるとおり、彼女の強い夜型傾向は遺伝でした。

ずっと後にジョーンズは、自分が父から概日リズム睡眠障害(睡眠相後退症候群)を受け継いだことを知る。これは人を重度の夜型人間にして、明け方近くまで起きていて午後まで眠るのが普通のような状態になる。

…こうした遺伝する朝型夜型などの睡眠パターンはクロノタイプと呼ばれる。極端なクロノタイプはまれで、例えば睡眠相後退症候群の人は2000人に3人だ。(p43)

ジョーンズの家系に睡眠相後退症候群(DSPS)が遺伝していたのはなぜでしょうか。おそらく、ジョーンズに受け継がれていたもう一つの傾向、つまり自閉スペクトラム症と無縁ではないはずです。

以前のニュースによると、体内時計の調節はバソプレシンというホルモンのシステムが関わっているかもしれないとされていましたが、パソプレシンやオキシトシンは、発達障害や愛着障害で不足しやすいホルモンです。

近年の研究によると、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)の子どもが、学齢期以降、概日リズム睡眠障害のために病院を訪れるケースが多いとされているようです。

子どもの睡眠と発達医療センター、睡眠障害で入院する子どもの2/3が自閉スペクトラム症
睡眠障害で入院する子どもの2/3が発達障害、1/4が糖尿病予備群だそうです。

ASDとADHDとでは、それぞれ、睡眠リズムがずれやすいメカニズムは異なるかもしれません。ASDでは、さまざまな症状の根底にリズム障害がある可能性も指摘されています。

慢性疲労症候群の子ども(CCFS)には発達障害が多い?
小児慢性疲労症候群にはやASD(自閉スペクトラム症/アスペルガー症候群)やADHD(注意欠如多動症)が併発しやすいという最新の研究を、「いま、小児科医に必要な実践臨床小児睡眠医学」

一方ADHDでは、興奮した神経モードを切り替える力が弱い可能性があります。

なぜADHDの人は寝つきが悪いのか―夜疲れていても眠れない概日リズム睡眠障害になるわけ
ADHD(注意欠如多動症)の人は、疲れているのに夜寝つけない、ついつい夜更かししてしまうなどの睡眠リズム異常を抱えやすいといわれています。その原因が意志の弱さではなく、脳の前頭葉な

おそらくは重なり合っている部分もあるでしょうが、いずれにしても、ASDやADHDの発症には遺伝が大きな役割を果たしていますから、これらの発達障害の人がDSPSやnon-24になりやすいということは、概日リズム睡眠障害には遺伝的な要因があるということを示唆しているように思えます。

▼遺伝的な体内時計の周期やホルモン異常が関与
2016年、non-24の原因として、遺伝的な体内時計の長周期や、発達障害におけるバソプレシンというホルモンのシステム異常が関与しているのではないか、とすでに触れました。

この点について、脳内の視交叉上核と呼ばれる体内時計の中枢に存在するバソプレシンの産生細胞が、体内時計の周期を決めているとする研究報告が金沢大学から出されました。

脳内物質「バソプレシン」産生の神経細胞が体内時計の周期を決定-金沢大 - QLifePro 医療ニュース はてなブックマーク - 脳内物質「バソプレシン」産生の神経細胞が体内時計の周期を決定-金沢大 - QLifePro 医療ニュース

視交叉上核内に存在する神経細胞のうち「バソプレシン」という物質を産生する神経細胞が体内時計の周期を決めることを世界で初めて突き止めた。

バソプレシ ン産生神経細胞が生み出すリズムの周期を遺伝子操作により長くすると、体内時計により制御されるマウスの行動リズムの周期も約1時間長くなった。

逆にバソ プレシン産生神経細胞のリズムの周期を短くすると、行動リズムの周期も約30分短くなったとしている。

この研究結果について、金沢大学によるプレスリリース体内時計が刻む1日の長さを決める細胞を発見! | 金沢大学 に載せられているマウスの睡眠リズムの実験結果のグラフを見てみると、明らかにnon-24の患者の睡眠リズムそのものです。

non-24の人が抱える体内時計の遺伝的な長周期の原因が、バソプレシンの産生細胞にのみあるのかどうかはわかりません。

しかし、この研究結果からしても、自閉症などの発達障害やトラウマ由来の愛着障害、それに併発しやすい概日リズム睡眠障害には、オキシトシン-バソプレシンシステムの異常という共通の原因が関わっている可能性があるように思います。

詳しくは以前の記事もご覧ください。

体内時計のペースメーカーの一端をバソプレシンが担っている
バソプレシン産生ニューロンは概日リズムの調整に役だっているそうです。
自閉症でバソプレシン(AVP)が低下している―愛着や睡眠リズムに関係するホルモン
自閉症でバソプレシンの低下と「心の理論」の低さが関係していました。

なぜ強い疲労を感じるか?

すでに引用したとおり、メラトニン研究の最近の進歩に載せられている日本大学医学部附属板橋病院の内山真先生のnon-24についての説明には、慢性疲労症候群(CFS)との関連も書かれていました。

non-24を抱えながら社会に合わせようとする無理のある生活を続けた結果、睡眠よりも疲労の問題が大きくなり、慢性疲労症候群と診断される場合があることが書かれています。

なぜnon-24の人は強い疲労を感じることがあるのでしょうか。

これには体内のサーカディアンリズム(概日リズム)の異常が関係しているようです。人間はさまざまなサーカディアンリズムが連動してはじめて規則正しい一日の生活ができるよう造られています。

その中には、睡眠覚醒リズム、深部体温リズム、ホルモンリズムがあります。これら3つは一般に、恒常性が強く、足並みをそろえて同調しているとされています。

つまり、目覚めるころには、コルチゾールが高まってストレスに備えさせられ、深部体温も上がってきて活動しやすくなります。夜寝る時間には眠りを誘うメラトニンが分泌され、体温が低下して自然な眠気が生じます。

神山潤先生の著書「夜ふかし」の脳科学―子どもの心と体を壊すもの (中公新書ラクレ)によると、ちょうどそれは、さまざまな楽器が、オーケストラの指揮者によって束ねられ、心地良い音楽を奏でるのと似ています。(p50-51)

内的脱同調(慢性的な時差ぼけ)とは何か?

しかし1970年代に24歳の女性で行われたある実験があります。光に当たらない生活を続けて睡眠リズムをフリーランさせると、初めの間、これら3つのリズムは足並みを揃えていたのですが、2週間経ったとき、3つともバラバラに周期を刻み始めたそうです。

まるで指揮者が眠りこんでしまい、それぞれの楽器がバラバラに不協和音を奏ではじめたかのようです。

この状態を内的脱同調といいます。

いわば、慢性的な時差ぼけ状態であり、朝起きようとしても体温が最低だったり、昼間にメラトニンが分泌されて眠くなったりして、ふつうの生活が苦痛になります。十分な活動だけでなく十分な休養も得られないので、細胞疲労が蓄積し、回復することがありません。

本来なら、日中の光によって内的脱同調が起きないよう体内時計が調整されるのですが、DSPSやnon-24の人は光への感受性体内時計の周期が普通と異なるため、内的脱同調に陥りやすいのかもしれません。

もちろん、内的脱同調の段階では、慢性的な疲労という程度であり、日常生活が送れなくなるわけではありません。時差ぼけ状態でも観光できるのと同様です。

しかし、不登校外来―眠育から不登校病態を理解するによると、内的脱同調をきっかけに睡眠障害に陥り、中枢神経にまでダメージが及ぶと、慢性疲労症候群(CFS)に移行すると考えられています。(p48-49)

慢性疲労症候群の原因はさまざまであり、内的脱同調は考えうる原因のひとつに過ぎませんが、この中枢性疾患を発症すると、社会生活は不可能になります。

non-24と慢性疲労症候群(CFS)の関係

ではnon-24の患者は必ず慢性疲労症候群(CFS)のような体調になってしまうのでしょうか。non-24とCFSを併発している場合、疲労の原因は、すべてnon-24にあるのでしょうか。

わたしが調べた限りでは、必ずしもそうではないようです。

国立精神・神経センターの三島和夫部長は非同調型の人の体質についてこう述べています。

第11回 体内時計と睡眠習慣の関係がついに明らかに! | ナショナル ジオグラフィック(NATIONAL GEOGRAPHIC) 日本版公式サイトはてなブックマーク - 第11回 体内時計と睡眠習慣の関係がついに明らかに! | ナショナル ジオグラフィック(NATIONAL GEOGRAPHIC) 日本版公式サイト

眠くなる時間が毎日毎日遅れていくのを微調整するのが大変で、要するに早寝早起きのほうにずらすことがほとんどできない。何とかその位置を保つのが精いっぱい。

物心ついた頃から全然朝起きれない、宵っぱり、寝坊の子ども時代を送って、あとは遅刻の常習魔になる

non-24の人は体質的に朝起きるのが苦手ですが、よほどひどくない限り、社会のリズムに合わせられないわけではありませんわたしの場合も、子どものころは、一応のところ、朝起きることができていました。しかし基本的に早起きは苦手で、遅刻しかけることはよくありました。

メラトニン研究の最近の進歩には、DSPSとnon-24の症例が載せられています。しかしどちらも遅刻や欠席が多いものの、社会で働くことができています。三島先生の説明でも「遅刻の常習魔になる」と書かれている以上、働けないわけではありません。(p185-186)

内的脱同調のため疲労を感じやすいとはいえ、必ずしも異常な疲労を伴う慢性疲労症候群(CFS)のようになるとは限らないことがわかります。

しかし、non-24を抱えながら無理をして学校生活や社会生活に合わせようとした結果、夜眠れないときでも早く起きる必要があるので、睡眠不足症候群(BIISS)になるかもしれません。普通の人より努力して起きているので、他のさまざまなストレスへの抵抗が弱まっているかもしれません。

先ほどの日経サイエンス2016年1月号の特集の中でジョーンズについてこう書かれています。

しかし、視力のある人がnon-24にかかることもまれにあり、その原因はわかっていない。

ジョーンズは自身が遺伝的にかかりやすく、そのことと3年に及ぶ社会的時差ぼけとが結びついて発症に至ったのではないかと考えている。

「つぎはぎの日課が何かの生物学的スイッチを切り替えたんだと思います」と言う。

そのスイッチは脳の親時計にあった可能性が高い。…親時計が正しく機能しなくなると、内臓は別々のテンポで活動するようになる。

指揮者なしで、演奏者がそれぞれ勝手に演奏しているようなものだ。その結果、病気になる。(p44)

睡眠不足、内的脱同調を抱えながら何とかバランスを保っているところへ、精神的な重圧や過重労働、インフルエンザ感染などの大きなストレスがかかると、中枢神経にまでダメージが及び、non-24や、さらに内的脱同調が悪化した慢性疲労症候群(CFS)になり得るのではないかと思います。

日本臨牀 2007年 06月号 [雑誌]には「CFS患者では…、連日ほぼ一定の時間入眠がずれていく非24時間型睡眠障害の例も見られることが知られている」と書かれています。(P1059)

はっきりとしたことは分かりませんが、遺伝的な体内時計の長周期があると内的脱同調による慢性疲労に陥りやすく、場合によっては慢性疲労症候群(CFS)を発症するリスクもあるといえそうです。

▼体内時計と血液脳関門
2017年9月のニュースによると、体内時計の異常が、血液脳関門の機能に影響することがわかったそうです。

体内時計が血液脳関門の維持に重要であることを発見 - 国立大学法人 岡山大学

わたしたちの脳には、通常、血液脳関門という、その名の通り関所のような役割を果たすバリアが備わっています。

これによって、脳の働きを乱すような異物が脳に簡単に入り込まないよう守られていて、たとえば新薬の開発では、いかに有効成分をこの関門を通過させて送り込むかが課題になります。

裏を返せば、市販のサプリで睡眠に関係するトリプトファンやGABAを摂取でしも効果がないのは、血液脳関門を突破できないためです。

しかし体内時計の異常が生じると、この血液脳関門の働きが乱れ、その結果としてさまざまな脳機能異常につながっている可能性がありそうです。

非24時間型睡眠覚醒症候群(non-24)の治療法は?

治療法は、基本的にはDSPSの場合と同じだそうです。

夜眠れず朝起きられない「睡眠相後退症候群(DSPS)」にどう対処するか(4)診断と治療
朝どうしても起きられない、夜なかなか寝つけない、一度眠ると10時間以上目が覚めない、早起きしようと努力するとかえって夜寝つけなくなる…。この記事は睡眠相後退症候群(DSPS)に関す

しかしnon-24の治療はDSPSよりも困難です。慢性疲労症候群の子どもを診ている粂先生はご自身のブログでこう書いておられました。

怒りの病名としての「小児慢性疲労症候群」: 粂 和彦のメモログ

C-CFSの子の大半は、睡眠障害があり、夜型がひどくなるDSPSタイプ、睡眠時間が長くなる長時間睡眠タイプ、起きている時に眠気がひどい過眠タイプ、睡眠相がずれ続けるノン24タイプです。

この中で、だいたいこの順で、環境などの外的要因と、体質などの内的要因の強さが違うと思います。

つまり、 DSPSは、生活・睡眠衛生指導で改善することが多いのですが、この子のような非24時間タイプは、もっとも器質性の部分が大きく、なかなかフリーランを止めることができません。

多数例の解析では、メラトニンなどの薬物治療の有効率も半分程度です

ここまで考えてきたところによると、DSPSとnon-24は連続した病態ですが、non-24のほうが体内時計の遺伝的な周期が長かったり、光への感受性が低下、または過敏になっていたりするため、治療しにくいということになります。

生活を調整する

まず考えられるのが、無理やりフリーランを食い止めるのではなく、自分のリズムに合った生活を送るという選択肢です。non-24の患者は、社会ではなく自分のリズムに合わせて生活した場合、起きている間の気分はそれほど悪くなく、安定することが知られています。

不登校外来―眠育から不登校病態を理解するにはこう書かれています。

このタイプ[非24時間型]も睡眠時間はほぼ10時間を示すことが多いが、このリズムに従って生活できる場合は覚醒中の気分はそれほど悪くない。

このリズムで社会生活を続けている人もみられるが自由業などに限られる。 (p29)

リズムがはっきりわかれば、それに合わせて講義の時間を入れたり、自由業を営んだりできるかもしれません。ネット上でもそのような生活をしている方の記述がありました。

典型的なnon-24で、どのようにあがいてもフリーランが止まらないような場合は、この方向で考えるべきかもしれません。しかし、慢性疲労症候群を合併しているなら、それだけで疲労が回復するとは限りません。

光環境を整える

いっぽう、正しいリズムの生活を続けることで体が慣れてくる可能性もあるらしく、わたしの場合はそちらに期待しています。

non-24では、朝の光への感受性が低くなっていたり、夜の光への感受性が高くなっていたりします。そのため、シンプルながら、しっかり朝日を浴び、夜は暗くして電子機器の電源も切る、という対策は欠かせません。寝室のカーテンを開けたまま寝たり午後はサングラスを着用したりといった工夫もできます。

また、DSPSと同様、家庭用の光治療器や、入院による高照度光療法が選択肢に入ります。古い資料には、「難治性と考えられていた非24時間型睡眠障害には有効性が高いことがわかった」と書かれていました。

高照度光療法については以下もご覧ください。

「高照度光療法」は自宅でも可能? 睡眠障害や小児慢性疲労症候群(CCFS)の治療法
ゴーグル型の高照度光療法器の開発が進められているというニュースに基づき、CCFSと光治療について書いています。

しかしわたしの主治医によると、non-24の子どもは、入院生活中は、睡眠リズムが正常化するものの、退院後は元に戻ったりDSPSに移行したりすることが多いそうです。

non-24で、しかもCFSを発症してしまった場合、不登校外来―眠育から不登校病態を理解する書かれている次のような傾向がより強力なのかもしれません。

[CCFSの子どもは]脳機能のバランスを欠くために脳全体の細胞を総動員して興奮させなければならず、…気分不良、寝つき不良につながり生体時計がますます乱れ、脳機能もさらに乱れることになってしまう。 (p85)

わたしも一時期安定していたようなのですが、体力がついてきて、活動の予定を増やしたとき、発症当初のnon-24が再度ひどくなりました。脳が興奮しやすいため、活動が増えたり、日常の光環境にさらされたりすると、フリーランしやすいのでしょうか。

成人のCFSに関する2002年の研究では、運動負荷後のサーカディアンリズムが24時間より延長し、生体リズムの異常を引き起こすことが分かっています。CFSは軽度の負荷でも24時間以上疲労感が続きますが、ちょっとしたことで神経が興奮し休まりにくいのかもしれません。

以上の点から、フリーランを食い止めるには光環境を整えるだけでなく、脳の興奮を鎮める対策も必要であることがわかります。

薬物療法

概日リズムのずれを修正したり、脳の興奮しやすさを鎮めるために用いられるのが薬物療法です。

メラトニン、メラトニン受容体作動薬: 
毎日、希望する入眠時刻の2時間以上前(4-5時間前という人もいる)の一定時刻に、1-5㌘のメラトニンを服用すれば、生体時計同調作用により、睡眠リズムが前にずれ、正常に近づくと言われています。

ポイントは、寝る1-2時間前ではなく、本来寝たい時間の2時間以上前という点です。non-24では、健康な人に近いリズムになったころにメラトニンの服用をはじめると良いそうです。

また、メラトニンには深部体温を下げて、脳の興奮を鎮静化させる作用があるので、リズムのずれを食い止める助けになるかもしれません。

しかしメラトニンの服用は、社会的に規則正しい生活を続けていく努力をしなければ、元のリズムに戻ってしまうと言われています。別の病気も合併している場合、並行して改善しなければ、一時的な回復で終わってしまう可能性があります。

また2013年に国立精神神経センターが発表した睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドラインにはこう書かれていました。

メラトニンが不眠症や概日リズム睡眠障害(時差型、交代勤務型、睡眠相後退型、フリーラン型)に有効であるという報告が続いていたが(299)、睡眠相後退型以外の睡眠障害に対するメラトニンの有効性を疑問視するメタ解析研究もある

メラトニン受容体作動薬ロゼレムについては以下の記事にまとめています。

睡眠のリズムを整える新しいタイプの薬「メラトニン受容体作動薬」ロゼレムとは?
体内時計のリズムを治療するメラトニン受容体作動薬ロゼレムについての記事が掲載されました。

近年の報道によると、ASDの子どもの概日リズム睡眠障害を対象にした小児用徐放性メラトニンPedPRM(Paediatric Prolonged-Release Melatonin)の臨床試験が海外で進められているそうです。

Neurim PharmaceuticalsがASD障害児の睡眠障害治療薬PedPRMの有意な第III相試験結果発表 | 共同通信PRワイヤー

この臨床試験は、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorders、ASD)もしくは神経障害あるいは睡眠障害の子供に対して行った無作為、ダブルブラインド、プラセボ対照による平行群間のマルチセンター(EUおよび米国)研究だった。

…Neurim Pharmaceuticalsの規制・臨床問題担当副社長のタリ・ニール博士(獣医学)は「PedPRMは入眠と睡眠持続に顕著な改善が見られるとともに、好ましい安全プロフィールを維持した。重要なことは、子供の睡眠への効能を超えて、患者の日中の覚醒(状態)と子供の社会的機能に段階的な向上を観測したことだ」と語った。

ビタミンB12(メコバラミン):
non
-24に特別効果的な治療法として、ビタミンB12大量療法が挙げられることがあります。推奨されているのは、1.5-3 mg量のメコバラミン錠(つまり3-6錠)です。

ビタミンB12には光への感受性を高める効果があると考えられていて、「概日リズム睡眠障害」(日本臨床 67(8), 1501, 2009)によるとnon-24をDSPSの状態まで軽減できる場合があるそうです。つまり、ビタミン12やメラトニンを服用しつつ、生活習慣を改善すれば、効果が見込める可能性があります。

慢性疲労症候群(CFS)の患者の場合、ビタミンC(アスコルビン酸)やB12は、服用するよりも点滴で摂取するほうが効果が高いという話をよく聞きます。錠剤より点滴のほうが吸収しやすいのかもしれません。

わたしの場合:
わたしが病院で処方されたのは、交感神経α受容体遮断薬(クロニジン)と抗ドーパミン作用をもつ薬(リスパダール)を眠前に少量服用して脳の興奮を鎮め、第一世代の抗ヒスタミン薬(レスタミン)で中途覚醒を抑える方法です。

メラトニンや光治療器、ビタミンB12の効果はほとんど感じなかったのですが、この方法でフリーランを可能な限り食い止め、社会生活に合わせられるようになりました。

人によって処方される内容は違うでしょうが、わたしの場合には効果があったようです。薬の内容から見て、わたしの場合はベースにある脳の過敏性が関係していたということなのでしょう。

とりわけ発達障害が関係している場合、以下の記事で書いたようなドーパミン系の調節不全(抑制や亢進というよりもバランス調整の問題)が絡んでいる可能性が高いように思います。

なぜADHDの人は寝つきが悪いのか―夜疲れていても眠れない概日リズム睡眠障害になるわけ
ADHD(注意欠如多動症)の人は、疲れているのに夜寝つけない、ついつい夜更かししてしまうなどの睡眠リズム異常を抱えやすいといわれています。その原因が意志の弱さではなく、脳の前頭葉な

さまざまな安眠対策

定番ですが、夜はパソコンやスマートフォンを見ない、自分なりの入眠儀式を作る、寝る前にGTDのテクニックで気になることを全て書きだす、寝室に空気清浄機などの環境音を流すなど、さまざまな安眠対策を併用することは、とても大切です。

極端な話をすれば、自分に合った薬物療法をしていても、夜中にネットサーフィンをしているなら、眠れるはずはありません。わたしも、薬物療法に加え、いろいろな安眠対策を併用して、睡眠に役立ちそうなことは何であれ積極的に取り入れていきたいと考えています。

まとめ:「上質な睡眠」を手に入れる方法30選 : ライフハッカー[日本版]

 

non-24を乗り越える!

冒頭で引用した専門医の率直な言葉が示すとおり、non-24の人の生活は悲惨です。日経サイエンス2016年1月号の中で、ジョーンズのnon-24が最も悪化した時期の苦悩についてこう綴られています。

ジョーンズのnon-24は進行してひどくなった。就寝時間は定まらず、時計の上をでたらめに移動した。計画が立てられず、友人とのお茶の約束もできなかった。

「とても生活とは言えません。結婚式やお葬式にでられるかどうかもわからないんです」。

体が真夜中だと思っている時刻に無理に起きていると病気がひどくなるだけだった。内臓がますます互いに連携しなくなり、吐き気、うつ、疲労が増していった。(p44)

わたしもまったく同じでした。

わたしは現在の活動の範囲内ではnon-24の影響を食い止めていますが、三島和夫先生が話す通り、さまざまな手段を駆使して「何とかその位置を保つのが精いっぱい」です。生活の負荷が増えると、フリーランしはじめることが多く、対策を模索しています。

しかし、ここに挙げた治療法や、今後の情報収集で得る知識を組み合わせて工夫してゆけば、対処できる可能性は大いにあると考えて、楽観的な見方をしています。

生命倫理の基本概念 (シリーズ生命倫理学)によれば、筋痛性脳脊髄炎(慢性疲労症候群の別名)を患ったスーザン・ウェンデルは次のように書いたそうです。

私にはまったく変わり果てたように感じられた身体―弱々しく、憔悴し、痛みに満ち、不快で、目眩し、これからどうなるかもわからない身体―とともに生きていく術を、私は学ばなければならなかった。

…健常な身体をもった人たちは、私が最も知らなければならないことすべてについてまったく無知なのだと私には思えてきた。

…回復を待ち望んだり、健康な身体を取り戻せると信じることは、かえって危ないことなのだと私は自覚した。私は少しずつ、私の新しい、障害のある身体との距離を縮めながら、この身体と折り合いをつけていく術を学び始めた。 (p109-110)

いつか回復するだろうと待ち望み、辛い症状をただ我慢しているだけでは、自分の病気について驚くほど何も知らないまま、何年もの歳月を過ごすことになりがちです。

闘病はデータを取ること知識を集めることから始まります。まずはライフログを記録できるアプリやツールを用いて自分の問題をデータ化します。そして問題点が明らかになったなら、情報を集め、自分に役立ちそうな方法を順次試していきます。

それは、日経サイエンス2016年1月号の特集記事のジョーンズが実践したことでもあります。彼女は結局どうなったのでしょうか。

ジョーンズは、概日リズム睡眠障害と付き合うために、普通の生活を犠牲にして、新たな人生を歩むことにしました。

ここまで、朝日を浴びる高照度光療法とか、夜はブルーライトの光に当たらないといった概日リズム修正の方法を挙げて来ましたが、ジョーンズにとってそれでは不十分でした。ジョーンズに効果があった治療法は、その程度のものではなく、まさに究極のものでした。

私たちの祖先が何百万年もしていたようなアウトドア生活を送ること、つまり毎日めいっぱい日光を浴び、夜は真っ暗闇の中で過ごすことで、概日リズム障害が治るかもしれないという理論である。

…私がこの記事を仕上げた6月には、ジョーンズの概日リズムは自然に、また無理なく、規則的な午前8時の起床時刻に落ち着きつつあるらしかつた。

ただこの規則正しい起床のリズムは、友人を訪ね屋内で眠るたびに失われた。

「屋外で眠ることが根本的な“治療”であるのに、それを実行できる人がほとんどいないのは残念なことです。私にとって、この自然療法が飛び上がるほどうまくいっているだけに」。(p48)

彼女はこれまでの生活すべてを一新させ、生き方そのものを変えました。彼女がnon-24という難病を克服するには、多くのことを犠牲にするとしても、それを選ぶほかなかったのです。

現代社会で、ジョーンズほど思い切った決定ができる人がどれほどいるでしょう。わたしもそこまでの勇気と決断力は持ちあわせていません。

しかし、ジョーンズのエピソードについて考えてみることは、non-24がいかに深刻な病であるか、そして、それに立ち向かうには、いかに大きな覚悟を必要とするかを知る助けになります。

ジョーンズは、この新しい生活を不自由に思うどころか、non-24から解放されたことを喜び、自作のCDやエッセイ集を出すなど、以前よりはるかに生き生きと過ごしているそうです。

non-24の人にとって、彼女のような大きな決断こそが、もしかすると人生を変えるチャンスになりうるのかもしれません。

▼non-24の経験談
non-24の人がどんな苦労に直面するか、という点については、こちらの方の記事がおすすめです。当事者ならではの気持ちを丁寧に描写してくださっていて、わたしも非常に共感できました。

非24時間睡眠覚醒症候群(non24,フリーラン)について詳しく。みたいな話。 - ななめ裏

私の非24時間睡眠覚醒症候群(non24)の苦悩と治療 | この社会で生きていく

▼概日リズム睡眠障害の病院
このエントリに関連する研究者の方々について、ドクターズガイドへのリンクを紹介しておきます。それらの先生方の治療方針について詳しいことを知っているわけではないので、情報として記載するに過ぎません。

三島和夫 医師,【不眠症、睡眠・覚醒リズム障害、冬季うつ病】,国立精神・神経医療研究センター病院-精神生理研究部 | ドクターズガイドはてなブックマーク - 三島和夫 医師,【不眠症、睡眠・覚醒リズム障害、冬季うつ病】,国立精神・神経医療研究センター病院-精神生理研究部 | ドクターズガイド

内山 真 医師,【気分障害 睡眠障害 統合失調症】,日本大学医学部附属 板橋病院-精神神経科 睡眠センター | ドクターズガイドはてなブックマーク - 内山 真 医師,【気分障害 睡眠障害 統合失調症】,日本大学医学部附属 板橋病院-精神神経科 睡眠センター | ドクターズガイド

梶村尚史 医師,【不眠症】,むさしクリニック-心療内科、精神科 | ドクターズガイドはてなブックマーク - 梶村尚史 医師,【不眠症】,むさしクリニック-心療内科、精神科 | ドクターズガイド

 田島世貴 医師,【疲労科学(慢性疲労症候群)、睡眠医学、小児発達神経科学】,『慢性疲労症候群』,兵庫県立リハビリテーション中央病院-子どもの睡眠と発達医療センター(たじませいき,) | 名医を探すドクターズガイド

不眠症 | ドクターズガイド

補足 : その後の経過―non-24は障害なのか、体質なのか

この記事を書いた後、しばらくの間、さまざまな薬を使って無理やり社会の時間に自分を合わせようと試行錯誤していました。

しかし、身体的負荷が大きかったため、思い切って自分の体内時計を優先する生活を送ることを選びました。

現在の睡眠リズムの周期は、ほぼ規則正しく一ヶ月です。月の終わりから始めにかけて超朝型にシフトし、月の中ほどにかけて超夜型になっていきます。

以前はもっと周期が長かったり、変動性があったりしたのですが、一切の抵抗をやめて、自然の流れに任せたことにより、こうした正確な周期が現れたのではないかと思っています。

不規則な間隔の周期や数ヶ月間隔の周期とは異なり、一ヶ月(ほぼ30日)周期のリズムは、概月リズムとして自然界に組み込まれたパターンであり、人間も月経リズムなどにも見られます。

近年の研究によると、概月リズムは、女性だけでなく男性にも備わっていることがわかっているので、おそらく男女ともにnon-24が一ヶ月または半月周期を示しやすいことと何らかのつながりがあるように思えます。

海洋生物に2つの体内時計、人間も? | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

しかし、一部の動物では、このリズムに2つ以上の体内時計が関与していることが、新たな研究で判明した。さらには人間も、こうした時計を持っている可能性があるという。

 多くの海生動物の生態は、24時間周期ではない複数のサイクルと密接に結びついている。潮の満ち引きの周期は、これらの生物の摂食や行動パターンに1日の中で何度も影響を与える。さらに1カ月周期のサイクルもあり、生殖行動が30日前後の間隔に従う場合もある。

…最近発表された研究でも、人間の睡眠サイクルが月の満ち欠けに影響を受けていることを示唆するものがあった。

また、別の研究では、男性においても、一部のホルモン分泌に1カ月、あるいは半月のサイクルがあることが示されている。

人体にそなわる概日リズムは、もともと自然界の地球の自転による明暗サイクルに同調したものです。概月時計も、やはり自然界のリズムである月の満ち欠けサイクル(引力変動など)に同調することで生物に備わっている仕組みです。

月経周期は、無理をしたり強いストレスがかかったりすると、周期が乱れたり無月経になったりしますが、安定している場合は基本的には約一ヶ月周期です。

同じように、non-24も、無理やり症状をコントロールしようとしたり、身体的・精神的負荷が強いと周期が乱れたり不規則型に移行したりしがちですが、流れにまかせて受容すれば、半月や1ヶ月周期に同調しやすいのかもしれません。

興味深いことに、サックス博士の片頭痛大全 (ハヤカワ文庫NF)によると、片頭痛発作のような他の病気も、約1ヶ月など規則正しい周期を示すことがしばしばあります。

この数値に対してクリー(1968)は、150人の患者について詳細に記録し、33パーセントは一か月以内の間隔、20パーセントは四週間から八週間、26パーセントは八週間から12週間、そして残りの21パーセントは三ヶ月以上の間隔があくと報告した。

私自身が診察した典型的片頭痛患者のパターンは、これらの数値と一致する。(p258)

女性の場合、月経前症候群の症状のひとつとして片頭痛が生じる場合がありますが、月経によって片頭痛が起こっているとは限らず、月経が無くなっても規則正しいリズムを示すことがあるようです。

グリーンの試算では「100人中約20人の女性が月経前に片頭痛を患っている」という。(p100)

症例74  68歳の女性。21歳のときから月経性片頭痛を患っていたが、それ以外の症状はなかった。

51歳のときに閉経しても片頭痛のパターンには変化がなく、あいかわらず28日から30日周期で発作が起こる。(p64)

この場合、月経そのものが片頭痛のような不快な症状をもたらしているというより、月経と片頭痛の背後に、共通の概月リズムが影響していたということでしょう。non-24のような他の病気でも、同様のことがありうるかもしれません。

わたしの場合、薬はクロニジンの服用は続けていますが、他の薬は服用をやめて、フリーランするに任せる生活を送っています。クロニジンは入眠をスムーズにしてくれる効果を期待しているだけで、体内時計の修正には利用していません。

ちなみに近年認可されたオレキシン受容体拮抗薬ベルソムラは、あまりに効きすぎて完全にナルコレプシーになってしまうという珍しい副作用が出てしまいました。薄々気づいてはいましたが、元々ナルコレプシー予備軍だったようです。

結局のところ、「生活を調整する」の項で書いた生き方に落ち着いたかたちです。自分で割り切って非24時間型を選び、それを許してくれる環境を構築してしまえば、以前ほどの不自由は感じなくなりました。

本文の最後で触れたように、non-24を抱えていたジョーンズは、「私たちの祖先が何百万年もしていたようなアウトドア生活を送ること」で回復しましたが、それには、最近の以下の記事で書いたような理由が関係していたのかもしれません。

感受性が強いあなたに自然が必要な5つの科学的根拠―都市や学校の過剰なストレスを癒やすには?
わたしたちがごく当たり前だと感じている都市生活が、脳に慢性的な負荷をかけているといえる5つの理由を紹介し、大自然との触れ合いがストレスを癒やし、トラウマを回復させる理由を考察しまし
睡眠の常識を根底から覆してくれた「失われた夜の歴史」―概日リズム睡眠障害や解離の概念のパラダイムシフト
産業革命以前の人々の暮らしや眠りについての研究から、現代人が失った「分割型の睡眠」とは何か考察しました。

従来の医学や心理学は、人間を環境から切り離された独立した個体として扱ってきました。そのため、non-24のような概日リズム睡眠障害は、個人の抱える病気また障害として研究されてきました。

しかし、自然と人体の関係性に関する研究を幅広く網羅したリチャード・ループのあなたの子どもには自然が足りないに書かれているように、近年、もっと包括的な観点で、環境を含めた相互作用を考えるべきだとする学者たちが増えています。

自然環境の喪失や、手の届くころにある自然からの乖離といった傾向が、人の健康や子供の成長に重大な影響を与えると考える研究者の数は増えつつある。そして彼らによれば、自然の中を歩くことは健康に、ほとんど細胞レベルにまで良い影響を与えるのである。

…この研究分野で最先端を行くのは、比較的新しく領域横断的な「環境心理学」という分野で、人間の精神と環境のつながりを強調する。

この「環境心理学」という用語は1992年に、歴史家で社会評論家でもあるセオドア・ローザックの著書『地球が語る』によって一般に広まった。(p62-63)

わたしたちの世代は、生まれたときから、都市での生活や、照明のある生活が当たり前になっていますが、上記の記事で書いたように、そうしたテクノロジーは、わずかここ数世代のうちに、急激にわたしたちの世界に入りこんできたものです。

もともと人間の身体は、何千年もかけて、昼夜のメリハリのある自然環境に適応してきました。わたしたちの生物的な機能は、そうした自然の中の環境刺激ありきで発達してきたはずです。

ところが、これまで人類が太古の昔から利用してきた環境刺激が、突然、わたしたちの文化から失われたため、そしてそれに代わる人工的な刺激がありふれてしまったため、環境刺激に敏感な体質の人たちは、自分の生理機能を調節するすべを失ってしまった可能性があります。

たとえば、次のような指摘について考えてみてください。

私たちの脳は、5000年前に決められたとおり、農作業をし、自然を求めるようにできているのですよ」と、家族向けセラピストであり、ベストセラーとなった『よい息子』と『少年の不思議』の著者であるマイケル・グリアンは言う。

「神経学的には、人類は今日の過剰に刺激的な環境に対応しきれていません。ただし脳は強くて融通が利くため、70から80パーセントの子供はかなりうまく順応しています。

でも、残りの子供たちにはそれができません。彼らを自然の中へ連れ出すと、状況を変えることができます。ただ、私たちはそのことを事例として知ってはいますが、証明できるまでには至っていません」。(p113)

確かにこの仮説は証明には至っていないものの、上記の記事で取り上げたとおり、状況証拠をもたらす研究は日に日に増加しています。何よりこの仮説は、生物学に照らして考えてみると、いっそう理にかなっています。

人間は、環境から独立した個体として生きてきたわけではなく、生態系の中で自然と共生関係を結んで適応してきました。

腸内細菌の絶滅が現代の慢性病をもたらした―「沈黙の春」から「抗生物質の冬」へ
2015年の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたマーティン・ブレイザー教授の「失われていく、我々の内なる細菌」から、抗生物質や帝王切開などによってもたらされている腸内細菌(

環境刺激に敏感な人の場合、共生関係にある自然環境は人間にとっての一種の外部器官であり、それが失われることは、人体を構成する歯車のような働きをする内臓の一部が失われることに等しいのです。

そのような人たちは、都市生活や人工照明下では、体内時計の時刻合わせに必要な環境刺激(ツァイトゲーバー)が得られないために、フリーラン状態になってしまいます。

あるいは環境刺激に対して敏感すぎるために、昼夜の区別なく刺激にさらされる24時間型社会に過剰適応してしまった結果、昼夜のメリハリのある睡眠リズムがなくなるという見方もできるかもしれません。

もともと自然界のリズムに影響されやすい遺伝的感受性を持っている人は、現代の24時間社会では昼夜の明暗サイクルに同調できないため、安定した概日リズムを取得できなくなるでしょう。

しかし、自然界の概月リズム(月の満ち欠けに伴う引力変動など)のほうは現代社会でも失われていません。そうすると、敏感な人は概日リズムを取得できなくても、かろうじて概月リズムのほうには同調するため、1ヶ月周期が現れるのでしょうか。

詳しいメカニズムはわかりません。しかし、もし環境刺激への敏感さが原因であれば、産業革命前の人々のようなライフスタイルに戻れば、環境の中の時刻合わせの手掛かりを受け取って、体内時計が健全に機能しはじめることでしょう。

本文中で取り上げたジョーンズが極端なアウトドア生活によって回復できたのは、まさにそのためかもしれません。ジョーンズの例は、non-24の原因は、現代社会の環境的要素にあることを示唆しています。

別の言い方をすると、現代社会でnon-24になっている人たちの中には、何らかの病的な障害を抱えているというよりも、産業革命以前の人類の体質を色濃く受け継いでいるせいで、現代社会に不適応を起こしている人がいるのではないか、ということです。

わたし自身がそうであるように、non-24の人は、無理に社会に合わせることをやめれば、それほど苦痛や不自由を感じなくなることが多いようです。これは、どんなに環境を変えようが衰弱していく癌のような病気や障害には見られない特徴です。

このことは、non-24が個人の側の病気や障害ではなく、たまたま生まれ持った体質が現代社会の求めるスタイルに合っていないことで生じている二次的な問題であることを示唆しているように思えます。

確かに、医学はnon-24という「病気」の原因遺伝子を発見してきました。しかしその遺伝子が本当に病的なものであるとどうしていえるのでしょうか。特定の環境にそぐわない体質に関わる遺伝子だという可能性はないでしょうか。

例えば、北極生まれのホッキョクグマをそのまま都市の動物園に連れてきたら、適応不良を起こして体調を壊してしまうでしょうが、それはホッキョクグマの側の問題ではなく、環境側の問題です。

同様に、現代の都市型社会ではnon-24を発症してしまう人も、もし産業革命以前に生まれていれば、あるいは現代でそれに類似した生活環境を構築できれば、ごく普通に生活できる可能性があります。

本文中で、non-24は発達障害を持つ人に多いのではないか、と書きましたが、近年、発達障害とは、社会において少数派に属する人々が抱える問題が、誤って障害とみなされてきた例のひとつではないか、と指摘されていることは注目に値します。

自閉症研究の暗黒時代に埋もれてしまった、知られざるアスペルガーの歴史
あまり知られていない自閉症の発見者ハンス・アスペルガーの人となりや、時代を先取りした先見の明のある洞察について考え、自閉症研究の歴史を再考してみました。
ADHD研究の混乱に埋もれてしまった、知られざる敏感な子どもたちの歴史
わたしたちが普段見かけるADHDの理解は、医学や教育にとって都合よく編集されたものであり、実際にはもっと複雑で多面的な性質がある、ということを歴史をひもといて考えます。

もしnon-24が病気であるなら、薬を使って「治療」する必要がありますが、単なる体質の違いであれば、薬によって無理やり現代社会のライフスタイルに自分をあわせるのが最善策なのか、疑問を覚えざるをえません。

現代社会で生きる以上、どうしても生計を立てていくために社会が求めるライフスタイルに合わせなければならない、という状況はもちろんあるでしょう。

しかし、思い切って自分に合った環境を整えることができれば、ジョーンズのように急に元気になることも考えられます。少数派であるということは、他の人が就かないような仕事を見つけられる可能性がある、ということでもあります。

動物園につれてこられたホッキョクグマは自分の生き方を選べないので泣く泣くそこでやっていくしかありませんが、わたしたちは自分の生き方を選べるので、場合によっては「北極」に帰ることを選んだほうが生き生きと人生を楽しめるかもしれない、ということです。

2018/12追記 : わたしのその後

その後、いろいろと調べていくうちに、発達障害や睡眠障害はいわゆる「自然欠乏障害」の一種ではないか、という研究に行き着きました。

上にも書いたように、現代社会では、生き物が住むにふさわしい本来の生活環境が失われているせいで、敏感な神経系を持つ人たちがさまざまなかたちで適応障害を起こしているという概念です。

ADHDは「自然欠乏障害」なのだろうか?ー自然不足が脳,自律神経,愛着,腸内微生物にもたらす影響
リチャード・ルーブが提唱した「自然欠乏障害」という概念とADHDのつながりについて、豊かな自然が脳機能や自律神経にもちらす効果、母なる自然に対する愛着障害、微生物生態系(マイクロバ
定型発達は本当に“ふつう”なのか―コケの生態学からふと考えた発達障害やHSPのこと
定型発達という概念の不自然さについて、コケの生態学について学んで考えたこと。

たとえば上の記事の中でも触れましたが、植物はそこまで知っている (河出文庫)によると、植物でさえ、夜間の光に敏感に反応して、概日リズムが狂うことがわかっています。

第二次世界大戦のころには、夜中に明かりをつけたり消したりするだけで植物の開花時期を操作できることが明らかになった。

ダイズのような短日性の植物に、夜中にライトをほんの数分あてるだけで、日の短い冬期でも花を咲かせられる。

反対に、アイリスのような長日性の植物に対しても、夜中に数秒ライトを浴びせれば、通常なら花を咲かせない真冬に花を咲かせられる。(p23)

24時間光害が蔓延しているような環境では、どんな動物や植物でも生体リズムが狂うのが当たり前です。

調べれば調べるほど、問題なのはわたしの体質ではなく居住環境ではないか、という疑念が深まっていきました。本当の夜をさがして―都市の明かりは私たちから何を奪ったのかに書かれているとおり。

睡眠医学を専門とするハーバード大学医学大学院のスティーヴン・ロックリーは次のように説明する。

「目下のところ、健康を脅かす危険因子として、私たちは食事、運動、喫煙、アルコールを気にかけています。でも睡眠不足がおよぼす影響をきちんと学べば、それがすべての危険因子を上回ることがわかるでしょう」。

…長時間にわたって光を浴びること、言い換えれば、夜に電灯をともす、また時には一晩中その光の中にいる状況は、すでに現代の生活では当たり前の光景になっている。

とはいえ、それが健康に与える影響を僕たちが理解し始めたのは、ごく最近のことだ。

1980年頃までは、人体は電灯の影響を一切受けないというのが医学の常識だった。しかし新たな研究は、人間は夜間照明に影響されないどころか、極めて敏感だということを示唆している。

実のところ夜間照明は、睡眠を妨げてサーカディアンリズム(約24時間を周期とする体内リズム)を乱したり、メラトニンという睡眠ホルモンの生成を阻むなど、人体に古くから備わっている機能に対し、マイナスの影響を劇的に及ぼす力をもっているのだ。

「夜に光を浴びるというのは、まったく不自然で異質な行為です」というロックリーの言葉を、僕たちは次第に理解しつつある。(p124-125)

おかしいのが明らかに環境側なのであれば、薬を飲んで無理に社会に合わせるというやり方が正しいようには思えませんでした。むしろ身体が環境を拒否しているのであれば、身体の声を尊重するべきではないかと考えました。

それで、ジョーンズの例に倣い、もっと自然が残っている地方に行って滞在してみると、確かに概日リズムが安定することがわかりました。

幸い、今はインターネットさえあればどこでも仕事ができる時代ですから、思い切って引っ越してみたところ、体調がかなり上向き、特にnon-24は今まであれほど悩んでいたのが嘘のように軽快してしまいました。

ジョーンズのようなアウトドア生活までは実践できておらず、室内ではそこそこ照明を浴びるせいか、少しだけ睡眠相後退しているくらい(12時過ぎ就寝、10時起床くらい)で安定しています。

もしもジョーンズのような徹底したアウトドア生活ができれば、たぶん日の出とともに起き、日の入りとともに眠るようになるのでしょう。

学校や会社に通い、都市で生計を立てている人たちが皆、こうした選択ができるわけではないのは十分に承知しています。

この本にも、慢性的な体調不良を抱えながら、都市部で夜間の仕事に就いている人がこんなことを言っていました。

「どうしてこの仕事をしているんですか、なんて質問は野暮でしょうね」。最初の取材が終わったあと、僕はローレンスに尋ねてみた。

「まあそうでしょう。みんな、この経済状況ではどうしようもないと思っていますから。でも、ほとんどの人は、家族や家庭生活のために頑張っているんです」(p133)

夜勤の仕事や、一晩中明かりが煌々と輝いている都市環境が健康にもたらす害は、睡眠の研究について知っている人なら承知しているはずです。でも、今の暮らしや生活水準を維持するためには、それくらいの犠牲は払わないといけない、と考えます。

しかしこれは、いわゆる心理学でいうところの「サンクコストバイアス」(埋没費用の誤謬)です。これまで自分が投資してきたもの(仕事、生活水準、人間関係など)をなかなか捨てられないせいで、最終的に取り返しのつかない損失を被ってしまうことです。

わたしの場合、都会から離れたことで、non-24ばかりか、慢性疲労体質も軽減され、かなり自由に動けるようになりました。それは偶然ではなく、科学的根拠に裏付けられいます。

僕たちの体に刻み込まれているサーカディアンリズムは、明るい昼と暗い夜が織りなす自然のリズムを通じて発達していった。

そして疲労とは、実のところ、そのリズムが乱れたひとつの結果とも言える。

…何千万年ものあいだ、光の情報はもっぱら太陽が出ているか沈んでいるか、もしくはいまの季節は何かということを伝えるだけのものだった。

つまり、光は人間の体を目覚めさせる一方で、いずれ訪れる闇の時間(寝る時間)を体内時計に予測させる。

だから夜に電灯にさらされると、体内時計が混乱をきたし、それによって生じる数多くの影響のひとつとして、疲労を感じる。(p131)

ジョーンズやわたしと同じような体質の人にとっては、都会で過剰な刺激による体調不良を抱えながら今の生活を続けるか、それとも自然豊かな場所で良い体調を維持して新しい生活をはじめるか、どちらのほうが長い目で見てメリットがあるか、考える必要があると思います。

何をするにも「体が資本」と言われますが、慢性的に疲労感が抜けないような毎日を続けていたらジリ貧になりかねません。しばらくは今の生活を維持できても、いつか必ず大病になって取り返しのつかない損失を被ります。

わたしは、まず何度か自然豊かな地方の宿泊施設に長期滞在してみて、本当に体調がよくなり、睡眠リズムが改善されるのを確認してから、移住を決めました。

長い目で見れば、都会の便利さより自分の体調をとったほうが、クリエイティブな人生を送れると思ったからです。

どんな場所に行ってみればよいかは、夜中の光害の度合いで判断できると思います。わたしが移住したのは、家を一歩出ると頭上に天の川が見える程度に暗い地方です。街頭は必要最低限しかありません。

以前に紹介した、夜空の暗さを測る尺度であるボートルスケールでは最低でもクラス3か4くらいの暗さはほしいところです。理想は1か2ですが、日本国内で見つけるのは非常に困難でしょう。(たとえば星空保護区認定された西表国立公園など)

ちょっとくらいの田舎ではなく、できれば大自然が残っている地方が望ましいはずです。それくらいガラリと環境を変えてみなければ、自分の身体がどう反応するかをはっきり観察できないからです。

わたしは日経サイエンス2016年1月号で初めてジョーンズの記事を読んだとき、自分は彼女みたいな決定は絶対できないと思いました。だから、この記事の上のほうではこう書いていました。

現代社会で、ジョーンズほど思い切った決定ができる人がどれほどいるでしょう。わたしもそこまでの勇気と決断力は持ちあわせていません。

それから2年あまりが経過して、結局、同じような決定にたどり着くとは思ってもみませんでした。でも、そう決断できてよかったと感じています。

移住先でしばらく暮らした今になってみて、もともとわたしは都会で生まれたけれど、体質的には都会には住めない人間だったんだなと感じるようになりました。それだけ自然豊かな中で暮らす日々が楽しく充実しています。

苦しんだ時期の経験が無駄だったとは思いませんが、あのまま24時間ずっと光害だらけの都会にとどまり続けるのではなく、生き物本来の環境に移転する決断ができたのは、重要な一歩でした。

上のほうでも引用したとおり、ジョーンズは次のように言っていました。

「屋外で眠ることが根本的な“治療”であるのに、それを実行できる人がほとんどいないのは残念なことです。私にとって、この自然療法が飛び上がるほどうまくいっているだけに」

わたしはそこまではできていませんが、ちょっとハードルを下げて、次のように自分なりに言い換えてみることができます。

都会を離れて、夜には真っ暗になる田舎の町で暮らすことが根本的な“治療”であるのに、それを実行できる人がほとんどいないのは残念なことです。私にとって、この自然療法が飛び上がるほどうまくいっているだけに。

概日リズム睡眠障害の専門医であるわたしの主治医は、当初から移住に全面的に賛成してくれていて、このような結果になったのも当然のことと思っているようです。

non-24を抱えるすべての人の場合に、ジョーンズやわたしのような方法が役立つのかはわかりませんが、この記事とわたしの体験が、少しでも参考になれば幸いです。

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子どもの慢性疲労 / 概日リズム睡眠障害