夜、寝ようと思うと鼻づまりがひどくて息が吸えない。仕方なしに口で息をするものの、苦しくてなかなか寝つけない。ようやく眠って朝起きるとのどがカラカラ。そして昼間耳鼻科に行くころには、鼻づまりは治まっていて、大して異常がないと言われる…。
そんな経験はありませんか?
鼻づまりの専門書、こんなに怖い鼻づまり!: 睡眠障害・いびきの原因は鼻にあり (ちくま新書)によると、そのような睡眠中の隠れ鼻づまりは広く存在すると考えられるそうです。花粉症ではなく、ほんとうの意味で鼻づまりそのものに注目した一冊を紹介します。
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これはどんな本?
こんなに怖い鼻づまり!: 睡眠障害・いびきの原因は鼻にあり (ちくま新書)の著者は、耳鼻咽喉科サージセンターで鼻づまりの治療にあたっておられる黄川田徹先生です。サージセンターとは全身麻酔の日帰り手術ができる専門施設だそうです。
黄川田先生は40歳まで東大医学部耳鼻咽喉科学教室や松戸市立病院に勤務されていたそうです。開業されてからは、東京大学の寺尾先生が行なっていた副交感神経を冷凍凝固する手術を参考に、鼻づまりを解消する手術を模索してこられました。(p174-176)
現在サージセンターには医師が9人おり、年間7600人を診ているそうです。(p8,179)
耳鼻咽喉科サージセンターとは | 耳鼻咽喉科 サージセンター浜松 サージセンター東京 東京サージクリニック
知らなかった、鼻づまり
この本でわたしが興味深く思ったのは、鼻づまりの仕組みを知れたことです。子どものときから鼻づまりに悩まされ、呼吸は口でするものと思っていて、一時は血管収縮薬による薬剤性鼻炎にもなりましたが、鼻づまりの仕組みはまったく知りませんでした。
わたしが参考になった点をまとめておきたいと思います。
鼻づまりはCTや内視鏡でわかる!
一番驚いたのは、鼻づまりはCTや内視鏡でわかる、ということでした。写真が幾つも載せられていて、CTを用いて鼻腔サイズを計測することができると書かれています。初歩的なことなのだろうとは思いますが、今まで鼻づまりで病院を渡り歩いて、CTを撮られたことはありません。(p120)
鼻はもともと腫れやすい
鼻は、有害物質を濾過する機能、空気を加湿し温める機能、空気抵抗を生じさせ、肺にとどめる機能の3つを果たしているそうです。(p25-34)
特に、吸った空気を一瞬にして湿度100%近くまで加湿し、体温のレベルまで温めるために、鼻の中には三段の層になった鼻甲介と呼ばれるひだがあるそうです。(p30)
そのひだは、空気の流れを調節して、空気抵抗を生み出すため、血液をたっぷり溜め込むスポンジのような構造をしています。鼻はもともと腫れやすいので、アレルギーなどで炎症が加わると鼻づまりになるのです。(p32)
鼻づまりは睡眠障害につながる
鼻がいつもつまっている人は、慢性的な疲労に悩まされることがあります。それは、鼻づまりが睡眠障害を引き起こすからだと言われています。(p13,59,73)
特に睡眠時無呼吸症候群(SAS)の原因の大部分が、夜の隠れ鼻づまりではないかと筆者は見ています。正常時では、夜は上記の鼻の気道抵抗が低くなって、鼻呼吸がしやすくなるはずなので、あえて口呼吸を行う必要が見いだせないからです。(p34,78)
子どもの場合はさらに深刻です。1976年に睡眠時無呼吸症候群(SAS)を発見したスタンフォード大のギルミノーらは、1998年に小児の睡眠時無呼吸症候群についての研究を発表しました。(p63)
衝撃的なことに、サルを用いた実験によると、鼻づまりが発育を阻害することがわかったのです。筆者は、子どもの鼻づまりが、子どものイライラ感や体の発育、さらには脳の発達障害にも関係しているのではないか、と考えています。
抗ヒスタミン薬は効かない!
このような鼻づまりを訴えると、たいていは、アレルギー性鼻炎が見つかり、抗ヒスタミン薬やネプライザーで処置されます。
ところがわたしはそうした薬が効いた試しがありませんでした。この本を読んで初めて納得がいったのは、そうした処置には、鼻づまりに対する効果がない、という点です。抗ヒスタミン薬はくしゃみや鼻水に効くのであって、肝心の鼻づまりに効果はありません。(p85)
また、ときどき鼻が曲がっているとして、鼻中隔湾曲手術が施されますが、これで鼻づまりが改善されるとは考えられないそうです。わたしの知人もそうでした。(p94)
鼻づまりに効くのは、以下のものだと書かれています。ただし、効果は限定的です。わたしもすべて試したことがありますが、あまり役に立ちませんでした。
■副腎皮質ホルモン点鼻薬(フルナーゼなど)…鼻づまりへの第一選択薬。鼻づまりによる睡眠障害への効果が確認されている唯一の薬。しかし鼻の奥まで届かない。(p88,99)
■ロイコトリエン受容体拮抗薬…飲み薬としては唯一効果があるが、限定的。(p99)
■鼻洗浄…アレルギー性鼻炎には効果あり。難しい方法が書かれていることがあるが、のどに回さなくてもよい。(p107)
■下鼻甲介粘膜凝固術…3段ある鼻甲介の一番下だけレーザーで固める。上のほうがつまっていると効果はない。(p90)
■後鼻神経切断術…著者自ら開発し、国際学会にも報告して効果を挙げている。以前に効果が認められ、広く行われていた副交感神経切断術を改良し、ほかの神経や血管を切らないように工夫したもの。(p116)
かつて手術というと最終手段のようでしたが、難治性の鼻づまりの場合、最初に手術を行うことで、点鼻薬など他の方法の効き目がはっきりし、症状のコントロールがしやすくなるといいます。(p130)
医師も手を焼く鼻づまり
今まで鼻づまりについて理解してもらえないことが多く、医者にかかってもパッとしないため、どういうことなのか不思議に思っていました。
この本を読んで、初めて、医師の側も鼻づまりには手を焼いているのだとわかりました。著者は鼻づまりが放置されてきた理由をさまざまに考察しています。(p101)
著者自身、手術中心の大学病院勤務から開業医に転向したとき、鼻づまりの患者ばかりを扱うようになり、困惑したそうです。自身の開発した手術についても唯一無二のものと宣伝しているわけではなく、集学治療のひとつだと述べています。(p104,175)
わたしとしては、現在は薬剤性鼻炎も収まり、かろうじて鼻呼吸できる状態です。夜の隠れ鼻づまりはあまり解消していません。
今はいろいろなことでいっぱいいっぱいで、お金の余裕もないので診察を受けるつもりはありませんが、鼻づまりとは何かを知ることができただけでも、一歩前進、という一冊でした。
▼鼻づまりとBスポット療法
頑固な鼻づまりは、手術するような問題ではなく、鼻の奥の炎症によるものかもしれません。その場合は少々痛みを伴いますが、Bスポット療法という簡単な治療で改善することもあるそうです。