日本人女性は遺伝的に股関節の問題を抱えやすい、ということを知っていますか?
もともと股関節が弱いため、40-50代になると、「変形性股関節症」という痛みを抱えやすいのだそうです。その数は400-500万人、つまり静岡県の人口に匹敵します。
わたしの親が最近股関節の痛みを気にし始め、レントゲン検査を受けたところ、変形性股関節症の前段階にあるとわかりました。これから進行するおそれがあるので、わたしも、この病気について知っておこうと思いました。
変形性股関節症とは何でしょうか。どのように進行し、どう対処すればよいのでしょうか。とてもわかりやすい本股関節の痛みは治る!の内容を簡単にまとめたいと思います。
目次 ( 各項目までジャンプできます)
これはどんな本?
この本の著者石部基実先生は、MIS・ナビゲーション人工股関節専門 石部基実クリニックの院長です。これまでにおよそ4000件の股関節手術を行っている、この分野の第一人者だそうです。
石部先生は、2012年に処女作の「老けない体」は股関節で決まる!を書いておられます。それまで股関節について書かれた本は少なく、盲点であったため、好評を博したそうです。
また、最近は手軽な文庫本として、「股関節」を整えると、みるみる体が若返る!: 姿勢矯正、ダイエット、ストレス防止 (知的生きかた文庫) も著しておられます。股関節について本が、このわずか1年半ほどの間に三冊書かれたことになります。
その中で、この股関節の痛みは治る!は、単なる健康本ではなく、もうすでに股関節の痛みが生じていて、日常に支障が及んでいる人を対象にした、「変形性股関節症」の専門書という立ち位置になっています。Kindle版もあります。
股関節はなぜ痛むのか
はじめに述べたように、日本人には、生まれつき股関節の問題を抱えている人が多いと言われています。股関節の問題といっても、生まれたときから痛みがあったり、脱臼しやすかったりという問題ではありません。
股関節は、人体最大の関節で、骨盤の両側にある臼のようなくぼみ「寛骨臼」に、ボールのように丸い大腿骨の先端がかっぽりはまるようにできています。(p38)
ところが、日本人の女性の場合、「臼蓋形成不全」といって、寛骨臼の“うす”が正常より浅くなっていることがあるそうです。“うす”が浅いと、大腿骨がしっかりはまらず、股関節にかかる負荷が大きくなり、軟骨がすりへりやすいのです。(p50)
身体が丈夫な若いうちは問題なくても、40-50代になると、積み重なったダメージが現れ、変形性股関節症になってしまうとされています。
股関節痛は、「安静時痛」といって、症状が進むと、起きていても寝ていても常に痛むのが特徴で、生活にひどい支障が及ぶようです。(p29)
股関節の危険のシグナル
変形性股関節症は、はじめからひどく痛むわけではなく、いくつかの段階をおって進行します。
超早期のシグナル:妊娠中、女性は7-12kg体重が増え、股関節にかなりの負荷がかかります。このとき、もし股関節に潜在的な問題があれば、違和感を感じることがあるそうです。これは十数年後の発症につながるシグナルかもしれません。(p36)
初期シグナル:通常は、股関節の感覚の左右差が初期シグナルとなります。股関節痛は、左右どちらかで先行して発症するので、片側だけ、だるく感じたり、モノが挟まったように感じたりするなら、整形外科を訪ねるべきです。(p34)
レントゲン検査:こうした兆候は、整形外科を受診し、レントゲン検査を受けることで、進行度合いを知ることができます。(p82)
早期に受診すれば、遺伝的な臼蓋形成不全があるのがわかるかもしれません。ある程度進んでいると、軟骨の表面が部分的に削られ、傷ついている様子が写ります。(p44)
もっと進行していると、軟骨がなくなり、骨と骨とがじかに接触し、骨棘(小さな突起)や骨嚢胞(骨の空洞化)が生じて、激しい痛みが生じていることがわかります。(p46)
末期まで我慢し続けていると、関節の隙間が消失し、骨と骨が癒着して、足の長さが変化し、関節が動かなくなってしまうこともあるそうです。(p48)
変形性股関節症は進行性の病気なので、我慢していてよくなることはありません。痛みがひどくなる前に、整形外科を受診して対策を練ることが大切だと書かれています。
また、シグナルは股関節に出るとは限らず、無意識に股関節をかばおうとして、腰痛やひざ痛として現れる場合もあるそうです。本書には、それらが股関節の問題からきているかどうかを確かめるセルフ触診が載せられています。(p66-74)
どうやって治療するの?
治療にはいろいろな選択肢があります。マッサージなどの代替療法、鎮痛薬などで痛みを抑えるのもひとつの手段ですが、それらは抜本的な治療にはならないことに注意が換気されています。
よくあるのは、「痛みを鎮痛薬でコントロールできなくなったら、あきらめて手術しよう」という考え方ですが、痛み止めにも副作用があることからすると、「鎮痛薬を必要とするほどの痛みになったら手術に踏み切る」という考え方のほうが勧められています。(p101-102)
手術は以下の3つに大別されるそうです。
1.人工股関節置換術:強い痛みがある末期の場合。関節を人工のものに置き換える。運動も自由にできるほどになる。入院・リハビリ期間は短い。(p104-109)
不安感をあおるうわさ話が多いが、
■再手術の可能性は1年で1%ほど。20年で20%程度
■一度付けると壊れても再装着できないはデマ
■10-15年で取り替える必要があるというのも正確でない
2.骨切り術:初期段階でダメージが少ない場合。自前の股関節を温存し、浅くなっている寛骨臼の“うす”を深くしたり、大腿骨のほうの角度を調整したりする。入院・リハビリ期間が長いのがデメリット。(p109-114)
3.関節鏡視下手術:関節の間に漂う関節軟骨のかけらや遊離組織をとってきれいにし、痛みを和らげる。身体への負担が非常に少ないが、どの程度効果があるかは未知数。(p114-116)
生活習慣に注意する
変形性股関節症の主な原因は遺伝的な臼蓋形成不全にあるとはいえ、痛みを緩和したり、進行のスピードを遅らせたりするには、生活習慣に注意するのがよいそうです。この本ではたとえば以下のようなアドバイスが挙げられています。
■安静にしすぎず、痛みのない動きはできる限り続けて、廃用症候群を防ぐ (p138)
■逆に痛みのある運動や姿勢(しゃがむ、立ち上がる、階段、長時間歩く、重い荷物、走る、踏ん張るなど)は厳禁。痛くても歩いたり運動したりするほうがよい、というのは股関節痛にはあてはまらない。 (p143)
■生活全般を和式→洋式にする (p146)
■手すりや椅子を設置する (p152)
■痛みが出てくるようになったら杖を使う。長時間歩かない (p155)
■椅子には浅く腰掛ける (p158)
■バランスポッド構造を取り入れているトレーニングシューズを履く (p168)
■健康的な食習慣をとりいれ、体重を落とす (p174)
■グッド体操。痛みのでない範囲で行えるストレッチについて詳しく図説されている (p180-205)
■テレビで取り上げられた貧乏揺すりでは、変形性股関節症の進行を止めるほどの再生は見られないと思われる (p210)
■痛みや違和感が出ない範囲なら、ウォーキングは構わない (p213)
股関節の痛みは治る!は、わたしのような、親の持病について知っておきたいと思う家族にとっても読みやすく、理解しやすい本でした。
必要な情報がコンパクトに、しかも痛みを抱える当人の感情にも配慮して記されているので、治療の選択肢をどう選ぶか、という点においても参考になると思います。
このエントリでは、わたしが気になった部分をごく簡単にまとめたにすぎません。悩んでいる人自身が読めば、もっと多くの知識やアドバイスに気づくと思います。読んでおいて間違いのない本といえます。