サイエンスポータルのオピニオンに、福井大学 子どものこころの発達研究センターの友田明美教授が、子どもの虐待の深刻な影響について語る記事が掲載されました。
オピニオン 友田 明美 氏(福井大学 子どものこころの発達研究センター 教授)「児童虐待と“癒やされない傷”」 サイエンスポータル
過酷な世界で生き残るために適応した
虐待によるダメージはこれまで基本的には“ソフトウエア”の問題とされてきました。精神的・社会的な発達が抑えられて、大人になっても“傷ついた子ども”のままになってしまう、だからこそ治療すれば再プログラムが可能で、つらい体験に打ち克てると考えられていました。
ところが子どものころに虐待を受けた人たちの脳の機能を調べると、性的虐待を受けた人は脳の視覚野に、暴言虐待を受けた人は聴覚野に、過度な体罰を受けた人は前頭前野に目に見える異常があることが判明しました。
虐待を受けて大人になった人の脳は壊れたハードドライブにも例えられる深刻な影響を受けていたのです。
どうしてそのような“傷”があるのでしょうか。友田先生は記事の中でこう述べています。
これは、幼いころに激しい情動ストレスを経験したがために、脳に分子的・神経生物学的な変化が生じ、「非適応的な」ダメージが与えられてしまったと考えるべきではない。
むしろ、虐待状況という特殊な環境に対して「神経の発達を“より適応的な方向”に導いたため」とは考えられないだろうか?
危険に満ちた過酷な世界の中で生き残り、かつ、子孫をたくさん残せるように、脳を適応させていったのではないだろうか?
単なる心の問題として見過ごして良いものではなく、目に見えない深刻な禍根を残しているという点に注意を喚起しておられます。
それでも虐待による傷は、決して治らない傷ではありません。問題の深刻さを認識してこそ、治すための手段を考えていくことができるはずです。
この研究について詳しい点は、友田先生の著書いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳(2011年新版)について書いた、このブログの過去の記事にまとめてあります。よろしければご覧ください。
また以下のサイトから、友田先生の公開講演とプレゼンのPDFを閲覧できます。
研究に至った経緯や、どのような方法でデータを集めることができたのか、そして結果がどれほど予想外だったか、という点が語られています。
子どもの対する親の愛について深く考えさせられる、「コウノトリのゆりかご」と「命がけのゆりかご」という、二つのニュースの対比には、胸を打たれました。ぜひ多くの人に読んでいただきたい内容です。