あまり知られていない「発達障害のいま」の5つのポイント

日、ちまたには発達障害に関する本があふれています。実はあなたも発達障害?と疑問を投げかけるような本は少なくなく、身の周りの誰も彼もが、発達障害であるかのように思えてきます。

今回読んでみた発達障害のいま (講談社現代新書)は、一見混乱しているともいえる、発達障害の理解に光を当てる本です。

発達障害が増えているといわれるのはなぜでしょうか。発達障害は精神疾患とどう関係しているのでしょうか。

どんな精神疾患でも、発達障害の存在を見逃していれば、治療が難航するといいます。治療が進まない慢性疲労症候群の背後にも、発達障害が隠れているかもしれません。それで、大人の発達障害の特徴についても取り上げたいと思います。

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これはどんな本

著者の杉山登志郎先生は、発達障害の専門家として研鑽を積んでこられた方です。虐待やトラウマについても多数の患者を見て来られ、その豊富な経験によって、発達障害とは何かを明快に解説しておられます。

杉山先生のことは、過去にもこのブログで取り上げました。

【クロ現まとめ】トラウマからの解放 ~うつ病・身体の痛みの知られざる原因~
12/11のクローズアップ現代「トラウマからの解放 ~うつ病・身体の痛みの知られざる原因~」の内容を関連資料にリンクしつつまとめました。

今回読んだ発達障害のいま (講談社現代新書)は、すでに発達障害の知識をある程度持ち合わせている人に対して書かれた本です。発達障害、特にアスペルガーなどの自閉症スペクトラム障害に関して、十分に知られていない幾つかのテーマが扱われています。

あまり知られていない5つのこと

これから、本書の要点を5つにわけて要約したいと思います。発達障害に関して、あまり知られていない5つの話題です。

1.発達障害はなぜ増えているか
2.発達凸凹はマイナスではない
3.フラッシュバックとタイムスリップ現象
4.発達障害と精神科疾患
5.大人の発達障害の特徴 

1.発達障害はなぜ増えているか

発達障害が増えているという現象は、多くの専門家を悩ませています。発達障害は遺伝的なものであることは一卵性双生児と二卵性双生児を比較した研究によって、裏付けられているからです。(p26)

以前読んだ、小西行郎先生の本発達障害の子どもを理解する (集英社新書)では、発達障害が増えているのは、社会が注目し、診断率が上がったからだとされていました。

岡田尊司先生の本愛着崩壊子どもを愛せない大人たち (角川選書) では、それだけでは説明しがたいとして、そだちの不全による愛着障害が混同されているのではないかとされていました。

本書の杉山先生の見解には、この二つの見方が両方含まれています。

遺伝子には情報の読取りのオンオフを左右するエピジェネティクスという機能が備わっています。同じ遺伝子でも、強い環境要因によって遺伝子の読み取られ方が変わります。「遺伝的な原因が非常に強い問題でも、増加、減少ということがあり得る」のです。(p38)

たとえば、糖尿病の素因を持つ人は多くいますが、すべての人が発症するわけではありません。

同じように、発達障害の素因を持つ人は多くいますが、すべての人が発達障害になるわけではありません。

筆者はこの発達障害の素因を発達凸凹と呼んでいます。発達凸凹に適応障害が加わって初めて、発達障害になります。

発達凸凹を持った人の数は変わらないかもしれませんが、社会のあり方が変化し、適応障害に悩む人が増えれば、発達障害の診断が増えることになります。これは小西行郎先生と似た視点です。

また、糖尿病の場合、肥満が増えれば、発症する人が増加します。

発達障害の場合、この肥満に相当する増悪因子はトラウマと考えられるそうです。トラウマを生じやすい社会では、環境要因によって、発達障害が増加することになります。

「今の時代はトラウマに満ちている」のです。こちらの視点は岡田尊司先生と似ています。(p127)

2.発達凸凹はマイナスではない

この発達凸凹という見方を取り入れることによって、最初に述べた、一風変わった人や独創的な人の誰も彼もが発達障害のレッテルを貼られるということがなくなります。

筆者は外来でこう説明することが多いそうです。

「いえ、お子さんは発達障害ではありません。診断を下すとしたら発達凸凹です。これはマイナスとは限りません。発達障害にならないように、これから一緒にやっていきましょう」(p62)

発達凸凹をもつ子どもは、世界の見え方が違うといいます。天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル (こころライブラリー)によると、ふつうの子どもが聴覚言語優位の考え方をするのに対し、発達凸凹の子どもは視覚映像優位の考え方をします。

日本の学校教育は、聴覚言語優位の子どもを対象として行われています。そのため、発達凸凹をもつ子どもは落ちこぼれがちです。

しかしマインドマップのような視覚映像優位の教育の機会が与えられれば、そうした子どもは新しい知識を直感的に吸収し、一足飛びに理解することもあるのです。

アメリカでは発達凸凹と才能を持つ、二重に例外的な子どもたち、通称2Eを対象とした特別支援教育が行われているといいます。

そのあたりのことは、杉山登志郎先生の別著ギフテッドー天才の育て方 (学研のヒューマンケアブックス)に書かれているそうです。

3.フラッシュバックとタイムスリップ現象

このように発達凸凹があることは悪いことではありません。むしろ発達凸凹は独創性の源となります。

ところが、発達凸凹のある子どもは、トラウマによって発達障害レベルにまで悪化してしまうこともあるので注意が必要です。

なぜ発達障害はトラウマによって悪化しやすいのでしょうか。その理由は3つ説明されています。(p142)

1.発達障害があると、普通に生活していても、怖い世界が広がっていてトラウマ的になりやすい。これには知覚過敏や、扁桃体などの機能不全が関係している。

2.トラウマによるフラッシュバックと発達障害によるタイムスリップ現象のメカニズムが似ている

3.発達障害は虐待の高リスクになる。(p96)

2番目に挙げられている、フラッシュバックとタイムスリップ現象とは何でしょうか。

フラッシュバックとは悲惨な経験をしたあと、それがトラウマになり繰り返し思い出されることです。フラッシュバックにはさまざまなタイプがあり、目の前に映像が再生されることもあれば、聞いた言葉が無意識のうちに自分の考えとして繰り返されることもあります。(p108)

それに対し、タイムスリップ現象とは、自閉症スペクトラム障害の人に見られる、特異な記憶想起現象です。あたかも突然過去に横滑りしたかのように、さまざまなできごとのフラッシュバックが生じます。

タイムスリップ現象という言葉は今やかなり有名になりましたが、名付け親は杉山先生なのだそうです。(p146)

発達凸凹があると、このタイムスリップ現象により、普通なら年月が経てば忘れてしまうようなことも覚えているのでトラウマ的になりやすいのです。

フラッシュバックとタイムスリップ現象の治療法として、この本ではEMDRや神田橋処方(桂枝加芍薬湯と四物湯)が解説されています。(p123,248)

4.発達障害と精神科疾患

このようにトラウマと発達障害は、治療が難航する精神疾患の根底に関わっていることがあります。

これまで精神医学は、発達障害という存在を意識して構築されてこなかった。その結果、目の前に現れた症状だけを見て、診断をおひなうということがおこなわれてきた。…これからの精神医学は発達障害とトラウマがキーワードになるのではないかと思う。(p162)

たとえば、不登校や引きこもりの半分以上は未診断の発達障害や発達凸凹であると著者は考えています。(p169)

また治療に難航するタイプ、シゾイドの摂食障害強迫性障害にも発達障害が関わっているといいます。シゾイドとは統合失調質パーソナリティのことですが、その99%は自閉症スペクトラム障害のことではないかと書かれています。(p176)

うつ病も自閉症スペクトラム障害と併存しやすい疾患です。どちらもセロトニン神経系の脆弱性が関係しているからです。統合失調症も、自閉症スペクトラム障害によるフラッシュバックと幻覚とが混同されていることが多いそうです。(p193,216)

精神疾患の治療が難航する場合、その背後にある発達障害を明らかにすることで、治療の見直しを図ることができます。

発達障害があれば、薬に過敏性を示すので、少量処方が前提となります。また力動的な精神療法は効果が薄く、認知行動療法が中心となります。(p237,247,169)

5.大人の発達障害の特徴

では、自分の体調不良の陰に未診断の発達障害が関わっているかどうかを知るにはどうすればよいのでしょうか。

この本には。大人の発達障害の特徴が10個書かれています。多くの場合、特徴は明らかですが、欠点を補うために適応戦略を弄している場合もあります。簡単に要約するので、詳しくは本書を読んでください。

1.2つのことが一度にできない
電話を聞きながらメモが取れないなど。

2.予定の変更ができない
予定の組み換えが苦手で柔軟さに欠ける。綿密な予定表を作っていることもある。

3.スケジュール管理ができない
手帳、スケジュール帳、電子機器などを使ってなんとか管理しようとするがうまくいかない。また、それらのものをどこかに置き忘れる。

4.整理整頓ができない
逆に片づけ魔になることもある。

5.興味の偏りが著しい
ハウツー本の信奉者になることもある。

6.細かなことに著しくこだわる
思い込みからくる誤った考え方に固執する。未来のことについて心配するあまり、その方向に突っ込む。

7.人の気持ちが読めない
空気がよめないあまり、逆に人の気持ちをすごく気にするようになり、過敏に反応してしまう。

8.過敏性
さまざまな過敏性をもっていて、対向する手段として解離によって瞬間的に意識を飛ばす手段などを用いていることがある。とばらくぼーっとしてしまう。

9.精神科的疾患
何らかの精神科的疾患を持ちやすい

10.クレーマーになる
クレーマーになる人は発達凸凹系か虐待系に大別される。

発達障害について知っておく

なぜ発達障害は増えているのか。独創的な人はすべて発達障害なのか。発達障害と愛着障害はどう関係しているのか、精神科的疾患の背後に発達障害があるならどうすればよいか。大人の発達障害の特徴はどんなものか。

発達障害についてこれまで感じてきたいろいろな疑問が、この本を読んで整理されたように思います。

わたし自身は発達障害ではないと診断されています。しかしおそらく、この本の情報からすると、発達障害とまではいかない発達凸凹レベルの人なのでしょう。

発達障害と精神科疾患の関わりについては特に興味深く思いました。

この本には、慢性疲労症候群との関わりは書かれていません。しかし、発達障害と疲労との関係は見過ごせるものではありません。

この本では、発達障害は「セロトニン神経系の脆弱性」をはじめ、脳全体まきわめて複合的な問題だと説明されています。発達障害の背景を持つ、CFS患者もやはり多いのではないでしょうか。(p193,60)

発達障害の背景があることを知れば、過敏性の問題を考えて薬や食事を調整したり、場合によってはトラウマ治療を行うきっかけになったりするかもしれません。自分の状況を整理して考えるのにも役立ちます。

理解が混乱しがちな発達障害について知る。そのために発達障害のいま (講談社現代新書)はとても役立つ一冊だと思います。

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