認知行動療法を用いて、さまざまな疾患を治療する手法を紹介した本、臨床が変わる! PT・OTのための認知行動療法入門を読みました。
専門的すぎて、ほとんど理解はできていないのですが、線維筋痛症(FM)や慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎(CFS/ME)と、認知行動療法について説明されている貴重な邦訳なので、その内容をまとめておきたいと思います。
わたし自身もあまりよくわかっていないので、比較的簡単な内容になってしまうと思いますが、ご理解よろしくお願いします。
▼2018/08/18追記
その後、さまざまな観点から学びを深めた結果、この記事で書いた専門家の意見は物事の一面だけしか見ておらず、的外れだと感じるようになりました。詳しくは以下の記事をご覧ください。
目次 ( 各項目までジャンプできます)
認知行動療法とは?
認知行動療法とはエビデンスに基づく治療法であり…それ以上である
…行動療法や認知行動療法がなければ、心理療法は、せいぜいほとんど効果はないか、最悪の場合、患者の時間と専門家の人的資源を無駄にしているとみなされてもいいだろう (ix)
本書のはじまりの部分にはこのような言葉が載せられています。
認知行動療法(cognitive behavioral therapy、CBT)の創始者は1921年、米国で生まれたAT Beckです。
彼はうつ病患者を観察し、彼らが否定的なバイアスをもった、独特の思い込みや思考パターンを持つことを発見しました。
そこから彼は、周囲の情報を歪んだ認知で見ることによって問題が生じるといった考えを抱き、認知行動療法を作り上げました。
例えば、うつ病の場合、幼少期の経験などによって、役に立たない仮定や信念をもっています。
◆「もし人に好かれたければ、自分自身より他人の欲求を常に優先すべきだ」
◆「もし私が成功しなければ、他の人はよく思わないだろう」
このような思い込みのため、例えば、昇進できない、周囲の人から無視されるといった状況で、自分は成功するに値しない、好かれていないといった、より否定的な考えが生まれてしまい、さらなる不幸やうつにつながるのです。(p6)
よくある認知の歪みとしては以下のようなものがあります。(p9)
ある状況の1つの側面を選択し、状況全体をこの1つの細部をもとに解釈すること
状況…友人たちが食事をしにきたが、メイン料理が失敗だった
思考…今晩は何もかも台無しになった
◆恣意的結論
その結論を支持する十分な証拠がないまま結論に達すること
状況…同僚のサラとジョンが部屋に入って扉を閉めた
思考…彼らはわたしのことを噂するつもりだ
◆過度の一般化
ある状況全体のなかから、任意に選んだ1つの側面をもとに、一般的な結論に達すること
状況…同僚のサラとジョンが部屋に入って扉を閉めた
思考…課の全員がわたしのことを噂しているに違いない
◆拡大解釈と縮小評価
ある状況の否定的な側面を拡大解釈し、肯定的な側面を過小に見積もること
状況…友人たちが食事をしにきたが、メイン料理が失敗だった
思考…どの料理もひどかった。すべて台無しだ
◆自己関連づけ
そのように関連づける根拠もないのに、外的なできごとを自分と結びつけること
状況:友人たちはパーティーから早めに帰った
思考:彼らはわたしのことが嫌いなのだ
そのほかにも、いろいろな認知の歪みがあります。そのことは下記のサイトでわかりやすく説明されていたので紹介しておきます。
心理学COCOROの法則: 001125)よく認める認知の歪み アーカイブ
身体的な問題にも用いられる
認知行動療法は、しばしば精神的な症状を改善するために用いられます。そのため、認知行動療法がCFSやFMに効果があるとすると、これらは心理的な問題なのか、という誤解を招くかもしれません。
本書では、そのような誤解を解くためにもページが費やされています。認知行動療法は「心理的問題のみならず身体的問題の心理的側面についても、個別に理解し、有効に治療することが重要であるとわかった」と書かれています。(ix)
そのようなわけで、本書では、認知行動療法の適用が2つの領域に分けられています。(xiv)
1つ目は精神保健分野での情動障害、不安、アルコール依存症などの問題に関する部分です。2つ目は慢性疼痛に関する部分であり、その中で線維筋痛症や慢性疲労症候群が取り扱われています。このブログでは後者を扱います。
症状そのものは治療できない
慢性疼痛をはじめ、FMやCFSに対する認知行動療法の場合、心理的な問題からすべての症状が生じているわけではありません。ですから、認知行動療法によって、痛みや疲れそのものは治療できません。これは大切な点です。
例えば、認知行動療法を取り入れた疼痛管理プログラムでは、疼痛そのものではなく、「疼痛による影響」に焦点化しています。
「現状では治療法が明らかになっていないため、長期的に生活をしていくということは、生涯その症状とともに生きていくように順応しなければならないということ」です。(p125)
疼痛を軽減したり、取り除いたりすることが目的なのではなく、「疼痛による障害や苦痛と付き合っていく技能を学ぶことで、患者を支援する」のです。(p132)
症状そのものは取り除けないものの、生活のQOLを上げるのが、認知行動療法ということになります。
線維筋痛症や慢性疲労症候群では、長期間にわたって続くひどい痛みや疲れのため、認知の偏りや否定的思考のバイアスができてしまいます。また、もともとの考え方の傾向というものも存在します。
そのような傾向のために、過活動や不活動、ストレス過多に陥り、さらなる疲労や痛みの悪循環に陥ってしまうという二次的な影響を回避するのが、認知行動療法の目的であるようです。
FMやCFSの考え方の傾向
FMやCFSの患者には、考え方の傾向といったものが存在します。
それそのものが病気の原因というのは短絡的ですが、ストレスのより多い生活を選んでしまったり、病気のもとでより症状が悪化したりすることに関わっているかもしれません。
考え方の傾向というのは、もともとの気質だけでなく、病気のせいでそうなってしまっている部分もあります。
たとえば、慢性疼痛の患者は次のような循環思考をもつことが報告されています。
「なぜわたしなのか」
「この痛みに終わりはないのか」
「私にはこの痛みをどうにもできない」
「なぜ私は自分をこんな状態にしてしまったのだろう」
この循環思考についてこう書かれています。
多くの患者でこの思考は深く根づいており、この思考回路が働いていることに気づかないほどである。これらはすべて否定的な思考や感情である。
慢性疼痛患者にとって、こうした思考が問題になる場合も多いが、慢性疼痛をもつとすれば、このような思考は完全にふつうで典型的で驚くには値しないと指摘することには価値がある。(p127)
また、線維筋痛症の場合には、多くの場合次のような気質的特徴が認められたと書かれています。これらは「長所」でもあると書かれています。
発症前は、患者たちは、かなり意欲的で、限度を超える仕事を自分に課し、自己批判的で、完璧主義者で、勤勉な傾向があり、発症後も他者のことを優先しがちで、情動面で脆弱性がみられる。
自分がどのくらいストレスに苦しんでいるかを彼らが理解していたかどうかはわからない。しかし概して彼らにとってしなければならないことが多すぎて、時間が足りていなかった。
非常に多くの場合、彼らが考える回復とは、病前に行っていた以上のことを、実際に行うことができる状態に達することである。(p143)
気質的特徴を指摘されるのは、そのせいで病気になったと言われているようで嬉しいことではありませんが、実際にそのような傾向があるかどうか、正直に吟味してみる価値はあります。
小児慢性疲労症候群についても、特徴についてこう書かれています。
Rangelら(2000b)は慢性疲労を抱えた青年期患者がより神経質、順応的、依存的で、強迫的で完璧主義的といった傾向をもつことを発見した。
これらの若年者は、「私は傷つきやすい」「私は価値がない」といった中核的信念をもち、低い自尊心を示すかもしれない。
これらの中核的信念は、「私は高い基準に達するパフォーマンスをしなければ受け入れてもらえない」といった問題のある仮定を導いてしまう。(p159)
慢性疲労患者はたいていの場合、自尊心が低い。(p164)
もちろん、線維筋痛症や慢性疲労症候群の患者は、『純粋に「身体的な」医学的疾患と捉えがちであり、心理社会的な因子が関与するなどといえば不快感を示すかもしれない』ことが認められています。(p141)
しかし、そうした考え方には、「病気には実態があり身体的なものか、あるいは精神病/心身症しかないとする社会環境で育ち、ゆえにデカルトの心身二元論の誤解をしている」ことが関係しているかもしれません。(p146)
実際には、精神神経免疫学の理論によると、『いかなる「心理的」過程も、神経系と内分泌系という「ハードウェア」によってのみ可能になる』ことがわかっています。心理的な「プラセボ効果」と「ノセボ効果」によって身体的症状の程度は変わります。(p145)
つまり、精神面と身体面のプロセスは密接に関わっているため、身体の病気、精神の病気と分けることが無意味であるということです。
身体的な病気は、精神的な働きや考え方にも影響を及ぼしますし、逆に心理的な考え方もまた、身体的な症状に影響を及ぼすのです。
心理的な側面に目を向けるとしても、病気が「本物である」ことを否定したり、問題を「すべて心の中のもの」とみなして、苦痛を無視してしまうというわけではありません。(p147)
この本も、線維筋痛症を決して心の中の問題とみなしているということはなく、『精神神経免疫学的な理由によって異常に感染しやすく、血液脳関門の透過性がストレスにより上昇するために、薬物療法によるすべての神経学的な「副作用」の被害を受けやすい。…腸透過性にも影響を与えるかもしれない』と述べています。(P142)
多くの身体的な病気に心の働きも関与していることを理解するには、わたしにとっては以下の本が助けになりました。
典型的な過活動と不活動の循環
こうした心理的な特徴に注目すべきなのは、それが闘病生活に悪い影響をもたらすからです。それは、典型的な過活動と不活動の循環です。以下の文はおもに慢性疼痛に関して言えることですが、線維筋痛症や慢性疲労症候群とも関係しています。
慢性疼痛にみられる不幸な特徴は、体調がよいときに運動や活動を過剰にしてしまう人がいることである。
体力の限界まで活動を続け、その結果、疲労や痛みが再燃し、長期の休養期間を要することとなる。
…再燃が収まると、人はいくぶんかはよくなったと感じ、疼痛によって失った時間を埋めようと再び無理をする傾向がある。そうすることによって次の再燃の可能性が高まる。(p130)
慢性疲労症候群(CFS)の場合にも、疲労に対する対処は休養しかないという信念や、前述の自尊心の低さからく過活動によって体調がより悪くなる危険性が触れられています。
疲労したとき、とるべき最善の方法は休むことであると考えるかもしれない。
もしこの休息が長引けば、結果として活動を再開する際にさらなる筋疲労と筋痛を伴う身体調節異常がみられる。症状の悪化への恐れは、いっそうに不活動、さらなる身体調節異常につながる。
一方、すぐによくなろうとする意欲は、過剰な活動、引き続いて起こる疲労、その結果、長期間の静養を要してしまう可能性がある。(p159)
CFSやFMの患者は、もともと自分の限界をわきまえない傾向がありますが、過度の活動や過度の休息は害となるのです。
過度の休息と過活動の悪循環から抜け出すには、その原因となっている自分の感情に気づく必要があります。
あるときは、「自分はもうダメだ。こんなにしんどいなら、ゆっくり休んでいるしかない」と考えて、過度の休息に陥っていないでしょう。
別の時には、休みすぎたことに罪悪感を覚えたり、家族や周囲の目を気にしすぎて、「もっとやらなければ認めてもらえない」と考えて、過活動に陥っていないでしょうか。
こうした誤った仮定に気づいたなら、自分の考えを調節することが大切です。そして次に挙げる3つの技法、ペース配分、ゴール設定、段階的運動療法によって無理のない範囲で身体を動かすことができます。
ペース配分
「疼痛管理の恩恵を受けた人は、ペース配分とゴール設定が彼らの獲得したなかでもっとも有用な技能であると述べている」そうです。(p129)
ペース配分の基本的な考え方は、本人の気持ちで決めていた活動量を、あらかじめ定めた活動量と置き換えることです。
ペース配分の技術には、自分の耐久性、つまり問題を引き起こす限界の活動量を見極め、その耐久性の範囲内で、活動のベースラインを決定すること、そしてその途中に休息を組み入れることが関係しています。
座ってする作業、立ってする作業、歩く時間や距離のベースラインをそれぞれ決めておきます。
難しいのは、しばしば、長時間の活動による悪影響は、直ちに感じられず、翌日以降にわかる場合もあるということです。
ですから、耐久性とベースラインを決めるには、調査や試行錯誤が必要で、専門家の指導も有益です。ベースラインは耐久性の80%にするという専門家もいれば、50%にするという専門家もいます。
ペース配分についてはこう要約されています。
要するにペース配分とは、何かをしすぎることとしなさすぎることの間、活動的すぎることと、活動的ではないこととの間のバランスを見つけることである。
この技能は、小さくまとめた活動の間に定期的な休息をはさみこんでいく方法をパターンとして学習するために有効である。(p130)
ゴール設定
ペース配分と並んで、ゴール設定は、慢性的な病気の患者が身につけるべき一種の技能です。
慢性疼痛の患者は、ゴール設定の点で問題を抱えがちです。
たとえば、前述の勤勉さや目標意識の高さから、時間内では到底達成できないようなゴール設定をすることがよくあるそうです。ゴールに到達できなければ、失望の原因になります。
また設定するゴールが不明確な場合もあります。そのゴールに到達したか、しなかったかを判断できないのです。
そこで役立つのがSMARTの法則です。
MはMeasurable「測定可能な」を意味します。時間や距離を明確にしておきます。
AはActivity-related「活動に則した」を意味します。実際に何かを行うことをゴールに含めます。
RはRealistic「現実的な」を意味します。体力や資金の点で達成可能な目標を定めます。
TはTime-related「時間を区切った」を意味します。ゴールに到達するまでの期日を決めておきます。
ゴール設定についてはこう要約されています。
セラピストは、到達ゴールを小さく区切るように支援する。患者は、小ゴールに到達した成功体験を報酬として受け取り、同時に最終ゴールへも前進するのである。(p131)
段階的運動療法
段階的運動療法は、FulcherとWhite(1998)によって提唱されました。彼らは活動を段階的に増やすことを勧めており、もし症状が悪化したら、ペースを落とすか、安静を保つ機会を設けるとしています。
運動活動における重要な点は、運動強度を上げることよりも、中程度の負荷活動の長さを増やすことです。(p170)
載せられている線維筋痛症の症例では、「きわめて段階的かつ連続的なエクササイズプログラムによる体力回復」として週2回の15分のエクササイズバイクからはじめていました。(P148,150)
もちろん、どんな運動をするかは、その人の体調と合わせて考えなければなりません。
前に読んだチャールズ・ラップ先生の講演では、「一回に3~5分の運動と、5分の休憩を組み合わせる」ことが勧められていました。また心拍数が上がりにくい運動をすることや、1日の歩数を1000歩以上、5000歩未満にとどめることが推奨されていました。
慢性疲労症候群(CFS)の患者に対する認知行動療法のポイントは、「活動、運動、休息のような維持的要因についての信念」に取り組むことだと書かれています。(p156,162)
たとえば、慢性疲労症候群(CFS)の患者は、「運動が身体に悪影響をもたらすという信念や、回復手段としての休息の必要性という信念」を持っていることがあります。
しかし実際には、過度に活動を控えたり、過活動に陥って寝込んだりすることにより、筋力が低下し、身体調節異常が生じるため、さらに体調は悪くなってしまいます。
「ベッド上の休養や不活動は筋容量や筋力を低下させる。それゆえ不活動は筋機能の低下を招くだけである」と警告されています。(p170)
「疲労症状の経験と休息との関連は、次第に弱める必要がある」のです。(p163)
認知的アプローチと、段階的な運動は、「治療の第一選択」とみなせるほどのエビデンスがあるそうです。(p162)
認知行動療法に関するランダム化対照試験では、従来の医学的管理やリラクセーション法に比べて、認知行動療法がCFSの外来成人患者の身体的機能を有意に改善したことがわかったそうです。(p156)
2002年の報告では、家族に対する認知行動療法も、11-18歳の患者にとって効果的だとわかっています。(P157)
治療開始までの期間が短ければ短いほど、予後が良好であるというエビデンスもあります。(p158)
子どものCFSは比較的まれですが、長期不登校の最も一般的な原因であるといわれています。(P156)
1997年の報告では、子どもの54-94%は治療によって望ましい回復がみられました。特に良好な予後と関係していたのは、特定の身体的誘因、秋学期での発症、社会経済的地位の高さだったそうです。(P157)
その一方で、成人の予後は良好ではなく、1994年の論文では「専門医に紹介されて完全に回復したのはCFS患者の10%以下である」とされています。(P158)
つまり、CFSを完治させるのは難しいとはいえ、少しでも改善するために認知行動療法や段階的運動療法にはやってみる価値があるといえます。
CFSやFMの患者は過活動と過度の休息の悪循環に陥りやすいですが、それを打ち破るために認知行動療法によって信念を調節し、段階的運動療法に取り組むことが大切なのです。
信念を無効化する積極的データ記録
載せられている線維筋痛症の症例では、段階的運動療法のエクササイズプログラムと並行して、否定的かつ自身を何もできない状態にする信念構造を無効化する訓練がとられました。
たとえば彼女は、次のような、「不良な予後をもたらす可能性が極めて高い信念」をもっていました。(P147)
◆線維筋痛症に関連した問題はすべて純粋に身体的なものであり、ストレスとは無関係であるという信念
◆心理社会的因子に目を向けると、病気が「本物である」ことが否定され、問題を「すべて心の中のもの」とみなして、苦痛が認められなくなるという信念
◆症状を軽減するには受動的な方法しかないという信念
◆身体的な活動は症状を悪化させるという信念
◆活動によって生じる遅発性の筋肉痛や疲労を症状の増強と誤解していること
このような信念をもっていると、認知行動療法や段階的運動療法を拒み、ひたすら休養するだけで筋力が低下し、自分では何もできないと考えて主体的な行動がなくなってしまいます。
それで、彼女が勧められたのは、線維筋痛症の中枢神経系の調節の概念について学び、ストレスも体調に影響することを知ること、そして、ストレス/疼痛日誌をつけることでした。
ストレス/疼痛日誌では、記録を続けた結果、ストレスを感じてから1-6時間後に痛みが悪化しているという関連性がわかったそうです。そのことにより、自分の努力次第で、症状を改善することも可能なのだ、という認識(内的統制)が強まりました。(P148)
慢性疲労症候群(CFS)の症例でも、
◆「私はダメだ、私は決してよくならない」
◆「疲労を少しでも感じたら、すぐに運動をやめなければいけない」
といった否定的考えを抱いていたことが書かれています。(P166)
この場合も、正しい知識を取り入れることと、活動・休養・睡眠パターンを記録することとが勧められました。これは、できごとが起きたときごとに記録することで、何が疲労の症状と関係しているかを知る記録です。
何を行っているかを記録し、パターンを見つけ、少しずつ活動を増やすことによって、身体の調子が改善しました。自分は無力で何もできない、と考えることもなくなりました。(P168)
否定的な自問自答を認識し、挑戦する
認知行動療法には、否定的な思考サイクルを認識し、それに挑戦することも含まれます。
たとえば、以下のような否定的なサイクルがあるかもしれません。(P128)
みんなで海岸に出かけようとしている。自分自身に言い聞かせる。「私はドライブなどできない。海岸へは2時間もかかり、そんなに長いこと座っていられないから」。
以前に海岸へドライブした後には3日間も疼痛の再発で寝こんでいた。海岸のドライブに参加しない。…行けないことでひどく惨めに感じられ、疎外感、絶望感そして憂うつになる。
否定的な思考サイクルに挑戦するとこうなります。(P129)
みんなで海岸に出かけようとしている。自分自身に言い聞かせる。「私はドライブなどできない。海岸へは2時間もかかり、そんなに長いこと座っていられないから」。
そこであなたはこう考える。「私は、2時間連続で座っていられないけれども、40分ごとに車を止めて、休むなどすれば海岸まで行ける」。
海岸に行くということに気分がとてもよくなる。…海岸までドライブをして、家族と外出できたことにあなたは充実感をもつ。
否定的サイクルを認識し、挑戦することは簡単ではありません。「それは技能であり、練習を要する」とあります。
否定的なサイクルに気づくには、ソクラテス的質問法によって、自分に問いかけてみるのが役立つかもしれません。
ソクラテス的質問法(誘導的発見法)は、認知行動療法の大きな特徴の1つで、自分の感情や自動思考への気づきをもたらす一連の質問形式のことです。(P10)
自分に対して(本来はクライアントに対して)以下のように問いかけてみることができます。(P175)
◆それについてあなたはどう思いますか?
◆それはあなたにとって何を意味しますか?
◆それを支持する証拠は何ですか?
◆そのことについて他にどのように考えられますか?
◆そのことについてどのように説明しますか?
◆あなたの選択の何が利点で何が欠点ですか?
◆そのことについてあなたが理解していることは何ですか?
◆もしそれが真実とすると、あなたにとって何を意味しますか?
◆もし誰か他の人があなたにそのように言ったら、たなたはどのように答えますか?
自分の体調については自分がいちばん詳しい専門家です。こうした自問自答を通して、具体的な問題点を明らかにし、実際的な解決策を見出すことができます。
そのほかにできること
そのほかにできることとして、次のようなものがありました。
慢性疾患をもつと、常に緊張していることがあるので、リラクセーション技法(漸進的筋弛緩法と腹式呼吸)を学ぶことは大切です。(P89)
また、長期間引きこもることによって恐怖回避や運動恐怖症が身についてしまったり、生活技能が失われたりするので、回避していた状況に徐々に身を置く現実暴露(P90)、日常生活のさまざまな技能を取り戻す技能訓練(P102)などについて説明されています。
また、これは、サイトを運営している身としては耳が痛いことなのですが、CFSの情報を集める際に、インターネットを利用することの危険に注意が喚起されています。
Wrightが1999年に調べた時点では、13のウェブサイトのうち、6つのサイトだけが、休息と活動について考察しており、2つだけが段階的な運動を推奨していました。
中には、長期間の休養を勧めるというふさわしくないサイトも2つありました。4-6週間のベッド上での休養は筋力を40%低下させることがわかっています。(p168)
また多くのサイトは、食事療法、代替療法、薬物療法の詳細を示していましたが、これらのアプローチについてのエビデンスは限定的です。
ほとんどの研究で、免疫物質、抗ウイルス薬は疲労やCFSの他の症状の治療に効果があるとはいえないと報告されているそうです。
また自助グループの働きに関しても、自助グループと専門家との間で意見の不一致がみられることが指摘されています。サポートネットワークから益を得ている患者がいることは事実ですが、そのメンバーであることは予後不良の一因になりうるという報告もあります。(p157)
わたしのサイトの内容にも、医学的論文に基づいていない部分はたくさんあります。多くは書籍に基づいて書いていますが、その書籍の著者が勝手に書いていることかもしれません。
そのようなわけで、治療法をインターネットで探す際には、気をつけることが必要です。
今のところ、CFSの治療法で医学的エビデンスがあるといわれているのは認知行動療法と段階的運動療法だけなのです。
認知行動療法と段階的運動療法について読んでみて
◆認知行動療法は万能ではない
今回読んだ本は、2008年のものなので、少し情報としては古くなっているかもしれません。90年代の論文からの引用も多かったため、今では状況が変わっている箇所もあると思います。
この本では、認知行動療法と段階的運動療法は、CFSの治療法としてエビデンスがあることが強調されていますが、その点について疑問が呈されているということを主治医から聞いています。
また、文中で触れましたが、認知行動療法が効くと言われると、心の問題ではないか、と考えられてしまうおそれも確かに危ういと感じました。
「病気には実態があり身体的なものか、あるいは精神病/心身症しかないとする社会環境で育ち、ゆえにデカルトの心身二元論の誤解をしている一部の臨床家」には理解できないと書かれていましたが、そんな人はごろごろいるものです。
この本自体も、線維筋痛症や慢性疲労症候群における精神面の影響を大きく考えすぎていて、特に重症者のことを考えていないような印象を受けました。
医師が患者の話をよく聞かず、多くの人に認知行動療法と段階的運動療法が効果があったから、あなたもできるはず、というような指導をするなら、(わたし自身そのような経験があるのですが)患者の実態にそぐわない的外れな治療になってしまう可能性もあります。
段階的運動療法といっても、1日5分が精一杯な人もいれば20分ないしはそれ以上できる人もいるので、画一的な指導をしようとすると、かえって患者を苦しめるでしょう。
慢性疲労症候群(CFS)という診断は除外診断であって、さまざまな患者を含んでいます。みんな同じ体調ではないのです。
もちろん、このような危うさがあるからといって認知行動療法を避けてしまうのは、患者にとって不利益となると思います。
健康な人でさえ自分の認知の歪みのためにストレスを抱えてしまうのですから、ストレスマネジメントの一環として、自分の思考パターンを制御する方法を知っているほうが、CFSと付き合いやすくなるはずです。
◆今回学んだ5つの技法
今回学んだことは、ペース配分、ゴール設定、段階的運動療法、日記をつけること、否定的サイクルの打破の5つに要約できるといえます。
ペース配分やゴール設定についてはあまり計画的に行動しているとはいえないので、無理のないベースラインを探したいと思いました。SMARTの法則は意識したいと思います。
段階的運動療法としては、1日10分の運動をしていますが、定期的なウォーキングをしたほうがよいかもしれないとも思っています。
疲労したときに、休むのではなく、段階的な運動をするというのを試してみました。わたしの場合、疲労感が強いときは、脳の覚醒レベルが低下しているようで、寝るより運動するほうが症状が和らぐ気がします。嬉しい発見でした。
日記をつけることは、一応続けていますが、非常に簡略化したものとなっています。もう少し書けるようになりたいところです。
否定的な自問自答については、社交的な場などを意図的に避けるようになる恐怖回避に陥りかけています。悪いサイクルに入ってしまっているので、気をつけたいと思いました。
文中で触れたように、認知行動療法も段階的運動療法もCFSを治すものではありません。CFSによる影響に対処しやすくするものです。しかも、本来は専門家による指導のもとで行うものです。
そう考えるとがっかりしてしまうかもしれませんが、少しでも内容を知っていて、個人で実践してみることは大切だと思います。たとえば、運動に対する正しい見方を知っているだけでずいぶん違います。
いつかもっと根本的な治療法が登場する日まで、認知行動療法や段階的運動療法を実践して、病気とうまく付き合っていくことは大切だと思いました。
慢性疲労症候群(CFS)と認知行動療法・段階的運動療法について書いた日本の文献には以下のものがあるのであわせてご覧ください。
また、簡単に認知行動療法をやってみたいなら、月額制ですが、ウェブベースの認知行動療法ができるサイトもあるようです。