小西統合医療内科の本「自己治癒力を高める医療」

のブログでも紹介した、小西統合医療内科小西康弘先生が書かれている本、自己治癒力を高める医療: 病気になるプロセスに寄り添うを読みました。小西統合医療内科は、慢性疲労外来も構えていて、慢性疲労症候群や線維筋痛症の治療も行っている病院です。

くわしく時間をかけて患者さんの生活歴やそれまで歩んでこられた人生について話を聞いてみると、病気は突然に出現したのではなくその人の人生に深く関係し、その流れの中で除々に形成されていることがわかります。(p18)

という考えをもとに、病気の症状だけでなく、より深く、生活習慣や潜在意識にまで原因を探ろうとする中、小西先生が行き着いた答えは、「統合医療」という新しい医療の形だったといいます。

統合医療とは何でしょうか。病気はどのようなプロセスを経て表面化するのでしょうか。

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これはどんな本?

この本は、一つ一つの概念の詳細を説明するのではなく、それぞれが全体の中でどのような位置を占めているのか、という点に終始した網羅的な本です。

次々に話題が移り変わりますが、その中心を流れる「病気になるプロセス」という概念にそって話が進められており、すべては「自己治癒力」を高めるという話題に収束します。

これをすれば治る、という劇的なメッセージはないため、インパクトはありませんが、丁寧でわかりやすい解説が積み重ねられている読みやすい本です。

話題は、ちょうど半分が身体の仕組みに関すること、残り半分が心の働きに関することになっていてバランスが良いはずなのですが…

読後感としては、心の働きが強調されていたような印象を受けます。症例が後半に集中していたためかもしれません。そのためマインドフルネス瞑想が少々万能感を感じさせる書き方になっています。

「病気になるプロセス」という捉え方

この本を読んでまず気づくのは、通常の医療の範囲では聞きなれない、いろいろな概念を幅広く説明しているということです。それぞれの概念は、このブログでも個別に取り上げてきたものも多いのですが、こうして一冊の本にまとめられていると、関係性が浮かび上がってきます。

その中には、次のような概念や治療法があります。

■副腎の疲労(p22)

■活性酸素の過剰状態(p25)

■抗加齢医療(p42)

■温熱療法(p48)

■分子栄養医学(p52)

■精神神経免疫学(p65,136)

■サイモントン療法(p66)

■インナーチャイルド(p80)

■マインドフルネス瞑想(p114)

こうしたキーワードは、それぞれ独立しているように思えます。このブログでの扱い方も、副腎疲労なら、副腎疲労の専門家の本、インナーチャイルドなら、愛着障害に関する書評といった具合に、分けて取り上げてきました。しかしそれでは全体の関係性が見えないのも事実です。

本書の意義は、こうしたさまざまなキーワードが、「統合」され、どのように病気と関わっているのかがまとめられているところにあります。

小西先生は、これらの概念が、病気になるプロセスのどこと関係しているのかを示すために、病気になるプロセスを川にたとえ、「上流」「中流」「下流」といった表現を用いています。

簡単に説明すると、以下のようになります。

病気になるプロセス

「下流」…生活習慣により現れた病気の症状。

「中流」…思い込みに突き動かされることにより身につけた生活習慣。

「上流」…心の奥深くの潜在意識。人の行動を支配する思い込みがここで生まれる

 一般の医学は、「下流」だけを診て、対処療法に終始しますが、統合医療では、「上流」と「中流」も診て、病気の根元に働きかけようというわけです。小西先生はこう述べます。

「下流」での問題が解決したらそれで終わるのではなく、引き続き「中流」や「上流」へのアプローチをすることが重要です。下流の水質汚染の原因は中流や上流にあるのです。(p18)

たとえば、「下流」に現れた病気の症状を薬で何とかしても、「中流」の食習慣が治っていなければ再発します。さらに中流の食習慣をなんとかしようとしても、「上流」にある潜在意識の根深い思い込みに取り組まないと、習慣は変えられません。

さきほど列挙した、さまざまな概念は、この「中流」や「上流」にかかわるものです。

たとえば、副腎疲労や抗加齢医療や分子栄養医学は、「中流」の食習慣に働きかけて身体のバランスを良くしようとするものですし、インナーチャイルドやマインドフルネス瞑想といった概念は、「上流」の潜在意識に働きかけるものです。

普通の医療にかかっても良くならないという人は、栄養療法などで「中流」の状態を整える必要がありますし、それでも効果が見られないならば、潜在意識という「上流」の問題を解決する必要があるのです。

このように、ジグソーパズルのピースをはめるがごとく、さまざまな概念をつなぎあわせ、病気になるプロセスとしてまとめてくれているので、本書は、各概念への入門書としてもふさわしいでしょう。

自己治癒力を高める医療

こうした「病気になるプロセス」全体に働きかける医療はどんな成果を生んでいるでしょうか。

心筋梗塞で倒れたある男性は、現代医療という「下流」への迅速なアプローチのおかげで命を取り留めることができました。ですから現代医療は大切です。しかし心筋梗塞を招いた生き方は変わっていないので、危機は去っていませんでした。(p10)

そこでカウンセリングやマインドフルネス瞑想で、ストレスの多い生活へと突き動かすものとなっていた「思い込み」、そしてその原因であった両親との関係にアプローチしました。こうした「上流」へのアプローチのおかげで、気づきが得られ、「中流」の生活習慣を見直すことができました。(p95、p119)

もう一人、10年間、線維筋痛症と闘病してきた女性の話も出てきます。この人もカウンセリングやマインドフルネス瞑想を通して、身体の声、心の声に耳を傾けました。すると凍りついていたいろいろな記憶が溶け出し、鎮痛剤なしでいられるまでに回復したそうです。(p122)

それぞれの経験談は、詳しくは本書で読んでいただけたらと思いますが、心筋梗塞や線維筋痛症のような「身体の病気」であっても、病気になるプロセス全体を意識した治療の大切さが伺える経験談だと思います。

もし、心筋梗塞の医学的治療だけをしていたら、この男性は再発して死んでいたかもしれません。もし鎮痛剤だけで治療していたらこの女性は20年、30年と線維筋痛症のままだったかもしれません。

病気になるプロセス全体を意識したアプローチとは、言い換えれば、自己治癒力を高める医療だそうです。本来、わたしたちの身体には、病気から回復するための自己治癒力が備わっているのですが、「中流」の栄養状態が十分でなかったり、「上流」の潜在意識に抑圧された感情が封印されていたりすると、自己治癒力がうまく働かないのです。

著者は、統合医療の目指すところについてこう綴っています。

これまでの現代医療は、病気を治すことだけが目標でしたが、私の目指す医療では、「幸せを感じて生きているかどうか」が一番大切であると考えます。(p142)

著者の病院を受診するかどうかにかかわらず、自己治癒力を高める医療: 病気になるプロセスに寄り添うは、広い視野で病気を見て、適切な治療法にたどりつくために役立つ一冊だといえます。

▼関連情報
この本は入門書として良いと書きましたが、取り上げられているさまざまなアプローチについて、もっとよく知りたい場合には、物足りない気もします。

その場合には、著者のブログドクター小西の『統合医療情報局』 はてなブックマーク - ドクター小西の『統合医療情報局』や、そのほかの関連する情報を見るのがよいと思います。

わたしのブログの中では、次のような記事が関連しています。

■副腎疲労について
本書では軽く触れられていたのみでしたが、詳しくはこちらの記事で解説しています。

いつも疲れ果ている人の「アドレナル・ファティーグ」(副腎疲労)とは何か―原因と対処法まとめ
いつも疲れきっていて疲れが取れない。朝起きられない。その原因はアドレナル・ファティーグ(副腎疲労)にあるかもしれません。医者も知らないアドレナル・ファティーグ―疲労ストレスは撃退で

■温熱療法について
身体を温める治療はいろいろあり、本書では遠赤外線温熱マットにも触れられていましたが、和温療法(低温サウナ療法)についてはこちらにまとめてあります。

低温サウナ療法(和温療法)が子どもの慢性疲労症候群(CCFS)に効果的
近年注目されている低温サウナ療法と慢性疲労症候群(CFS)や化学物質過敏症(MCS)との関わりについてまとめています。

 ■分子栄養医学について
ビタミンやミネラルを補う治療として本書に出てきた分子栄養医学に関してはこちらです。

もしかして低血糖症? 『図解でわかる最新栄養医学 「うつ」は食べ物が原因だった!』
慢性疲労症候群やその周辺の病気の治療を考える際、低血糖症という病気を見過ごすわけにはいきません。食習慣がうつ病や慢性疲労症候群を引き起こす場合があるのはなぜでしょうか。溝口徹先生の

■マインドフルネス瞑想について
マインドフルネス瞑想は本書のひとつのハイライトをなしていました。

慢性疼痛・線維筋痛症にマインドフルネスが効果的
線維筋痛症などの痛みにマインドフルネスが効果的だという話が日経サイエンス2015年01月号 に書かれていました。注意力散漫と痛みや疲労との関係、注意力を鍛える方法などについても書い

■精神神経免疫学について
そのほか、特に内容が似ていると思えた本として、以下の書評があります。これはこの本で繰り返し触れられていた「精神神経免疫学」に関する本であり、子どものころの家庭環境や、抑圧された感情、思い込みが、難病とどう関係しているか、という点が扱われています。

抑圧された感情や思い込みについては本書でも大きなウェイトを占めているので、小西先生の本の後に、こちらの本を読めば、かなり理解が深まるものと思います。

口で「ノー」と言えなければ身体が「ノー」と言うようになる― 抑圧された感情が招く難病と慢性疾患
ガンや自己免疫疾患、慢性疲労症候群(CFS)を含む多くの難病は、突然発症するのではなく、子どものころから抑圧してきた感情が関係している。患者の気持ちに配慮しつつ、ガボール・マテ博士
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