彼らは、私が孤独だと感じたり、家や学校で困っているときに、私を助けてくれるの。(p88)
子どもたちは、イマジナリーフレンド(想像上の友だち)という特殊な存在を持っていることがあります。
以前に空想の遊び友達、イマジナリープレイメイトという「ファンタジーと現実」で取り上げたように、イマジナリーフレンドは、まず2歳半から3歳半の時期に特に多くなり、やがて消えていきます。
次いで、一部の子どもには9歳半から10歳半にかけての時期に再び現れ、人によっては大人になっても残ることがあります。
今回紹介するナラティヴ・セラピーの冒険に出てくるイマジナリーフレンドは、この遅い時期に登場するタイプのものです。この本の経験談によると、この時期のイマジナリーフレンドは「変にできる子」に多いのかもしれません。
「変にできる子」とはどういう意味でしょうか。この時期のイマジナリーフレンドは、「変にできる子」にとって、どんな役割を果たすのでしょうか。人一倍敏感な子(HSP)との関連も交えて考えたいと思います。
「変にできる子」とは
この本は、ナラティブ・セラピーの専門家デイヴィッド・エプストンの論文に基づくものです。第五章(p85-90)の題は「イマジナリーフレンド:彼らは誰か。誰が彼らを必要とするのか」というもので、10歳の少女エミリーとの会話が書かれています。
エミリーは、指しゃぶりの癖が抜けない女の子でした。しかし10歳ごろ、突然その癖をやめられるようになりました。エプストンはその理由を彼女に尋ねてみました。すると彼女は「変にできる子」特有のイマジナリーフレンドが関わっていると話したのです。
変にできる子とはなんでしょうか。それは「あまりに能力が高いゆえに、それほどの能力を持たない子どもや大人からは彼らの能力が変だと思われる子どもたちのことなのである」と説明されています。
そうした子どもたちは、自分より能力の低い子どもや大人によって、「悩まされたり、いじめられたり」大きな誤解を受けているといいます。
変にできる子は、「そこにないものが見え」たり、「他の人とは違う、ものの考え方ができる」特殊な能力を持っていて、「時に、彼らは現実の世界なんかどうでもいいとさえ考える」のだそうです。(p86)
この「変にできる子」は、もしかすると、発達のでこぼこや、認知の偏りがある子どもなのかもしれません。ギフテッドー天才の育て方 (学研のヒューマンケアブックス)には、生まれつきの認知の偏りのため、ある分野において「変にできる」ものの、別の分野が苦手で、学校生活になじめない子どもたちの話が書かれています。
ここで取り上げているエミリーがそのような子どもだったのかはわかりませんが、体育や綴り方が苦手と述べているところもあるので、おそらく発達のでこぼこがありそうです。発達性協調運動障害(DCD)やディスレクシアがあるのかもしれません。
そこにないものが見えるとか、現実の世界なんてどうでもいい、というのは、表象幻視や空想への没頭など、解離を強く思わせます。
こうした能力は、一見、発達障害のアスペルガー症候群などと似ているように思えるかもしれませんが、エミリーは空気が読めないどころか、高いコミュニケーション能力を持っているように思えます。アスペルガー症候群の人に難しいとされる高い内省力も持っています。
おそらくは、このよう、解離傾向が強く、物事の呑み込みが早く、また時折、発達の凸凹がみられ、「他の人とは違う、ものの考え方ができる」エミリーのような子どもは、HSP(人一倍敏感な人)と呼ばれるタイプではないかと思われます。
HSPの子どもたちは、感受性や創造性が人一倍豊かであり、周囲との違いを敏感に感じ取ったり、高い創造性を示したりすることがあり、イマジナリーフレンドを持つことも多いとされています。
イマジナリーフレンドにはいろいろなタイプがあると思いますが、エミリーはひときわ想像力豊かです。エミリーはイマジナリーフレンドと出会うために、空想上のエージェント、ハリット氏に手紙を書いたそうです。
ハリット氏は、イマジナリーフレンドに関するニュージーランドのエージェントであり、タスマニアとクック海峡の間の海底に本社を構えています。彼は孤独な「変にできる子」にぴったりのイマジナリーフレンドを紹介する仕事をしています。エミリーは秘密の手紙をハリット氏に送り、自分のプロフィールと希望を伝えました。
すると、エミリーには、15歳のジョンと16歳のリサという二人のイマジナリーフレンドが紹介されました。彼らは、エミリーにとってどんな存在となったのでしょうか。
人生の助けになってくれる
エプストンは、イマジナリーフレンドの役割は、たかが知れていると思っていました。しかしエミリーから話を聞いて驚いたといいます。
■宿題を手伝ってくれる
わからない宿題を手伝ってくれるのだけれど、助けとなるヒントをくれるだけで、決して代わりにはやってくれないの。
■悪い習慣をやめさせてくれる
指しゃぶりや泣き虫のような、自分がやめたかった嫌いな習慣に打ち勝つ個人的な強さを与えてもくれる。
■いじめをなんとかしてくれる
いじめについて言うと、ほとんど自動的に、いじめのおかしなところを見つけて、それを相手に示すことができるようになるの。だから、いじめっ子はそれ以上続けることができないってわけ!
■大胆にしてくれる
彼らは、私をもっと大胆にしてくれた。たとえば、私はもう高いところが怖くないのね。…それにクモも怖くなくなりました。
彼女によると、イマジナリーフレンドのジョンが反-恐怖アプローチを思いつき、クモに慣れるよう助けました。ジョンは、片手にお菓子、片手にクモを隠し、エミリーに手を差し出して受け取るように言いました。最初はクモを投げ出さずにはいられませんでしたが、五回繰り返すと慣れました。
また、潮だまりにいるカニを素手でつかめるよう訓練することもしてくれたそうです。
■人間関係の練習になる
イマジナリー・フレンドについて本当によいことは何かというと、本当の友達が現れるまでのよい練習になるってこと。いつか友達はできるものだから。
■自分を理解させてくれる
[イマジナリーフレンドに感謝したいのは] 私は、自分なりのやり方、自分の本当の能力、そして体育や綴り方の時間に目立つ私の欠点を理解するようになったことね。でも、そういったことに打ち勝つことも始めているのよ!
この本の短い論考だけでは、イマジナリーフレンドについて、十分に知ることはできません。しかし、ひとつ理解できるのは、これが、「変にできる子」にとって、とてもポジティブな作用として働いていることです。
HSPの子どもは敏感すぎる感性や、他の子どもとの思考のレベルの違いなどから、学校や日常でさまざまな困難に直面して、自信喪失しがちです。ところがエミリーの場合は、イマジナリーフレンドがそうならないための力になりました。
エミリーは学校での孤独というとても辛い問題に直面しましたが、想像力を豊かに働かせることで、それを克服してきたのです。
想像力を働かせることで、辛い時期を乗り越え、問題を克服するというのは、わたしたちすべてが見習うべきアプローチだと思います。