子どもにしか見えない空想の友達? イマジナリーフレンドの7つの特徴に関する日本の研究


わが国においては、『となりのトトロ』において典型的に見られますし、アメリカにおいては『フルハウス』のミッシェルも、『フレンズ』のジョーイも空想の友達を持っています。

座敷わらしなどの妖怪も、このようなものの一種かもしれません。どうやら、子どもにしか見えないもの、子どもにしか感じられないものがあるようなのです。(p358)

どもが、目に見えない空想の友達と話しているのを見て、驚いたことがありますか?

それはイマジナリーフレンド、またはイマジナリーコンパニオンと呼ばれる現象として知られています。

ひと昔前の育児書などには、それは子どもの未熟さによるのであり、現実と空想を混同しているなどと書かれていたりするそうです。しかし最近の研究によると、実は健康な発達過程の一部であることがわかってきました。

イマジナリーフレンドを持つ子どもにはどんな特徴があるのでしょうか。日本のイマジナリーフレンドの研究者、森口佑介先生の著書おさなごころを科学する: 進化する幼児観から7つの特徴を調べてみたいと思います。

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これはどんな本?

この本は、上越教育大学 発達心理学研究室森口佑介先生(@moriguchiy)による、赤ちゃんや幼児の脳機能について扱った、発達心理学の本です。

森口佑介先生はブログに研究内容をまとめていましたが、本にしてはどうかと言われて、「認知発達の研究の流れをつかむ読み物的な本」としてこの本を書いたとのことです。(p275)

ちょうど、このブログでつい先日読んだアリソン・ゴプニック先生の哲学する赤ちゃん (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)と同じような内容を扱った本で、内容も多くの点で重複しています。

アリソン・ゴプニック先生の本は、さすがにベストセラーになっただけあって、部外者にも読みやすく、読んでいてわくわくさせられるような温かい本でした。

それに対してこちらは、専門的な内容を詳しく書いており、理解しにくい部分も多くあります。あくまでこの分野に関わる人向けに書かれたマイナーな本だといえるでしょう。

このブログで扱っているイマジナリーフレンドに関する研究としては、第8章で扱われていて、著者の森口佑介先生と、篠原郁子先生らの研究が載せられています。

アリソン・ゴプニック先生の本や、麻生武先生のイマジナリープレイメイトに関する研究にも言及されています。(p236,250)

ブログによると、著者の森口佑介先生は、イマジナリーフレンドをもっていた記憶はないそうです

子どものイマジナリーフレンドの7つの特徴

空想の友達、つまりイマジナリーフレンドについては、国内外の発達心理学者、および精神科医によって昔から研究されてきました。

日本では波多野完治先生が1935年に空想の友達について触れているそうです。

発達心理学者は、おもに子どものイマジナリーフレンドについて研究し、それが子どもの発達過程に現れる普通の現象であることを報告しています。

精神科医は、おもに大人のイマジナリーフレンドについて研究し、解離性障害、解離性同一性障害(多重人格)との関わりを指摘しています。

今回扱うのは、子どもに普遍的に見られるほうの、健康なイマジナリーフレンドに関する発達心理学の研究です。その7つの特徴をまとめてみました。

1.イマジナリーフレンドは一般的

イマジナリーフレンドはどれほどの頻度で見られる現象なのでしょうか。

北米の研究では、保護者や子どもに質問する方法で、3歳から7歳の子どもの半数程度がイマジナリーフレンドを持つことがわかっています。(p240)

一方で、幼児のイマジナリーフレンドの出現の中央値は2歳半ごろであるとする研究もあります。幼いころのことは幼児期健忘のせいで忘れている人が多いため、統計では平均年齢が高く出やすいようです。

いずれにしても、あなたの子どもが空想の友達と話していたとしても、なんら驚くべきものではありません。むしろあなた自身も、幼児のころ、イマジナリーフレンドを持っていたのかもしれません。

2.イマジナリーフレンドは目に見えない

最近はぬいぐるみに話しかけたりして、それに人格が与えられている場合にも、空想の友達だとみなされる場合があります。

しかしこのブログでも扱ったとおり、目に見えない空想の友達は、イマジナリーコンパニオン(Imaginary Companion)のうち、目に見えない友達(Invisible Companion)として扱われ、よりしろのあるものは、物の擬人化(Personified Object)と呼ばれて区別されています。

この本によると、目に見えないタイプの友達は、子ども自身と同じくらいの年齢としてイメージされることが多く、物の擬人化は、年少の子どもや赤ちゃんとして扱われることが多いそうです。

西洋においては目に見えない友達が多く、日本や中国では物の擬人化が多いというデータもあるそうです。(p240)

「目に見えない」といっても、それは周りの人にとって見えない、という意味であって、子ども自身は、まるで現実に存在するかのようにイマジナリーフレンドの姿を生き生きとイメージしています。

子ども達の空想の友人「イマジナリーフレンド」を立体化 | ARTIST DATABASE はてなブックマーク - 子ども達の空想の友人「イマジナリーフレンド」を立体化 | ARTIST DATABASE

このニュースにあるように、イマジナリーフレンドはそれぞれユニークなその子だけの姿をしていることが多いようです。

もし我が子がイマジナリーフレンドを持っていることに気づいたなら、どんな姿をしているのか尋ねて絵を描いてもらうのはいかがでしょうか。

そうすれば、子どものときにだけ見えるイマジナリーフレンドの姿を残しておくことができ、親子にとってよい記念になるかもしれません。

3.イマジナリーフレンドは病気と関係があるのか

イマジナリーフレンドは解離性障害や、統合失調症、発達障害と関係があるのではないか、と考える人もいます。

幸い、マージョリー・テイラー先生の研究では、児童期におけるイマジナリーフレンドの有無は、青年期における精神疾患の発症とは関係がなかったそうです。(p241)

確かに、こころのりんしょうa・la・carte 第28巻2号〈特集〉解離性障害によると、解離性障害の子どもは、ふつうの子どもよりイマジナリーフレンドを持つ率が高いことがわかっています。

解離性障害の子どもをはじめ、施設で生活する子どもたちのイマジナリーフレンドは、一般の子どもが持つ気楽な遊び相手のようなイマジナリーフレンドとは性質が異なっている傾向があるとされています。

たとえば、支援者、パワフルな保護者などの役割を持っていて、特に重いトラウマ経験を抱えている場合は、神や悪魔のような名前を持っていることもあるといいます。(p97)

また、哲学する赤ちゃん (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)によると、定型発達の子どもと解離性障害の子どものイマジナリーフレンドを比較した研究によると、前者は空想の友達が実在しているとは思っていなかったのに対し、後者は実在を信じていたそうです。(p241)

しかしそうした子どもたちが、統合失調症のような非現実的な妄想のせいで、イマジナリーフレンドの実在を信じているかというと、あくまでわたしの推測にすぎませんが、そうではないのではないかと思います。

それは、文字通りの神や悪魔を信じる宗教の敬虔な信徒が必ずしも妄想的でないのと同様です。

悲惨な経験をした子どもの場合、イマジナリーフレンドが単なる遊び相手ではなく、自分を守り、精神的な拠り所となってくれる強力な保護者や守り手、超自然的存在のような役割を果たすので、その存在の大きさゆえに実在しているかのように感じる、あるいはそう感じなければ生きていけない、ということではないでしょうか。

ですから、子どもが無邪気な遊び友達にすぎないイマジナリーフレンドと、ごっこ遊びなどのようにして話している場合、子どもの精神的健康を気に揉む必要はありません。

そうした気軽な性質を持つイマジナリーフレンドは、病気と関係があるどころか、むしろ、健全な環境で育ってきたことのしるしなのです。

健全な子どものイマジナリーフレンドと、解離性障害の人が持ちやすいイマジナリーフレンドの境目については、以下の記事でも扱っています。

小説家の約5割はイマジナリーフレンドを覚えている―文学的創造性と空想世界のつながり
フィクションやファンタジーをを創作する小説家や劇作家の創造性には、子どものころの空想の友だち体験、イマジナリーフレンドが関わっている、という点を「哲学する赤ちゃん (亜紀書房翻訳ノ

4.イマジナリーフレンドを持つ子どもの社交性

イマジナリーフレンドを持つ子どもは、従来、極度に内向的な性格だと思われていました。しかし研究によって明らかになったところによると、イマジナリーフレンドを持つ子どものほうが、社交的であり、現実の友達が多いことがわかりました。(p242)

また誤信念課題(サリーとアンの課題)の正答率が高いことも分かっています。これは心の理論が発達していることを示しています。(p253)

サリーとアンの課題は発達障害(自閉スペクトラム症、アスペルガー)では正答率が悪いことが知られていますから、少なくとも幼児期のイマジナリーフレンドは自閉症傾向とは関係なさそうです。

それどころか、アリソン・ゴプニック先生の哲学する赤ちゃん (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)によると、「自閉症の子には空想の友だちはいない」のです。(p91)

イマジナリーフレンドを持つ子どもは、人への興味がないどころか、むしろその逆、つまり、まわりの人の気持ちに敏感で、感受性が強い傾向があるかもしれません。

(ただし、発達障害の素顔 脳の発達と視覚形成からのアプローチ (ブルーバックス)などの近年の研究によると、アスペルガー症候群のような自閉症の子どもは、定型発達の子どもとは異なる独自の視点の心の理論を持っていて、ユニークな想像力を働かせるとも言われているので、「自閉症の子には空想の友だちはいない」と決めつけてしまうことには、個人的に疑問を感じます。彼らには彼らなりの空想の友だちが存在しうるように思います)

5.イマジナリーフレンドを持つ子どものイメージ能力

テイラー先生の研究によると、イマジナリーフレンドを持つ子どもは、そうでない子どもに比べて、特に視覚イメージ・聴覚イメージの能力が高いわけではないことが繰り返し実証されています。(p251)

しかしイマジナリーフレンドを持つ子どもは、そうでない子どもに比べて、他者の視点を考慮する能力や、複雑な構造をもった会話、知識状態の理解などが優れているそうです。

もしかすると視覚イメージ・聴覚イメージを想像したときに、社会脳をつかさどる、上側頭溝や内側前頭前野がより活発に反応しているのではないか、と著者は推測しています。(p253)

このあたりも、先ほど考えたように、イマジナリーフレンドを持つ子どもは社会性が乏しいどころか、むしろ周りの人の気持ちに敏感で、他の人の気持ちを想像できる感受性豊かな子どもだということを示しています。他の人の気持ちをしっかりイメージできるからこそ、架空の友だちの気持ちをありありと想像できるのです。

森口先生らの研究によると、イマジナリーフレンドを持つ子どもは『「自分が空想した存在」に対して生物らしさや人間らしさを感じている』といいます。

「子どもだけが感じている?幼児における空想の存在についての認識」の研究成果を発表しました。 | 注目情報 | 上越教育大学 はてなブックマーク - 「子どもだけが感じている?幼児における空想の存在についての認識」の研究成果を発表しました。 | 注目情報 | 上越教育大学

 さらにイマジナリーフレンドを持つ子どもは、第三者の持つイマジナリーフレンドに対しても、自然に自発的な反応をみせ、イメージをふくらませることもわかりました。(p260)

つまり、他の子どもがイマジナリーフレンドを持っているような場合でも、その架空の存在に感情移入できる想像力を持っている、ということになります。

以前に書いた例のように、絵本やアニメなどの登場人物に深く感情移入した結果、それらの作品に出てきた登場人物がイマジナリーフレンドとなって動き出す場合もあります。架空の作品の登場人物の感情を強くイメージできるのです。

6.過剰に働く他者検出器

イマジナリーフレンドを持つ子どもは、ロールシャッハ・テストをしてみると、ランダムな画像から、人間の動きを想像する割合が高かったそうです。ランダムな音声に対しても意味のある単語を読み取る率が高かったといいます。

イマジナリーフレンドを持つ子どもは、ランダムな刺激に対して、人間らしさや生物らしさを読み取る可能性が高いということがわかります。身の回りのできごとを敏感に察知して、だれかがいる、と感じやすいということです。

筆者の森口佑介先生らの研究では、イマジナリーフレンドを持つ子どもは、人間らしくふるまう図形だけでなく、ランダムに動く図形に対しても、人らしさを感じました。これはほかの子どもや大人には見られませんでした。(p259)

アリソン・ゴプニック先生の哲学する赤ちゃん (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)には、イマジナリーフレンドを持つ子どもは、「周囲の人のことを人一倍気にするので、『いない人』のことまで考えてしまう」のかもしれないと書かれていました。(p88)

ここでもやはり、イマジナリーフレンドを持つ子どもは敏感な感受性を持っていて、「周囲の人のことを人一倍気にする」ことがわかります。

ですから、子どもがイマジナリーフレンドを持っていることがわかった場合、病気かもしれないと心配する必要はありませんが、敏感で感受性の強い子どもだということを考えて、愛情深く接してあげるといいかもしれません。

もし親がイマジナリーフレンドのことで不安に思っていると敏感にそれに気づいてしまうかもしれませんし、イマジナリーフレンドの存在を怪しんで叱ったりするとショックを受けるかもしれません。

むしろ一緒に物語の中に入って楽しんであげるような気配りを示してあげるなら、子どもは生まれ持った感受性をのびのびと成長させていくことができるでしょう。

7.なぜイマジナリーフレンドを持つのか

イマジナリーフレンドを持つ理由として、定説になっているのは、「情動的補償説」だそうです。これは、子どもが寂しいときに寂しさを紛らわすためにイマジナリーフレンドを作るというものです。(p262)

このことを裏づけるのは、上の子や一人っ子がイマジナリーフレンドを持ちやすいという事実です。

兄弟姉妹がいる場合には、互いにコミュニケーションをとることで成長しますが、一人っ子の場合はイマジナリーフレンドを創りだして、自分の認知機能を成長させるのかもしれません。実際に実行機能が成長することがわかっているそうです。

つまり、社交的で人との関わりを求める子どもが、一人になる時間があった場合に、寂しさを紛らわせ、自分を楽しませるためにイマジナリーフレンドを創りだすのだと考えられます。(p263)

著者はこの現象は、大人におけるサードマン現象とも関わりがあるのでは?と推測しています。(p257,270)

サードマン現象とは、遭難などの危機に陥ったときに超常的な存在が自分を助け、導いてくれるのを感じることです。サードマン現象との関係についてはこちらの記事をご覧ください。

脳は絶望的状況で空想の他者を創り出す―サードマン,イマジナリーフレンド,愛する故人との対話
絶望的状況でサードマンに導かれ奇跡の生還を遂げる人、孤独な環境でイマジナリーフレンドと出会い勇気を得る子ども、亡くなった愛する故人と想像上の対話をして慰めを得る家族…。これらの現象

しかし、子どもがイマジナリーフレンドを持つ原因には諸説あり、単に寂しさだけが関係しているわけではないと言われています。

子どもによって、さまざまな理由があってイマジナリーフレンドを創りだし、中には想像の世界を旅することを楽しんでいる子どももいるのでしょう。

子どものイマジナリーフレンドの具体的な経験談については、こちらの記事で収集されていました。

子どもの3割が持っている見えない友達【イマジナリーフレンド】って? | mamanoko(ままのこ)

著者ご自身も、子どものころイマジナリーフレンドをお持ちだったとのことで、温かさあふれる筆致で子どものイマジナリーフレンドの特徴や経験談がまとめられて、とても共感できる記事だったのでおすすめです。

子どものときだけの不思議な出会い

国内外のイマジナリーフレンドの研究からわかることは、子どもにしか見えない存在がある、ということです。

著者は、イマジナリーフレンドは「幼児期においてのみ見られる適応行動」だと推測しており、となりのトトロの歌詞「子どものときにだけ あなたに訪れる 不思議な出会い」を引用しています。(p242)

これは、アリソン・ゴプニック先生が「哲学する赤ちゃん」の中で、大人と幼児は形態の違う別の生き物といっても過言ではない、と述べている点に通ずるものがあります。(p236)

子どもは大人とは異なる認知機能をもっている可能性があり、その一つの現れとしてイマジナリーフレンドが創られるのです。

マージェリィ・ウィリアムズの名作絵本ビロードのうさぎには、こんなくだりがありました。

「ほんものって、どんなもの?」ある日、うさぎは革の馬にききました。ばあやが部屋を片づけにくるまえに、子ども部屋の暖炉の近くにふたりならんでいたときのことです……

「ほんものというのは、体がどんなふうにできているかということではないんだよ」馬は答えました。

「心と体に何が起こるかってことなんだ。子どもが長いあいだかわいがってくれたとき、ただいっしょに遊ぶんじゃなくて、心からほんとうにかわいがってくれたとき、きみは“ほんもの”になる」

…「きゅうに、ぱっと変わっちゃうのかな、ぜんまいを巻かれたみたいに?」うさぎはききました。「それとも、ちょっとずつそうなるの?」

「きゅうに、ぱっと変わるんじゃない」革の馬は答えました。

「そうなっていくんだ。長い時間をかけてね」

子どもが愛情をこめてよりそうイマジナリーフレンドは、単なる空想ではなく、“ほんもの”です。

ですから、子どもがイマジナリーフレンドを持っていることがわかったら、心配したり怪しんだりするよりも、親も一緒になって、その不思議な出会いを楽しんでみるとよいかもしれません。

イマジナリーフレンドは「(我が子が)子どものときだけ (親である)あなたに訪れる 不思議な出会い」でもあるのです。

イマジナリーフレンドは、人の心の面白さの一面をかいま見させてくれるものであり、人間の創造する力について、新しい洞察を与えてくれる興味深い現象だといえます。

子どもが持つイマジナリーフレンドについては、児童文学「ぼくが消えないうちに」で生き生きと描かれているので、その感想記事もよろしければご覧ください。

「ぼくが消えないうちに」―忘れられた空想の友だちが大切な友情を取り戻す物語
イギリスの詩人A・F・ハロルドによる児童文学「ぼくが消えないうちに」の紹介です。忘れられた空想の友だち(イマジナリーフレンド)が、大切な友だちを探すという異色のストーリーが魅力的で
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空想の友だち研究