ADHDの子どもは脳の前帯状回や腹側線条体という、報酬系に関わる部分の活動が、定型発達者よりも強いというニュースがありました。
ADHDの子の脳では何が起こっているのか - MEDLEYニュース
このニュースでは、ADHDの人、その兄弟姉妹、定型発達者の脳の働きを比較したそうですが、それによって、次にのようなことがわかったそうです。
■「報酬に対する期待」を持っているときには、前帯状回、前前頭葉、小脳などでより強い活性化が見られた。
■「報酬を獲得」する際には、前頭葉眼窩回や腹側線条体、後頭葉などでより強い活性化が見られた。
これらは定型発達者より働きが強く、より報酬系が強く働いていると考えられるそうです。
ADHDの子どもは報酬系が不安定?
以前にこのブログで取り上げた研究によると、ADHDは報酬系の働きが弱い、ということになっていました。
こちらの研究では、少ない報酬のもとで、脳の報酬系がうまく働かず、それが努力が長続きしない原因となっている、ということでした。ご褒美が少ないとうまく集中できないのです。
また別の海外の研究でも、ADHDのような新奇追求傾向が強く、金銭報酬遅延(MID)課題において、中脳、背外側前頭前皮質、腹側線条体における神経活動が普通より少なかった子どもたちは、将来楽物依存になりやすい可能性が示唆されています。
「14歳の脳」を見れば、将来タバコや薬物に溺れてしまうかがわかる:研究結果|WIRED.jp
実験の結果、「14歳の時点で、期待される報酬に対して神経反応が少なかった新奇探索傾向型は、16歳の時点で薬物を使用する可能性が高いことがわかった」という。
具体的には、MID課題中に、中脳、背外側前頭前皮質、腹側線条体における神経活動が普通より少なかった少年たちは、16歳になってから薬物に関する問題行動を起こす可能性が高かったという。
これらの研究結果は、一見して矛盾しているように思います。かたや報酬系が強いと述べていて、かたや弱いと述べているからです。しかし、よくよく考えると、どちらも、脳の報酬系が定型発達者と違う、という意味では一致しています。
とすると、(わたしは専門家でないのであくまで推測ですが)ある状況下では、脳の報酬系が定型発達者より強く働き、別の状況下では弱くなってしまう、という強弱の不安定さがあるのかもしれません。そのことは、下記のニュースを見るとなんとなくわかります。
大人のADHDと「報酬遅延勾配」の話 - 上手に悩むとラクになる - アピタル(医療・健康)
ADHDの人は報酬遅延勾配が定型発達者より急だと書かれています。
つまり、目先の報酬は非常に大きく見えて報酬系が敏感に反応し、将来の報酬は小さく見えすぎて報酬系が働かないという、状況によって報酬系の働きに強弱の不安定さが出る可能性を示唆しています。
アリとキリギリスでいえば、かなりキリギリス寄りの反応を示してしまうのかもしれません。
新奇追求傾向があるので、すぐに手に入るものには報酬系が強く反応してすぐに飛びつきますが、すぐに手に入らず待つ必要がある報酬遅延課題では、報酬系の働きが弱く待てない、ということです。
前に考えた点と関連させると、未来に自分を投影するのが苦手なので、現在に近い部分の報酬を重視し、遠い将来の報酬はイメージできず、関心を寄せることができないのかもしれません。
今回挙げた2つの研究の報酬は、どのようなものを想定して使用したのかよくわかりませんが、どちらも矛盾しているものではなく、報酬の時期や程度によって、報酬系が過敏に反応したり、かえって反応しにくかったりする可能性を示していると考えれば納得がいきます。
逆の観点からいうと、目先の報酬に飛びつく傾向があるのなら、そちらをうまく利用してこまめな報酬を用意することで行動改善のアプローチもできそうです。もちろん、コンサータで報酬系が改善したという報告もあるので、薬物治療で努力を長続きさせるというのも一つの選択肢です。
ADHDと報酬系についての友田先生の研究については、こちらの方が詳しく解説してくださっています。
学習できないのは報酬系の不全が問題 - 神経科学者もやっている精神科医のblog
ADHDというと神経伝達物質ドーパミンのバランス異常という側面が大きいですが、双曲割引はセロトニンとの関わりも指摘されています。
報酬選択脳どう動く? 今すぐ1万円か1週間後に1万2千円か : 地域 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
すると、アミノ酸を飲む量が少なく、セロトニンが不足した状態の人では時間割引率が高くなり、脳の奥にある線条体の下の部分が活発に動いた。通常や過剰な人は割引率が低く、線条体の上の部分が活動した。
時間割引率が高い人は、少し待てば問題が解決するような状況でも待つことができないなど、衝動性が強くなるとみられる。
このため、田中主任研究員らはこの研究を、何度も手を洗うなどの強迫性障害や、注意欠陥・多動性障害(ADHD)といった衝動性に関わる精神疾患の治療に生かせないかと試みている。
ADHDを改善・予防する運動とプロバイオティクス
そのほか、最近のニュースでは運動やプロバイオティクスがADHDの症状を改善・予防するという報告がありました。
新生児黄疸が出た子はADHDが多かった - MEDLEYニュース
乳児期に新生児黄疸(皮膚や白目が黄色くなる症状、赤血球が破壊されてビリルビンが増加することによる)が出ると、ADHDの発症率が2.48倍になっていたそうです。
子ども時代の運動量がADHDの不注意・多動性の症状にプラスとなる? - MEDLEYニュース
プロバイオティクスが子どものADHDを予防するかもしれない、13年間の追跡調査 | Medエッジ
ADHDまたはアスペルガー症候群と診断された子どもは、生後6カ月までの便中のビフィズス菌数が健康な子どもの10分の1近くしかなかったとも書かれています。
近年、自閉症と腸内細菌の関係が注目されていますが、ADHDの発症とも関わっているのかもしれません。
ADHDの脳機能のバランスの悪さは、個々人が工夫してうまく対処していくしかありませんが、もし改善・予防できる手段があるなら積極的に取り組んでいきたいですね。