意志力のないADHDの人が少しでも自己コントロールするための5つの科学的アドバイス


■大学生の成績と性格の相関関係を調べると、唯一、自己コントロールの高さのみが関係していた

■1000人の子どもを32歳まで追跡した調査では、自己コントロールの高い子どもは肥満率が低く、依存症などが少なく、健康状態もよく、安定した結婚生活をしていた。

■自己コントロールの低い人は、不安・うつ病・摂食障害・強迫神経症・アルコール依存症などの問題を抱えやすく、家庭内暴力や犯罪の可能性も高かった。

れらは、自己コントロール能力、つまり意志力自制心について 調べた統計のほんの一部です。

自己コントロールの研究によると、世界中の犯罪や大事件、スキャンダルの多くは自己コントロールの欠如によって引き起こされてきたことがわかっています。

意志力はある程度は遺伝的なものであり、特にADHDの素因を持っているなら、自己コントロールが難しいことも知られています。

意志力や自制心がなく、すぐに誘惑に負けてしまう人が、自己コントロール能力を強くするためにできることがあるでしょうか。WILLPOWER 意志力の科学という本を参考に調べてみました。

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これはどんな本?

この本は、 意志力の研究の先駆け、また専門家として活躍しているフロリダ州立大学のロイ・バウマイスター教授の28冊目の著書です。

かつて意志力は哲学的な概念で、科学的には研究できないとされていました。しかしバウマイスターは、数々の独創的な実験をもとに、意志力の存在を実証しました。

また意志力は筋肉に似ていて鍛えることができる、使うことで疲労する、脳の前帯状皮質などが関係している、ということも明らかにしました。

本書は、そのような意志力の科学的実験に基づき、さまざまなシチュエーションでどう行動すれば誘惑を退けられるのか、ということが書かれています。

ADHDの自己コントロール能力の低さ

バウマイスターは、意志力の強さ、自己コントロール能力の高さに、多少なりとも遺伝が関わっていることを認めています。(p187)

それは、シングルマザーの子どもについての統計から明らかになりました。

片親家庭で育った子どもは、そうでない子どもよりも目先の利益に飛びついて自制できないこさが多く、成績が低く、社会生活への満足度が低く、犯罪率も高いということがわかりました。(もちろん例外は多くあります)

これが、遺伝による問題なのか、環境による問題なのかを知るためにさらに調査が行われました。

片親がいない理由によって分類すると、片親が離婚して出て行った(家族を捨てた)家庭の子どもが最も自己コントロールが低く、片親が死別・出稼ぎなどでいない家庭の子どもの自己コントロール能力は中間でした。

つまり、子育ての環境は、自己コントロールの低さに半分は関わっています。しかし残りの半分の要素としては、親が離婚して子どもを捨てるような自己コントロールの低い人の場合、その意志力の弱さが子どもに遺伝していたのです。(p264)

この結果は、このブログで取り上げたADHDと愛着障害の研究と一致するでしょう。親が子どもを捨てた家庭では、親からのADHDの遺伝と、ひとり親家庭で育ったという愛着障害とが二重に生じていて、意志力の低さに影響しているのです。

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アップルの故スティーブ・ジョブズはADHDとも愛着障害とも言われています。両者はよく似ていて見分けがつきにくいとされますが、この記事では(1)社会福祉学の観点(2)臨床の観点(3)

またアジア系アメリカ人は、アメリカの人口の4%に過ぎませんが、スタンフォード大学のようなエリート大学では、学生の1/4を占め、アメリカ人より給与が平均25%高いそうです。

冒頭で述べたように、成績に関係する性格の要素は、唯一自己コントロール能力だけだと判明しています。

調査によると、アメリカ人の子どもに比べ、中国系の子どものADHDの遺伝因子ははるかに少ないということがわかっています。ADHDの要素がないことが、自制心を強める子育て法などを通して、子どもの成績を向上させていると推測されています。(p246)

このように、ADHDの傾向があるかないかによって、意志力の強さは大きく変わります。

では、わたしは意志力が欠けているし、誘惑にも弱い。ダイエットにも成功しないし、目標を達成できない、という人はどうすればいいのでしょうか。

自己コントロール能力を高める5つの科学的アドバイス

この本には、さまざまなアドバイスが科学的実験の検証つきで載せられているので、ADHDの人をはじめ、意志力が弱くて困っているという人は、一度読んでみるといいと思います。

その中でも、いくつかのアドバイスを簡単に紹介してみます。

1.意志力が長続きしないときは?―自我消耗

■がんばって運動したら、お菓子を食べたい誘惑に負ける
■お酒をがんばって我慢していたのに、3日目に屈する

なぜがんばって自制心を発揮すればするほど、のちのち誘惑に負けてしまうようになるのでしょうか。

これは「自我消耗」という現象として知られています。意志力は無限のエネルギーではなく、あくまで質量保存の法則に従う脳の活動なので、使えば消耗してしまうのです。

こうして生まれたのがバウマイスターの造語である「自我消耗」で、これは人の思考や感情や行動を規制する能力が減る現象を指す。(p41)

意志力に関わるエネルギーとは、血糖値と関係していることが明らかになっています。(p63,68,310)

たとえば低血糖症の人や、糖尿病の人は、意志力や判断力が鈍ることがわかっています。実験によると、参加者に意志力を発揮するテストをしてもらうと、血糖値が大幅に下がっていました。

疲れたときに甘いものがほしくなるというのは、脳が意志力の糧となるグルコースを求めていることの表れだったのです。

しかし人工的に作られた甘いもの(特に精製された砂糖を含むもの)は、血糖値を急激に上げたり下げたりするので、より意志力が乱れてしまいます。

それで安定した意志力を保つには、血糖値をゆるやかに上げるGI値の低い食べ物を摂るべきです。GI値とは「グリセミック・インデックス」のことで、野菜やナッツ、果物などの自然食がGI値の低い食べ物です。(p82)

低血糖症による判断力の低下については、こちらの記事もご覧ください。

疲れやすさの隠れた一因、機能性低血糖症
慢性疲労症候群の隠れた一因とも言われる機能性低血糖症に対する、マリヤ・クリニックの取り組みについて

2.注意の切り替えが難しい―ザイガルニック効果

■テレビを途中で消して仕事を始めると気になって集中できない
■やらなければいけないことで頭がいっぱいだ

中断したもの、これから取り組むべきもので頭がいっぱいになり、集中できないことを「ザイガルニック(ゼイガルニーク)効果」といいます。

そこで彼らは、被験者にジグソーパズルをしてもらって、途中で邪魔が入るとどうなるかという実験を始めた。

この実験はその後何十年にもわたって行なわれ、のちに「ザイガルニック効果」と呼ばれる現象が確認された。

終わっていない仕事や達成されていない目標は頭に浮かびがちだという現象だ。(p111)

ザイガルニック効果は、中途半端で放り出しているタスクについて、脳が注意を喚起しようとしている反応だと考えられてきました。

しかしある実験では、気になっていることについて詳細な計画を立てるだけで、ザイガルニック効果がなくなり、別の仕事に集中できることがわかりました。その計画は立てるだけでよく、実行しなくても構いませんでした。

ザイガルニック効果は、脳に計画を立てさせようとする反応だったのです。

それで、いろいろなことがあれこれと気になって、目の前のことに集中できないなら、詳しい計画を立てるのが役立ちます。 「気に病まないためのリスト」を作るのです。(p313)

実際に、GTDというタスク管理技術を用いて、頭の中の気になっていることを書き出し、心の平安を得ている、といううつ病の方の経験談を以前に取り上げました。

「うつとよりそう仕事術」が教えてくれる不安撃退3ステップ
書籍「うつ」とよりそう仕事術の書評です。うつ病や慢性疲労症候群という困難な病気のもとでも、健康な人のようなパフォーマンスを発揮するにはどうすればよいか、不安を解消するはじめの3ステ

3.独りになると誘惑に負ける―鏡効果

■普段は良識ある人が、独りになるとインターネットポルノを見てしまう
■一人暮らしを始めると生活が乱れる

人は、監視の目がないと、自己コントロール能力が低下するそうです。先に挙げたシングルマザーの家庭の子どもが自己コントロール能力に欠けていたのは、文字どおり監視の目が少ないからでもあります。

上に引用したように、監視の目を強化する一つの方法は、鏡を置くという単純なものです。鏡を見ると、自分自身について考え、我に返るという人は少なくありません。

他の人に電気ショックを与えるよう指示されたとき、鏡が見える被験者は、鏡が見えない対照群の被験者よりも自制心が働き、攻撃的になりにくい。

また与えられた作業に熱心に取り組み続けた。意見を変えるよう脅かされても、脅しに屈せず自分の意見に固執し続けた。(p149)

ネットで知った情報ですが、たとえばディズニーランドのトイレには鏡が設置されていないそうです。来園者が自己コントロール能力を忘れて楽しむように促し、ハッと我に返るのを防ぐためです。

鏡でなくても、家族の写真を飾ることで、自制心を強化する人もいます。いわば写真の中から家族の視線を感じるので、気が引き締まるのです。

またさまざまなライフログのアプリで、生活の記録をとるのも助けになります。自分で自分の行動を数値化して自己監視するのです。

有名なEvernoteもいいですが、特に他人とログを共有し比較できるようなウェブサービス・アプリが、監視の目という観点からは一番良いそうです。

昔ながらの、だれもいないときであっても、神が自分を見守っている、という宗教の純粋な信仰も、一人でいるときにも監視の目を感じ、自己コントロール能力を保つ一つの方法です。

4.状況が変わると誘惑に負ける―感情移入ギャップ

■昼間はジャンクフードを批判しているのに夜になると食べたくなる
■普段は良識ある人なのに、戦時下では簡単に人殺しや犯罪に手を染める

衝撃的な実験があります。お金と感情と意思決定の白熱教室: 楽しい行動経済学という本に書かれていた心理学的実験「スタンフォード監獄実験」です。

「 スタンフォード監獄実験」とは、1971年、心理学者フィリップ・ジンバルドーが行なったもので、精神的に健康な20人を集め、実際の刑務所に似せた環境で、看守役、受刑者役に分け、長時間過ごさせたものです。どうなったのでしょうか。

さあ、皆が監獄に集まったとき、どうなっただろう。看守役の人たちが、たちまち受刑者役の人たちを虐待するようになったんだ。

…ジンバルドーは「実に興味深い」と答えたが、助手に「今すぐ実験を中止しなければ私は辞める」と言われて、実験を中止することにした。(p57)

(哲学する赤ちゃん (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)のp310も参照)

この実験は、普段どんなに良い人であっても、特異な状況に置かれ、感情的になると、冷静な判断ができなくなり、人格が変わったようになることを示しています。これを「感情移入ギャップ」といいます。(p190)

戦時中のナチスの強制収容所、ルワンダの大虐殺、イラク戦争の捕虜虐待などの原因は、この「感情移入ギャップ」により、理性の歯止めが利かなくなることにより、ごく普通の人が残虐な人に変貌して生じたのです。

感情移入ギャップは何も戦時中限定ではありません。同じ本によるとこんな実験が載せられています。

男女3人を明るい部屋に入れて1時間過ごさせると、普通の会話をしました。ところが電気を消した部屋に入れて同じように過ごさせると、個人的なことや性的なことを語り、90%が互いの体に触れ、50%がハグしました。状況が変わり、感情的になると人は理性を失うのです。(p60)

WILLPOWER 意志力の科学によると、感情移入ギャップを防ぐには、古来から、いくつかの伝統的方法が用いられてきました。

宗教における聖人と呼ばれるような人たち、戦時下や集団虐殺の場でも信念を保ち続けるような人たち、高潔な道徳を守り続ける人たちは、以下のようなことを実践しています。

■明確な一線(p235)
たとえば宗教信条のように、あらかじめ、この一線だけは超えてはいけない、という規律を自分に課す。明確な一線がないと、ずるずると堕落し、いつのまにか良心が痛むようなことに手を染めていたりする。

■高潔な思考(p210)
研究によると「なぜあることをするのか」「どうやってあることをするのか」といった高レベルの思考をしてもらうと自制心が向上した。逆に低レベルの思考をすると自制心が低下した。いつも高レベルの思考で心を満たしていると誘惑に陥りにくい。

■実行意図(p289)
あらかじめAという状況になれば即座にBという対応をとる、と決めておく。これはAという状況に直面したとき、メリットやデメリットを考えて決定すると、意志力を消耗して、次にくる誘惑に弱くなってしまうため。つまりあえて考えないことで意志力を温存する。イフゼン戦略(もし~したら、そのときは~すると決めておく)とも呼ばれる。

これらはいずれも、状況が変わる前に、あらかじめ対策を試みておくものです。そうすれば、状況が大きく変わっても、自分のルールを守り通し、揺らがないでいることができます。

かつてスーパーマンを演じた俳優クリストファー・リーヴは、事故により四肢麻痺患者になりました。しかし彼は、強い信念を持ち、希望を意識していたので、逆境のもとでも自分を見失いませんでした。

希望は手を差し伸べる友人の形でやってくるー「スーパーマン」クリストファー・リーヴから学ぶ
首から下はもはや二度と動かすことができない。そう告げらけたのはかつてスーパーマンを演じ全世界のヒーローとなったクリストファー・リーヴです。彼はいかにして絶望の淵から立ち上がり、人々

5.一度失敗するとどうでもよくなる―逆調節的摂食

■ダイエット中、一度失敗して食べてしまうと、どうでもよくなり過食する
■禁煙中、一度失敗して吸ってしまうとそのままヘビースモーカーに戻る

一度ルールを破ってしまうと、もうどうでもよくなってしまい、自制心を完全に失ってしまう現象、これは「もうどうでもいい!」効果です。

いわば、せっかく階段を一歩一歩登ってきたのに、一度足を踏み外しただけで、真っ逆さまに一番下まで転がり落ちてしまうようなものです。

しかしダイエット中の被験者の反応は逆だった。大量のミルクシェイクを飲んだ人のほうが、数時間何も食べていなかった人よりも多くのクッキーやクラッカーを食べたのだ。

この実験を行なった研究者だちは、この現象に「逆調節的摂食」(カウンター・レギュラトリー・イーティング)という名をつけて、これを正式な科学用語としたが、研究室や仲間内では、単に「もうどうでもいい!」効果と呼ばれている。

「もうどうでもいい」効果を防ぐには、厳格な目標を立てないことが大切です。

ダイエット中の人の目の前にお菓子を置いて、「絶対に食べない」と決意するグループと、「あとで食べる」ことにして今は食べないと決意するグループに分けました。

すると、後々好きなだけ食べていいと言われた時、「絶対に食べない」と決意したグループは、「あとで食べる」ことにしたグループよりも多く食べました。(p298)

この「あとで食べる」、つまり「延期する」という戦略は、ストレスが少なく、長期的に見れば、より自制心が発揮できるようです。

スタンフォードの自分を変える教室によると、誘惑を感じたら、「10分待つ」という戦略が有効だと書かれていました。

人間だけが未来を思い描く 「スタンフォードの自分を変える教室」
人間だけが「未来」を思い描く能力を持っています。わたしたちはその能力を誤用して、やすやすと誘惑に陥ってしまうでしょうか。それとも、それをコントロールして、なりたい自分になることがで

意志力を鍛えて、自己コントロールを成功させる

ここまで考えてきたことをまとめてみましょう

1.意志力が長続きしないときは?→GI値の低い食生活にする

2.注意の切り替えが難しい→計画を書き出すことでザイガルニック効果を消す

3.独りになると誘惑に負ける→監視の目を強化する

4.状況が変わると誘惑に負ける→あらかじめ信念や対策を決めておく

5.一度失敗するとどうでもよくなる→やめるのではなく延期する

以上の5つのアドバイスを意識すれば、いろいろな誘惑に対処しやすくなるでしょう。

もちろん、ADHD、糖尿病など、脳の機能障害で意志力が限られている人の場合は、医学的な治療を受けることも不可欠です。

この本には、意志力を働かせるのに役立つ、いろいろなエピソードや心理学的実験が、ほかにも数多く載せられています。

たとえば、生きた彫像の路上パフォーマンスを続けた、罵られたり触られたりしても姿勢を保ち続けたアマンダ・パーマーから意志力について何が学べるでしょうか。

水中で17分も息を止めていられる耐久アーティスト、デビッド・ブレインの意志力はどこから来たのでしょうか。

極度の飢えや現地人の襲撃を乗り越えて無事生還できたアフリカ探検家ヘンリー・モートン・スタンリーはいかにして極限化で意志を保ったのでしょうか。

とてもおもしろく、役に立つエピソードが多いので、ぜひWILLPOWER 意志力の科学を読んでみてください。

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ADHD(注意欠如多動症) / 自己コントロール