ディズニー映画のピクサー社長が語る―多様性を認めると創造性豊かになるのはなぜか


造性、クリエイティビティを発揮する秘訣については、さまざまなアーティストが、さまざまなアドバイスを語っています。

その中で、創造性には多様性が大切であり、万人に当てはまる定義はない。そう述べるのは、近年ディズニー映画の立役者として成功したピクサー・アニメーション・スタジオの社長、エド・キャットムルです。

「こうすればクリエイティブになれる!」という本はいろいろありますが、「創造性をあえて定義しない」という考え方を記したピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法はとても面白い本でした。

なぜ多様性をベースにすると創造性が豊かになるのか、ということについて

■自分の意見と他人の意見は違うことを受け入れる
■他人に役立つものが自分にも役立つとは限らないことを認める

という2つの観点から調べてみたいと思います。

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これはどんな本?

この本は、ピクサー・アニメーション・スタジオの社長エド・キャットムルが、ピクサーの前身だったルーカス・フィルムの時代の話からはじめて、スティーブ・ジョブズとの出会い、ディズニーへの売却などを経て、どのようにピクサーが成長してきたかを語っている本です。

一見すると、サクセス・ストーリーのビジネス本のようですが、押し付けがましいところはありません。単にピクサーの場合はこうだったと述べているにすぎず、むしろ成功法則を当てはめてもうまくいかないと述べています。

トイ・ストーリー、カーズ、カールじいさんの空飛ぶ家、ファインディング・ニモなどの作品づくりを通して、どんなところを大切に考えてきたか、スティーブ・ジョブズとの交流からどんな益を受けたか、といったエピソードは読み物としてもとても興味深いです。

自分の意見と他人の意見は違うことを受け入れる

創造的であるために多様性を受け入れることが大切なのはなぜでしょうか。

わたしたち一人ひとりは、異なる認知特性によって、世界を見ている、というのは、このブログで何度も繰り返し取り上げてきたテーマです。

アスペルガーの2つのタイプ「天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル」
天才建築家アントニオ・ガウディと、写真家にして童話作家ルイス・キャロル。あなたは自分がどちらに似ていると思いますか? わたしたちはだれしも、この正反対の二人のどちらかに似ています。

ピクサーのエド・キャットムルも、その点を認め、こう述べます。

つまり、自分と同じ見方でその関係性を見ている人はいないのだ。

それを忘れずにさえいられたら!

人は自分の見方が最良だと思って生きている。おそらく自分以外の見方がよくわからないからだろう。(p241)

「自分以外の見方がよくわからない」。

これは価値観が多様化する現代社会を生きるわたしたちにとって大きな問題です。

わたしたちは、普通、自分と同じように、他の人も考えていると思いがちです。自分がこう思っていることは他の人もこう思っているだろう、という前提に基づいて生きているのです。

だから、自分が好きな映画を、友だちが大嫌いだと言ったら驚きますし、良かれと思ってかけた「がんばってね!」という言葉で、相手が深く傷ついたと知ってショックを受けたりすることもあります。

だれかが新しいアイデアを出すと、決まって「そんなのは無理だ」と否定する人がいますし、ちょっとでも社会の常識を外れた生き方をしようとすると家族からがっかりされたり、近所で村八分になったりすることもあります。

それくらいならまだしも、自分とは違う信条を持つ人を中傷したり、違う文化の人を排斥したりする人たちもいます。自分と同じ見方―それは非常に狭い見方なのですが―をしない人たちを受け入れられないばかりか攻撃してしまうのです。

多様性を認めて初めて創造性豊かになれる

しかし、そのような、多様な見方を拒否する態度には、大きな不利益がある、とエド・キャットムルはいいます。

だが、自分と他人の認識や経験が大きく異なることを、人は何度も繰り返し学ばなければならない。

創造する環境では、そうした差異は利点になる。しかしそれを認め尊重しなければ、創造性は豊かになるどころか失われてしまう。(p241)

人は多様であるからこそ創造性を発揮できるのです。

人間は、一人ひとり異なる色の絵の具のようなものです。もしみんなが赤い絵の具だったら、どのようにして魅力的な絵が創造できるでしょうか。

みんながさまざまな色を持っていてあたり前であり、それらがセンスよく混ざり合ってこそ、美しい文化が創造されるはずなのです。

他の色を認めず、自分の好みと異なるすべての色の絵の具を捨てようとさえするなら、クリエイティブな将来は期待できません。

確証バイアスという落とし穴

しかしながら、そのような、自分とは違うものを受け入れがたく思い、ときには排除しようとさえする傾向は、わたしたちのすべてに染み付いた根深いものだとエド・キャットムルは言います。

「他者の視点を尊重しよう!」―簡単なようで会社として実践するのは非常に難しい。

なぜなら人は、自分のメンタルモデルと相容れないものを見たとき、それを拒絶するだけでなく、軽視する傾向があるからだ。これは科学的に照明されている。

情報が真実かどうかに関係なく、自分がすでに持っている信念を裏づける情報を好む傾向を表す「確証バイアス」という概念は、1960年代にイギリスの心理学者、ピーター・ウェイソンによって提唱された。(p241)

「確証バイアス」とは何でしょうか。

確証バイアスとは、自分の信念に合った情報を好んで受け入れ、そうでない情報の価値を軽視し、無視していまう、脳の傾向のことです。

これは一部の偏屈な人だけが持っている脳の働きではなく、わたしたちすべてにあまねく存在しているものです。

あなたは自分がおおらかで、偏見がなく、広い見方をしている人間だと感じますか?

たとえそう思っていたとしても無意識のうちに、必ずバイアスやヒューリスティックの影響を受けています。無論、この記事を書いているわたしもそうです。

わたしたちは、何かインターネットで調べ物をするときにも、確証バイアスの影響を受けています。自分がこうであってほしい、という情報にたどり着き、こうであってほしくない、という情報を無視している可能性がとても高いのです。

ダニエル・カーネマンは、ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)という本の中で、確証バイアスについて、こう述べています。

自分の信念を肯定する証拠を意図的に探すことを確証方略と呼び、システム2はじつはこのやり方で仮説を検証する。

「仮説は反証により検証せよ」と科学哲学者が教えているにもかかわらず、多くの人は自分の信念と一致しそうなデータばかり探す―いや、科学者だってひんぱんにそうしている。(p122)

わたしにとっても耳が痛い話です。

だからこそ、先ほどエド・キャットムルは、

自分と他人の認識や経験が大きく異なることを、人は何度も繰り返し学ばなければならない。

と述べていたのです。

わたしたちは、他の人の見方を軽視する傾向があるので、何度も繰り返し努力して視野を広げねばならず、バイアスの影響をいつも意識していなければなりません。

確証バイアスそのものは、決して悪いわけではなく、人が信念を形作ったり、方向性を見出したりするときに役立つものです。確証バイアスがなければ、道を歩くとき、地図と照合して目印に目ざとくあることができません。

しかし途中で出会った旅人たちの、さまざまな意見にも耳を傾けるなら、別の道の状況について知ったり、よりよい近道がわかったりして、新しい発見があるかもしれません。

要は、自分の信念を裏付ける情報ばかり探すのが悪いわけではなく、ときどき他の人の意見も受け入れて考えてみるというバランスが必要なのです。

創造性は、自分の意見も、他人の意見もバランスよく尊重できる土壌に芽を出し、すくすく成長するといえます。

他人に役立つものが自分にも役立つとは限らないこと

多様性を認める、ということは、とりもなおさず、成功するには一つしか方法がない、という狭い見方を捨てることでもあります。

一人ひとりそれぞれ才能や性質が異なるので、うまくいく方法もまた さまざまなのです。

エド・キャットムルは、この本の中で、一貫して、「真実の短縮化」を否定しています。(p403)

真実の短縮化とはみんなが大好きな

■こうすればうまくいく成功法則
■偉人たちの仕事術
■有名人のありがたい名言
■世界的企業のサクセス・ストーリー

などです。

これらは、成功する方法は、唯一無二であるかのように教え、みんなにその例に倣い、同じ習慣を身につけ、同じ習慣を培うよう勧め、そうすれば万事うまくいくと主張してはばかりません。

もちろん、そうしたアドバイスに価値が無いと言うわけではありません。それらは大いに参考になることもあります。しかしエド・キャットムルは、それを鵜呑みにしてもうまくいくとは限らないとはっきり述べています。

サクセス・ストーリーの大半は幸運

まず、成功者は、良い方法を実践したから成功できたというより、運に恵まれていたから成功できたにすぎない、と彼はいいます。

会社がうまくいっているときは、リーダーが抜け目のない決断を下した結果だと考えるのは自然なことだ。

そのようなリーダーたちは、会社を繁栄させるカギを見つけたとさえ信じるようになる。

実際には、偶発性や幸運が果たした役割が大きい。(p212)

たとえばエド・キャットムルは若いころに事故で死にかけましたが、そのとき死んでいたら、ピクサーの成功はありませんでした。(p234)

成功者のサクセス・ストーリーは、たまたま壊滅的な悪いことが起こらず、たまたま時代背景などに後押しされて成功したという要素を度外視していることがほとんどです。成功のほとんどは、当人の関与できない部分で決まっていたのです。

ダニエル・カーネマンも成功の公式をこうつづっています。

成功=才能+幸運
大成功=少しだけ多くの才能+たくさんの幸運(p260)

この「幸運」の占める要素がとても大きいために、世の中のサクセス・ストーリーはほとんど意味をなさないとも述べます。

そうしたサクセス・ストーリーは人気があるため、評判になりますが、実際に役立つかどうかとなれば話は別なのです。

消費者が飢えているのは、企業の成功と失敗を明快に一刀両断してくれる説明であり、原因をわかった気にさせてくれる物語なのだ。たとえそれが幻想であろうとも。(p300)

このようなサクセスストーリーは、後知恵バイアス(hindsight bias)と呼ばれます。事後になって「こうしたから彼は成功したんだ」というようなもっともらしい講釈をつけるからです。(p296)

スーツケースの取っ手だけ持ち歩いても意味がない

また、成功法則や名言は、その言葉そのものよりも過程のほうが重要であって、過程を理解・経験せずに成功法則を信奉するのは、スーツケースの取っ手だけを持ち歩くようなものだとエド・キャットムルは言っています。

その取っ手は、一見、的を射た奥深い言葉のように思える。

…我々は取っ手だけを持って、スーツケースがないことに気づかないまま立ち去ってしまっている。

それだけでなく、置いてきたもののことを考えもしない。要はスーツケースより取っ手のほうが何倍も持ち歩きやすいのだ。(p119)

名言を語った本人は、そのフレーズという取っ手をきっかけに、自分の豊かな経験がつまったスーツケースを引っ張ってくることができます。そのスーツケースの中身、つまり経験や知恵こそが本当に大切なものです。

でもサクセス・ストーリーや成功法則の本を読んだり、ネットで記事を見たりする人は、自分でそれを経験したわけではないので、スーツケースの中身を持っていません。

すると、まるでスーツケースの取っ手だけを外して持ち歩いているようなもので、何の役にもたちません。

別の例でも考えてみましょう。

たとえばエベレストの山頂で撮った写真は、登ったことのある人が見れば、感慨や感動、大いなる経験を思い出す助けになります。しかし、登ったことのない人には、ただの絶景写真にすぎません。

自分の足で学問や芸術などの山頂に登りつめた偉人たちの言葉は確かに重みがありますが、まだ山に登ったことのない多くの人たちは、その言葉の価値や意味をほとんど理解できないまま使っているのです。

このような「取っ手」「写真」にすぎないような名言・サクセスストーリー・自己啓発本こそ、エド・キャットムルが言わんとしている「真実の短縮化」なのでしょう。

他の人に役立った成功法則をそのまま自分に当てはめてそれでうまくいくのなら、世の中はもっと単純なはずですが、実際には物事はそう楽ではないのです。

彼は、スティーブ・ジョブズが生前に語ったある言葉を引き合いに出しています。

スティーブ・ジョブズはこのときのことを肝に銘じてアップルの社員に繰り返し話し、自分は社員に絶対に「スティーブならどうするか」とは考えてほしくない、と言っていた。

ウォルト、スティーブ、ピクサーの人々の中で、それまでうまくいっていたことにしがみついているだけで創造的な成功を果たした人は一人もいない。(p224)

一人ひとりうまくいくやり方は異なるという点はこちらもご覧ください。

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創造的な生き方には多様な選択肢がある

そのようなわけで、多様性を認めることには2つのことが関係しています。

■自分の意見と他人の意見は違うことを受け入れる
■他人に役立つものが自分にも役立つとは限らないことを認める

エド・キャットムルは、スティーブ・ジョブズと出会ったとき、最初は「次元が違いすぎてどう解釈したらいいのかわからなかった」「苦手なタイプ」だと感じたそうです。(p68)

しかし多様性を受け入れる人だったからこそ、スティーブ・ジョブズとも親しくなれ、最終的に彼の最も親しい友人の一人になりました。そして、まったくタイプの違う彼から多くのことを学びました。

また、社長でありながら、スタッフの部屋に顔を出しては横に座り、意見を聞いたり、何気ない会話に努めたりしたそうです。自分のアイデアがすべてだとは思わず、多様な見方を知ることが必要だと知っていたのです。(p97)

そして他の人の成功法則を、自分にそのまま当てはめればいいわけではないことを理解していたので、常に独自の可能性に取り組んできました。

失敗する可能性のあることに取り組むのが、本当に創造的な企業なのだ。(p166)

エド・キャットムルと、スティーブ・ジョブズも、ほかの人たちのアイデアやアドバイスにしっかり耳を傾けました。しかし同時に、他の人と同じようにやればうまくいくとは思っていませんでした。

人はそれぞれ事情も才能も背景も異なっていて多様なので、他の人のさまざまな意見を尊重しつつも、最終的には各人が努力して、自分の道を見つけなければならないということを意識していたのです。

それが、自分の意見も他人の意見も尊重するというバランスのとれた考え方です。右にも左にも極端にそれたりせず、多様性というタイルが敷き詰められた道を歩いて行くとき、豊かな創造性が広がる山頂にたどりつくといえるでしょう。

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それで、ピクサーのエド・キャットムルは、多様性をベースに発展していく創造性について、こう結論しています。

何が健全な創造的環境をつくるかについて考えてきたが、私が「創造性」という言葉を定義しようとしていないことに気づいた人もいるかもしれない。

それは意識的にそうした。定義する意味がないと思ったから、していないだけだ。

私は、誰でも問題を解決し、創造的に自分を表現する力を秘めていると信じている。(p246)

どのように創造性を発揮するかは、人それぞれ違います。創造的な人の生き方は一人ひとり異なっていて、だからこそユニークな文化が創造されるのです。

この本は、多様な創造性を発揮するためのさまざまなヒントを得るのに、とても役立つ一冊なのでおすすめです。

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