「魂の殺害」である性虐待・性暴力の7つの後遺症―子どもが性被害を受けた時の対処法とは?


性被害によるトラウマが及ぼす深い傷は、経験したことがない人には、どれほどまでにそれが混乱させられるものか、そして長いあいだの苦しみとなるか想像するのが難しいでしょう。(p169)

れは子どものトラウマ・セラピー―自信・喜び・回復力を育むためのガイドブックに書かれている、神経生理学者ピーター・ラヴィーンとセラピストであるマギー・クラインの言葉です。

近年、勇気あるサバイバーたちの証言によって、性被害によるトラウマの深刻さが明るみに出るようになりました。しかしそれでも、性被害とはどんなときに起こるものか、なぜ深刻なのか、という実態はほとんど知られておらず、語ることさえ暗黙のタブーとなっています。

最も誤解されているのは、性暴力が残すのは「深刻な心の傷」である、という考え方です。もちろん被害者が大きなショックを受けるのは確かですが、そのショックは単なる心の傷ではなく、脳や身体をさえ変質させてしまうほどのもの、魂の殺害と呼ぶにふさわしいものなのです。

この記事では、統計が示す性被害の真実、さまざまな科学的研究によって示された性暴力が残す深刻な後遺症、そしてもし性被害を受けてしまった場合にケアする方法について考えます。

スポンサーリンク

性暴力に関する誤解と正しい理解

性暴力、性被害というと、たいていの人は、見知らぬ人から受けるセクシャルハラスメントや性的暴行、子ども時代の性的な虐待を連想するでしょう。しかし、統計データが物語る性被害の実態は、社会一般の認識とは明らかに異なっています。

子どものトラウマ・セラピー―自信・喜び・回復力を育むためのガイドブックから、幾つかの事実を引用してみましょう。

誤解 : 性被害はまれ
正しい理解 : 性被害のリスクはもっとありふれているので、どの家庭でも親が子どもに性被害を避ける方法を教育しておくことが重要です。

きちんとした親の助けがあったとしても、絶対に子どもが性被害のリスクを免れるという保証は一切ありません。

事実、1950年代の保守的な報告でさえ、4人に1人が性被害に苦しんでおり、その大半が13歳以下ということでした。(p177)

誤解 : 性被害は見知らぬ人から路地裏など危険な場所で受ける
正しい理解 : ほとんどの性被害は身近な人から日常生活の場で受けます。脅されたり、否定されるのを恐れたりするために、被害者は助けを求めることをためらい、親に打ち明けることもできないかもしれません。

ニュースで取り上げられるような無差別的な性犯罪よりも、もっと身近なところで起こる日常的な被害、親や警察に助けを求めることもできない被害のほうがはるかに多いのです。

保護者、地域、そして学校のプログラムが、“危険な見知らぬ人”には気をつけるように子どもに注意を促しています。しかし悲しいことに、性被害では見知らぬ人ということはめったにありません。(p178)

子どもの性被害には秘密というとばりが加わります。85~90%の性被害と不適切な“境界への侵入”は知り合い、または信頼をしていた人からです。

よって裏切りにより症状は複雑化します。子どもは口封じされなくても(脅されなくても)、しばしば困惑、恥じらい、そして罪悪感から話をしません。

純真さから、自分が“悪かった”と思い込み、性犯罪者に帰属する恥を自分で背負い、その上、おしおきや復讐にまで怯えるのです。

また、家族の一員(または地域)の誰かをかばい、犯罪者たちに何が起こるかを心配することもあります。子どもが頼っていたり愛していたりする家族のメンバーの場合は特にです。(p178-179)

誤解 : 性犯罪者は精神異常者や変質者
正しい理解 : 性犯罪を犯すのは、子どもの身の回りにいる普通の人たちです。その中には親戚、ベビーシッター、少し年上の子どもなどが含まれます。

この章を書くための調査で一番驚いた統計結果は、性被害を受けた子どものうち年上の兄弟や10代のベビーシッターによるものが多くを占めるということと「兄弟間の性的虐待は親からのものよりも5倍多い」という事実でした。

同掲書にはほかにも2つの統計があり、兄弟間の性被害が起こった平均年齢は8.2歳、その兆候が始まったと報告される平均年齢は5歳です。5歳の子どもは好奇心旺盛で自発的で愛情に満ちた時期なのです。

“いやらしい人”という通念を一掃する報告がここにもあります。『児童思春期精神医学ジャーナル』(1996年)とカリフォルニア州2000年の刑事裁判の統計によると、思春期で犯罪者がもっとも多い平均年齢は14歳で、どの年齢よりも性犯罪が大きな割合を占めていました。

それに加えて、「児童に性犯罪を犯した人の59%は、思春期に逸脱した性的な興味を発展させている」のです。(p189)

性被害の中には悪意を持たない好奇心から行なわれてしまう兄弟姉妹や若者によるものも多いため、子どもがいざというときに「ノー」と言えるよう訓練することはとても大切です。

 子どものトラウマ・セラピー―自信・喜び・回復力を育むためのガイドブックにはそのために役立つアドバイスも載せられていました。

▼参考:「必ずしも守らなくてよいルール」

〈嫌だ!〉
これは、子どもが必要なときには「嫌だ!」と言えるよう練習するゲームです。

1.子どもが必ずしも守らなくてよいルールについて洗い出してみましょう。

・人には親切にしなくてはならない。
・人の気持ちを傷つけてはならない。
・誰かが話しかけてきたら、失礼のないように答えなくてはならない。
・他の人の面倒をよくみなくてはいけない。
・自分の必要としていることより他の人を優先しなくてはいけない。
・目上の人には楯突いてはいけない。
・世話をしてくれる人にはいつも従わなくてはいけない。

これらの“ルール”を話題にし、そして吟味することで、従うほうがよいときに、「嫌だ!」を言ったほうがよいときの選択ができるようになります。

2.実際に言う練習をしてみる
まずは1人か2人の子どもと1人の大人が順番にお願いごとをするふりをします。簡単に「嫌だ」と言えるものから始めましょう。

子どもが上手に言えたら、難度を上げて、「何か問題があるの、もう私のことが好きじゃないんでしょう?」などと言って、どうなるかみてみましょう。あくまでも大人に向けて「嫌だ」を言うチャンスを作りましょう。

やってみてどれだけ簡単に子どもが大人の要求に“屈する”か驚くことでしょう。「嫌だ」を言うことで子どもは、自分が意地悪で、ききわけがなく、失礼なことをしたと思ってしまうのです。

このゲームでは、あなたのお子さんが、被害に遭うような状況でどのように行動できるか査定し、自信をもって力強く「嫌だ」を言えるように練習をさせるチャンスです。(p197-198)

誤解 : 思春期以降の若い女性が一番危険
正しい理解 : ほとんどの性被害は無力な子どものころに生じます。女の子だけでなく、男の子も危険です。性被害を避ける方法を教えるのを、子どもが大きくなるまでためらったり先延ばしにしたりするべきではありません。

およそ10%の性的な被害が5歳以前に起こり、8歳から12歳までの子どものほうが、13歳から19歳までより多く報告されています。

30~46%の子どもは、何らかのかたちでの性被害を18歳までに被っています。

文化・社会的・経済的ステータス、宗教に関係なく性被害ははびこっています。(p178)

誤解 : 性被害とは身体的なもの
正しい理解 : ポルノを見せられることなど、不適切な性的な接触はすべて子どもに深刻な害を及ぼすことがわかっています。たとえ大人から見れば必要な医療処置でも、子どもにとっては性的な侵害と感じられ、長期にわたる害を残すこともあります。

性と屈辱に関して、自分の信用、年齢、立場を使って子どもを無力感に落とし入れることすべてが性的暴行に該当します。

ほかの言葉でいうと、誰かに性的に“強制”されようがされまいが、自分を守ったり誰かに知らせたりができず、他者の意思に仕方なく服従することがあったならば、それは性的な犯罪であり、暴行です。

これは10代のベビーシッターにポルノグラフィを見せられるようなことから、プライベートな身体の部分への配慮を欠いた医療処置、親やほかの大人との性行為を強要されることまで様々です。

ポルノなどに晒されること、服を脱ぐように頼まれること、性器を見せられたり操作するように言われること、医療の一環で粗野な処置をされることなどは、親や義理の親による実際のレイプよりもはるかにありふれています。(p180)

誤解 : 性被害の後遺症は心の傷
正しい理解 : 近年、トラウマ研究が進むともに、トラウマとは従来思われていたような「心の傷」ではなく、脳の構造の発達に影響をもたらし、さまざまな身体症状を引き起こす全身疾患であることがわかってきました。

ここからはそうした全身に及ぶさまざまな深刻な後遺症について考えます。

性虐待・性暴力の7つの破壊的な後遺症

性暴力・性虐待の破壊的な影響はさまざまですが、ここでは特に以下のニュースに基づいて、7つの点にまとめてみました。国内の児童虐待や性被害のトラウマ専門医、友田明美先生による解説が含まれています。

性暴力の実相(1)後遺症 抑えられぬ不安、混乱 - 西日本新聞 はてなブックマーク - 性暴力の実相(1)後遺症 抑えられぬ不安、混乱 - 西日本新聞

性暴力の実相(2)身内 「安心な家庭」描けず - 西日本新聞 はてなブックマーク - 性暴力の実相(2)身内 「安心な家庭」描けず - 西日本新聞

ニュースでは、子ども時代に親族や見知らぬ人から性暴力を受けた人たちの実体験をもとに、さまざまな後遺症の存在が明らかにされています。

1.大人になっても残る「心的外傷後ストレス障害」(PTSD)

記事によると、米国の研究では、PTSDの発症率は自然災害を体験した女性では5%程度ですが、強姦被害に遭った場合は46%にも上るそうです。

PTSDは常に神経が緊張して警戒状態にあるため、心身が過度に興奮し、休まらない、眠れないといった症状が現れます。また、フラッシュバックなどのトラウマ関連の恐怖やパニック、精神的苦痛に悩まされます。

成人してからも、両手が腫れ上がるまで部屋の壁を殴ることがあった。酒や買い物に依存したこともある。

結婚して夫のサポートを受けて症状が出る頻度は減ったが、時折、事件が脳裏をよぎり、パニックになった。

2.大量服薬「オーバードーズ」による自殺未遂

自殺目的でのオーバードーズはさまざまな精神疾患と関係していますが、虐待の後遺症となる解離性障害や境界性パーソナリティ障害でも見られるようです。

被害後も通った学校では、次第に勉強が手につかなくなった。約1年後、公園で大量服薬して自殺未遂をした。

近年、オーバードーズとも関係する境界性パーソナリティ障害(BPD)に、幼少期のトラウマが関係していることがわかってきました。

見捨てられ不安に敏感な「境界性パーソナリティ障害」とは?―白と黒の世界を揺れ動く両極端な人たち
他の人を白か黒かでしか判断できなくなってしまい、グレーゾーンがわからない。最初尊敬して、どこまでもついていきたいと思うのに、ちょっとしたことで裏切られたと感じ、幻滅してしまう。そん

3.記憶が飛ぶ・現実感が失われる「解離性障害」

辛くて耐えがたい記憶を切り離して封印したり、自分の心を飛ばして痛みを感じなくしたりする心の働きを「解離」といいます。虐待やトラウマの経験者は、自分の心を守り、生き延びるための一種の適応戦略として、強い解離状態に陥ることが多いようです。

マリさんは「当時、事件の記憶が抜け落ちていた」という。思い出したのは、入院した精神科病院で治療を受けているときだった。

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法によると、解離によって記憶が抜け落ちるのは、さまざまな衝撃的な体験においてみられる現象ですが、特に性的虐待の被害者に多いことがわかっています。

記憶の喪失は、自然災害や事故、戦争トラウマ、誘拐、拷問、強制収容所、身体的虐待、性的虐待を経験した人について報告されている。

完全な記憶喪失が最も多いのが子供時代の性的虐待で、発生率は19~28パーセントだ。(p315)

子供時代の性的虐待の記憶に関する科学的研究は、前向き研究だろうが、後ろ向き研究だろうが、1つ残らず同じ結果を得ている。

すなわち、性的虐待を受けた人の特定の割合が、その虐待を忘れ、のちに思い出すという結果だ。(p645)

こうした重篤な症状以外にも、たとえば、子どものトラウマ・セラピー―自信・喜び・回復力を育むためのガイドブックに書かれているような、日常生活の中で集中するのが困難になったり、習慣的に意識を飛ばしたり、空想に逃避したりするようになることも、解離の傾向のひとつです。

身体を感じると苦痛を伴うので、空想の世界をもつ、集中が困難になる、夢想する、そして(心理学者たちが呼ぶところの)解離をすることもあります。これらは恐ろしいできごとを封じ込める対処メカニズムです。

このように、子どもは生き抜こうとするのですが、隠された傷が発見されて癒やされないかぎり難しさを抱え続けます。(p173-174)

4.複数の人格を持つようになる「解離性同一性障害」

解離状態のうち、特に程度の重いものが、いわゆる多重人格、つまり解離性同一性障害だとされます。

多重人格の原因がよくわかる8つのたとえ話と治療法―解離性同一性障害(DID)とは何か
解離性同一性障害(DID)、つまり多重人格について、さまざまな専門家の本から、原因やメカニズムについて理解が深まる8つのたとえ話と治療法についてまとめました。

解離性同一性障害では、記憶が分割されるだけでなく、複数の異なる人格がそれぞれの記憶を受け持つようになります。ニュース記事にはこう書かれていました。

マリさんも人格が二つあると感じている。「2人の私が同時に自己主張するので、頭の中がよくぐしゃぐしゃになる。感情が制御できない」。

被害のことは、家族に話せていない。後遺症は消えない。

子ども虐待という第四の発達障害 (学研のヒューマンケアブックス)によると、人格が多重化する背景には、左脳と右脳をつなぐ脳梁が関係しているようです。虐待児では脳梁が萎縮していて、解離症状の程度と相関関係があるとされています。

ド・ベリスらの研究では、脳梁体部から脳梁膨大部にかけての脳梁4~7の体積が、被虐待児では健常な対照群に比べて小さかったのである。

さらに脳梁の体積と子どもの解離症状とは負の相関を示していた。つまり脳梁の体積が小さいほど、強い解離症状が認められたのである。

脳梁という右脳と左脳をつなぐ橋の体積が小さければ、右脳と左脳の共同作業が滞り、別々に働く傾向が強くなると予想される。従って、そのような脳の状態において、解離症状が強くなることは当然考えられることである。(p104-105)

いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳では、脳梁の萎縮は、特に9-10歳ごろの性的虐待で起こりやすいことがわかっているとも書かれていました。

性的虐待を受けた時期(年齢)の違いによる被虐待者の局所脳灰白質容積を多重回帰解析にて検討したところ、被虐待ストレスによってさまざまな局所脳の発達がダメージを受けるには、それぞれに特異な時期(感受性期)があることが示唆された。

海馬は幼児期(3~5歳頃)に、脳梁は思春期前期(9~10歳)に、さらに前頭葉は思春期以降(14~16歳頃)と最も遅い時期のトラウマで重篤な影響を受けることもわかってきた。(p78)

この時期の脳梁の萎縮は、人格の多重化や不連続性につながるようですが、臨床家のためのDSM-5 虎の巻によると、子どもの場合の多重人格は、はっきりとわかりにくい形で現れることもあります。

児童期発症例においては記憶や集中力や愛着形成の問題、精神状態の重複や干渉といった形で症状があらわれ、明確な人格交代の変化はあらわれにくいと述べている。(p52-53)

一般的に多重人格と言われて想像するのは、映画やドラマでセンセーショナルなイメージでしょうが、それらは商業主義によって誤って形作られたものです。

現実に起こる人格の多重化は、「精神状態の重複や干渉」つまり人格の不連続性や変化のような、もっと目立たない形が多いと言われています。

子ども虐待という第四の発達障害 (学研のヒューマンケアブックス)によると、たとえば、多重人格というほど劇的な変化でなくとも、突然気分が変わったように見える「スイッチング」として症状が現れるかもしれません。

このような多重人格が明確に認められない場合においても、スイッチングと呼ばれる人格モードに切り替わりが認められる被虐待児は多い。

つまり、状況依存的な生理的状態や気分とワンセットになった特有の意識状態の間を、スイッチが切りかわるようにして移動するのである。(p92)

突然キレて怒り出したり、気分の変動が激しかったりするようにも見えるため、誤って双極性障害やADHD(注意欠陥多動性障害)とみなされていることもあります。

こうした人格モードの切り替わりは、犬や猫のような動物になりきる、一人称がころころと変わる、といった様子に現れることもあります。

子どもの場合、解離性同一性障害の特徴は、部分人格が人間とは限らず、しばしば犬人格や猫人格をもつことである。(p89)

Hさんは、「ぼく」「うち」「あたし」と自己の呼称が状況によって変化していた。(p92)

解離性同一性障害と呼べるほど明確に分離しておらず、記憶のつながっている人格モードの切り替わりには、イマジナリーコンパニオン(空想の友だち)という現象もあります。

実在しないはずの友だちのありありとした存在感をありありと感じ、互いに会話したり姿を見たりできるイマジナリーコンパニオンは、幼少期の健康な子どもにも広く見られますが、まれに学童期にも見られるとされています。

学童期のイマジナリーコンパニオンは9-10歳に多いとされていますが、先ほど引用した脳梁にダメージが及ぶ時期と一致しているため、その時期に受ける慢性的なトラウマが引き起こす解離症状の一種とみなせるでしょう。

5.適切な対人関係を結べない「愛着障害」

子どものころに虐待されると、人との適度なコミュニケーションの仕方や、人と接することによる自然な安心感を学ぶことができず、だれにも心を開かなくなったり、逆にだれとでも馴れ馴れしくするようになったりします。

精神科医である久留米大医学部の大江美佐里講師ら専門家によると、幼少期に身内から性虐待に遭うと人格形成が妨害され、対人関係がうまく築けなくなる。

また、愛着が不安定だと、気分の調整が困難になるため、うつ病や躁うつ病(双極性障害)などの重度の気分障害を抱えやすくなります。

子ども虐待という第四の発達障害 (学研のヒューマンケアブックス)によると、性的虐待では、うつ病のリスクが10倍以上に跳ね上がります。

このような状態は、重度の抑うつを伴うことが普通である。特に性的虐待の場合、うつ病の危険率は健常者の数倍から十数倍の高リスクとなることが知られている。(p98)

また愛着障害は注意欠陥多動性障害(ADHD)と見分けがつきにくいことが知られていて、注意力をコントロールするのが難しくなります。

よく似ているADHDと愛着障害の違い―スティーブ・ジョブズはどちらだったのか
アップルの故スティーブ・ジョブズはADHDとも愛着障害とも言われています。両者はよく似ていて見分けがつきにくいとされますが、この記事では(1)社会福祉学の観点(2)臨床の観点(3)

いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳によれば、性的虐待を受けた人は、注意力の持続に著しい困難を抱えていて、ムラが激しいことが明らかにされています。

マクリーン病院のNavaltaらは子ども時代に性的虐待を受けた女子大学生とトラウマが全くない女子大学生を対象に、持続遂行課題を使って“注意力の持続状況”を調べた。

興味深いことに性的虐待群では、対象群に比べて反応を実行する、つまりボタンを押すまでの反応時間の変動が異常に激しく、しかも反応抑制力が劣っていた。

これらの結果は明らかに、性的虐待経験者では注意力や認知力に関する神経心理学的な問題があると考えられる。(p100)

6.「健全な家族像」を思い描けない

愛着障害とも関連する点として、特に親や親族から虐待されると、安心できる家庭というイメージを持つことができなくなります。そのため、結婚したり、子どもを持ったりすることに、強い恐怖や嫌悪感を抱く場合があります。

「家族なんかいらない」。投げやりなアイさんを見て、カズコさんは思う。「せめて安心できる家庭のイメージだけでも抱けるようにしてあげたい」

そのトラウマから「健全な家族像」を描けず、結婚や出産はしないと決めて、40代まで生きてきた。

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法によると、性的虐待を受けた人は、自己否定が強く、見境なく性的関係を持つなど、自己破壊的な行動に走ったり、逆に性的関係に強い恐怖を抱いて異性を避けたりするようになります。

子供のころに虐待された大人は、集中するのに苦労し、絶えず緊張していると不平を言い、自己嫌悪の念に満ちていた。

彼らは親密な人間関係を築いて維持するのが非常に苦手で、見境がなくて危険が大きく不満足な性的関係から、性的活動の完全な停止へと転じることが多かった。

また、記憶に大きな欠落があり、頻繁に自己破壊的行動をとり、多数の医学的問題を抱えていた。これらの症状は自然災害のサバイバーには比較的希だった。(p238)

幼少期から繰り返し、または慢性的にトラウマを被った場合、家族といるだけでも安心できない基本的信頼感の欠落や、人といること自体が不安を引き起こす対人過敏症状が引き起こされるかもしれません、

誰も信じられない、安心できる居場所がない「基本的信頼感」を得られなかった人たち
だれも心から信じられない、傷つくのが怖い、安心できる居場所がない。そうした苦悩の根底にある「基本的信頼感」の欠如とは何か、どう対処できるのか、という点を「母という病」という本を参考
他人が怖い,信頼できない,人といると疲れるなどの理由―解離と対人過敏
人が怖い、だれにも気持ちを打ち明けられない、だれも信じられない…そう感じるのは、子どものころの「安心できる居場所の喪失」が影響しているのかもしれまらせん。「解離の構造」ほか7冊の本

7.はっきり分かる「脳の萎縮」

こうしたさまざまな後遺症は、単なる心の中の葛藤ではなく、脳の萎縮という現実の問題である、ということを示したのが、先ほどのニュースに出ていた友田明美先生らの研究です。

ニュース記事に書かれているとおり、性的虐待は、すでに見た脳梁の萎縮だけでなく、さまざまな部位にダメージをもたらすことがわかっています。

福井大の友田明美教授(小児発達学)を中心とした研究によると、子どものころに性虐待を受けた女子大学生の脳は萎縮し、空間認知などをつかさどる「一次視覚野」の容積が平均して18%小さかった。

特に11歳までに性虐待を受けた人の萎縮の割合がひどかったという。注意力や視覚的な記憶力の低下などが懸念されるという。

友田教授は「残酷な体験のイメージを見ないように脳が適応したためではないか」と分析する。

脳の視覚野が萎縮することは、とくに視覚的なショックが大きい性被害で多い傾向があるようです。視覚野が萎縮すると、たとえ視力は問題がなくても、見たものを覚えられなかったり、顔が記憶できなかったり、ときには部屋の片付けができなかったりという視知覚能力の異常が現れます。

ADHDの「片付けられない」とアスペルガーの「捨てられない」の違い―脳の発達は視覚によって導かれる
「片付けられない」「捨てられない」といった問題は、ADHDやアスペルガーなどの発達障害によく見られます。その原因の根本は、意外にも目の視覚機能にあり、脳の発達は視覚によって導かれる

子ども時代の性暴力をはじめとする虐待は、のちに慢性疲労症候群(CFS)など深刻な病気を発症するリスク要因になるというヘイム博士の研究もあります。

幼少期の虐待経験が慢性疲労症候群の原因に、米大学研究報告 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News はてなブックマーク - 幼少期の虐待経験が慢性疲労症候群の原因に、米大学研究報告 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

幼少期に性的虐待、精神的虐待、ニグレクトなど、トラウマとなるような経験をすると、成人になって慢性疲労症候群になるリスクが6倍高くなる。

米エモリー大学医学部(Emory University School of Medicine)によるこうした研究結果が、5日の医学誌「Archives of General Psychiatry」に発表された。

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法によると、性的虐待の後遺症は極めて多岐にわたり、免疫システムの働きにもトラウマの痕跡が残ることがわかっています。

近親姦サバイバーたちは、トラウマを経験していない対照群と違い、CD45のRAとROの比率に異常が見られるとのことだった。CD45細胞は、免疫系の「記憶細胞」だ。

…過去に近親姦を経験した患者たちは、いつでも襲いかかる準備のできたRA細胞の割合が標準より大きかった。

そのせいで免疫系が脅威に対して過敏になり、必要でないときや、自分の体の細胞を攻撃することになってしまうときにさえも、防衛を開始しがちだ。(p210)

性的虐待や性被害トラウマは、心身に痕跡を残すため、サバイバーたちは、人生の早い時期から、心身のさまざまな異常を抱える傾向があるとされています。それは精神疾患だけでなく、自己免疫疾患のような身体的なものにまで至ります。

結果は明快そのものだった。性的虐待を受けた参加者は、同じ年齢、人種、社会経済的地位の対照群と比べて広範ではなはだしい負の影響を被り、認知障害、うつ病、解離性の症状、性的発育の不順、高い肥満率、自傷行為などが多かった。

彼女たちは対照群よりも高校を中退する率が高く、重病により多くかかり、医療もより多く利用していた。

また、ストレスホルモン応答の異常も示し、早く思春期に入り、一見すると無関係の、さまざまな精神医学的診断を受けていた。(p270-271)

子ども時代に虐待などのトラウマを経験した人が、成長してさまざまな病気になり、多重診断される傾向については、「発達性トラウマ障害」や、「小児期逆境後症候群」という概念が提唱され、近年研究が進んでいます。

発達性トラウマ障害(DTD)の10の特徴―難治性で多重診断される発達障害,睡眠障害,慢性疲労,双極II型などの正体
子ども時代のトラウマは従来の発達障害よりもさらに深刻な影響を生涯にわたってもたらす…。トラウマ研究の世界的権威ヴァン・デア・コーク博士が提唱した「発達性トラウマ障害」(DTD)とい
ACE研究が明らかにした「小児期逆境後症候群」ーなぜ子ども時代の体験が脳の炎症や慢性疾患を引き起こすのか
17000人以上のデータから子ども時代の逆境体験と成人後の体調不良の関連性を導き出した画期的なACE研究の取り組みをもとに、幼少期の経験がわたしたちの一生にわたり、心身の健康にどん

子どもが性犯罪の被害に遭ってしまったときの対処

友田明美先生ら子どものPTSDの専門家たちによる本子どものPTSD 診断と治療の中には、子どもが性犯罪の被害に遭うという悲痛な経験をしてしまったとき、二次被害や後遺症を防止し、傷を癒やすためにできることが書かれていました。(p57-60)

性被害は、他の暴力と違って、特に見えない部分に傷跡を残すので、身近な保護者ですら、その重大さに気づけないことがあります。

性犯罪被害は身体外傷がなければ、外から見ただけでは被害に遭ったことがわからない。

また多くは人に気付かれない場所で行われるため、子どもから打ち明けない限り、周囲の大人は被害に気づかない。

しかし子どもたちは、往々にして被害の事実を隠すことがある。

そのため、常日頃から子どもが相談しやすい関係を築くことと、子どもが被害を打ち明けた際に、それを真剣に受け止め適切に対応することが不可欠である。(p57)

どのように対処すればいいのでしょうか。

打ち明けた勇気を褒め、安心させる

子どもは性犯罪被害を打ち明けるとき、自分のせいではないか、叱られるのではないか、恥ずかしいといったさまざまな葛藤を抱える中、勇気をもって大人に話すよう踏み切っています。誰にも言わないよう脅されていることもあります。

決して頭ごなしに否定したり、疑ったりするのではなく、「よく話してくれた、ありがとう」とねぎらい、打ち明けたのは正しいことで、ちゃんと守ってあげるから大丈夫、ということを伝える必要があります。

しかし、性被害では、セカンドレイプとも呼ばれる二次被害が、子どもにとって耐え難い苦痛になりかねません。

二次被害を与えるのは、本来子どもを守るべき保護者や学校の教師などであることが多く、以下のような言葉で子どもを追いつめがちです。

■子どもの話を信じない
「あの人がそんなことをするわけないでしょ」
「二度とそんなばかげたことを言わないで」

■子どもの行動を責める
「なんでそんな道を1人で歩いていた」
「そんな服装をしているから」
「異性と二人きりになるからこうなる」

■なかったことにしようとする
「早く忘れなさい」
「このことは誰にも言ってはいけない」
「早く元気になって」

■意欲低下や昼夜逆転などのトラウマ反応の兆候を理解せず怠けだとみなす
「がんばれ」
「なまけるな」

子どものトラウマ・セラピー―自信・喜び・回復力を育むためのガイドブックにも次のような例が書かれていました。

元ミス・アメリカのマリリン・ダーバーは、「子どもにとって言うことが果たして安全なのか?」とその著書の中で投げかけ、それは「大人が安全な雰囲気を作ったときだけ」としています。

そして、最初に被害を受けた平均年齢が5歳から6歳で18歳以前にそのことを大人に言ったとき、次のような否定的な反応を受けたことを明らかにしています。(ある人は複数の反応を受けています)

●(子どもが)怒られた(42%)
●非難を受けた(49%)
●打ち明かしたのに無視された(50%)
●ヒステリーを起こされた(30%)

これらは信じられない結果かもしれませんが、子どもは絶対に言わないことが常なのです。学校カウンセラーとして現場にいると、本当に多くの子どもたちが、秘密を誰にも打ち明けたことがなかったといいます。

子どもは特に、非難と罰を恐れています。私が聞いたよくある反応は、「もしママが知ったら、私は殺される!」「ママ/パパは私をうそつきと呼ぶんだ」「どっちにしろママは彼を困らせたくないから何もしないと思う」「パパは全部私が悪いと言うと思う」などです。(p198-199)

子どもの話が、一見信じがたい作り話に思えるような場合でも、否定せず、注意深く耳を傾けるべき理由について、子どものPTSD 診断と治療の中で、千葉大学の子どものこころの発達研究センターの高岡昂太先生は、2つの点を挙げています。

まず、子どもが加害者として尊敬されている人や身近な親族の名を挙げるとしても、それは意外なことではありません。

性虐待の加害者像し被害者像に関する研究によると、性別・年齢・社会経済的状態・地位に絶対といえる傾向はなく、たいていの場合は顔見知り同士だといわれる。

すなわち、男性であろうと女性であろうと、若かろうと年寄りであろうと、どんなに権威があろうとなかろうと、経済的に裕福であろうと貧乏であろうと、性虐待は起こりうるのである。(p185)

現に、ヨーロッパでスキャンダルになったキリスト教の教会指導者たちによる児童の性的虐待は、そんなことをするとは思えない立派な人でも性犯罪に手を出すことを雄弁に証ししています。ヨーロッパだけが特殊なわけではなく、わたしたちの身近な場所でも同様なのです。

また、子どもが性被害について語るとき、それを事実として受け入れるべきなのは、そもそも子どもには嘘をつく理由がないことです。

子どもが性虐待について間違った報告をするのはたった3~5%のみといわれている。

すなわち、われわれは、子どもから性虐待を疑わせる開示があった場合、すぐに通告、そして多機関と連携して早急に調査・捜査に取りかかる必要がある。(p135)

子どもは性的な知識がない以上、性被害について作り話をしてだれかの気を引こうとしたりする、とみなすのは道理に合いません。年端もいかない子どもが、ありえないような性被害について話すのは、それが本当にあったからにほかならないのです。

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法によると、アメリカの精神科医ローランド・サミットは、1983年に性的虐待の先駆的な論文を発表したとき、すでに子どもたちが直面する周囲の無理解がもたらす悲劇に注目していました。

ローランド・サミットは、彼の古典的論文「児童性的虐待順応症候群」にこう書いている。

「イニシエーション、脅迫、汚名、孤立、無力感、自己非難は、児童の性的虐待の恐ろしい現実に基づいている。

子供がその秘密を漏らそうとすれば必ず、大人たちの沈黙と不信の共謀に出くわす。

『そんなことは、心配しなくていいよ。うちでは絶対起こるはずがないから』

『いったいどうやったらそんな恐ろしいことを考えつくんだろうね』

『二度とそんなことは口にするんじゃありません!』

普通の子供は、けっして尋ねたり語ったりしない」(p218)

子どもが性被害について打ち明けたとき、それを大人の常識の観点から受け止めないことは大切です。

性についての知識をすでに持っている大人から見れば、まるで悪い冗談を言っているかのように思えるかもしれませんが、それを語っているのは、そうした知識をまだ持っていないはずの子どもなのです。

年齢的にまだ知っているはずのないことを子どもが知っているとしたら、現実にそれを体験したからにほかなりません。

子どもが性被害について打ち明けたなら、まずは恐怖に共感し、子どもの気持ちに耳を傾けることが不可欠です。

そして、優しく手当てし、学校や警察と連携するなど、目に見える具体的な行動をとることで、「あなたを守る」というメッセージを伝え、安心感を強める必要があります。

子どものトラウマ・セラピー―自信・喜び・回復力を育むためのガイドブックによれば、被害に遭ったとき、親に打ち明けることができるか、さらには親が真摯に受け止めるかどうかは、その後のトラウマ症状の進行の程度を左右するほど大切な要素であることがわかっています。

あなたが安全な雰囲気を家庭の中に作れば、それは子どもたちにとって大きな恩恵になるのです。ほかにも有益な調査があります。

「被害に遭ってから、直ちにまたはすぐあとに知らせて、それが信じられて助けを受けた人たちは比較的長期的なトラウマ症状を持たなかったのに対して、(恐れと恥から)言わずに、もしくは言って否定されたり、批難されたり、信用されなかったり、またはばかにされた人は、非常にひどいトラウマの症状に苦しむ結果となった」。(p198-199)

これはつまり、常日頃からの親子の信頼関係が、いざというときにものを言う、ということです。普段からオープンに何でも話し合える親子関係であったり、あらかじめ性被害を受けたときのための訓練をしたりしていれば、子どもは親を頼ることができ、重篤なトラウマを抱えずにすみます。

逆に、こちらの映画でも示されているように、被害を受けた直後の周りの対応が冷たく突き放すものであればあるほど、その後の様々な苦痛へと連鎖していきます。

性犯罪被害者のトラウマを赤裸々に描き出す『私は絶対許さない』 | シネマズ by 松竹

元旦に全身傷だらけで帰宅した葉子を待ち受けていたのは、冷たく突き放す家族と親戚の姿、そして学校でのイジメ。

彼女は男たちに報復することを決意し、援助交際で金を稼いで、高校を卒業するとともに上京。

…トラウマとはPTSDの症状で苦しんだり多重人格になったり…ということだけではなく、もっとも重要なのは生きているうえでの時間の連続性が断ち切られ、価値観やパーソナリティの変容を起こすこと。

そうした自我の変化を雪村さんの手記を通じて赤裸々に描いています。

性被害のトラウマ症状の大部分は、実際の一過性の性被害の後遺症そのものというより、長期間にわたって、否定されたり、恥をひとりで抱えこまねばならなかったりすることで引き起こされる、二次的な解離症状だといえます。

トラウマにおける解離症状とは、だれにも頼れず、どこにも助けを求められないときに、心を切り離すことで対処する最終手段なので、だれか相談できる人がいるだけでも、解離の症状は軽くなるのです。

性的虐待の被害に遭った子どもが感じる孤独や解離症状についてはこちらの記事でも扱いました。

なぜ子ども虐待のサバイバーは世界でひとりぼっちに感じるのか―言語も文化も異なる異邦人として考える
子ども虐待のサバイバーたちが、だれからも理解されず、「人類から切り離されて、宇宙でひとりぼっちのように感じる」理由について、異文化のもとで育った異邦人として捉える観点から考察します
なぜ耐えがたい恥は人を生ける屍にしてしまうのか―「公開羞恥刑」と解離の深いつながり
公衆の面前で恥をかかせるという刑罰「公開羞恥刑」。現代のいじめやSNSの炎上、子ども虐待などが、いかに公開羞恥刑のようにして人を辱め、その結果、被害者の心を殺害し、解離させてしまう

トラウマ反応を見逃さず治療する

子どもはトラウマ反応を大人とは違った仕方で表現することがあります。「胸がどんどんする」「のどがつまる」「ぼんやりする」といった言い方をすることもあれば、フラッシュバックのようにどう伝えてよいかわからない体験もあります。

見た目には元気そうにしているようでも、思わぬ心身の不調を見逃さないよう、しっかりトラウマ反応を聞き取り、「あなたが弱いわけでも変になったわけでもない」と伝えます。そしてリラックスするための呼吸法や安心できる場所のイメージの強化を行います。

 子どものPTSD 診断と治療によれぱ、トラウマ反応は、知識がないとわかりにくいことも多いので、専門家の指導のもと、正確に見極めることが大切です。

多くの保護者はPTSD症状をよく理解していないため、事故後、子どもが典型的な症状を呈しているにもかかわらず、専門家に相談していないことが多い。

保護者はトラウマ反応を軽く見積もったり、問題行動ととらえたりする傾向があるため、評価者は必要に応じて一般的な症状についての心理教育を入れながらアセスメントを行う必要がある。(p49)

性犯罪の被害後の子どもに現れるトラウマ反応には、以下のようなものがあります。(p55)

身体症状…食欲不振、息苦しさ、動悸、手足の震え、発汗、発熱、腹痛・頭痛、だるさ、慢性疲労、慢性疼痛
心理的症状…情緒不安定、おびえた様子、落ち込み、ハイテンション、自責感、人への恐怖、不信感
PTSD症状…フラッシュバック、悪夢、トリガーとなる体験をきっかけに生じる心身の症状、睡眠障害・イライラ・過剰な警戒や過敏性
解離症状…恐怖からくる回避行動・感情の麻痺、身体の凍りつき、ぎこちなさ、立ちすくみ、ぼんやりする、目の焦点が合わない、集中できないなど
行動面の反応…登校・登園しぶり、友だちとのトラブルの増加、意欲の減退、指しゃぶりや1人で眠れないといった子どもがえり、リストカットや抜毛などの自傷行為、自慰や性非行といった性的活動の増加や低下

このようなトラウマ反応が強い場合、EMDRやソマティック・エクスペリエンスなど、トラウマに対する専門的治療を受けるようにします。

EMDRはどうやってトラウマ記憶を再処理するのかーレム睡眠を利用した負担の少ない治療法
EMDEの開発者フランシーン・シャピロによる「過去をきちんと過去にする」などから、レム睡眠の記憶の再処理システムとトラウマ記憶の関係を考えてみました
ソマティック・エクスペリエンス(SE)を知る10ステップ―「凍りつき」を溶かすトラウマセラピー
近年注目されているトラウマの治療法「ソマティック・エクスペリエンシング」(SE)についてまとめました。

保護者への心理教育やサポート

子どもの性被害は保護者自身にとってもショッキングな経験です。被害後の子どもに現れやすい性的に逸脱した行動を目にして、強く動揺したり、子どもへの怒りが現れることもあります。

そうした場合、保護者である親にも、心のケアや、トラウマについての正しい知識が必要です。

専門家は、怒りによって家庭が分裂したりストレスが昂じたりするのを防ぎ、父親と母親が子どものためしっかり連携するよう助けてくれます。

保護者は、性犯罪被害に対応するための司法手続き、支援団体、法テラスといった制度の利用方法についても教わる必要があります。

性犯罪被害は、刑事手続きにおける子どもの負担が極めて大きいという問題があります。子どもに前もって手続きを解説する、刑事手続きに付き添うなどの支援が必要です。

また刑事手続きを進める前に、子どもとよく話し合い、しっかりと意向を確認し、子どもが自分の意志を尊重された、と思えるように事を進めなければなりません。

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法が、子どものトラウマ経験について述べている次の言葉を覚えておくのは大切です。

幼い子供は惨事のとき、たいてい親を手本とする。子供たちは、養育者が冷静さを保ち、彼らの欲求に応じ続けてくれるかぎり、深刻な心理的傷を負うことなく、恐ろしい出来事を生き延びる場合が多い。(p90)

人生を台無しにし破壊する「魂の殺害」

性暴力・性虐待は、いつ生じるとしても非常に破壊的なものですが、特に、子どものころに生じた場合、その人のその後の人生全体に破壊的な影響を及ぼすものです。

ここで挙げたPTSD、愛着障害、解離性同一性障害といった障害は、どれも、健全な生活や人間関係を台無しにするほど、人間を根底から変えてしまう「魂の殺害」に等しいものです。

トラウマ治療の専門家、ベッセル・ヴァン・デア・コークは身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法でこう述べています。

私たちは自分が何者かを知るため―自己同一性を保つため―には、何が「現実」か、何が「現実」だったかを知る(あるいは、少なくとも知っていると感じる)必要がある。

自分の周りで目に入るものを観察し、それに正しいレッテルを貼らなければならない。また自分の記憶を信頼でき、空想と区別できなくてはならない。

そのような区別をする能力を失うのは、精神分析医のウィリアム・ニーダーランドが「魂の殺害」と呼ぶものの一つの表れだ。

自覚を消し去り、否認を強めるのは、生存に不可欠だからこそ行われることも多いが、その代償として、人は自分が何者かや、自分が何を感じているか、何や誰を信頼できるかがわからなくなる。(p223)

性被害とその後の二次的苦痛がもたらす後遺症は、自分が何者であるかという自己同一性さえ打ち砕き、日常生活、友人関係、家庭生活、仕事など、あらゆる分野で問題を生じさせ、人生そのものを狂わせてしまいます。

しかも、これらには有効な治療法はとても少なく、薬物治療では興奮性は抑えられても、根底の問題となっている愛着や解離を治療することはできません。

トラウマ治療には、EMDRや、自我状態療法、ソマティック・エクスペリエンスなど、さまざまなセラピーや訓練が必要であり、回復には年単位の時間を必要とします。完全には回復せず、生涯、悩まされることも少なくありません。

こうした非道な犯罪行為を防ぐ方法が周知されるとともに、今苦しんでいる人たちに対する効果的な治療法の研究が進むことを心から願っています。

トラウマを対象とした治療法についてはこちらの記事で扱っています。

EMDRはどうやってトラウマ記憶を再処理するのかーレム睡眠を利用した負担の少ない治療法
EMDEの開発者フランシーン・シャピロによる「過去をきちんと過去にする」などから、レム睡眠の記憶の再処理システムとトラウマ記憶の関係を考えてみました
原因不明の身体症状に苦しむ人のための「記憶」の科学の10の考察
全身に散らばる原因不明の身体症状の謎を、記憶の科学から読み解きます

また、今回紹介した西日本新聞の記事には、司法制度に関することなど、このまとめに取り上げていないさまざまな情報も書かれているので、ぜひ直接お読みください。

また虐待の後遺症としての脳の変化や、さまざまな治療法については、友田明美先生が、こちらの著書で解説しておられます。

だれも知らなかった「いやされない傷 児童虐待と傷ついていく脳」(2011年新版)
子どもの虐待は、近年注目を浴びるようになって来ました。しかし、虐待が脳という“器質”にいやされない傷を残すことを知っている人はどれだけいるでしょうか。友田明美先生の著書「いやされな
スポンサーリンク

スポンサーリンク
PTSD / 愛着 / 解離