原因不明で診断がつかない難病を特定できる遺伝子解析プロジェクト「未診断疾患イニシアチブ」(IRUD)とは?


ても辛い多彩な症状に苦しめられるのに、従来の医学的検査で診断がつかず、「気のせい」「心の問題」「原因不明」などと言われてしまう。

このブログで扱っている慢性疲労症候群(CFS)などの病気の患者は、そうした理不尽な経験をしやすいものです。

しかし、そうした従来の医学検査では異常が見つからず、診断がつかない患者の病気を、網羅的な遺伝子解析によって特定しようとする試みが、慶応義塾大学医学部 臨床遺伝学センターによって、昨年開始されたそうです。

そのプロジェクトの名前は「未診断疾患イニシアチブ」IRUD(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases)と呼ばれています。 IRUDは「アイラッド」と読むようです。

わたしも、これまでこの取り組みの存在を知らなかったのですが、今日の毎日新聞のニュースで、驚くべき成果が報道されていたので関心を持ちました。

それによると、幼いころから発達の遅れや低血糖、便秘など多くの症状に苦しめられてきた男性が、IRUDにより、デサント−シナウイ症候群という、世界で8人しか見つかっていない希少疾患だと特定できたとのことでした。

クローズアップ2016:原因不明の病、特定に道筋 - 毎日新聞 はてなブックマーク - クローズアップ2016:原因不明の病、特定に道筋 - 毎日新聞 

診断つかない疾患 原因遺伝子特定へ16機関タッグ  :日本経済新聞

診断つかない病気の専門外来を新設 慶應大病院│NHKニュース (インターネット・アーカイブによる履歴)

病名判明、「安心」の声、拠点の慶応大病院 子どもの原因不明の病気で遺伝子解析│朝日新聞 (インターネット・・アーカイブによる履歴)

IRUDとは具体的にいって、どのような取り組みで、どのような成果を挙げているのでしょうか。過去の関連ニュースの内容をまとめてみました。

また、このブログの視点として、しばしば原因不明の症状を持つ患者が行きつく、慢性疲労症候群(CFS)という診断名の役割と問題点を指摘したいと思います。

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「未診断疾患イニシアチブ」(IRUD)とは

IRUDは、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 (AMED) により主導され、全国25病院が参加している大規模なプロジェクトです。

昨2015年7月に、特に子どものころに発症した未診断疾患を対象とした遺伝子解析プロジェクトとして始まりました。

2016年現在、子ども・大人それぞれの未診断患者に対して遺伝子解析による診断を提供できることを目標に、プロジェクトが継続されています。

未診断疾患イニシアチブ | 慶應義塾大学医学部 臨床遺伝学センター はてなブックマーク - 未診断疾患イニシアチブ | 慶應義塾大学医学部 臨床遺伝学センター

いわゆる人体の設計図ともいわれるDNAの配列(遺伝子とも呼びます)を、最先端の分析機器を使って幅広く調べることで、従来の医学的検査で診断のついていない患者さんの診断の手がかりにが得られることがあります。

…日本全国の診断がつかずに悩んでいる患者さん(未診断疾患患者)に対して、遺伝子を幅広く調べ、その結果を症状と照らし合わせることで、患者さんの少ない難病や、これまでに知られていない新しい疾患を診断しようとしています。

難病の原因究明に役立つ遺伝子診断 -臨床遺伝学センター-|慶應義塾大学病院 KOMPAS

IRUD(未診断疾患イニシアチブ)事業 | 横浜市立大学附属病院 はてなブックマーク - IRUD(未診断疾患イニシアチブ)事業 | 横浜市立大学附属病院

現在のところ、診断不明の小児期発症の重い障害を持つ患者がいた場合、全国の医療機関から、IRUDへ情報提供がなされ、必要に応じて助言や紹介依頼を通じて、慶応義塾大学病院を受診するという流れのようです。

既知の疾患なのか、それとも新規疾患なのか、臨床遺伝専門医のチームによって調査され、原因遺伝子検査や、場合によっては全ゲノム解析なども用いて診断が下されます。

その結果、正確な診断による適切な治療や予防につなげられるとされています。

昨年7月に始まって以来、今年3月末までに子どもの時に発症した782人分の遺伝子を解読し、そのうち30%で病名を突き止め、新しい病気も7つ発見できました。

30%というと少なく感じるかもしれませんが、どれほど医療機関をまわっても原因不明だった患者の3割と考えると、相当優秀ではないかと思います。

同様の取り組みは、海外でも、米国立保健研究所(NIH)が2008年から、英国が2011年からプロジェクトを開始していますが、やはり約3割の患者で原因がわかっているそうです。

極めてまれな希少疾患も特定

今回の毎日新聞のニュースでは、冒頭で紹介したように、原因もわからずに苦しんでいた男性が、極めてまれな遺伝子疾患であることが特定されました。

現在22歳のその男性は、子どものころから多彩な症状に悩まされていて、幾度も検査を受けましたが原因はわからず、両親の心労も相当のものでした。

しかし昨年IRUDのプロジェクトを知って、男性本人と、両親の遺伝子を解析したところ、遺伝子の一部が欠損していることが判明したといいます。

文献と照合することで、「デサント−シナウイ症候群」という、日本人としては初めて、世界では8人しか見つかっていない希少疾患だと判明したのでした。

それまで母親は、自分のせいではないかと悩んでいましたが、遺伝子の変異であることがわかり、苦悩から解放されたそうです。

そのほか、約30年間、原因不明だった福岡の40代の患者が、アジアでは報告がない極めてまれな希少疾患と判明したケースもあるそうです。

またIRUPによって、極めてまれな「ロイス・ディーツ症候群」だとわかり、突然死する危険を未然に予防できた女の子もいるといいます。

東京の19歳の男性は長年けいれん発作などで苦しんできましたが、7年前に報告された100万人に1人ほどの神経の病気「クリスチャンソン症候群」であると判明しました。

ある2人の診断不明の子どもの場合は、ともに遺伝子CDC42に変異があるとわかり、「武内・小崎症候群」という新たな病気として報告されたそうです。

その名前の由来となった、IRUDの小崎健次郎教授は、こう語っています。

病気が分かれば、経過を予想して起こりうる合併症にも対処する道が開ける。長年、何の病気なのか悩み苦しんできた患者と家族の精神的な負担軽減にもつながるはず

 そのほか、臨床遺伝学センターでは、iPS細胞を使った医療について情報提供する「iPSコンサルテーション外来」も開設し、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症など、いくつかの病気の患者を対象に、国内外の研究の進展を説明する取り組みも行っているようです。

iPSコンサルテーション外来 | 慶應義塾大学医学部 臨床遺伝学センター はてなブックマーク - iPSコンサルテーション外来 | 慶應義塾大学医学部 臨床遺伝学センター

また、こちらの記事でも、子どもの難病の診断の難しさが取り上げられていました。

難病に苦しむ子どもを救う難しさは「病名の特定」にある | ライフハッカー[日本版] はてなブックマーク - 難病に苦しむ子どもを救う難しさは「病名の特定」にある | ライフハッカー[日本版]

この記事では、難病を特定するには、幾度も問診や検査を繰り返し、数多くの医療文献をあたり、DNAなどの遺伝情報も調べる必要があり、それでも正確な病名の特定に結びつかないことがあると書かれています。

事実、国内外の未診断疾患イニシアチブの取り組みでも、成果は上げているとはいえ、半数以上の患者は病名特定に至りませんでした。

そうした状況を打開するため、この記事によると、ボストン小児病院で、大量の医療文献や過去の診療データなどをすべて記憶した人工知能が医師の診断をサポートする取り組みが始まっていると紹介されています。

今回取り上げたDNAの網羅解析をはじめ、このようなコンピューターによる医療情報の整理、医師のサポートなどの技術が進歩すれば、難病を取り巻く現状も、次第に様変わりしていくかもしれません。

あなたの病名は本当に正しい病名ですか?

ところで、希少疾患は8000以上存在すると言われています。

希少疾患は特定が難しいので、診断がつかないか、誤って他の病気とみなされて不適切な治療を受けている人が少なくないと思われます。

このブログでは、慢性疲労症候群(CFS)などの病気を扱っていますが、わたしが常々感じていることとして、同じ診断名でも、おそらくかなり多数の別の原因からくる違う病気の人が含まれているように思えます。

ここでは一例として慢性疲労症候群について考えますが、この病気は、近年、客観的な診断補助検査が導入されつつあるものの、基本的には、専門医が症状をチェックし、他の病気を除外して診断する病気です。これは「操作的診断」と呼ばれます。

つまり、たとえ「慢性疲労症候群」と医師から確定診断されたとしても、それは、現在の診断基準に基づき、似ている主な病気を除外しただけであり、除外対象に含まれてはいない疾患はもちろん、8000もの希少疾患の可能性はまったく考慮されていない、ということです。

そもそも医師は、そのような可能性すべてを考慮できる知識も手段ももっていませんし、学会や論文などでよく比較される病気はともかく、それ以外の似た症状を示す病気については、ほとんど知らないこともあります。

解離新時代―脳科学,愛着,精神分析との融合の中で、以前の解離性障害の診断基準において、明確な特徴がない場合に診断される「特定不能の解離性障害」というカテゴリに多くの患者が集まってしまい、「ゴミ箱満杯問題」が生じていた、と書かれていました。(p116)

言葉は悪いですが、症状としてはある程度ありふれてはいるものの、最終的に他の病気と特定できないことによる除外診断によって病名がつけられた場合、本来は違う疾患であるのに、一箇所にまとめてしまうような「ゴミ箱」現象が生じかねません。

慢性疲労症候群(CFS)の研究があまり進展しない理由の一つとして、単一の病気ではなく、複数の異なる病気の患者が含まれている可能性もかねてから指摘されています。

近年では、慢性疲労症候群に代わり、米国医学研究所(IOM)が、全身性労作不耐疾患(SEID)という概念を提案しましたが、それについても、慢性疲労症候群の専門医である、倉恒弘彦先生は教育と医学 2016年 6月号 [雑誌]の中でこう述べていました。

診断基準をこのようにシンプルにまとめることで、多様な病態がSEIDに含まれてしまい、病気の本体が見えにくくなるリスクも指摘されています。(p71)

もちろん、他の場所で診断名がつかない患者が、確かに病気であると認められ、受け入れられる場所は必要です。

以前に倉恒先生がメディカル朝日 2012年11月の中でこう述べていたとおりです。

さらに、長らく原因不明の疲労で苦しんでいた患者がようやくCFSという病名にたどり着いた場合も多い。

そのような患者がME診断基準を満たさない場合は再び病名を失うことになり、診療現場での混乱が予想される。(p43)

ここでは、より広い緩やかな診断基準を持つCFSと、より厳密な脳の炎症を重視するME(筋痛性脳脊髄炎)とが比較されています。

この場合、より多くの患者が病名を得られる慢性疲労症候群(CFS)という診断名は、悪く言えばゴミ箱的ですが、良く言えば受け皿としての救済を担っています。

しかし倉恒先生が続けて述べるとおり、CFSという診断名を終着点として考えるのは、望ましくないかもしれません。

なお、抑うつ症状などがなく、MEとしての客観的な診断根拠がみつかった患者についてはCFSという病名から卒業してもらうことは問題ない。

今後、少しでも早く保険診療の中で病因に基づいた診断根拠を明らかにして、病名を変更していくことが望まれる。(p43)

ここで倉恒先生が述べるとおり、慢性疲労症候群という病名は、客観的な診断根拠が見つかれば、「卒業」すべきものなのです。

慢性疲労症候群はあくまでも、その名の通り症状に基づいた診断名です。だからこそ、いつかはMEであれ、他の病名であれ、「病因に基づいた」正確な診断へと、「病名を変更」していくことが望ましいとされています。

ある意味で、慢性疲労症候群という病名は「確定診断」ではなく、本当の病因が見つかるまで社会福祉的な支えを得るための「暫定診断」としての病名だと考える視点が必要かもしれません。

自分の病名以外にも目を向ける必要があるのはなぜか?

慢性疲労症候群という病名は、確かにこれまで診断が得られなかった患者を救済する重要な役割を果たしています。

しかし、あくまで一時的な受け皿なので、その先にある病因に基づいた病名を意識して初めて有効に機能します。同じ「慢性疲労症候群」でも、おそらく病因はさまざまです。

わたしがしばしば危惧しているのは、原因不明の症状で医療機関を転々としてきた患者が、「慢性疲労症候群」(CFS)と確定診断されたことで、自分は「慢性疲労症候群」という単一の病気なのだ、と思い込み、他の可能性を探さなくなってしまうことです。

実際には、「慢性疲労症候群」と診断されたとしても、先ほどの8000の希少疾患のように、すでに知られている別の病気である可能性は大いに存在しているわけですが、なまじ「慢性疲労症候群」という名前がついたことにより、「慢性疲労症候群」の情報だけに目を向けるようになり、別の病気の情報には疎くなってしまうことがあるかもしれません。

実際、わたしはこのブログで、慢性疲労症候群だけでなく、似た病気や、関連するさまざまな概念を扱っています。

睡眠時無呼吸症候群やnon-24などの睡眠障害、アスペルガーやADHDなどの発達障害、愛着トラウマによる発達性トラウマ障害、副腎疲労や低血糖症などの栄養問題、脳脊髄液減少症による髄液漏れなど、実にさまざまな原因で、慢性疲労症候群と似た症状が生じ得ます。

しかし、友人も含め、すでに「慢性疲労症候群」と診断されている人の中には、他の病気の情報に興味を持たない人が少なくないように感じています。(そのような人は今書いている この記事も読もうと思わないかもしれませんが…)

そうすると、本当は違う病気であり、治療法が適切でないために治っていないだけなのに、自分は「慢性疲労症候群」という医学的に未解明の難病だから治らないのだと思い込み、いつまでも病気から抜け出せなくなってしまう危険があります。

そうでなくても、たとえば慢性疲労症候群の患者が、線維筋痛症や脳脊髄液減少症、発達障害といった関連する病気の対処法から学べることは多いものです。それなのに自分の病名の情報だけにしか関心を持たないとしたら、新鮮な視点を失ってしまいます。

病名とはいわば住所のようなものです。本来はひとつながりの広い土地を、人間が勝手に、ここは何々市、ここからは何々町と区切ったのが住所です。

当然、住所が違っていても隣町では同じような植物や生き物が見られるでしょうし、遠く離れた無関係に思える町で同じ動植物が見つかり、実は環境が似ているのだとわかることもあります。

同じように、病名というのは研究者が勝手に決めたものであり、もともと人間の示す症状は、そうそう明確に区分できるものではありません。すべて本来はひとつながりの人体の中の出来事です。

病名が違っても、隣り合う関連疾患はもちろん、あるいはまったく無関係に思える病気でさえ、症状の一部、さらにはメカニズムの一部が共通していることは決してまれではありません。

さらに言うと、ある病気であれば、他の病気ではない、というわけではなく、たとえ「慢性疲労症候群」と診断されていても、実際にはいくつかの病気の複合として症状が現れている場合もあります。

すべての症状が一つの診断名のもとに生じている、と考えてしまうと、本当は他の病気として治療できる症状が含まれていても見過ごしてしまい、少しでも生活の質を改善する機会があるのに、それをむさむざ逃してしまうことになりかねません。

当事者ができるのは広い視野を持つこと

専門医はたいてい、自分の専門分野の病気を「狭く深く」調査し、海外の最新の論文なども読み込んでいるものです。そうすることで、深い専門知識を得られます。それはわたしたち患者にとって大いに役立ちます。

それに対して、患者ができることがあるとすれば、自分の病気以外の分野にも「広く浅く」目を向けることです。そうすれば、「狭く深く」に特化している専門医が気づかない視点を補うことができます。

実のところ、専門医は意外なほど自分の専門分野の外のことを知らないので、その部分に盲点が存在することがあります。

しかし自分の病名にこだわるあまり、他の病気には関心を持たない「狭い」視点になってしまうと、「狭い」という点では専門医と同じですが、専門医ほど「深く」調べることは絶対にできないので、「狭く浅い」視点になってしまいます。

それでは、専門医が示す病名や治療法以外の別の可能性を探るのは不可能でしょう。

患者に必要なのは、自分の病気の最新の国内外の研究を調べて、専門医の後追いをすることではありません。それは専門医から教えてもらえばいいだけです。そのために専門医がいるのです。

それよりも必要なのは、専門医が見逃している、別の分野の過去の研究に目を向けることです。求めている答えは、まだ見ぬ未来の「未解明の研究」ではなく、過去の「無関係の研究」に埋もれている可能性が十分にあります。

それは研究者ではなく、当事者にしかできないことです。

研究者は、ある病気を専門としているので、同じ病名のサンプルを集めて研究しますが、自分がその病気になったわけではないので、あくまで病名というラベルをたよりに客観的に調査していくことしかできません。

しかし患者は自分の体の専門家であり、症状を身を持って体感することができます。そうすると、病名に頼らずとも、現実の症状を手がかりにして、過去の研究による情報を結び合わせることができます。

実際に、医師が長年調査しても決してわからなかったことが、近年の「当事者研究」によって明らかになっています。それが可能なのは、病名を手がかりに「狭く深く」調べる専門家と、個人的経験を手がかりに「広く浅く」調べる当事者との間に、視点の違いが生じているからです。

現代社会では、さまざまな分野の研究が玉石混交しているため、まだまったく明らかになっていない未知の情報よりも、すでに明らかになっているのに関係性に気づかれていない既知の情報のほうがはるかに多いでしょう。

本当の病名を知るメリットとは?

ここでは、慢性疲労症候群(CFS)を例として挙げましたが、他の病気、たとえばうつ病であれ、双極性障害、起立性調節障害、化学物質過敏症、発達障害、その他の多くの病名でも同様です。

これらの病気は、おもに症状と診断基準を突き合わせ、医師の主観的判断によって診断される病気、つまり「操作的診断基準」に基づく病名なので、一見それらしく思えても、別の病気である、という可能性は除ききれないのです。

一方で、操作的診断でない、具体的な検査によって見つかる特徴(「バイオマーカー」と呼ばれる)に基づいて診断される病気だとしても、その特徴が他の病気でも絶対に見られないと、厳密に確かめられたわけではありません。

たとえば起立性調節障害は、起立性低血圧や頻脈症状を調べる検査によって診断されますが、そのような症状は慢性疲労症候群を含め、自律神経系が乱れる他の病気でも見られます。

つまり、何らかの病名で確定診断されたとしても、治療によって全然良くならないとしたら、難治性だから治療に反応しない、という可能性だけでなく、そもそも実は別の病気だから治療が効かない、という可能性も考えてみる必要があるということです。

実際には、遺伝子検査でしかわからないような極めてまれな希少疾患の可能性もあれば、わりと広く知られているのに見逃されている他の病気である可能性もあるでしょう。

もちろん、今回紹介しているIRUDのような取り組みによって、本当の病名がわかったとしても、治療法が見つかるとは限りません。希少疾患は、治療法が見つかっていないことも多いからです。

しかし、本当の病名がわかれば、自分の症状についてより正確に理解できるので、対策を取りやすくなりますし、本当の意味で、同じ病気を持つ人たちと出会うこともできます。

たとえば私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活の樋口直美さんは、当初うつ病と診断されていましたが、徹底的に調査して本当の病名を探し当て、今まではレビー小体型認知症の啓発や当事者研究に大いに貢献されています。

同じ病名でありながら実は毛色の異なる、種類も異なる人が大勢集まっている場所ではなく、少数ではあっても、自分とまったく同じ症状を抱え、悩んできた人たちと手を取り合うことができるかもしれません。

そして、そのようにして、本当の病名でつながった人が増えていけば、本当に効果のある治療法の開発にもつながるでしょう。

今回の毎日新聞の記事でも、国立成育医療研究センター研究所の松原洋一所長(こどもの病気 遺伝について聞かれたらの著者)が次のように述べていました。

「希少疾患の研究は『福祉事業』で、糖尿病など発生頻度が高い病気には役に立たないというとらえ方はすでに時代遅れだ」。

「希少疾患の研究が進めば、これまで発想できなかった新しい治療薬の開発につながる可能性が大きい。日本はその流れに乗り遅れており、国は企業の育成や体制作りを急ぐべきだ」

例として、ごくまれな先天性の代謝異常で起こる「ゴーシェ病」の研究が、他の病気に応用できたケースが挙げられています。

多種多様な病因で似た症状を呈している人が一つの診断名のもとに集まってしまうと、慢性疲労症候群のように研究が進みにくくなりますが、少数でも、希少疾患が特定された患者だけが集まっていれば、原因遺伝子の特定や、治療法の開発がスムーズになるはずです。

従来、患者数の少ない希少疾患は、利益にならないために研究も進みにくい事情がありましたが、現在では、希少疾患の研究から他の病気に応用できる薬が開発できることがわかり、徐々に大手製薬会社も力を入れているとのことです。

今回取り上げたIRUPのような取り組みは、日本ではまだ始まったばかりですが、こうした網羅的な解析を通して、本当の病名が特定され、おのおのの治療法の研究が進んでほしいと思います。

現在のところ、小児期発症の症状が特に重い未診断疾患の患者を対象にしているようなので、子どものころから原因不明の重い体調不良が存在している人は、かかりつけ医にIRUPのことを相談してみると良いかもしれません。

プロジェクトの拠点は東京ですが、医療関係の方へ | 慶應義塾大学医学部 臨床遺伝学センター を見ると、東京まで行くのが難しい場合、以下の連携施設を通じて参加できる可能性があるようです。(この記事執筆時点での情報です)

東京都立小児総合医療センター 臨床遺伝科
神奈川県立こども医療センター 遺伝科
筑波大学附属病院 小児科
富山大学附属病院 小児総合内科
川崎市立川崎病院 小児科
済生会宇都宮病院 小児科
足利赤十字病院 小児科
愛知県心身障害者コロニー中央病院 小児内科
大阪府立母子保健総合医療センター 遺伝診療科

今後は、成人の未診断疾患への対応も念頭に置いているということですから、成人の原因不明の重い疾患を抱えている人たちは、引き続きIRUPの情報に注目しておくと、いずれ機会が生じるかもしれません。

取り組みとしてはまだ始まったばかりであり、今のところは研究費の範囲内で、重篤の患者のみを対象に検査がなされているようなので、今後、もっと多くの人を対象にした取り組みへと発展していくことを期待したいと思います。

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