理化学研究所、大阪市大、関西福祉大、慶應義塾大などの研究チームによって、慢性疲労症候群(CFS)の客観的な診断の目印(バイオマーカー)となる血液中の物質が発見されたそうです。
【プレスリリース】「慢性疲労症候群の客観的診断に有効なバイオマーカーを発見」について | 関西福祉科学大学
慢性疲労症候群患者の血漿成分中に特徴的な代謝物質 - 大阪市大が発見 | マイナビニュース
慢性疲労症候群患者の血漿成分中に特徴的な代謝物質が存在-大阪市大ら - QLifePro 医療ニュース
「慢性疲労」血中成分に異常…客観的診断法へ期待 : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)
慢性疲労症候群、血中の目印発見 検査で診断しやすく?:朝日新聞デジタル
慢性疲労症候群の診断の鍵特定 大阪市立大など :日本経済新聞
血液検査で診断可能に?=慢性疲労症候群-大阪市大など:時事ドットコム
慢性疲労症候群 代謝物質に変化…仕組み解明へ(1/4ページ) - 産経ニュース
大阪市立大学 慢性疲労症候群の客観的診断に有効なバイオマーカーを発見|医学部受験専用パスナビ:旺文社
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なぜバイオマーカーが必要だったか
慢性疲労症候群(CFS)は、半年以上の激しい疲労など、多様な身体症状を伴う病気であり、国内に約30万人の患者がいると概算されています。
しかし血液検査など、客観的な診断に用いられる目印(バイオマーカー)が存在せず、診断の妥当性が疑問視されていました。
これまでの研究によって、ヘルペスウイルスの活性化や自律神経機能異常による疲労度測定などの手法が開発されてきましたが、CFSの病態に則したものではなかったり、CFSの専門医でないと診断が難しいといった問題があったようです。
ピルビン酸/イソクエン酸、オルニチン/シトルリンの比率に注目
このたび、研究チームは、より客観的でわかりやすいバイオマーカーを見つけるため、血液中の全代謝物質を測定するメタボローム解析という手法を用いました。
慢性疲労症候群(CFS)の血液をメタボローム解析するという研究は2012年にも行われていたので、その延長線上にある研究成果かと思われます。
今回の研究の結果、ピルビン酸/イソクエン酸、オルニチン/シトルリンという代謝物質の比率が、慢性疲労症候群(CFS)の患者で有意に高いことがわかり、客観的な診断に用いるバイオマーカーになると判明しました。
この試験は二段階で行われました。
(1)CFSに特徴的な代謝物質を発見する
まずCFS患者47名と健常者46名を対象に検査したところ、エネルギー産生などに関わる「解糖系」「TCA回路」前半、そしてアンモニアを分解する「尿素回路」と呼ばれる部分の代謝機能が低下していることがわかりました。
さらにコンピューターによって解析すると、特にイソクエン酸、ピルビン酸、オルニチン、シトルリンという4つの代謝物質に特徴が見られることが明らかになりました。
専門的に言うと…
■長期的な疲労のため、解糖系からTCA 回路に流入する機能が低下して、ピルビン酸濃度が上昇し、イソクエン酸濃度が低下している、
■続いて、その先の尿素回路の機能の低下によってオルニチン濃度が上昇し、シトルリン濃度が低下した。
ことを反映していると考えられるそうです。
(2)妥当性を確認する
二段階目の試験では、最初の検査とは異なるCFS患者20名と健常者20名を対象に、先の結果の妥当性が検証されました。
先ほど見つかったピルビン酸/イソクエン酸、オルニチン/シトルリンという2つの代謝物質の比率を調べると、健常者よりCFS患者群のほうが高くなっていました。
この2つを組み合わせると、高い精度でCFSを診断することができるとわかったとのこと。
今後の展望
今後について、各報道機関によると、片岡洋祐チームリーダーは次のように述べているそうです。
「もっと多くの患者や外国人にも適用できるか今後検証し、一般の医療機関で診断できるシステムを構築したい」
「(これらの代謝物質を)血液検査で簡単に調べられるようになれば、より早く客観的に診断でき、患者に合った治療方針も立てられる」
「1、2年内にもこれらの成分を基にした新たな診断法の開発を目指す」
「血液検査で患者の疑いがある人が分かり、早期に専門医に紹介して診断できるようになる」
具体的には、プレスリリースによると、
■異なる人種などにも適用できるか検討
■CFSを発症していない慢性的な疲労の自覚がある人の血液も解析して検証
■一般の医療機関でも検査できるよう、医療システムを構築
■CFSの代謝病態を是正するような食薬の開発
などに取り組んでいくとのことです。
4年前にも報告されていたメタボローム解析の研究が着々と進展しているようで、期待をこめて見守りたいと思います。
酸化ストレスも簡便な血液検査で測定可能に! (10/26追記)
10日ほど後に、酸化ストレスを簡単に計測する手法を確立したとの、理化学研究所の発表がありました。
尿や血中での有機反応で酸化ストレスを簡便に検出 | 理化学研究所
酸化ストレスは、がんやアルツハイマーなど、さまざまな疾患との関係が深く、疲労のメカニズムの主要な部分でもあります。大阪市大でも疲労マーカーのひとつとして研究を進めていたようです。
最新トピックス 疲労と活性酸素|大阪市立大学大学院 医学研究科 / COE生体情報解析学教室
酸化ストレスの度合いは、アクロレインという有機化合物や、それが反応したホルミルデヒドロピペリジン(FDP)という物質を測定することでわかりますが、これまで、抗体を用いて検査するELISA法というコストや時間のかかる方法が主流でした。
しかし今回、理化学研究所の研究によって、尿や血液からFDPの量を検出する簡単な方法が確立され、抗体よりも4倍の感度で検出でき、かつ安価な市販試薬を使ってコストを1/10000以下に抑えて検査できるようになったそうです。
驚くべきことに、すでにクリニックで治験が開始されていて、健康診断での検査法として幅広く活用される予定だと書かれています。
酸化ストレスの測定が、慢性疲労症候群の診断マーカーとなるわけではありませんが、疲労やストレスの指標として、いち早く普及していきそうです。