視力検査でわからない3つの視機能異常とは?―発達障害やディスレクシアに多い「見る力」の弱さ


見え方に問題があると言うと、近視や乱視、または老眼などによる視力低下が思い浮かぶ。

目は必要に応じて動き、色や形、物の動きや位置をとらえることは、あたり前だと私たちは思い込み、視力以外見え方の問題の存在について考えることはほとんどない。(p9)

「見る力」が弱い、と言うと、多くの人が思い浮かべるのは、視力が弱いという意味かもしれません。

ところが、冒頭に引用した学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援の言葉のように、「見る力」には視力以外のさまざまな能力が含まれています。

そして、発達障害や学習障害(LD)の子どもは、視力は正常でも、一般の視力検査には表れないさまざまな「見る力」が低下しているせいで、学習につまずいたり、日常生活で苦労を味わったりすることが多いと言われています。

中には、ADHD(注意欠如多動症)の不注意や多動性など、発達障害の症状だとみなされているものが、じつは「見る力」に問題があるせいで生じていることもあるそうです。

この記事では、発達障害の子どもの視知覚認識問題への対処法などの本から、あまり知られていない見え方の異常として、見た目でわからない「隠れ斜視」、近くを見る作業が難しくなる「輻輳不全」(ふくそうふぜん)、文字や行を見失いやすい「衝動性眼球運動の弱さ」について取り上げます。

そうした気づかれにくい「見る力」の異常を検査する方法や、治療に役立つ情報も紹介したいと思います。

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これはどんな本?

今回おもに参考にしたのは以下の二冊です。

発達障害の子どもの視知覚認識問題への対処法かわばた眼科の川端秀仁先生が監訳したアメリカで行われている視知覚認知機能の検査・診断・トレーニングについての本です。

学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援大阪医科大学LDセンターによる、学習障害と視知覚認知機能のつながりについての解説と対処方法がまとめられた わかりやすい本です。

発達障害の半数以上に見る力の問題

冒頭で説明したように、「見る力」の異常は、一般的な検査で測られる視力とは別のものです。

視力検査では正常で、眼科的な検査でも斜視などの明らかな問題が見当たらない場合でも、「見る力」、つまり視機能の弱さを抱えている子どもたちがいます。

学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援によると、そうした視機能の弱さは、ADHDや自閉スペクトラム症などの、発達障害の子どもたちに特に多く認められるそうです。

三浦ら(2008)は、発達障害を疑われて小児科発達外来に紹介された学童に視機能検査を実施し、その機能低下の出現頻度について調査を行った。

…視力、立体視、輻輳、衝動性眼球運動の4項目について調査を行った結果、対象児ま51.8%がいずれかの項目で問題を認めた。眼球運動と輻輳の問題の出現頻度が高く、対象児の32.4%が眼球運動、20.1%が輻輳に問題を認めた。

この研究で行われた調査には、視知覚や目と手の協調運動のつまずきに関しては含まれていない。それでも、発達障害の半数以上に見る力の問題がみられたことは注目すべき事実である。(p58)

この調査によると、発達障害を疑われた子どものうち、なんと半数以上が、何らかの視機能の異常を抱えていました。

注目に値するのは、子どもたちの抱えていた問題のうち、視力そのものの異常は、それほど多くなかったという点です。

この調査で扱われた4つの項目(視力、立体視、輻輳、衝動性眼球運動)のうち、最も多かったのは眼球運動、次が輻輳(ふくそう)といった、どちらもほとんど知られていない「見る力」の問題だったのです。

しかし、ほとんど知られていない問題だからといって、それらの異常は、決して軽視してよいものではありません。

これから考えていきますが、「見る力」の問題は、単なる視力の問題とはまた違ったかたちで、子どもたちの生活に大きな影響を及ぼします。

「見る力」の問題なのに意欲のせいにされてしまう

「見る力」に問題があれば、当然ながら、読み書きなど目を使う学習に苦労を抱えるようになります。

しかし悲しいことに、本当は「見る力」に問題があるのに、本人の能力の低さや怠け、意欲の不足とみなされてしまい、不適切な指導を受けている子どもが少なくないようです。

学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援には、「見る力」の問題という原因を見逃したまま、不適切な指導を続けると、子どもたちにどんな悪影響が生じるかが書かれています。

年齢が低いほど、子どもたちは「書くのはいや」、「面倒くさい」、「できない」などと訴えることが多いので、「がんばればできるのに怠けているから覚えられない」「乱暴に書くから覚えられない」などと、さらに書く練習を増やされることも少なくない。

結論から言うと、彼らには単純に繰り返し見て書く、覚えるまで書いて練習する、という方法は適していない。

…何よりも避けたいことは、不適切な学習を積み重ねた結果、書字に対する負担や拒否がどんどん大きくなり、「どうせ覚えられない」と、学ぶ意欲そのものを損なってしまうことである。(p85)

読み書きが難しかったり、なかなか覚えられなかったりするのは本人の意志力や努力の不足ではないのに、何度も何度も苦手なことをやらされた結果、本当に勉強が嫌いになったり、自分はダメだ、という劣等感を抱いてしまったりする子も少なくないのです。

じつは発達障害ではないことも

「見る力」の問題は、発達障害の子どもと関係が深いようですが、必ずしも発達障害に特有のものではありません。

学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援には、次のように書かれています。

認知の障害(たとえば、視知覚の問題)があっても、発達障害の診断基準にあてはまらなければ、発達障害の診断名はつかないこともある。(p29)

「見る力」、つまり視知覚の問題があっても、発達障害の診断はつかない子どももいます。

気をつけなければならないのは、本当は「見る力」に問題があるせいで生活の苦労が生じているのに、表面的な行動だけを見て、発達障害だと誤って見なされてしまう子どもがいることです。

この本には、「見る力」に問題があるせいで、行動障害や学習障害を抱えていた子どもたちの例がたくさん出てきますが、その中に、広汎性発達障害と診断されていた小学4年生の女の子もいました。

その子は、広汎性発達障害と、それに伴う学習障害だとみなされていましたが、注意深く検査すると、どうやらそうではない、ということが明らかになりました。

学習に影響を与えるような視力の問題や屈折異常は認めず、眼科的な問題も指摘されていなかった。

広汎性発達障害の診断を受けていたが、言語や全般的知的能力の発達には大きな遅れは認めなかった。

しかし、「見る力のチェックリスト」においては、視知覚に関連する項目でチェックが多かった。(p115)

この女の子の場合、学習障害の原因になっていたのは、広汎性発達障害による知能の遅れではなく、「見る力」の弱さだったのです。

ですから、すでに発達障害と診断されていても、生活の困りごとが、じつは「見る力」の弱さのせいで生じていることがあるかもしれません。

発達障害と診断されていても、そうでなくても、「見る力」つまり視知覚認知機能の弱さについて考えてみることは大切です。

一般的な検査ではわかりにくい「見る力」の弱さには、さまざまなタイプがありますが、これから、特に3つのよくある異常について考えてみましょう。

1.隠れ斜視

最初に取り上げるのは隠れ斜視の問題です。

斜視とは、眼球を支える筋肉の弱さなどのせいで、左右の目が違う方向を向いて、視線がずれてしまっている状態です。

多くの人は、斜視というと、外から観察してすぐにわかるものと思いがちです。斜視の子どもは、目の位置がずれるので、家族もすぐに気づいて、眼科医を受診することが多いでしょう。

ところが、斜視の中には、見た目にわかりにくく、症状があるのに見過ごされてしまうタイプがあります。

ときどき斜視が出る「間欠性斜視」

まず一つ目は、「間欠性斜視」(間歇性斜視)と呼ばれる、視線がずれるときと、そうでないときとがある不安定なタイプの斜視です。

「間欠性」(かんけつせい)とは、起こったりやんだりするものを指す言葉です。熱湯が出たりやんだりする間欠泉という温泉について聞いたことがある人も多いでしょう。

学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援には間欠性の斜視について、こう書かれています。

斜視は、外見でわかるとは限らず、隠れてわからない状態、または視線のずれが外見でわかる時間帯と隠れている時間帯をもつ場合がある。

常に視線がずれている斜視を恒常性斜視、正確に両眼視できるときと斜視のときがあるものを、間歇(かんけつ)性斜視と言う。

間歇性斜視では、特に集中していないときや疲れているとき斜視が表に出やすくなる。(p47)

ここで説明されているとおり、間欠性斜視はいつも両目の視線がそろわないわけではなく、一見すると異常がないようにみえます。しかし注意散漫なときや、疲れているときには斜視の症状が出て悩まされます。

発達障害の子どもの視知覚認識問題への対処法によると、間欠性斜視は、検査では見逃されやすいばかりか、頭痛や眼精疲労の原因になることもあります。

軽度の斜視や間欠的な斜視は、視力検査では見過ごされがちです。

ですが、たとえ筋肉を制御して斜視を正すことができても、その状態を続けることで頭痛、目の疲れ、視界のぼやけやぶれ、視覚注意が続かないといった、いろいろな症状が起こってきます。(p29)

間欠性斜視は、集中しているときは両目がそろうといっても、本来視線がずれやすいのをなんとかそろえている状態なので、目に負担がかかり、集中するのに普通より大きなエネルギーが必要なのです。

軽度発達障害児における眼疾患の検討によると大阪医科大学LDセンターを訪れた軽度発達障害の子ども22名のうち、間歇性外斜視ないしは外斜視が半数以上の12名に見られたと言われています。

自力で両目をそろえている「斜位」

間欠性の斜視よりもさらに気づかれにくいのが、「斜位」と呼ばれるタイプです。ときどき斜視の症状が出る間欠性斜視とは違って、「斜位」はさらに気づかれにくく、隠れ斜視と呼ばれることもあります。

発達障害の子どもの視知覚認識問題への対処法ではこう説明されています。

斜視以外にも両眼視に問題が起こることがあります。目が内側や外側、時には上を向きがちなものの、自分で両眼の視線をそろえることができる状態を、斜位と呼びます。

片眼を隠した場合、隠された眼が内側に向く(内斜位)、外側に向く(外斜位)、上また下に向く(上下斜位)などがあります。これらの斜位の程度が強く不快感がある場合は問題になります。(p29)

間欠性斜視は、ずれた視線を自力である程度そろえることができましたが、斜位もそれと似ています。

斜位の人は、斜視と同じく目の方向がそろっていませんが、自分で筋肉をコントロールして、視線をそろえることができるため、表向きには斜視であることに気づかれません。

しかし間欠性斜視と同じく、目の向きをそろえるために普通よりも大きな労力が必要なため、知らず知らずうちに、エネルギーを消耗してしまいます。

その結果、集中力が続かなかったり、慢性的な眼精疲労や不快感に悩まされてしまうこともあるでしょう。

引用した中で説明されていたとおり、斜位には、片眼を隠したときに斜視の症状が出るという特徴があるので、詳しい眼位検査や両眼視機能検査によって判別できます。

斜位の程度が強い場合は、プリズム入りのメガネを作ることによって、目への負担を軽減することができます。

斜位について詳しくは、こちらのサイトの説明がわかりやすく思いました。

斜視と斜位(隠れ斜視)~メガネの一心堂

斜位について│メガネのハマヤ

2.輻輳不全(ふくそうふぜん)

あまり知られていない見る力の問題の2つ目は「輻輳不全」(ふくそうふぜん)と呼ばれる異常です。

なじみのない難しい漢字が使われていますが、「輻輳」(ふくそう)とは両目を内側に寄せて寄り目をすることで、寄り目をする力が弱いものを「輻輳不全」といいます。

輻輳不全は、さきほどの斜位のうち、目が外側を向きがちな外斜位とも関係しています。

発達障害の子どもの視知覚認識問題への対処法では、輻輳不全について、次のように説明されています。

輻輳不全は、斜視以外の両眼視の問題の中で最もよく見られるもので、近いものに視線を合わせようとしても、片方の視線が内側に寄らず、外側を向いてしまう状態のことです。(p29)

輻輳不全の子どもは、寄り目が難しいので、近くにあるものを両目で見ることに苦労します。

学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援でも、輻輳不全のことがこう説明されています。

輻輳不全とは、近くを見る際に十分に寄り目ができない両眼視機能低下の一種である。

寄り目がうまくできないために、近くを見る作業が不正確になったり、注意や集中の低下になったりすることがある。(p19)

このように、輻輳不全の特徴は、近くのものを両目で見るのが難しい、という点ですが、子どもたちにとって、近くのものを見なければならないのは、何よりも勉強するときです。

軽度発達障害児における眼疾患の検討によると、学習障害の専門機関である大阪医科大学LDセンターを訪れた軽度発達障害の子ども22名のうち、8名は輻輳不全を抱えていました。

輻輳不全があると、勉強をするとき、どのような不都合が生じるのでしょうか。

近くのものに焦点が合わず二重に見える

発達障害の子どもの視知覚認識問題への対処法によると、輻輳不全を持っている子どもたちは、手元の本を読んだり、プリントの読み書きをしたりするとき、「複視」というやっかいな症状を抱えることがあります。

複視と呼ばれる、ものが二重に見える状態は、両眼視がうまくいっていない時に一番よく見られる症状です。(p28)

複視とは、両目が十分に寄せられないため、近くのものに視線を合わせることができず、ものが二重に見えてしまう症状です。左目と右目の像が微妙にずれてしまうのです。

そうすると、学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援に書かれているように、手元の作業で疲れやすいという別の問題が生じます。

本の文字を見るとき、私たちは両目を同時に使っている。両眼視に問題があると、右目と左目の映像がうまく重ならないため…文字が二重に見えることがある。

また、読みを中心とした手元で行う作業で疲れやすい、集中力がなくなるという特徴が出る場合もある。(p37)

近くのものが二重に見えると、文字がぶれてしまうせいで、読み書きに普通より強い集中力が求められ、目が疲れるだけでなく、集中力も激しく消耗します。

ほかの子どもはなんなくすらすらと読める文字でも、細心の注意を払って判読しなければ理解できません。そうすると、読み書きのハードルがぐんと上がってしまい、勉強とは難しくしんどいものなのだと感じられるでしょう。

その結果、輻輳不全がある子どもは、勉強が苦手な学習障害(LD)や、勉強を嫌がって手のかかる注意力散漫なADHDと誤診される可能性があります。

ADHDと誤診されていることも

輻輳不全が、ADHDや学習障害とつながりの深い問題だということは、学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援に載せられている調査からわかります。

bouse(2009)らは、ADHDと輻輳不全が学習に関連する行動にどのように影響するかについて研究を行った。

…この結果は、ADHDがなくても輻輳不全があると、学習行動に悪影響を与える可能性を示す結果である。

多動や不注意などの特徴がある場合、ADHDの有無を調べるとともに、調節を含む視覚に関する問題の有無も調べる必要がある。(p19)

詳細は省きますが、この研究では、輻輳不全がある子は、たとえ生まれつきのADHDの症状がなくても、見え方の問題のせいで学習に困難をきたし、多動や不注意の症状が出てしまう、ということがわかりました。

発達障害の子どもの視知覚認識問題への対処法には、見る力の弱さのせいで、不注意や学習困難を抱える子どもが多く、特に輻輳不全の子どもがADHDと誤診されている例があるのではないか、と書かれています。

視覚の問題は注意欠陥多動性障害(AD/HD)、ディスレクシア(読み書き困難)や非言語性学習障害といった学習障害(LD)にもよく見られます。

読み書きをする時に文字を裏返す、左と右の区別がつきにくい、位置関係の認識や視覚記憶の弱さといった典型的な問題は、視覚を効果的に使えていないために起こります。

特に両眼視がうまくできず、近くのものに視点が合わない子どもが多いのです。

目の機能に問題があるためにすぐ近くを見ることができないのに、注意力に問題があるとしてAD/HDと誤診されてきている子どもたちがいるはずだと思っている専門家もいます。(p11)

輻輳不全の子どもは、目の機能に問題があるせいで、近くをはっきり見ることができないわけですが、子どもはそのことを親や先生、そして医師に説明できず、ただ勉強を嫌がるとか集中できないといった行動だけが目立ってしまいます。

実際に、視覚はよみがえる 三次元のクオリア (筑摩選書)には、輻輳不全のせいで、ディスレクシア(読み書き困難)を抱え、注意力散漫なADHDと診断されていたエリックという少年の話が出てきます。

何年ものあいだ医者の診断や学校の検査で見過ごされてきたあとで、ミシェルはようやく、エリックの問題が輻輳不全と呼ばれる視覚障害から生じていることを知った。

さほど珍しい事例ではないのに、難読症と誤診されることがよくある障害だ。

エリックは遠くを見るときにはちゃんと目を動かせるが、近くを見るときには動かせない。対象物が顔に近づくと、立体視を放棄してしまう。

エリックはずっと勉強が苦手で、親も医者も、ADHDの多動や不注意からくるディスレクシアだと思われていました。しかし、母親のミシェルが、あるときエリックの目の動きの問題に気づき、詳しい検査を受けたところ、輻輳不全が判明しました。

彼女の話からもわかるように、綿密な検査を行わないかぎり、輻輳不全はなかなか発見できない。しかも、当の子どもはたいてい、自分に視覚上の問題があることに気づいていない。

文章を読むときに単語がページの上を飛びまわるのがおかしいとは思っていないのだ。また、文字が二重に見えたりぼやけたりするのが変だとも思っていない。

当然の話だが、文章を読むのが人より大変であることに気づいておらず、結果として学校の成績が悪くなると、エリックのように行動上の問題を生じる場合がある。(p70-71)

エリックの場合、近くのものに両目を同時に向けることが難しく、すぐに目がそれてしまうために、文字が飛び回ったり、二重にぼやけて見える「複視」になったりしました。

しかし本人はそれを普通のことだと思っていたので、目の問題からくるディスレクシアだとわかりませんでした。

家族や先生もまた、ふだんは両眼視がしっかりできているため、勉強しているときだけ両眼視が狂っているとは思いもしなかったのです。

輻輳不全は、輻輳力を鍛える視能訓練をしたり、さきほどの隠れ斜視と同様、プリズム入りのメガネをかけたりすることで改善するとされています。

この話に出てきたエリックも、視能訓練によって学習障害が解消され、大学でトップクラスの成績を収めるまでになりました。

もしも、目の問題に気づかれず、ADHDや学習障害、ディスレクシアだと見なされたままであれば、エリックは大きくなるまで、ずっと問題児のままで、不適切な薬物治療も受け続けたことでしょう。

しかし目ざとい母親が見る力の問題に気づき、専門機関で検査を受け、適切な対処をしたおかげで、発達障害でも学習障害でもないことが明らかになったのです。

3.衝動性眼球運動(サッケード)

最後に、3つ目に取り上げるのは、衝動性眼球運動(サッケード、ないしはサッカード)と呼ばれる眼球運動の異常です。

こちらもまた聞きなれない言葉ですが、サッケードとは、目の中心でものを見るために、目の位置をすばやく動かす眼球運動のことをいいます。

学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援では、こう書かれています。

あるポイントから違うポイントに視線をジャンプさせる眼球運動を「衝動性眼球運動(Saccade)」と呼ぶ。(p20)

発達障害の子どもの視知覚認識問題への対処法でも、衝動性眼球運動(サッケード)についてこう説明されています。

衝動性眼球運動とは、対象物を目の中心窩でとらえるため、視線を急速に移動させる目の動きのことです。(p29)

衝動性眼球運動(サッケード)は、わたしたちがスムーズにまわりのものを見るために不可欠な目の機能です。

しかしサッケードがうまく働かないと、目がすばやくスムーズに動かなくなり、目のすばやい移動を必要とする作業が難しくなります。

近年の研究では、サッケードの異常は、ADHDの子どもに頻繁に見られることがわかっています。

ADHDの子どもは目の速い動き(サッカード眼球運動)を制御する脳機能に異常
ADHDの子どもが一点を集中して見るのが苦手な理由について。

先ほどの輻輳不全の場合は、本当は目の問題なのに、誤ってADHDのような発達障害だと誤診されていることがある、ということでしたが、サッケードの異常はADHDの症状の一部で、ADHDの診断の手がかりになると言われています。

ADHDをはじめ、目のサッケード運動が苦手な子どもたちが苦労する作業のひとつは、勉強に不可欠な「本を読むこと」です。

文字や行を見失う

サッケードと呼ばれる眼球運動がうまくいかないと、本を読むときにどんな苦労が生じるのでしょうか。

発達障害の子どもの視知覚認識問題への対処法の説明を見てみましょう。

眼球運動は本を読む時に特に重要で、目をすばやく巧みに動かして、印刷物の上に視線を合わせ続けなければなりません。

眼球運動に問題がある子どもは、読むことに集中できず、どこを読んでいるのかわからなくなったり、行を飛ばしたり、文字を追うのに頭ごと動かしたりしています。(p29)

わたしたちは本を読むとき、目をすばやく動かして、文章の流れを追っています。いまこのブログを読んでいる人も、目を行から行へと、すばやく動かしているはずです。それがサッケードです。

しかし、サッケードが苦手な子どもは、次の行に移るときにスムーズに視線が移動しないので、どこを読んでいるのか見失ったり、行を飛ばしてしまったりします。

この点は、学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援でも、次のように説明されていました。

衝動性眼球運動がすばやく正確にできないと、読み飛ばしが増えたり、文章の行や列が変わるときに場所を見失ってしまったりすることがある。

そして、そのために文章の内容が理解しにくくなることがある。(p21)

一般的な協調運動には含まれないが、特殊な運動調節として眼球運動があり、特に衝動性眼球運動(Saccade)に問題が生じると文章を読むこと、書き写しなどに困難をきたす。(p26)

目をすばやく正確に動かせないと、読んでいる内容の読解力が低下したり、黒板とノートに交互に目をやって書き写す作業の効率が悪くなって、ひと一倍時間がかかったりしてしまいます。

「字づまり視力」が低い

目がスムーズに動かず、サッケードの力が弱い子どもにとって、日本語の文章は特に読みづらいものかもしれません。

その理由は学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援にこう書かれています。

文章を読むには、中心窩という網膜にある視力が最もよく出る場所に文字を写すために、正確にすばやく視線をジャンプさせて移動させる必要がある。

中国語や日本語以外のほとんどの言語では、単語と単語の間にスペースをあけて文章が書かれる。

日本語では、一般的にこの単語間スペースはなく、句読点以外は続けて表記される。そのため視線を移動する際、移動距離を決める手がかりが少なく、眼球運動コントロールのプロセスがより複雑であると考えられる。(p35)

単語と単語の間にスペースが空いている英語と違って、日本語は、句読点を除けば文字がぎっしりと詰まって書かれる傾向にあります。

このブログでは、頻繁に改行して、文と文とあいだにスペースをとっていますが、文庫本の小説や、専門的な内容のWebページでは、ほとんど改行もなく、文字がひしめき合っていることもしばしばです。

そうした混み合った文章では、自分がどこを読んでいるのか把握する手がかりが少ないので、スムーズに行を追えない人は、頻繁に読んでいる場所を見失って、混乱してしまいがちです。

興味深いことに、眼球運動など「見る力」の弱さを抱えている人たちは、文字がひとつだけのときと、ぎっしり混み合っているときとでは、視力さえも変わってくるそうです。

学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援では、それは「こみあい現象」(クラウディングエフェクト)と呼ばれています。

発達障害や医学的弱視(amblyopia)がある子どもでは、視力検査表のランドルト環などが複数同時に提示され、文字間隔が狭いと視力が出にくく、一文字ずつ提示すると視力が出やすくなる場合がある。

この現象をcrowding effect (クラウディングエフェクト : 日本語では「こみあい現象」や「読みわけ困難」と訳されている)という。

ここで出てくる「ランドルト環」とは、よく視力検査で用いられる「C」の文字のことです。

発達障害など「見る力」の弱い子どもは、一般の視力検査表のような、大小さまざまなランドルト環がひしめきあった表で視力をテストしたときより、一度にひとつだけのランドルト環を見せて検査したときのほうが視力が良く出るのだそうです。

たくさんのランドルト環がひしめきあっている表で調べた視力は「字づまり視力」、一度にひとつだけランドルト環を見せて調べた視力は「字ひとつ視力」と呼んで区別されていています。

幼児や発達障害、またはなんらかの見えにくさがある子どもでは、通常の「字づまり視力」ではどこを見てよいかわからなくなったり、さし示した文字に注意を維持できなかったりすることがある。(p14)

こうした「こみあい現象」からしても、衝動性眼球運動(サッケード)の異常があるようなADHDの子どもの場合、字がぎっしり詰まってスペースがないようなプリントでの勉強は、視力そのものが低下するかのような苦労が伴うことがわかります。

マイクロサッケードが抑制されると視力がなくなる

それにしても、どうして、サッケードと呼ばれる目の眼球運動と視力とが関係してくるのでしょうか。

今しがたの説明にあったように、単に、文字が混み合っているせいで、ひとつの文字に注意を集中しにくい、という理由もあるのでしょうが、サッケードと視力にはもっと深い関係があるかもしれません。

脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線によると、目のすばやい運動には、ここまで考えてきた一般的なサッケードのほかに、もっと細かい運動であるマイクロサッケードと呼ばれる眼球運動があります。

チャールズ・ダーウィンの父ロバートは、静止しているように見えているときでも、目が不随意に動いていることを発見した。

現在ではマイクロサッケードは特殊な装置を用いなければ観察できないほど高速で起こることが知られている。

薬物によって眼筋が麻痺した場合など、マイクロサッケードが抑制されると、その人は視力を失ってしまう。(p316)

不思議なことに、この記述によると、目の細かく素早い運動であるマイクロサッケードを抑制すると、なぜか視力までが失われてしまうとされています。

単純に考えると、目のすばやい運動ができなくなったとしても、まっすぐ前方は見えるはずですし、首から上を頭ごと動かして周囲を見回せば、まわりの景色が見えるのではないか、と感じます。

ところが、サッケードやマイクロサッケードといった目のすばやい眼球運動には、単に文章の行を追ったり、あちこちに視点を移動させたりする以上の役割があるようです。

目はマイクロサッケードを行ない、複数のバージョンのイメージを送って、脳に新たな情報を供給しているのである。

(私たちは触覚に関してもこの種の衰退を経験する。服を着たり、メガネをかけたりすると、私たちは皮膚にそれらが接触するのを感じる。

しかし時間が経つにつれ、動いて新たな接触を感じない限り、その感覚は薄れていく。)(p317)

ここでは、マイクロサッケードは、脳に新たな情報を供給する役割があると書かれています。

後半の解説が示唆しているように、わたしたちの感覚というのは、絶えず新しい情報が入ってこないと、何も感じなくなってしまいます。

服を着たり、メガネをかけたりすると、その瞬間は刺激を感じますが、そのうち感覚が薄れて何も感じなくなっていきます。

ときどきメガネをかけたまま、メガネを探し回るといううっかり話が聞かれますが、メガネをかけたまま、しばらく時間が経つと、メガネをかけているという感覚が薄れてしまうのでしょう。

こうした事実からわかるのは、わたしたちの感覚というのは、「変化」を感じ取っているということです。

じっとしているときでも、目が小刻みに動くのは、ほんの少しずつ異なる情報、つまり変化を脳に送って、絶えず視覚情報を鋭敏に保つためです。

薬物によって目のマイクロサッケードを抑制すると、視力が失われてしまうのは、かけたまま気づかないメガネのように、変化がないせいで、感覚が薄れていってしまうからなのです。

眼球運動の不思議 目の動きから心が見える | 日経サイエンス

そうすると、薬物によってマイクロサッケードが抑制される場合ほど極端ではなくても、サッケードやマイクロサッケードがスムーズに働かないと、あたかも視力が弱くなるかのような苦労が生じるとしても不思議ではありません。

先ほど「発達障害や医学的弱視(amblyopia)がある子ども」では、「字づまり視力」が弱くなるという傾向があると書かれていましたが、サッケードに異常があると、ある場面では弱視のような苦労が生じるということなのかもしれません。

検査でわかりにくい「見る力」の問題に対処する

このように、一般の視力検査や眼科検診では異常がなくても、さまざまな「見る力」の問題が隠れていることがあります。

学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援によると、ここまで考えてきた3つの問題をはじめ、「見る力」の異常は、通常の検査では気づかれにくく、たとえ見つかってもあまり重視されないことが多いようです。

たとえば、軽い間歇性外斜視(まっすぐ見ている状態と斜視の状態が間歇的に現れる)や輻輳不全で眼科では生活には問題がなく経過観察となる場合でも、黒板を写すのに時間がかかったり、書き間違いが多くなったりすることがある。

眼科的には問題ないと言われている場合でも、両眼視などの問題が指摘されている場合には、つまずきがないか確認し、必要に応じた支援を検討する必要がある。(p44)

怠けてなんかない! セカンドシーズンあきらめない―読む・書く・記憶するのが苦手なLDの人たちの学び方・働き方では、今回紹介した本を監訳しているかわばた眼科の川端秀仁先生に取材した内容が載せられていますが、その中で次のような事情が語られています。

川端医師はそう現状を分析しながら、続ける。

「そもそも、眼科医になる過程で、我々はLDやディスレクシアのことを学ぶ機会がないのです。

医者として養成されるとき、目の病気のことは学んでも、学習と視覚認知との関係については学ばないからです。

だから、保護者が“うちの子は字が読めないんです”と子どもを連れてきた時、視力に問題がなく、緑内障や白内障などの目の病気が見つからず、病名がつかなければ、“これは眼科医の範疇ではない”という理解をするのが一般的です」(p164)

そのようなわけで、たとえ眼科医に異常がないと言われたとしても、見え方に問題がない、という太鼓判を押されたわけではなく、眼科医が気づかない見る力の問題が潜んでいる可能性は十分にあります。

では、自分や子どもに、こうした気づかれにくい「見る力」の異常があるかもしれない、と感じたら、どうすればいいのでしょうか。

オプトメトリスト(検眼医)を探す

まずできるのは、一般的な眼科医や発達障害の専門家ではなく、「見る力」の専門家の判断を仰ぐことです。

発達障害の子どもの視知覚認識問題への対処法によると、そうした見る力の専門家はオプトメトリスト(検眼医)と呼ばれています。

もうひとつの医者はオプトメトリスト(検眼医)です。アメリカではふつう学部終了後、4年間の修士課程を修了してDoctot of Optmetry(O.D.)の資格が得られます。

一般にいう医師とは異なりますが、目の病気や視覚システムの問題を専門に担当します。

彼らは視覚の問題について、眼科医よりも総合的なアプローチをとり、生活の質を高めるための目の役割に注目します。(p38)

オプトメトリストは、アメリカなどの諸外国ではよく知られている資格ですが、日本ではほとんど知られておらず、認められていません。

とはいえ、海外でオプトメトリストとしての資格を取得した人が、国内の医療機関やメガネ屋さんと協力していることがあり、日本でもオプトメトリストによるサポートを受けることは可能です

今回紹介した学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援の、大阪医科大学LDセンターでは、オプトメトリストの奥村智人先生を採用したことで、学習障害(LD)と視知覚認知機能とのつながりについての研究が進められてきたそうです。(p3)

オプトメトリストが協力している施設であれば、通常の眼科的な検査に加え、眼位検査や両眼視機能検査など、今回紹介した気づかれにくい目の問題を調べる検査も実施されていることでしょう。

環境調整やビジョントレーニング

目の運動の異常など、見る力の問題を抱えていることがわかったなら、途中で出てきたエリックのように、視能訓練を受けたり、プリズム入りのメガネを作ったりして、専門家の指導にそって見る力を改善することが可能です。

学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援では、コンピュータを用いた眼球運動トレーニングやビジョントレーニング(VT)によって、見る力が改善することが実証されています。

発達障害の子どもの視知覚認識問題への対処法にも家庭でできるさまざまなトレーニング方法が載せられているので、参考に活用することができます。

この記事の末尾にもビジョントレーニングに役立つサイトや書籍へのリンク集を載せておきます。

目の緊張をほぐすトレーニング

マイクロサッケードのところで紹介した脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線という本には、目の緊張をほぐすための取り組みが紹介されていました。

その内容は、1世紀以上前に先進的な検眼医として活躍していた医師ウィリアム・ベイツが開発したベイツ・メソッドや、それをもとに目のスムーズな運動を訓練する方法を開発したモーシェ・フェルデンクライスのフェルデンクライス療法に基づくものです。

フェルデンクライスは、サッケードやマイクロサッケードといった眼球運動が弱い人たちは、目の筋肉が強く緊張してこわばっていることに気づきました。

フェルデンクライスは、明らかにサッケードとマイクロサッケードに言及している。

見るためには目は動かなければならないが、細部をとらえる黄斑が大きく跳躍すると視野はぼやける。
それを防ぐには、目はつねになめらかに動かなければならない。

だが、筋緊張が高じているとそれは不可能だ。(p329)

そこで、フェルデンクライスは、目の緊張を和らげ、スムーズな眼球運動ができるように、目をリラックスさせる方法を考案しました。ここではそのうち3つを簡単に紹介します。

パーミング

目をリラックスさせるのに役立つ一つ目の方法は、「パーミング」です。これはとても単純な方法で、目を閉じて休むとき、手で光をさえぎるというものです。

次に彼はパーミングを始めた。これは、手が完全に目に触れないようにしながら、額に指をあて、目をてのひらで覆うという実践方法だ。

…パーミングは単にまぶたを閉じるだけより、はるかに多くの日光を遮断することができる。

そしてそれによって、視神経と脳の視覚神経回路に真の休息を与える。

また、パーミングは、目の動きと目全体の筋緊張を徐々に低下させる。(p326)

単純なことに思えますが、目をしっかり休めるためには、光を遮ってリラックスさせることが欠かせません。

黒いビロードを想像する

光を遮って目を休めると、まぶたの裏に、さまざまな色や形が見えてきます。フェルデンクライスは、これは、目の視神経が興奮している表れだと述べます。

手で目を覆っても、万華鏡を覗き込むようにさまざまな色や形が見えるはずです。

この現象は、興奮した視神経が、色や形以外のものをとらえられなくなるために生じるのです。

そして、あなたの全視覚系が静穏ではないことを示しています。(p326)

目を閉じて光を遮っても、目の神経はさまざまな光の刺激に興奮したままなので、それを意識的にリラックスさせることで緊張を解く必要があります。

そのために役立つのが、目をリラックスさせる二つ目の方法、深みのある黒を想像するということです。

目の背景に、周囲よりも黒く暗い点が見えるかどうかをゆっくりと確認してください。

そうすれば次第に黒い点が見えてくるはずです。

見えたら、それらがとても大きく、背景全体を覆っていると考えてください。(p326)

興味深いことに、わたしたちの脳は、実際にものを見るときと、それを想像するときとでは、同じような働きがみられるそうです。起きているときと、夢を見ているときとでは、どちらも脳の視覚野が同じように活動しています。

それで、さまざまな色や光がちらつく視神経の興奮を抑えるためには、目を閉じて青みがかった黒を思い浮かべ、暗く穏やかな背景が、視界全体を覆っていくように想像することが役立ちます。

まぶたの内側が湿った黒いビロードでできていると考えてください。

あなたの視神経全体が、いかなる作用も行わず、どんな刺激も受け取っていない静穏な状態であれば、そのような種類の黒が見えるはずです。

それは人間が見ることのできる、もっとも濃い黒なのです。(p330)

こうしてビロードのような黒をイメージすることで、ノイズに満ちた脳が静まり、視覚機能がリラックスします。

ベルハンド

最後の3つ目の方法は「ベルハンド」と呼ばれるスキルです。

フェルデンクライスは、ちょうどベルを持つような形に手を丸め、心身をリラックスさせる方法を考え出しました。

フェルデンクライスは、単に手をわずかに開いたり閉じたりしたときに何が起こるのかを探究し始めた。

彼は生徒に、てのひらが柔らかくなったところをまず想像してから、非常にゆっくりと、ごくわずかに指を外側にそらせて開いたり内側に指を引き入れて閉じたりし、それによって身体にどのような影響が及ぶかを観察するよう促した。

この動きは楽にできるはずである。なぜなら、息を吸うときには手と指がわずかに開き、また吐くときには収縮する傾向があるからだ。

手が鐘の形になることを強調するために、彼はこのレッスンを「ベルハンド」と呼んだ。

ちなみに手と指の開閉はごくわずかなものなので、鐘の振動のように見える。(p330)

そして、「ベルハンド」の手法は、単に手のひらをリラックスさせるだけでなく、目をリラックスさせることにも役立つことを発見しました。

手に対応する脳マップは、顔と目のそれに近接している。

…「手と目を結びつける神経経路は、脳の高速道路のようなものです。

この結合を使って、手に対応するニューロンから、目の筋緊張や目全体の動きをコントロールしている運動皮質のニューロンへ、学習したことと筋緊張の抑制を直接伝達できるのではないかと考えたのです」とウェバーは言う。(p330)

目と手に関わる脳の領域は近い位置にあるために、手をリラックスさせることで目をリラックスするよう促すことができます。

目は意識的に休めるのが難しい器官ですが、手という意識しやすい器官を通して、目に働きかけることができるのだといいます。

パソコンやスマートフォンを使うことの多い現代社会では、目を酷使して緊張させがちですが、意識的に暗くしたり、深みのある黒を想像したり、手と目をリラックスさせたりすることで、不必要な目の緊張を和らげるトレーニングができます。

さまざまな原因を考える

この記事では、検査でわかりにくい見る力の異常として、「隠れ斜視」「輻輳不全」「サッケードの異常」の3つに焦点をしぼって考えてきました。

これらはいずれも眼球運動に関わるものですが、実際には、このほかにも、さまざまな「見る力」の異常があります。

それにはたとえば、以前に取り上げた空間や色など視覚認知に関わる見る力の弱さもあります。

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また、アーレンシンドロームのような光の感受性障害も、視力以外の見る力に影響を及ぼします。

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この記事では、輻輳不全やサッケードの弱さのせいで、ディスレクシアなどの学習障害を抱え、勉強が苦手になる子どもがいることを見てきました。

しかし、学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援によると、サッケードに異常があっても黙読速度の速い子もいれば、反対にサッケードに異常がないのに読み書きが難しい子もいたと書かれていました。

このように読み障害の原因は衝動性眼球運動障害のみでは説明できない。

読み障害の原因は、文字、単語、文章レベルでの障害が予想され、原因は一律ではないと考えられる。(p38)

ディスレクシアなどの学習障害の原因はさまざまであり、たとえ見る力の問題を抱えていても、それに適応して別の方法で補う能力を身に着けている子どももいます。

一方で、見る力の問題は特にないにもかかわらず、聴覚機能など、別の問題のせいで、読み書きが苦手になる子どももいます。その点は以前 扱った、「左耳利き」のディスレクシアの例からも明らかです。

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そのようなわけで、学習障害やADHDのような症状を示す子どもがいるとしても、ひとつの原因にとらわれず、さまざまな可能性をさぐることが大切です。

たとえば、視知覚の不全でも注意集中に困難が生じるが、注意集中障害がすべて視知覚によって起こっていると決め撃ちすると対策を謝る可能性がある。

必ず子どもの全体像を把握するように努力することが大切である。(p29)

見る力と関係のある、何らかの異常や困り事がある場合でも、ぜひ素人判断で対処したりせず、専門家を探して判断をあおぐようになさってください。

最後に、見る力の検査や対処に役立つ、さまざまな役立つ専門機関や、参考になる書籍へのリンクを載せておきますので、参考にしてください。

付録 : 役立つサイトへのリンク集

ほかにも多くの関連サイト、専門機関がありますが、一部だけ載せておきます。

かわばた眼科 (千葉県浦安市)
視覚発達支援センター
…眼球運動、両眼視機能、調節機能などの視機能検査を取り入れている。発達障害の子どもの視知覚認識問題への対処法の監修をしている。

特別視機能研究所menosite.com (愛知県名古屋市)
…オプトメトリストの内藤 貴雄先生による「目のサイト」。子どもが伸びる魔法のビジョントレーニング (NIKKAN SPORTS GRAPH)などの著書がある。

キクチ眼鏡専門学校内「目の発達支援センター」(愛知県名古屋市)
…発達障害を持つ人の視覚と発達の関係を研究している

視覚認知と学習支援 - 視覚発達支援あおぞら(愛知県春日井市)
…視覚認知の検査・トレーニングをしている

大阪医科大学LDセンター(大阪府高槻市)
…学習障害(LD)の研究で知られる。学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援などの著書がある。

視機能トレーニングセンターJoyVision(ジョイビジョン) (兵庫県神戸市)
…眼鏡販売だけでなく、オプトメトリストによる視覚機能トレーニングを行える。発達障害の子のビジョン・トレーニング 視覚を鍛えて読み書き・運動上手に! (健康ライブラリー)などの著書がある。

尚時堂株式会社 (長崎県北松浦郡)
…オプトメトリストがいるメガネ店

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ADHD(注意欠如多動症) / LD・ディスレクシア / 視機能障害