概日リズム睡眠障害の非24時間型と睡眠相後退型の違いが見つかる―体内時計が真の夜型かどうか


立精神・神経医療研究センター (NCNP)の三島和夫先生らのグループによる、概日リズム睡眠障害の最新の研究成果が発表されました。

概日リズム睡眠障害の患者の体内時計の周期を皮膚細胞から簡単に測定できるようになったほか、睡眠時間が日に日にずれていく非24時間型(non-24)と、宵っ張りの朝寝坊で固定する睡眠相後退型(DSPS)とでは、異なる特徴が見られたとのことです。

この結果は、同じ概日リズム睡眠障害といっても、治療の目指すところはそれぞれ異なっていて、規則正しい生活とは一人ひとり異なるものだ、という点を示唆しているのかもしれません。

皮膚細胞を用いて『概日リズム睡眠-覚醒障害患者』の体内時計周期の異常を同定│プレスリリース詳細 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター

概日リズム睡眠-覚醒障害患者の体内時計周期の異常を皮膚細胞から同定-NCNP - QLifePro 医療ニュース

NCNP、皮膚細胞を用いて個人の体内時計の周期を簡便に推定する手法を開発 | マイナビニュース

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概日リズム睡眠障害の2つのタイプ

過去に取り上げたように、概日リズム睡眠障害とは、睡眠リズムが乱れて社会生活が難しくなる睡眠障害です。

全部で6種類あり、睡眠相後退型(極端な宵っ張り)、睡眠相前進型(極端な早起き)、非24時間型(時間がずれていく)、不規則型(リズムが崩壊している)のほか、時差ボケや交代勤務による睡眠障害も含まれます。

このブログでは、特に子どもの不登校や慢性疲労症候群と関わりが深いことから、概日リズム睡眠障害のうち、睡眠相後退型(DSPS)と非24時間型(non-24)を詳しく扱ってきました。

睡眠相後退型について今回のプレスリリースではこう説明されています。

睡眠-覚醒相後退障害では明け方にようやく寝ついて昼頃に目を覚まし、重症型では昼夜逆転に陥ります。

一般人口での有病率は約0.4〜1.7%、慢性不眠のある方の7〜10%が該当すると推定されています。

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非24時間型については次のように説明されています。

非24時間睡眠-覚醒リズム障害では睡眠時間帯が毎日徐々に遅れます。一般人口での有病率は不明ですが、全盲者の約20%、弱視者の約10%で認められます。

視覚障害のない方では稀ですが、睡眠障害外来では決して珍しくない疾患です。全米では10万人ほどが罹患しているとされ、日本の人口に換算すると4万人強の患者さんがいると推定されます。

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どちらも自分ではコントロールできないところで睡眠時間がずれてしまい、社会生活が難しくなってしまう、という点では共通しています。

しかし、過去の資料を見ると、極端な宵っ張りの朝寝坊である睡眠相後退型は、環境調整や高照度光療法、メラトニンによる治療が効きやすいのに対し、非24時間型は比較的難治性で治療が難しいという違いがありました。

非24時間型と睡眠相後退型の原因の違い

三島先生らのグループによる過去の研究では、非24時間型の人と睡眠相後退型の人とでは、遺伝的な体質の部分で異なる点があるのではないか、と示唆されていました。

まず、2012年の研究では、健常者の体内時計の周期が平均24時間7分、つまり ほぼ24時間周期だったの対して、夜型の健常者や非24時間型の人は平均24時間29分と、かなり長いことがわかっていました。

(独)国立精神・神経医療研究センター・三島和夫部長らの研究グループが、睡眠リズム異常の原因を解明- 新たな診断法の開発に期待 -│プレスリリース詳細 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター

このことは、生まれつき夜型の体質(クロノタイプ)で体内時計の周期が長い人たちがおり、朝型社会に合わせるのに苦労するばかりか、場合によっては非24時間型を発症しかねないリスクがあることを示唆していました。

概日リズム睡眠障害の患者さんの多くでは幼少時から夜型傾向が見られます(環境ではなく体質が強く関連)。

本研究により夜型と非同調型との間にも睡眠リズムが崩れやすくなる共通の生物学的基盤が存在することが明らかになりました。

今回のプレスリリースにもこう書かれています。

睡眠や体温、ホルモン分泌など多くの生体機能は体内時計(生物時計)システムによって約24時間周期のリズム(概日リズム、サーカディアンリズム)を刻んでいます。

ただし体内時計周期の長さには大きな個人差があるため、周期の長さが極端に短縮したり延長している人では24時間の昼夜サイクルに時刻合わせができなくなり、概日リズム睡眠-覚醒障害を発症すると考えられています。

三島先生の著書朝型勤務がダメな理由 あなたの睡眠を改善する最新知識によると、朝型・夜型という体質(クロノタイプ)は遺伝の影響が強く、環境によって変えることは難しいとされていました。

朝型夜型についての体質は「クロノタイプ」とも呼ばれていて、これは変えられない。過去の研究から、個人のクロノタイプの決定には遺伝的影響が約50%、加齢の影響が数%程度関わることが分かっている。

一方、環境的影響はないか、あってもごく小さいと言われていて、目覚ましや光を使って朝早く起きる生活を続けても、朝型体質に変わることは期待できないんだ。(p56)

つまり、非24時間型の人は、この遺伝的な夜型体質のクロノタイプが強いために、睡眠リズムがずれやすく、環境を変える治療もあまり効果が長続きしないのでしょう。

続いて2014年の研究では、夜型の健常者と非24時間型では、特殊な時計遺伝子の多型が多かったのに対し、睡眠相後退型では標準型の健常者と変わらない、という結果が出ていました。

国立精神・神経医療研究センター・三島和夫部長らの研究グループが、睡眠・覚醒リズム異常に関連する遺伝子の違いを同定│プレスリリース詳細 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター

非24時間型睡眠覚醒症候群(フリーラン型)に関係する遺伝子PER3が見つかる
時計遺伝子PER3の違いが概日リズム睡眠障害の発症や夜型指向性に関連していることが明らかになったそうです。

このことは、非24時間型は生まれついた夜型のクロノタイプとの関連性が強いのに対し、睡眠相後退型はそうではない、ということむを示しています。

睡眠相後退型でも、さまざまな時計遺伝子の異常が報告されることがありますが、非24時間型は、とりわけ体内時計に関わる遺伝子の影響が強いのかもしれません。

非24時間型は体内時計の周期が長い

今回の研究では、より簡便に体内時計の周期を測定できるようになったことから、睡眠相後退型や非24時間型と体内時計の周期の関係、治療の効果との関連が、より詳しく調査されました。

このたび対象とされたのは、概日リズム睡眠障害の人67名、そのうち睡眠相後退型が41名、非24時間型が26名、そして比較対象としての健常者50名です。

それぞれの皮膚細胞から、末梢時計の周期を測定し、体内時計のリズムを比較したところ、以下のような点が明らかになりました。

■非24時間型の体内時計の周期
以前の研究と同様、非24時間型(非同期型)の人たちは、健常者よりも体内時計の周期が長くなっていることが確かめられた。

その結果、非24時間睡眠-覚醒リズム障害群の末梢時計周期は健常者群に比較して有意に延長していることが確認できました(図3)。

■睡眠相後退型の体内時計の周期
睡眠相後退型の体内時計の周期は健常者とほとんど同じだった。一部の家系発症型(遺伝型)を除いて、末梢時計リズムの周期の問題ではないと思われる。

 一方、睡眠-覚醒相後退障害の患者では末梢時計周期の異常は認められず、時間療法の効果判定にも有用ではありませんでした。

ごく最近、家系発症型(遺伝型)の睡眠-覚醒相後退障害患者では体内時計周期が延長していることが報告されましたが、患者の大部分を占める孤発型の睡眠-覚醒相後退障害は体内時計周期の異常以外の原因で発症している可能性が示唆されました。

■体内時計の周期の長さと治療効果の関係
非24時間型の中でも、体内時計の周期が短めの人は時間療法(高照度光療法やメラトニン/メラトニン受容体作動薬など)の効果が高かった。逆に体内時計の周期が長いほど効果が薄かったことになる。睡眠相後退型のほうは、体内時計の周期と治療の効果に関係は見られなかった。

本研究の結果、時間療法の奏功した非24時間睡眠-覚醒リズム障害患者では、奏功しなかった患者に比較して末梢時計周期が有意に短いことがわかりました。

今後は、難治例の治療法の研究や、概日リズム障害の診断ツールの開発に取り組み、それぞれの人の体内時計に合ったテーラーメイド医療を目指していくそうです。

「真の夜型」と「なんちゃって夜型」

これらの結果を見てみると、これまでの研究と一致した理解が得られるように思います。

つまり、睡眠相後退型は、一部の家族性のものを除いて、体内時計の長周期、つまり生まれつきの夜型のクロノタイプ以外の要素によって発症しているということになります。

もともと通常の睡眠パターンを持つ健常者が、夜の光などの環境要因のせいで睡眠時間が後ろにずれてしまうのかもしれません。そうすると、治療もまた、環境要因を調整すれば改善されやすいのだと推測できます。

遺伝的な要素がまったく関係ないわけではなく、体内時計の夜型朝型(クロノタイプ)以外の遺伝要素、たとえば光への感受性が強く、夜の光で夜型リズムにずれこみやすいことや、何らかの神経伝達物質のバランス異常などが関係している可能性はありそうですが、今のところははっきりとしません。

他方、非24時間型のほうは、遺伝的に体内時計の周期が長く、生まれつき夜型のクロノタイプを持っているようです。そして生来の夜型傾向が強ければ強いほど、時間療法の効果も薄くなります。

この二つは、三島先生の朝型勤務がダメな理由 あなたの睡眠を改善する最新知識で書かれている「真の夜型」か「なんちゃって夜型」に相当するのでしょう。

「なんちゃって夜型」「真の夜型」というのは正式な学術用語じゃなく、僕たちが研究の結果をもとに面白半分で付けた名前なんだ。

このようなへんてこなネーミングは個人的にはあまり好きじゃないのだけれど、夜型の誤解を解くためにはいいかと思って。

夜型の調査研究の結果、何かの理由で宵っ張り型の生活をたまたま続けているうちに夜型生活が固定してしまった、でも必要があれば朝型生活に戻れる人が交じっていることが分かってきたんだ。

そのような朝型生活にすぐ戻れる夜型を「なんちゃって夜型」、朝型生活への適応が体質的に難しい夜型を「真の夜型」と呼んでいるんだよ。(p61)

睡眠相後退型の人たちがみな「なんちゃって夜型」と呼べるほど瞬時に朝型に戻れるわけではないでしょう。睡眠相後退症候群(DSPS)の治療が一筋縄ではいかないことは、このブログの過去記事で扱ってきたとおりです。

しかし、三島先生の調査では、睡眠相後退型の人たちの体内時計の周期の平均は、健常者とそれほど変わらず、夜型の人と共通する時計遺伝子の多型もさほど見られませんでした。つまり、その多くは「真の夜型」のクロノタイプではありませんでした。

この場合、夜に光に当たる生活環境やデジタルデバイスの使用などを見直して、染み付いた夜型志向の習慣を正していくことができれば、朝型生活に復帰することもできるはずです。

「なんちゃって夜型」という表現は、どうあがいても抜け出せない「真の夜型」ではなく、適切な治療を受ければ朝型に戻れる可能性がある体質なのだ、というポジティブな意味にとらえることができます。

もっとも、習慣を正すというのは非常に困難なことも事実です。学生の場合、家族の夜型生活、夜の塾通い、友だちとのSNSなどの習慣が関係していることもあり、家族ぐるみで根本的な変化が求められるかもしれません。

あるいは、別の何らかの心身の病気のせいで、朝起きるのが困難だったり、日中活動する体力がなかったりして、やむをえず夜型生活に陥ってしまっている人もいることでしょう。

【アーカイブから】眠れぬ子供たち 夜型生活の犠牲者
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他方、非24時間型の人たちや、その予備軍ともいえる健常者の夜型の人たちは、もともと「真の夜型」のクロノタイプに生まれついていて、朝型社会に無理に合わそうものなら生活が破綻しかねないといえます。

夜型体質の人の苦労を理解するには、下流(夜型)に向かう川に小舟を浮かべて、流されないように毎日必死にオールを漕ぐ船頭をイメージしていただきたい。

朝型の人は流れが緩やか、時には流れが止まっていることもある。

…これに対して夜型の人は激流との戦いである。流されないようにするのが精一杯。どうやって上流に行けというのか。カヤックのオリンピック選手でもいずれは疲れ果ててしまうだろう。(p50)

しかし、非24時間型の人たちは、睡眠相後退型の人と違って、自分の時間の流れで生活していればそれほど苦痛を感じないとも言われます。

この人たちは、かえって生活の枠組みを体質のほうに合わせ、定時制の学校やフリースクール、自営業などで、自分のクロノタイプに適した生き方を構築していくことが、ある意味で正しい「治療」となるのでしょう。

【理論編】 夜型のあなたが知っておくと幸せになれる5Tips
研究が明らかにしたところによると、夜型は欠点ではなく、努力の不足でもありません。時間生物学の専門家ラッセル・フォスターとレオン・クライツマンの著書「生物時計はなぜリズムを刻むのか」

「規則正しい生活とは、人それぞれのもの」

概日リズム睡眠障害といっても、一概に社会生活に合わせられるようにすることだけが治療ではない、といえる理由がここにあります。

夜更かしの習慣で「なんちゃって夜型」で睡眠相がずれているだけなのか、それとも「真の夜型」で社会に合わせるのが体質的に無理なのか、はっきり見極めないと、よかれと思って施した治療が、かえって悪影響を及ぼすことさえあるでしょう。

三島先生が述べるとおり、何がなんでも「早寝早起き」という指導は個人のクロノタイプを無視しており、多様性(ダイバーシティ)に逆行しています。

「不規則生活が恒常化している現代だから、朝型勤務もいいじゃないか、いちいち目くじら立てるな」という意見もあるけど、同じような理解不足からきているね。

皆同じにしようということがモンダイなんだ。規則正しい生活とは、人それぞれのものであって、軍隊式に皆で早起きする生活とは違う。(p59)

以前の記事で触れたように、時間生物学の最新の知見を取り入れた学校は、何が何でも朝型、という見方には固執せず、登校時間をずらしたり、さまざまな授業時間を設けたりして、クロノタイプの多様性への配慮を始めています。

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今回の研究では、個人の体内時計の周期がより簡単に測定できるようになった、という点にも触れられていましたから、それが実用されれば、個人のクロノタイプが朝型夜型のどちらに適しているか判別できるようになるでしょう。

その上で、それぞれの人にとって無理のない社会生活の選択肢を選べるようになれば、概日リズム睡眠障害を取り巻く悩みが、かなり解消されるのではないかと期待できます。

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