真っ暗闇の中で輝く人生を生きる、全身が光過敏症の女性アンナ・リンジーの物語

何時間も、わたしは目の前にある自分の手を見ることができない。

自分の腕も、膝も、足も、暗闇の箱の中で暮らすわたしは、世の中に何の影響も与えることがない。

まるでわたしが存在しないかのように、世の中は動いていく。(p160)

きる意欲もやりたいこともたくさんある。五体満足で飛び跳ねることも走り回ることもできる。それなのに、あらゆる光を遮断した、自分の手足さえ見えない真っ暗闇の部屋から出ることができない。

そんな生活を思い描くことができますか。

今回読んだ本、まっくらやみで見えたものは、成人してから重度の光過敏症を発症し、数奇な人生を送ることになった女性アンナ・リンジー(ペンネーム)によるエッセイです。

健康なころは想像もしなかったような奇妙な身体を抱えるようになって、暗闇の中で、戸惑い、耐え忍ぶ日々。しかし決して絶望せず、今の自分にできることを探し、道なき道を歩み続ける。そんな女性の等身大の姿がつづられた一冊です。

この記事では、彼女が抱えている独特な光過敏症とは何かを知るとともに、彼女の意欲的な日常生活から学べる、ただ健康かどうかだけが充実した人生を左右する尺度なのではない、という点を考えてみました。

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慢性疲労症候群を生き抜いたチャールズ・ダーウィンが遺してくれた研究と足跡に思うこと

ャールズ・ダーウィン。彼の名はおもに進化論によって知られています。世界中大勢の人たちが、日夜、彼の研究を引き合いに出し、その名を口にしています。

わたしはダーウィンが好きです。けれどもそれは、彼の特定の業績や、進化論の提唱者としての名声のためではありません。わたしが好きなのは、ダーウィンの人柄であり、ダーウィンの生き方です。

以前わたしは、さまざまなバイアスに注意したダーウィンの思考法に倣う、というテーマで記事を書いたことがありました。そこで書いたことは、今なお、わたしの思考の基礎をなしています。

ダーウィンも気をつけた「アインシュテルング効果」とは? 人は自分の意見の裏づけばかり探してしまう
自分の意見に固執して、他の人の新しい意見を無視してしまう傾向は「アインシュテルング効果」と呼ばれています。わたしたちが無意識のうちに自分の考えの裏付け証拠ばかり探していることや、ダ

わたしがダーウィンに注目するようになった理由のひとつは、わたしの敬愛する作家また医師であるオリヴァー・サックスが、チャールズ・ダーウィンの大ファンだったからです。

それとともに、もう一つの大きな理由は、ダーウィンが、わたしが学生時代以来抱えてきた慢性疲労症候群の当事者だったとされていることでした。

意識の川をゆく: 脳神経科医が探る「心」の起源でオリヴァー・サックスは、ダーウィンの病状についてこう書いていました。

ダーウィンはガラパゴス諸島からもどって以来ずっと悩まされていた謎の病気のせいで、40年ものあいだ病弱だった。一日中、嘔吐したり、ソファで寝て過ごしたりすることもあり、年をとるにつれ、心臓にも問題を抱えることになった。(p28)

ダーウィンが慢性疲労症候群だったのではないか、というのはもちろん死後診断ですが、ダーウィン自伝 (ちくま学芸文庫)によると、「いかなる内科医も器質的な原因を発見できなかったという事実」もあり、今日の慢性疲労症候群の病態にかなり近い症状に感じられます。(p335)

この記事では、わたしの個人的なダーウィンに対する思いをつづるとともに、慢性疲労症候群の当事者としてのダーウィンの足跡についても考えてみたいと思います。

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睡眠の常識を根底から覆してくれた「失われた夜の歴史」―概日リズム睡眠障害や解離の概念のパラダイムシフト

れまでわたしは、睡眠の本をたくさん読んできました。まがりなりにも、このブログのテーマのひとつは睡眠であり、わたしは概日リズム睡眠障害の当事者です。わたしの主治医は睡眠専門医です。

さまざまな睡眠の医学に触れてきて、愚かにも、眠りとは何か、睡眠とは何なのか、「だいたいわかっている」気になってしまっていました。

ところが、失われた夜の歴史という本に触れたことで、これまでの睡眠の常識をいちから構築し直さなければならない、と感じるほどの衝撃を受けました。中でもわたしの曇った常識のメガネを叩き割ってくれたのは、この部分でした。

さてそうなると、根本的な疑問が残る。この興味をそそる変則的な睡眠の取り方をどう説明すればよいのか。

というよりもむしろほんとうの謎と言うべきは、現在の私たちが中断のない睡眠を取っていることであり、それはどうすれば説明がつくのだろうか。

分割型の睡眠パターンは多くの野生動物にも見られ、近代になるまではそれが自然な、人類誕生以来の睡眠の取り方だったと考えるほうが筋が通っている。(p436)

この説明がいったい何を言わんとしているのか、ここだけを抜き出して説明するのは、わたしには不可能です。

しかしひとことで言うとしたら、わたしたちが健康な睡眠だと思っているものは、実は「人類誕生以来の睡眠の取り方」とまったく異なっているものだった、ということに集約されます。歴史的にも、生物学的にも異質な睡眠だったのです。

わたしたちが普通だと思っている睡眠が実は異質だった、などと言われてもまったくピンとこないと思いますから、ぜひとも、これから一緒に、失われた夜の歴史をめぐる旅にしばしお付き合いください。

概日リズム睡眠障害や不眠症、ロングスリーパーとショートスリーパー、さらには解離や夢といった、このブログで取り上げてきた睡眠にまつわる様々な話題の常識が覆り、パラダイムシフトに至るのを経験できるでしょう。

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ADHD研究の混乱に埋もれてしまった、知られざる敏感な子どもたちの歴史

しかしながら驚くべきことに、ほとんどの多動症の理論家は、多動症が当然ながらさまざまに解釈しうる複雑な概念であることを、頑なに受け容れたがらない。多元主義は、彼らの語彙にはまったくないようである。

…別のもっと重要な理由は、多動症を治療してきた医師や多動症児の親や教師、そして多動症患者のほとんどに加えて、多動症を論評し理論化するほとんどの人々が、その歴史についてほとんど知らないことである。(p11)

たしがADHDに興味を持って調べ始めたのが数年前。最初は自分の抱える問題の答えを見つけたかのように思い、喜々としてブログにまとめました。

ところが調べれば調べるほど疑問が増えていくばかり。ADHDは求めていた答えではなく、入り口に過ぎなくなりました。

わたしが最初に読んだ医学の本の専門家たちは、ADHDがすでに確立された概念、遺伝的な脳の発達障害だと自信たっぷりに語っていましたが、わたしには到底そうは思えなくなりました。

トラウマ専門医によると、後天的な愛着障害によってもADHD症状は現れます。睡眠専門医は慢性的な睡眠不足がADHD症状を引き起こすことを知っています。

アレルギー専門医は食物不耐症や添加物の影響を指摘しています。心理学者たちはそもそもADHDが病気かどうか疑問に思っています。

どの意見にもそれぞれ説得力があるのに、不思議なのは、なぜか最も主流とされる精神科医たちの多くが、かたくなに「脳の遺伝的な発達障害」という見方にこだわっていることでした。

なぜ、これほど複雑で多面性のある概念が、単なる一面からしか見ていない発達障害としてくくられ、社会にもそう受け入れられてしまっているのか。

またなぜ、当事者たちやその親たちが、ADHDは障害なのか、個性なのか、薬物療法は必要なのか、それとも麻薬のようなものなのか、といった論争を日夜かまびすしく戦わせているのか。

そして、心理学者たちが提唱してきたHSPのような、ADHDを別角度から説明できる概念が、今に至るまで医学界から徹底的に無視されてきたのはどうしてか。

その答えを教えてくれたのはハイパーアクティブ:ADHDの歴史はどう動いたかという本でした。

冒頭で引用したように、問題をややこしくしているのは、ADHDの医師も当事者も「その歴史についてほとんど知らないこと」にありました。そして、わたしもまたその一人だったことに、はたと気づかされました。

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感受性が強いあなたに自然が必要な5つの科学的根拠―都市や学校の過剰なストレスを癒やすには?

なにしろホモサピエンス全体で見れば、人類が正式に都会に生息する種になったのは、2008年のことだ。

この年、世界保健機関(WHO)が、都会に住む人の数が田舎に住む人の数を初めて上回ったと報告した。

アメリカ合衆国では昨年、この100年間で初めて郊外より都市部が速く成長した。その変化を別の観点から見れば、現代は人類史上最大の集団移動のさなかにあるといえる。(p24)

本に住む大勢の人たち、特に、このブログを見てくださっている人たちの多くは、生まれたときから近代都市に住んでいるかもしれません。

わたしもそうですが、狭い教室で学ぶ学校、舗装された道路、立ち並ぶ電柱やビル、通勤時の人混み、そうした都市の習慣や風景が当たり前の環境で育ってきたことでしょう。

そうした光景は、わたしたち個人個人にとっては「当たり前」のものですが、人類(ホモ・サピエンス)という種にとってはそうではありません。

なにしろ、冒頭で引用した本、NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる―最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方が述べているように、いまは人類史上最大の集団移動の時期だからです。

人類にとって、都市という環境は「当たり前」ではなく、ここ何世代かのうちに移り住んだ、未知なる新天地です。

わたしたち個人にとっては、生まれたときから慣れ親しんでいる当たり前の環境でも、人類という生物にとって異質なので、都市生活でさらされる多種多様な環境刺激は、無意識のうちに脳に慢性的な負荷をかけています。

その結果、例えば ひといちばい敏感な子(HSC)の本に書かれているように、知らず知らずのうちに過剰な負荷に翻弄され、発達障害のような問題行動に陥っている例が少なくないのではないか、と思われます。

HSCはたくさんのことに気がつくので、気が散りやすい傾向にあります。(p57)

過剰な刺激を受けて錯乱状態になり、ADD(Attention D Disorder=注意欠陥障害)のような症状を見せる子もいます

(でも、そのような刺激を受けていない時の注意力は良好で、大切なことには集中することができます。(p42)

この記事では、ADHDのような行動が、都市や学校という環境における過剰な、あるいは異質な刺激によって引き起こされている場合があることを示唆する研究を紹介します。

また、身のまわりにある、ごくありふれた都市の形、光、音、匂い、そして人混みなどが、気づかないうちにどれほど脳に負荷をかけているかを示す科学的研究を調べてみましょう。

そして、過剰すぎる刺激に圧倒されることで発症すると思われる解離症状が、荒々しい大自然のもとで癒されることがあるのはなぜか、考察したいと思います。

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