脳は絶望的状況で空想の他者を創り出す―サードマン,イマジナリーフレンド,愛する故人との対話

■雪山で遭難して、死を覚悟したときに、だれかの温かい声が聞こえた。不思議なほど冷静なその声は、恐怖を鎮め、あきらめないよう励まし、生き延びるよう導いてくれた。

■物心ついたときから、空想の友人がいる。わたしが不安になると、彼はいつも「大丈夫だよ」と優しく励まし、力づけ、強くしてくれる。

■愛する家族を亡くしたあと、いつしかその亡くなった愛する人と会話するようになった。静かな場所に行き、その声に耳を傾け、対話することで悲嘆が和らぎ、慰めを得ている。

あなたは、この3つの経験談に思い当たる点がありますか。あるいは、これらの人は頭がどうにかなってしまったのだろうか、とか、彼らは守護天使や死んだ人の魂のような霊的存在を感じているのだろう、とか考えますか。

この3つの現象は、決して珍しいものではなく、どれも頻繁に報告されるものです。それぞれサードマン現象(Thirdman)イマジナリーコンパニオン/イマジナリーフレンド(IC/IF)、そして亡くなった愛する故人との対話です。

奇跡の生還へ導く人―極限状況の「サードマン現象」という本によると、この3つの現象は共通のメカニズムの上に成り立っています。

サードマン、すなわち極地探検家、登山家などの冒険家や災難に苦しむ人が呼び出す案内人は、もっと日常的な危機に直面している人を助けるために呼び出すこともできるのだろうか。

…孤独な子供やストレスを受けた子供は、空想上の友達という形で仲間を呼び出す。配偶者を失った人も同様である。(p246)

なぜ脳は恐怖や不安を鎮めるために空想の他者をありありと描き出すのでしょうか。どうして、これら空想の他者は慰めを与えるのでしょうか。さまざまな文献を引用しつつ、この驚くべき脳の機能を詳しく解説しましょう。

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熊谷晋一郎先生による自閉スペクトラム症(ASD)の論考―社会的な少数派が「障害」と見なされている

京大学先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎先生(@skumagaya)による、自閉スペクトラム症(ASD)についての論考が、週刊医学界新聞に寄稿されていました。

自閉スペクトラム症(ASD)、アスペルガー症候群(AS)は、コミュニケーションや社会性の障害があると言われますが、実際には多数派に馴染めない少数派であるだけなのではないか、という考察が展開されています。

社会性やコミュニケーション障害の解明│医学書院/週刊医学界新聞(第3136号 2015年08月03日) はてなブックマーク - 医学書院/週刊医学界新聞(第3136号 2015年08月03日)

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自閉スペクトラム症(アスペルガー)の人は方言を話さない、表情模倣が乏しいなどの傾向

閉スペクトラム症(ASD)に関する研究で、表情模倣が乏しい、方言を話さないなどの、社会性に関わる特徴の傾向が見られることがニュースになっていました。

表情模倣が乏しい

京都大学の研究グループは、2015年4月に、「自閉症スペクトラム障害で目に見える表情模倣の障害」があるという研究成果を発表していました

自閉症スペクトラム障害で目に見える表情模倣の障害 — 京都大学 はてなブックマーク - 自閉症スペクトラム障害で目に見える表情模倣の障害 — 京都大学

自閉症スペクトラム障害者は表情模倣が少ない―社会性の障害の強さと関連 | サイエンス - 財経新聞 はてなブックマーク - 自閉症スペクトラム障害者は表情模倣が少ない―社会性の障害の強さと関連 | サイエンス - 財経新聞

自閉症スペクトラム障害、目に見えるレベルでの表情模倣の頻度が低下-京大 - QLifePro 医療ニュース はてなブックマーク - 自閉症スペクトラム障害、目に見えるレベルでの表情模倣の頻度が低下-京大 - QLifePro 医療ニュース

表情模倣とは、会話などのコミュニケーションをしているときに、自然に相手の顔の表情をまねることです。

定型発達者の表情模倣には、相手の印象がよくなったり、自分が相手を理解しやすくなったり、といった働きがあるそうです。

研究では、ASD15人、定型発達15人を比較したところ、ASDでは怒り表情、幸福表情ともに、目に見えるレベルで表情模倣の回数が低下していました。

また、表情模倣の頻度が低下するほど社会性の障害が強いこともわかったそうです。

この表情模倣の頻度が少ないことが、自閉スペクトラム症の人が定型発達の人とコミュニケーションしづらい社会性の問題の原因のひとつになっているのではと推察されています。

方言を話さない

弘前大教育学部の松本敏治教授は、社会性の障害について別の観点から調査し、自閉スペクトラム症の人は方言ではなく共通語を使う、との調査結果を発表しました。

自閉症スペクトラムの人、方言使わぬ傾向 弘前大教授ら調査 - ニュース - アピタル(医療・健康) はてなブックマーク - 自閉症スペクトラムの人、方言使わぬ傾向 弘前大教授ら調査 - ニュース - アピタル(医療・健康)

教授は「自閉症の人は津軽弁でなく、共通語を使う」と聞き、青森、秋田、さらに京都、高知、鹿児島など全国6地域にアンケートを実施したところ、やはりASDでは、定型発達・知的障害より「方言使用が少ない」との回答が多く寄せられたそうです。

この理由について、松本教授は、ASDの子は、テレビなどで繰り返される印象的なフレーズを背景抜きに丸ごと覚えて使っていると推測しています。

東北文化学園大の藤原加奈江教授は、別の意見を持っていて、ASDは複数の対象に注意を向けるのが苦手なので、言葉そのものと同時に疑問や感情、方言を表現するイントネーションにも気付くことが難しく、方言習得が困難である可能性もあると指摘しています。

そして、方言を話さない傾向は、知的障害を伴わずに社会生活を送っている一部の高機能ASDに限られるのでは、とも考えているそうです。

方言の使用は、相手への親しみを表現していて、いつでも共通語を使うのは、よそよそしいと感じられる場合もあるので、方言の使用が少ないのは、ASDの人が定型発達の人とコミュニケーションしにくい要因のひとつとなっているのかもしれません。

わたしも、個人的な感想として、知り合いのASDの友人が、確かに表情模倣や、方言が少ないなあ…と感じていたので、興味深く思いました。こちらが大笑いしていても視線を合わせず、表情を変えずに会話したり、妙に堅苦しい言葉を使ったりする感じがしていました。

すべての人に言えるわけではなく、あくまで一部のASDに見られる傾向にすぎないとは思いますが、背景に何らかの理由がありそうですね。

▼追記
松本先生がこのテーマの研究成果をまとめられた本を読みました。

自閉症はなぜ方言ではなく共通語を話すのかーHSPの脳機能との違いを考察する
自閉症は津軽弁を話さない、という興味深い研究を通して、自閉症とHSPの脳の特性を比較してみました。

脳の各部の結びつきを調べる新技術で統合失調症を判別できるように―客観的な診断方法のない病気に有効

合失調症の脳の活動を、「ネットワーク理論」に基づく方法で解析することで、健常者との違いが判明し、両者を画像解析で区別できるようになったそうです。

「ネットワーク理論」に基づいた新たな統合失調症の解析手法を開発-NICT - QLifePro 医療ニュース はてなブックマーク - 「ネットワーク理論」に基づいた新たな統合失調症の解析手法を開発-NICT - QLifePro 医療ニュース

統合失調症を脳活動で判別 情報機構など  :日本経済新聞 はてなブックマーク - 統合失調症を脳活動で判別 情報機構など  :日本経済新聞

統合失調症:fMRIでわかる 研究者ら、客観的診断へ道 - 毎日新聞 はてなブックマーク - 統合失調症:fMRIでわかる 研究者ら、客観的診断へ道 - 毎日新聞

統合失調症、脳活動で判別 阪大など  :日本経済新聞 はてなブックマーク - 統合失調症、脳活動で判別 阪大など  :日本経済新聞

プレスリリース | ネットワーク理論に基づいた新しい統合失調症の解析手法を開発 | NICT-情報通信研究機構 はてなブックマーク - プレスリリース | ネットワーク理論に基づいた新しい統合失調症の解析手法を開発 | NICT-情報通信研究機構

医療技術ニュース:患者の主観に左右されない客観的な統合失調症解析手法を開発 - MONOist(モノイスト) はてなブックマーク - 医療技術ニュース:患者の主観に左右されない客観的な統合失調症解析手法を開発 - MONOist(モノイスト)

ネットワーク理論とモジュール解析

NICT脳情報通信融合研究センター(CiNet)の下川哲也主任研究員、大阪大学大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授らは、機能的磁気共鳴画像化装置(fMRI)を使って、統合失調症の人の、安静時の脳活動の脳画像データを作成し、それに対して、脳内を活動の類似性で色分け(モジュール化)を試みました。

これまでの脳画像解析は、脳の特定の部位の異常を見つけようとしていましたが、研究グループは、複数の脳部位の相互作用に注目しました。

脳全体の相互作用を表現する学問は、「ネットワーク理論」と呼ばれます。それに基づき、脳内を活動の類似性で色分けすることは「モジュール解析」と呼ばれるそうです。

「モジュール解析」は、個人個人のモジュールの違いが大きいため、診断には役に立たないと思われていましたが、研究グループは、個々人の患者ではなく、集団に対してモジュール化を試みました。

具体的には、脳全体を約90カ所の領域に分けて、活動状況の波形を5分間計測し、各領域の波形を5種類に分類し、似ている波形の領域同士を同じ色にして画像化したそうです。

すると、統合失調症と健常者とでは、それぞれに特徴的な脳部位モジュールがあることがわかりました。

■統合失調症でない人では脳の後頭葉と頭頂葉の結び付きが強く、それらの部位は同じ色になったが、統合失調症の患者では結び付きが弱く、別の色になった。

■健康な人の脳では広い領域で同じ活動をするが、患者の脳では異なった活動をする部分に細かく分かれることがわかった。

こうした「モジュール解析」は、これまで脳画像でも区別できず、客観的な診断方法がない病気に応用できると考えられています。

橋本準教授は、以前にも、目の動きで統合失調症を判別する技術を発表しておられました。

うつ病や統合失調症を判別する技術の進歩。血液検査・目の動き・光トポグラフィー
うつ病や統合失調症を判別する技術についてのニュースが2つありました。

痛みや炎症で中枢神経の病気が悪化―多発性硬化症とパーキンソン病

々のニュースですが、痛みや炎症にともなって、中枢神経の病気が悪化するという報道がありました。

痛みで多発性硬化症が悪化

北海道大学の村上正晃教授らの研究グループによると、痛みが神経の病気を悪化させることが実証されたそうです。

痛みが神経の病気を悪化させることを、多発性硬化症の動物モデルで実証-北大 - QLifePro 医療ニュース はてなブックマーク - 痛みが神経の病気を悪化させることを、多発性硬化症の動物モデルで実証-北大 - QLifePro 医療ニュース

痛みが神経の病気を悪化させることを実証(遺伝子病制御研究所 教授 村上正晃)(PDF)

多発性硬化症の動物モデル(EAE)を使った研究では、

■実験的に痛みを与えるとEAEの症状が悪化した
■逆に鎮痛剤を与えるとその症状が改善した
■症状が落ち着いたとき(寛解期)に痛みを誘導すると、EAE の症状が再発した
■他のストレスではEAEは再発しなかった

といったことがわかりました。

このことは、痛みが直接的に多発性硬化症の進行に関与していることを示していて、鎮痛剤を用いた痛みの抑制や、神経シグナルの抑制物質が、病気の再発を防ぐ新たな手段になると述べられています。

また、この経路は、研究グループが以前発見した、地球の重力がふくらはぎの筋肉を刺激し、腰髄の血管に免疫細胞を集めて多発性硬化症を発症させる「ゲートウェイ反射」と同様のもので、その二例目だとわかったとのことです。

「ゲートウェイ反射」とは、感覚神経―交感神経の活性化を通じて、神経ネットワークが生じ、臓器の炎症状態を変化させるというものです。

多発性硬化症は、初発時には、重力の「ゲートウェイ反射」によって、第五腰髄(L5)の背側の血管に炎症が生じますが、再発時には、痛みの「ゲートウェイ反射」によって脳の前帯状回(AAC)が刺激され、それにともなってL5の腹側の血管に炎症が起きるとのことです。

米国ボストンの多発性硬化症を患う1123人を対象とした研究によると、多発性硬化症の症状の悪化は、さまざまな指標によって予測できるというニュースもありました

炎症でパーキンソン病が悪化

別のニュースによると、国立病院機構宇多野病院の澤田秀幸部長らのグループは、パーキンソン病の進行に炎症性物質の血中濃度が関係していることを突き止めました。

パーキンソン病、炎症物質で進行 京都・宇多野病院調査 : 京都新聞 はてなブックマーク - パーキンソン病、炎症物質で進行 京都・宇多野病院調査 : 京都新聞

宇多野病院を受診したパーキンソン病の患者313人(平均69.1歳)について、血中の炎症性物質の指標であるCRP値と病気の進行との関連を調べたところ、

■全体の約3分の2は血液1リットル中のCRP値が0.8mg以下で、10年生存率は約70%
■残りの3分の1はCRP値が高く、10年生存率は50%未満
■患者の年齢や発症からの期間は関係なかった

ということがわかったそうです。

澤田部長は

パーキンソン病の患者では、炎症を伴うような病気やけがは悪化につながる恐れがあるので、できるだけ早く治療するのが望ましい

と述べ、同時に、体の炎症を抑える治療で病気の進行を遅らせることができる可能性についても触れています。

このブログで取り上げている慢性疲労症候群や線維筋痛症も中枢神経の病気であり、痛みや炎症を伴うことが知られていますが、その痛みや炎症そのものが病気を悪化させている可能性があるのかもしれません。痛みや炎症を抑える治療が大切になるのかな、と思いました。