身体に刻まれた「発達性トラウマ」―幾多の診断名に覆い隠された真実を暴く

こうした患者たちは、精神医療を受けている間に、互いに関連のない診断を五つか六つ受けるのが普通だ。

医師が気分変動に焦点を絞れば双極性障害とみなされ…医師が彼らの絶望感にいちばん強い印象を受ければ、大うつ病を患っていると言われて…医師が落ち着きのなさと注意力の欠乏に注目したら、注意欠如・多動性障害(ADHD)に分類され…たまたまトラウマ歴を聴取し、患者が関連情報を自ら提供するようなことがあれば、PTSDという診断を受けるかもしれない。

これらの診断のどれ一つとして、完全に的外れではないが、どれもみな、これらの患者が何者か、何を患っているのかを有意義なかたちで説明する端緒さえつかめていない。(p226-227)

ラウマ研究の権威、ベッセル・ヴァン・デア・コーク医師は、まだPTSDという概念が知られていない時代にベトナム戦争の退役軍人の強烈な症状を目の当たりにし、彼らの苦悩の原因を突き止めるべく、トラウマ研究の道へと進みました。

トラウマがもたらす破壊的な影響について理解を深めるうち、彼は不可解な患者たちの一群に気づきます。

20歳にならないうちから、うつ病、躁うつ病、発達障害、パーソナリティ障害などの診断名を複数つけられ、さらには慢性疲労や慢性疼痛、偏頭痛、自己免疫疾患など、多種多様な身体症状まで抱えています。

彼らの行動は成人のPTSD患者と似ていますが、そのほとんどはPTSDの診断基準を満たしません。なぜなら、彼らは具体的なトラウマの記憶を持ち合わせておらず、ときには幸せな子供時代だったと回想することさえあるからです。

いったいこの異常な症状は何を意味しているのでしょうか。

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法から、おのが人生の経験と、幅広い専門知識、そして本物の教科書は患者だけである、という信念を駆使して、「発達性トラウマ」という真実を探り出した情熱の医師の物語を見てみましょう。

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頭痛で学校に行けない子どもの脳脊髄液減少症―よく似た起立性調節障害(OD)と区別するポイントとは?

元気であったわが子が、ある日を境として頭痛を訴えるようになった。次第に、めまいや疲れなども訴えるようになった。朝が起きづらく、無気力に見える。微熱があることもあり、家の中でダラダラ横になってばかりで学校を休みがちとなった。

複数の病院、診療科で診察・検査を受けたが、「異常なし」、あるいは「風邪」「片頭痛」「頚部捻挫」「自律神経失調症」「起立性調節障害」「うつ病」「身体表現性障害」等の診断を受けた。

しかし、病院の治療・薬は効かない。比較的体調の良い時期もあるが長続きしない。病気にかかりやすくて虚弱体質になってしまった。(p91)

れは、小児・若年者の起立性頭痛と脳脊髄液減少症に載せられている、子どもの「脳脊髄液減少症」の特徴です。

子どもの不登校の原因として、最近よく知られるようになった病気に、「起立性調節障害」(OD)という思春期特有の自律神経の異常があります。

起立性調節障害(OD)の主訴は立ち上がったときの血圧異常による頭痛や疲れですが、それと似たような症状を示す重篤な病気として、「脳脊髄液減少症」が関与しているケースがあることがわかってきました。

脳脊髄液減少症は、脳脊髄液が漏れ出したり、減少したりして、頭痛やたちくらみ、疲労感、めまいなどが生じる病気です。子どもの脳脊髄液減少症は、大人の場合と違った特徴もあります。

この記事では幾つかの専門家による解説資料を参考に、子どもの脳脊髄液減少症の特徴や、起立性調節障害など、よく似た病気と区別するポイントについてまとめました。

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PTSDは「心の傷」ではなく脳の炎症を伴う病気―トラウマ記憶の治療法をめぐる最近の研究

PTSD(心的外傷後ストレス障害)に対して、新たな薬物療法のアプローチが開発されているというニュースが、ここ数ヶ月の間に何度か報道されていました。

2016年8月のニュースでは、トラウマ記憶を短期間思い出させたあと、海馬の神経新生を刺激する薬物であるメマンチンを用いることで、記憶を修正できる可能性があるということ。

2016年11月のニュースでは、PTSDの患者では、脳のミクログリア細胞に炎症がみられ、炎症を抑える薬物であるミノサイクリンを投与することでトラウマに伴う行動の異常が少なくなること。

マウスでの実験成果をそのまま人間に当てはめるわけにはいきませんが、PTSDが脳の炎症という生化学的な一面を持っていることを明らかにした興味深い研究で、被災者を対象に臨床試験計画も進められているそうです。

そのほかにも、VRやニューロフィードバックを用いた治療など、近年のPTSDやトラウマ記憶に関する研究を、簡単に概観してみました。

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抑うつ感や自殺念慮・罪悪感には、それぞれ血液中の異なる物質が関与している(九州大学の研究)

州大学などの共同研究グループが、うつ病・躁うつ病の患者の血液を解析して、抑うつ感や、罪悪感、自殺念慮など、症状ごとに異なる代謝物が関係していることを発見したというニュースがありました。

うつ病の重症度、および「死にたい気持ち(自殺念慮)」に関連する血中代謝物を同定 ~うつ病の客観的診断法開発への応用に期待~ | 研究成果 | 九州大学(KYUSHU UNIVERSITY)

うつ病の重症度、および「死にたい気持ち(自殺念慮)」に関連する血中代謝物を同定~うつ病の客観的診断法開発への応用に期待~│プレスリリース

うつ病の重症度、自殺念慮に関連する血中代謝物を同定-九大ら - QLifePro 医療ニュース

血液でうつ病の客観的診断に道 - 日経テクノロジーオンライン

うつ病の重症度や"死にたい気持ち"に関わる血中代謝物を同定 - 九大など | マイナビニュース

うつ病の重症度、採血による評価方法開発に道 九大など:朝日新聞デジタル

九大ら、うつ病の重症度や自殺念慮に関連する血中代謝物を同定 | 財経新聞

うつ病は「心の病気」や「精神的な病気」とみなされることが多く、診断も、面接や問診票など、本人の主観的な訴えに基づいて専門家が判断するのが一般的です。

しかし、今回の研究によって、抑うつ気分や、意欲低下、罪悪感、自殺念慮など、心の問題とされてきたさまざまな症状を、血液検査で客観的に測定したり、あらかじめリスクを判定したりできるようになるかもしれません。

また、自殺念慮や罪悪感といった感情が、単なる「気の持ちよう」ではなく、全身の代謝異常を伴う実体のあるものだ、という認識も深まるかもしれません。

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視力検査でわからない3つの視機能異常とは?―発達障害やディスレクシアに多い「見る力」の弱さ

見え方に問題があると言うと、近視や乱視、または老眼などによる視力低下が思い浮かぶ。

目は必要に応じて動き、色や形、物の動きや位置をとらえることは、あたり前だと私たちは思い込み、視力以外見え方の問題の存在について考えることはほとんどない。(p9)

「見る力」が弱い、と言うと、多くの人が思い浮かべるのは、視力が弱いという意味かもしれません。

ところが、冒頭に引用した学習につまずく子どもの見る力―視力がよいのに見る力が弱い原因とその支援の言葉のように、「見る力」には視力以外のさまざまな能力が含まれています。

そして、発達障害や学習障害(LD)の子どもは、視力は正常でも、一般の視力検査には表れないさまざまな「見る力」が低下しているせいで、学習につまずいたり、日常生活で苦労を味わったりすることが多いと言われています。

中には、ADHD(注意欠如多動症)の不注意や多動性など、発達障害の症状だとみなされているものが、じつは「見る力」に問題があるせいで生じていることもあるそうです。

この記事では、発達障害の子どもの視知覚認識問題への対処法などの本から、あまり知られていない見え方の異常として、見た目でわからない「隠れ斜視」、近くを見る作業が難しくなる「輻輳不全」(ふくそうふぜん)、文字や行を見失いやすい「衝動性眼球運動の弱さ」について取り上げます。

そうした気づかれにくい「見る力」の異常を検査する方法や、治療に役立つ情報も紹介したいと思います。

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