だから君は慢性疲労に閉じ込められた―生きるエネルギーを枯渇させる解離そして不動状態

不登校状態とは生命の脳の疲労であるため生活エネルギーがなくなってしまっており、自らを守るためには、じっと動かず回復を待つこと、すなわち引きこもりが必要となる。

…不登校は「心理的な問題」と漠然としてつかみようもない解釈がなされつづけてきたが、実際には中枢神経機能障害、ホルモン分泌機能障害、免疫機能障害の三大障害を伴うものであり、人生最大の危機に発展する例があることがわかってきた。(p3-5)

どもの不登校、そして小児慢性疲労症候群(CCFS)の専門家である三池輝久先生は、学校を捨ててみよう!―子どもの脳は疲れはてている (講談社プラスアルファ新書)でこう書いています。

本来、活力に満ちあふれているはずの学生時代に、想像を絶する慢性疲労とエネルギーの枯渇に閉じ込められ、まったく身動きが取れなくなり、わけもわからないままに不登校、引きこもり、そして「人生最大の危機」へと発展していく。

いったいなぜ、活力に満ち満ちたはずの学生にそんなことが起こるのか。このブログでは、ずっとその理由を調べ続けてきました。

重要な手がかりとなったのは、エネルギーの枯渇、慢性疲労、そして生きているのか死んでいるのかもわからない状態をもたらす、生物学的なからだのメカニズム、「不動系」です。

身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアにはこう書かれています。

この絶体絶命の不動系は緊急時に短時間のみ機能するようになっている。

慢性的に作動すれば、本当に生きているわけでも実際に死んでいるわけでもない非存在という地獄のような状態に陥ってしまう。(p127)

この記事ではこの「不動系」という神経の働きを中心に、次のような話題を解き明かしていきます。

■なぜ慢性疲労と解離はつながっているのか

■解離に陥った人の自律神経系では何が起こっているか

■不登校や引きこもり、特に小児慢性疲労症候群(CCFS)と呼ばれる病態にみられる極度のエネルギーの枯渇が解離と関わっているといえるのはなぜか

■どうすれば慢性化した不動状態から回復できるか

専門家ではなく当事者目線での分析にすぎず、非常に長文ですが、さまざまな資料から系統立てて考察した、このブログの里程標となる記事なので、以上の話題に興味のある方がいらっしゃいましたら、どうぞお付き合いください。

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男性の解離性障害は女性とは症状の表れ方が異なる? 文化ストレスによる性差を考える

の記事は、以下の記事の補足です。

PTSDと解離の11の違い―実は脳科学的には正反対のトラウマ反応だった
脳科学的には正反対の反応とされるPTSDと解離。両者の違いと共通点を「愛着」という観点から考え、ADHDや境界性パーソナリティ障害とも密接に関連する解離やPTSDの正体を明らかにし

本文では、解離は回避型寄りの愛着スタイルに伴う反応であり、PTSDは不安型寄りの愛着スタイルに伴う反応だと考えました。そして、たとえば境界性パーソナリティ障害は後者にあたると書きました。この分類に従えば、他のさまざまな病態も説明することができます。

たとえば、回避型の愛着スタイルに多い強迫性パーソナリティ障害(批判的な完璧主義者)、反社会性パーソナリティ障害(犯罪者)、自己愛性パーソナリティ障害(尊大で横柄な人)、ジゾイドパーソナリティ障害(極めて孤独を好む人)などは、人間味のある感情や記憶を解離しているために、冷徹で批判的、尊大な性格になります。

これらは、解離傾向が強いため、本文中の分類では解離性障害と似たような場所に位置するとみなせます。

しかし、上記の各種パーソナリティ障害と解離性障害では、ずいぶんと症状の現れ方が違っているように見えます。これら各種パーソナリティ障害は解離傾向の強い男性に多く、解離性障害は解離傾向の強い女性に多いという違いがあります。

男性と女性とで解離症状の現れ方が違うのはどうしてでしょうか。

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なぜ耐えがたい恥は人を生ける屍にしてしまうのか―「公開羞恥刑」と解離の深いつながり

なたが今まで「人生でいちばん恥ずかしい」という思いをしたのはいつですか?

そう問われると、思い出したくもない記憶がいくつも頭をよぎって、思わず顔をしかめたり、思考を追い払ったりしてしまう人もいるでしょう。

「恥」という感情は、ひときわ耐えがたいものの一つです。痛みに強く、怒りをコントロールでき、悲しみにも呑み込まれない屈強な人でも、恥ずかしさだけは耐えることができないかもしれません。

恥ずかしさは、わたしたちにとって身近なものですが、度を越えた恥ずかしさは、人を殺すことさえあります。ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち (光文社新書)という本で取材された、精神分析学者ジェームズ・ギリガンはこう語ります。

あらゆる暴力は、その被害者から自尊心を奪い、代わりに恥の感情を植えつける。

それは事実上、その人を殺すのと同じだ。(424)

「恥」が人を殺すとはどういうことでしょうか。

「恥」は、これまでに数限りない人を殺してきました。恥が殺すのは、その人の心、また人格です。学校でのいじめや先生によるあげつらいが子どもを不登校に追い詰めたり、虐待や性被害が心を破壊したりするのは、耐えがたいまでの恥にさらされるからです。

特に、公の場で、たとえばクラスメイトたちの前や、大勢の人が見ている会場、そして今日ではあらゆる人がアクセスできるSNS上などで恥をかかされることは、ひときわ強いショックを与え、PTSDに苦しませ、ひどい場合は自殺へと追い込むことさえあります。

なぜならそれは、古代において死刑よりも残酷と言われ、先進国ではあえて廃止されてさえいる刑罰、犯罪者や異国民を辱めるために行われていた「公開羞恥刑」(こうかいしゅうちけい)と同じ構造をしているからです。

現代のいじめなどにも見られる「公開羞恥刑」としての辱めは、どこにも逃げ場がない、安心できる居場所をことごとく奪い去るといったことから、このブログで取り上げてきた「解離」、つまり心のシャットダウンや切り離しと、非常に深いつながりをもっています。

なぜ公の場で恥をかかされる公開羞恥刑のような体験が、死刑よりも恐ろしいとまで言われるほど残酷で、人格を殺害するのか、なぜ恥と解離は本質的に絡み合っているのか、幾つかの本から見てみましょう、

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脳という劇場の不思議な幻視「シャルル・ボネ症候群」とは―レビー小体病や解離性障害と比較する

「病院の点滴スタンドの上に小人さんが見えるのよ」。

そんなことを言われたら、この人は冗談を言っているのだろうか? と頭をひねってしまうのが普通かもしれません。人によっては気は確かなのだろうか、と思うこともあるでしょう。

しかし、わたしの場合は違いました。そう話してくれている人が、とても頭脳明晰なおばあちゃんで、大半の若い人たちよりも頭の回転が鋭く、とても理知的なのを知っていたからです。

話を聞いてみると、その人は目の病気のために視野が欠けていて、その欠けた部分を補うかのように、妖精や小人のような不可思議な幻が見えるのだということでした。

当人は、もちろん見えているものが幻であることを知っていました。その幻はとてもリアルで本物のように動くのですが、そんなものは現実にはいないと知っているし、あまりに場違いなので、幻覚だとはっきりわかるようでした。

この不思議なエピソードは、ずっとわたしの記憶に刻まれていたのですが、数年前、たまたま稀で特異な精神症候群ないし状態像という本を読んでいるとき、まさしくこれだ、という記述を見つけて驚きました。

それはシャルル・ボネ症候群(Charles Bonnet Syndrome:CBS)。

目の病気で視野が歪んだり欠けたりする年配の人に現れる幻視で、異国風の楽しい幻覚が多く、それを見ている本人は至って冷静で、幻覚を幻覚だと認識している、とのことでした。

その後、アルツハイマーはなぜアルツハイマーになったのか 病名になった人々の物語など別の幾つかの本にもシャルル・ボネ症候群の話が紹介されていて、この幻覚は決してまれなものではなく、視覚障害を持つ高齢者の少なくとも15%ほどは経験しているのだと知りました。

また、この幻覚は視覚障害のある高齢者のみならず、別の原因、たとえば大脳皮質の不具合などによっても起こることを知りました。つまり、目の病気がなくても、はたまた高齢者でなく若い人であっても、同じような幻覚を見る可能性があるのです。

この記事ではシャルル・ボネ症候群の幻覚の特徴を調べるとともに、レビー小体病や解離性障害の幻覚と比較してみたいと思います。

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当事者研究や統計調査で気をつけたい「基準率錯誤」

たしがこのブログで空想の友だちの記事を書き始めたころに比べると、最近は当事者たちの情報発信が活発になっており、インターネット上で統計調査のアンケートをしている人も見かけます。

当事者研究は、特にアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)などの発達障害の研究で注目されてきました。

近年は、発達障害の人たちによるネット上での情報発信や当事者研究が活発で、社会にあまり馴染めない人たちにとっては、ネット上のコミュニティーが、交流の中心地となっている印象もあります。

他方、このブログでは過去の記事で、解離やイマジナリーコンパニオン(空想の友だち)の当事者研究が必要だと書きました。いまだ実態がよく知られていない少数派が多い分野です。

イマジナリーフレンド(IF)「私の中の他人」をめぐる更なる4つの考察
心の中に別の自分を感じる、空想の友だち現象について、子どものイマジナリーフレンド、青年期のイマジナリーフレンド、そして解離性同一性障害の交代人格にはつながりがあるのか、という点を「

この分野でも、近年は、ネット上の情報交換が活発になってきたように思います。おそらく、わたしの記事など関係なしに、時代の流れとして、当事者研究の活動が活発になってきているのでしょう。

そのようにして、これまであまり知られていなかった現象に光が当たるのは、とても有意義なことです。

しかし同時に、調査結果に対して、「基準率の錯誤」が入りこまないように注意することも必要です。

統計調査をするときにどうしても避けて通れないのが「基準率」(事前確率)の問題です。結果を受け入れる前に、サンプリングのレベルで、バイアスがかかっていないか吟味する必要があります。

この記事では、特に解離のような少数派や私秘性を特色とする文化について考える際、統計を読むときに注意したいことを考えてみました。

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