見捨てられ不安に敏感な「境界性パーソナリティ障害」とは?―白と黒の世界を揺れ動く両極端な人たち

境界性パーソナリティ障害は、相手にべったりと依存するものの不安定な人間関係や、極端な気分変動、自傷行為や度重なる自殺企図などの自己破壊的行動を特徴とする。(p229)

れは、トラウマ研究の専門家、ヴァン・デア・コーク博士の著書身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法にある境界性パーソナリティ障害(BPD:Borderline Personality Disorder)の説明です。

この世界にはさまざまな色があふれています。色とりどりの風景は、わたしたちを魅了してやみません。

ところが、もし微妙な色の違いを見わけられないとすればどうでしょうか。もし白と黒の二種類しかわからないとしたら。さまざまな美しいものに気づけないだけでなく、生きていくことそのものが窮屈に、不自由に思えるでしょう。

比喩的な意味で、そのような状態に陥ってしまう病気、つまり物事を白か黒でしか判断できないために、いつも生きづらさを感じ、両極端に振り回されてしまう状態、それが境界性パーソナリティ障害です。

このエントリでは境界性パーソナリティ障害の人の気持ちがわかる本 (こころライブラリー イラスト版)や、そのほかの幾つかの本にもとづき、BPDの特徴や、本人や周りの人ができる対処法をまとめてみたいと思います。

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これはどんな本?

境界性パーソナリティ障害の人の気持ちがわかる本 (こころライブラリー イラスト版)はさまざまな病気をイラスト入りで分かりやすく図説している講談社こころライブラリー イラスト版の一冊です。

著者の三田精神療法研究所所長、牛島定信さんは、何冊かBPDの本を書かれた方のようです。近刊はパーソナリティ障害とは何か (講談社現代新書)です。

また、新版 よくわかる境界性パーソナリティ障害 (こころのクスリBOOKS)はパーソナリティ障害の専門家、帝京大学医学部附属病院の林直樹先生の著書の2017年改訂版で、やはりイラスト入りでわかりやすい体裁が特徴です。

わたしは昔、それと知らずにボーダーラインの人と知り合ったことがあります。気持ちが不安定ですが、とても魅力的な人でした。後に本人がボーダーのようだと話してくれて、いろいろな不思議な言動に納得がいきました。

わたし自身、学生時代には、境界性パーソナリティ障害とはいかないまでも、一時的にそれに似た傾向を示していた記憶があります。

非侵襲的脳機能計測を用いた意欲の脳内機序と学習効率に関するコホート研究のp24によると慢性疲労で不登校になる子どもは、各パーソナリティのうち、「境界性」の得点が高く「自己愛性」が低いということがわかっています。おそらくわたしもそうだったのでしょう。

最近、友田明美先生の資料を読んでいて、再びBPDのことを目にしました。BPDは当人にとっても、周りの人にとっても、ひときわ辛く対処しがたい問題だと思います。この病気について少しでも知っておこうと思って本書を手に取りました。

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境界性パーソナリティ障害(BPD)とは?

境界性パーソナリティ障害の「境界性」とは、もともと統合失調症と不安神経症の境目にあり、どちらとも診断できない、という意味で名づけられたそうです。今ではそのような意味はもっていません。

それでも、BPDの人には、多くの場合、共通する特徴がみられます。どのような点があるのでしょうか。

すべて白か黒

■あんなに愛していたのに、裏切られた
■心の底では親にかまってほしいのに、こんな自分にした親は大嫌い

空腹で泣いているとき授乳してくれる母親、ちょっと用事があってそうしてくれない母親。どちらも同じ母親のはずですが、赤ちゃんには“よい母親”と“悪い母親”は別の人のように思えます。これをメラニー・クラインは部分的対象関係と呼んだそうです。(p40)

大人になると、人間には良い面も悪い面もあり、良いところも悪いところもその人の一部なのだ、と納得できるようになります。

ところがボーダーラインの人は赤ちゃんと同じように、両極端で考えてしまうところがあります。白か黒かでしか判断できず、グレーゾーンがないのです。

知り合ったばかりの人を運命の人や親友だと思いこんで極端に褒め生やすこと(理想化)、ちょっとしたことで幻滅してしまい手のひらを返して徹底的にけなしてしまうこと(脱価値化)は、境界性パーソナリティの人の人間関係の大きな特徴です。

ときおり、嘘をついて周りをかき乱すと非難されますが、嘘をついているつもりはありません。物事の一部分しか見られないために、認知がずれているだけなのです。受け入れてほしいという思いから、相手によって言動を使い分けてしまうこともあります。(p65)

見捨てられる不安

■片時も離れたくない恋人だったのに、翌日には一転して怒りをぶちまけてしまう。
■自分はいつもあらゆるところで失敗ばかりしていて嫌でしょうがない

BPDの人は普通の人以上に感情が揺れ動きますが、さまざまな行動の根底にあるのは、「わたしを見捨てないで」という悲痛な叫びだと言われています。(p10)

大切な存在に見捨てられることを避けようとする「なりふりかまわない努力 」( frantic efforts )は境界性パーソナリティ障害の中核ともいえる特徴です。

見捨てられることを極度に恐れ、見捨てられそうな兆候に敏感なので、ささいなことに過剰に反応し、必死になってしまうのです。

寂しがり屋の子ども

■仕事にも行かないでわたしと一緒にいてほしい
■すぐに、今すぐ満たしてほしい

幼い子どもが母親に頼るように、24時間ずっと一緒にいて、どんなことも聞き入れてほしいと願います。

それが満たされないと、自分を見捨てようとしているのかもしれない、という思いが沸き上がってきて、冷静さを失ってしまいます。(p14,42)

とても傷つきやすく不安定

■感情の浮き沈みが激しくて疲れ果ててしまう。激しく一喜一憂している。
■ささいなことだと言われるけれど、突然怒ってしまって自分でも制御できない

BPDの人は普段は気さくで落ち着いています。しかし、ちょっとした言葉に深く傷つけられて、衝動的に怒りを爆発させてしまいます。感情のコントロールがうまくいきません。

それでも、嵐のような感情が去ると、後悔して申し訳なく感じます。感情もまた両極端なのです。(p16-19,35)

気分の変動が激しいために、双極性障害のような躁の時期と、うつの時期とを行き来する人もいます。軽くハイな時期には交友関係を広げてみんなと親しくなるもの、うつになると全てが虚しくなり態度を豹変させてしまいます。

衝動的にリストカット

■異常に緊張して気づいたらリスカをしていた
■お母さんに気持ちを否定されて、辛くなって切ってしまった

BPDはリストカットをはじめ、過食や大量服薬、万引きなどの破壊的な衝動を伴うことがあります。

決して、よくいわれるように注目されたい、親をあやつりたいと考えているとは限らないと書かれています。パニックになって衝動的に自傷してしまい、自分でもなぜだかわかりません。(p72)

ただ、不安が膨らんでいっぱいいっぱいになったとき、破壊的な衝動に身を委ねると、一時的に心が開放されるのです。(p20-23)

後で述べるように、こうした特徴は、解離性障害とも関係しているので、見極めが大切です。

自分が空っぽ

■なんのために生きているかわからない
■自分なんて生きている価値がない

自我同一性(アイデンティティ)の確立に悩み、自分には個性がないと苦しみます。無理をして周りに合わせ、表面は穏やかに取り繕っていますが、心のなかではうつろで、自分が人形のように感じます。(p30)

良い自分は仮面を被って演じているにすぎず、本当の自分は悪い自分でどうしようもない。みんなわたしを見捨てるに違いないと極端に考えます。(p31)

いつも全力投球

■会った瞬間に親友になれると思った
■あなたがいちばん。あなたに見捨てられると生きていけない

信じ裏切られる対象は常にひとりです。だれかに夢中になると、その人以外は見えません。ひとりの相手に信頼を全力投球して、過度の期待を寄せてしまいます。(p39)

すぐに恋愛感情を抱いてしまったり、会ったばかりの医者を理想化してしまったりします。(p80)

ときどき記憶が無い

■いらいらを爆発させてしまった記憶がない
■あとでメールの履歴を見て驚いてしまう

衝動的な行動をしてしまった記憶がないことがあるそうです。苦しみやストレスが大きくなりすぎて、現実から心を切り離す「解離」が部分的に生じてしまっているのです。(p50)

生きていても仕方がない

■親や恋人にすがっても、リスカや過食をしても、満たされるのは一時だけ
■いつも何かが足りない、すべてむなしい

死ぬことを目的に計画する自殺企図、衝動的に自分を傷つけてしまう自傷行為、害になるとわかっていてもやめられない自己破壊行為に至ってしまいます。悲しいことにBPDの人の5-10%は自殺に至ってしまうそうです。

新版 よくわかる境界性パーソナリティ障害 (こころのクスリBOOKS)によると、たとえば、睡眠薬の過量服薬で亡くなったマリリンモンローや、度重なる自殺未遂の末に亡くなった太宰治は境界性パーソナリティ障害の傾向が強かったと言われています。(p46)

さまざまな調査によれば、境界性パーソナリティ障害の人は一般人口の1-2%、つまり100人に1人か2人くらいの割合でいるようですが、とりわけ精神科で治療を受けている人の10%、自殺未遂をする人に至っては50%近くが境界性パーソナリティ障害だと言われています。(p16)

BPDの脳画像研究

いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳によると、トラウマ研究の専門家マーチン・タイチャーは、かつて、境界性パーソナリティ障害の患者の症状は、単なる心理的なものではなく、脳の問題ではないか、と考えるようになりました。

筆者の所属するマクリーン病院の研究チームの主任であるTeicher(タイチャー)は1980年代初期、境界性人格障害の患者を診るうちに、彼らが子ども時代にさまざまな虐待を受けたことで、大脳辺縁系の発達がうまくいかなかったのではないかという仮設を思いついた。

つまり、子ども時代の虐待のせいで、扁桃体が過剰に興奮するようになったりも、大量のストレスホルミン(具体的には副腎皮質ステロイドホルミン)にさらされることによって、海馬の発達がダメージを受けるのではないだろうかと考えた。(p53)

扁桃体は脳の警報アラームとしての役割を持っていて、扁桃体が警報を出すと、人は我を忘れて、「闘争か逃走か」という二者択一の行動を衝動的にとります。また海馬は長期記憶や、計画的な行動と関係しています。

つまり、もし境界性パーソナリティ障害の患者で、扁桃体の過剰興奮や、海馬の萎縮が起こっているとすれば、彼女たちがみせる白か黒かしか選べない衝動的な行動の説明がつく、とタイチャーは考えました。

しかしてその後、脳画像研究が発展して、タイチャーの予想どおりであったことが、報告され始めました。

ドイツにあるギレド病院のDriessen(ドリーゼン)らは、21名の境界性パーソナリティ障害女性患者を対象にMRIを検討し、海馬が16%、扁桃体が8%も容積減少していることを報告した。

またドイツのフライブルグ大学のRusch(ラシュ)も20名の境界性パーソナリティ障害女性患者の検討により左の扁桃体の容積が減少していることを報告した。

扁桃体は、恐怖の対象に対して攻撃するか逃避するかの二者選択から反応して脳内の主要な領域に緊急信号を送る。(p40)

境界性パーソナリティ障害では、脳の警戒アラームをつかさどる扁桃体のサイズが小さく、過度に敏感であること、また記憶に関わる海馬が小さいことがわかったのです。

海馬が小さいことはPTSD患者でもよく報告される点であり、トラウマ反応と関係しています。境界性パーソナリティ障害は、過去の傷つき体験に対する一種のPTSDだとみなすことができます。

このほかにも、境界性パーソナリティ障害では、脳の血流異常になど、さまざまな変化が報告されるようになりました。

境界性パーソナリティ障害の症状は、単なる気持ちの持ちようではなく、子ども時代の逆境体験によって、脳の発達に影響が及んだ結果であることがわかったのです。

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BPDになる原因―幼少期の愛着障害

では、境界性パーソナリティ障害の人たちが経験した、子ども時代の逆境体験とは、具体的にいって、どういうものなのでしょうか。

トラウマ研究の専門家、ヴァン・デア・コーク博士の著書身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法では、BPDは幼少期のトラウマと切っても切れないつながりがあるとされています。

これらの患者たちには、家出したり逃れたりする選択肢がなかった。頼れる人もいなければ、身を隠す場所もなかった。

それでも彼らはどうにかして恐怖と絶望を処理せざるをえなかった。彼らはおそらく、翌日も学校に行き、万事順調というふりをしようとしたのだろう。

境界性パーソナリティ障害者たちの問題(解離や、助けてもらえそうな人ならば誰にでもすがること)はおそらく、圧倒的な情動と逃れようのない残虐行為に対処する手立てとして始まったのであろうことに、ハーマンと私は気づいた。

…のちに私たちが「アメリカ精神医学ジャーナル」誌で報告したように、ケンブリッジ病院で境界性パーソナリティ障害の一方の診断を受けた患者の81パーセントが、過去に深刻な児童虐待とネグレクトの一方あるいは両方を受けたことを報告し、その大半で、虐待は七歳未満で始まっていた。(p232)

幼少期に辛い経験をした人たちは、しばしば愛着障害と呼ばれる傾向を示します。愛着障害とは、親との間に適切な絆(愛着)を育めなかったことで、心身にさまざまな影響が出ることを言います。

たとえば、次のような養育環境は、境界性パーソナリティ障害の症状につながる愛着の問題を引き起こしやすいでしょう。

■支配的な親
過剰に子どもに構う親のもとで育てられたり、溺愛されたりすると、子どもは見捨てられ不安に敏感な「不安型」(両価型)の愛着と呼ばれる状態になります。

父親が自己愛性パーソナリティ障害など、横柄で自分勝手な家庭に育った子どもが境界性パーソナリティ障害になる場合もあります。

自己愛性パーソナリティ障害代理症―人をモノ扱いする夫を持つ妻と子どもの苦痛
さまざまなパーソナリティ障害を説明している本、「パーソナリティ障害とは何か」から、自己愛性パーソナリティ障害の特徴や、その周りの人が抱え込む苦痛への対処法について解説しています。

■不安定な親
子どもが親を求めたときの反応が両極端であり、あるときは理由なく受け入れられたり、あるときは理由なくけなされたりいる環境で育つと、親との愛着が混乱し、「混乱型」(無秩序型)の愛着と呼ばれる状態になります。

子どもを気まぐれに虐待したり、養育を放棄したりするような親は、こうした不安定な親の最たるものだといえます。

人への恐怖と過敏な気遣い,ありとあらゆる不定愁訴に呪われた「無秩序型愛着」を抱えた人たち
見知らぬ人に対して親しげに振る舞いながらも、心の中では凍てつくような恐怖と不信感が渦巻いている。そうした混乱した振る舞いをみせる無秩序型、未解決型と呼ばれる愛着スタイルとは何か、人