発達障害やトラウマの過敏性,不眠,凍りつきなどに降圧薬(インデラルやカタプレス)が効くのはなぜなのか

ラウマ性疾患や発達障害の過覚醒などによく使われる薬の中に、交感神経遮断薬」として分類される、一群の降圧薬があります。

たとえば、身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法には、こうあります。

プロプラノロール(インデラル)やクロニジン(カタプレス)のように自律神経系に働きかける薬は、過覚醒やストレスへの反応を抑える助けになりうる。(p369)

これには、α1受容体拮抗薬プラゾシン(ミニプレス)、α2受容体拮抗薬クロニジン、β受容体拮抗薬プロプラノロールなどがある。(p637)

このタイプの薬は、全身のアドレナリン受容体に作用して、交感神経を抑制したり、血圧上昇を抑えたりします。

発達障害やトラウマの場合、交感神経の過剰な活性化によって、過覚醒、過敏、不眠、凍りつき(フリーズ)などが起こるため、しばしばこれらの降圧薬が処方されます。

この記事では、これらの薬は具体的にどのような作用があるのか、さまざまな資料からの情報をまとめてみました。また、これらの薬の代わりになる、非薬物療法についても考えています。

ご注意いただきたい点として、わたしは専門家ではありません。どんな治療を選ぶかは専門医の判断をあおぎ、この記事で紹介する資料はあくまで参考程度にご覧ください。

スポンサーリンク

よく使われる交感神経遮断薬

まず、交感神経遮断薬のうち、ここ日本でも比較的よく使われるのは以下の4つでしょう。

アドレナリン受容体には幾つかの種類(α1,α2,β1,β2,β3)があり、薬ごとに対象が違っていて、効き方もいくらか異なります。

■ β受容体遮断薬プロプラノロール(インデラル)…別名βブロッカー。トラウマの過覚醒の治療に用いられる降圧薬のうち、最も広く使用されている薬。喘息がある場合は使えない。

■ α1受容体遮断薬プラゾシン(ミニプレス)…悪夢に対する効果が実証されている。

■ α2受容体作動薬クロニジン(カタプレス)…過覚醒を和らげるだけでなく、眠気が伴うので、交感神経を下げて入眠しやすくするために用いられることがある。

■ α2受容体作動薬グアンファシン(インチュニブ)…ADHDの過覚醒に対して使われる。現時点では子どものADHDを対象に認可されていて、大人のADHDに対しては臨床試験中

わたしが読んできた文献では、βブロッカーであるプロプラノロール(インデラル)が最も頻繁に名前を挙げられていますが、他の薬も並べて名前を挙げられていることがしばしばです。

交感神経遮断薬にはどんな効果があるか

ここからは、さまざまな資料を参考に、これらの薬が役立つ場面を項目別に見ていきますが、単に「交感神経の過緊張を和らげると楽になる」というごく簡単なことを、あれこれと説明しているにすぎません。

1.情動を減らすことで感情を安定させる

交感神経遮断薬は、発達障害の治療にも、トラウマの治療にも用いられる薬です。

たとえば、トラウマによる愛着障害について解説された子を愛せない母 母を拒否する子には、ADHDとトラウマ障害(愛着障害)の類似点や違いについて書かれていますが、どちらにも役立つ薬として、クロニジンとグアンファシンが挙げられていました。(p140-141)

また、子どものPTSD 診断と治療によると、ADHDで用いられる中枢神経刺激薬(メチルフェニデート)はトラウマ障害の場合は症状を悪化させる危険があるのに対し、降圧薬であるクロニジンは、トラウマ障害の場合でも効果的だとされていました。

ADHDとトラウマ障害は、行動面や認知も近似しているため、しばしば誤診されかねない。しかし、根底にあるものは異なるため、異なった対処法が必要とされる。

…薬物療法を行う際、ADHDに使用される中枢神経薬は時としてトラウマ障害の症状増悪をもたらす可能性も示唆されている。

ドパミンを上昇させるメチルフェニデートではなく、むしろニューロトランスミッターを抑制するクロニジンのほうが望ましいとされている。(p117-118)

交感神経遮断薬が、発達障害やトラウマに用いられるのは、刺激に対して過敏に反応してしまうことから起こる苦痛を和らげることができるからです。

これらの薬は降圧薬、つまり高血圧の薬であることからわかるとおり、心の状態に直接作用するとされるタイプの薬(抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬など)ではありません。

それにも関わらず、トラウマに伴うような苦痛を和らげることができるのは、先日紹介した神経学者アントニオ・ダマシオの理論と関係しています。

心は脳だけでなく身体全体から作られる―神経学者ダマシオの自己意識の研究を読み解く
心は身体を土台として生まれるという神経学者アントニオ・ダマシオのソマティック・マーカー仮説について、「意識と自己」という本から整理してまとめてみました。

ダマシオの理論によれば、わたしたちの感情は身体の反応から生まれています。それは次のような順序で起こります。

(1)身体が何かの刺激を感じる
  ↓
(2)身体の「情動」が誘発される
       ↓
(
3)心の主観的な「感情」が誘発される

「情動」と「感情」という区別はあまり耳慣れないかもしれませんが、私はすでに死んでいる――ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳では次のように説明されています。

現代の神経科学では、情動と感情は次のように定義されている。

まず情動とは、刺激に反応して起きる身体の生理学的状態だ。心拍数や血圧、身体の動き(脅威に反応して凍りつく、逃げだす)、さらにはそのときの認知(思考が冴えているか、鈍っているか)まで含まれる。

対して感情は、脳と身体をひっくるめて起きている情動の主観的知覚だ。

…先に情動が出現して、あとからそれを感じるのだ。(p184)

わたしたちは普段あまり気に留めていませんが、わたしたちが何かの感情を感じるとき、それに先立って、必ず身体の反応(情動)が無意識のうちに起こっています。情動には「心拍数や血圧」が含まれていることに注目してください。

精神状態に作用する薬は、一番最後の(3)という心の「感情」を直接変えようとしますが、降圧薬は、それに先立つ(2)の身体の生理的反応である「情動」を減らすことで、結果として(3)の「感情」も和らげる効果があります。

たとえば、発達障害やトラウマを抱える人は、先ほどの順序に当てはめると、次のような順番で症状が誘発されています。

(1)光や音など強すぎる刺激、またトラウマを想起させるトリガーになるような強い刺激を受ける
  ↓
(2)胸がドキドキする、内臓が収縮する、手足が緊張するなどの身体の生理的な「情動」が引き起こされる
  ↓
(3)それによって怒りやバニック、不安、恐怖、イライラ、落ち込みなどの「感情」が誘発される。

多くの場合、(1)や(2)はほとんど無意識下で起こっています。(3)の感情にしてもすべてが意識されているわけではなく、症状として認知されているのは氷山の一角です。

しかし、最終的に認知されている症状そのものを治療しなくても、それに先立つ無意識下の身体の過敏な反応(情動)を減らすことができれば、精神状態も落ち着くということになります。たとえば、降圧薬のうち、βブロッカーの効果について、次のように書かれていました。

全身のベータ受容体に干渉して、エピネフリン(アドレナリン)の影響を打ちけすベータ遮断薬を使った実験からも、興味深い知見が得られている。

ベータ遮断薬は、身体の喚起状態の情報が中枢神経系に届くのを阻止するため、不安がやわらぐ。

「喚起状態の合図がなくなったせいで、情動経験の強度が下がるのだ」心理学者ジェイムズ・レアードは著書『フィーリングズー自己の知覚で書いている』(p186)

βブロッカーは「身体の喚起状態の情報が中枢神経系に届くのを阻止」することによって、「不安がやわら」げます。要するに、身体の過敏な反応を減らすことで、不安のような心の状態が改善されます。

トラウマ専門医のベッセル・ヴァン・デア・コークは、トラウマティック・ストレス―PTSDおよびトラウマ反応の臨床と研究のすべてという本の中で、β遮断薬プロプラノロール(インデラル)がトラウマ症状を和らげることについて、次のように書いています。

2つの公開研究でPTSDに対するプロプラノロールの有効性が見出されている。

コルブ、バリス、グリフィス(Kolb,Burris & Griffiths,1984)は12人のヴェトナム戦闘経験者に対し1日に120~160ミリグラムを投与し、肯定的な効果を得たと報告している。

全般的に症状の改善が見られている。症状別効果で最も顕著だったのは、爆発性、悪夢、侵入的な記憶、睡眠障害、過警戒、驚愕症状であった。自尊感情と心理・社会的機能が改善されたことも指摘されている。(p557)

また、α受容体作動薬クロニジン(カタプレス)の効果についても、次のように書いています。

クロニジンは青斑核でα2-ノルアドレナリン作動性の受容体の活動を抑制して、それによりアドレナリン作動系の緊張を低下させる。

コルブに(Kolb et al.,1984)はヴェトナム帰還兵に1日に0.2~0.4ミリグラム投薬したところ薬効があったとしている。

ヴァン・デア・コルク(van der Kolk,1987)は、クロニジンがPTSD患者の自傷行為を軽減することができることを見出した。

また、キンジーとルング(Kinzie & Leung,1989)は、カンボジア難民9人にイミプラミンとクロニジンを組み合わせて投与したところ、睡眠の改善と悪夢の軽減が見られた。驚愕反応にも若干の改善が見られたが、回避行動の改善は見られなかったと報告している。(p557-558)

これらの交感神経遮断薬が、もともと血圧を低下させる薬であり、身体の生理的な部分に作用する薬なのに、トラウマによる苦痛を和らげることができるのは、心の感情は身体の情動から生み出されているためです。

トラウマは長らく「心の病」だとみなされてきましたが、こうした薬が効果があるということ自体、トラウマは心ではなく身体から始まるということ、また心という機能は、そもそも身体から作られている、というダマシオの説を裏づけています。

2.刺激そのものではなく情動を減らす

βブロッカーは過敏性を和らげますが、感覚刺激そのものを減らすのではなく、感覚が誘発する情動を減らすことで作用しています。

もう一度、先ほどの順序の説明を見てみましょう。

(1)身体が何かの刺激を感じる
  ↓
(2)身体の「情動」が誘発される
       ↓
(
3)心の「感情」が誘発される

過敏な人は、(1)の感覚そのものが多すぎると思いがちです。たとえば、光に敏感な人はサングラスをかけることによって、音に敏感な人は耳栓をつけることによって、(1)の刺激の大きさそのものを減らそうとします。

確かに生まれつきの発達障害などのため、感覚刺激そのものが大きく、そのせいで苦痛が強い人もいます。

それでも、刺激そのものと、その刺激に対して感じる苦痛は別物です。たとえサングラスや耳栓によって(1)の刺激の大きさそのものを変えなくても、(2)の情動反応を減らすことができれば、苦痛は和らぐということになります。

ダマシオは、意識と自己 (講談社学術文庫)の中で、βブロッカーは、(1)の感覚の大きさは変えないものの、(2)の情動を減らすので、苦痛が減る、と説明しています。

もし読者が不整脈治療のためにβ-ブロッカーを飲んだり、ベイリウムのような精神安定剤を飲んだりしたことがあれば、たぶん私がここで言っていることを直接経験しているのではないかと思う。

そういった薬剤療法は情動作用を減じるから、たとえそのとき痛みはあっても、痛みによって引き起こされる情動は減じられる。

…たとえば、組織損傷によって引き起こされるはずの情動を、ベイリウムやβ-ブロッカーなどの特定の薬剤により、あるいは選択的な手術により、減じることができる。

組織損傷の感覚は残るものの、情動の鈍化によって、それに伴う苦しみは除去される。(p105)

βブロッカーは「痛みはあっても、痛みによって引き起こされる情動は減じ」ることで苦痛を減らします。

特定の感覚だけを減らすサングラスや耳栓のような対処法ももちろん有用ですが、βブロッカーは、感覚そのものではなく、感覚によって引き起こされる情動を鈍らせているので、あらゆる感覚がもたらす苦痛を和らげます。

では、刺激に対する情動を減らすには、βブロッカーのような薬に頼るしかないのでしょうか。

いいえ、トラウマ専門医のヴァン・デア・コークは、身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法の中で、マインドフルネスやヨーガの訓練には、これらの薬と同じ効果がある、と書いています。

プロプラノロール(インデラル)やクロニジン(カタプレス)のように自律神経系に働きかける薬は、過覚醒やストレスへの反応を抑える助けになりうる。

このグループの薬は、覚醒を促進するアドレナリンの、体への影響を抑え込むことによって作用して、悪夢や不眠や、トラウマのトリガーに対する反応を軽減する。

アドレナリンを抑え込むと、理性脳が稼働し続けるので、「これは本当に私がやりたいことなのだろうか」という問いに基づいた選択が可能になる。

私は、マインドフルネスとヨーガを治療に取り入れ始めてから、患者が安眠できるようにときおり処方する場合を除いて、こうした薬に頼ることが少なくなっている。(p369)

クロニジン(カタプレス)、プロプラノロール(インデラル)などの交感神経遮断薬は、ここまで見てきたように、「過覚醒やストレスへの反応を抑え」「トラウマのトリガーに対する反応を軽減」します。

サングラスや耳栓のように感覚刺激そのものを減らすわけではありませんが、それに対する生理的な情動という「反応」を減らすことで苦痛を和らげています。

しかしこの効果は、マインドフルネスやヨーガの訓練によって代用することができます。これらの技法を身に着けた人は、心を常に平静に保ち、安定させることができますが、それは刺激に対する過敏な情動反応を抑えられるからです。

マインドフルネスの訓練では、周囲の刺激に気づいても、ただ気づくだけで過敏に反応せず、注意を引き戻すことを繰り返します。

そうしたトレーニングを続けることによって、以前なら過敏に反応していたような刺激にさらされても、交感神経が過剰に活性化するのを防げるようになります。

※マインドフルネスはトラウマ治療にも有用ですが、トラウマセラピーとして最適化された方法で取り組む必要があります。たとえば、一般的なマインドフルネスでは呼吸に意識を集中しますが、トラウマ当事者の場合、呼吸に注意を向けると急速に不安定になりがちです。

また、ヨーガについても、ここで言及されているのは、一般的にエクササイズ教室で行われるヨーガではなく、トラウマ治療用に最適化されたトラウマ・センシティブ・ヨーガ(トラウマに対する感受性を備えたヨーガ)です。

ヨーガで身体の声を聞く―トラウマや慢性疼痛に身体セラピーが役立つ理由
ベッセル・ヴァン・デア・コークらのトラウマ・センターで実践されている、トラウマの身体症状に対するヨーガ・プログラムを参考にして、身体的な気づきを促すボディワークがなぜ原因不明の身体