解離を別の反応で置き換えて意識を「今ここ」に保つための実践的ツールボックス


の記事は、身体志向のセラピーによる解離の治療について考えた以下の記事の補足です。

「からだの記憶」の治療法―解離と慢性疲労のための身体志向のトラウマセラピー
解離やPTSDは「からだの記憶」によって引き起こされる「からだ」を土台として生物学的な現象である、という理解にもとづき、身体志向のトラウマ・セラピーについて考察しました。

さまざまなトリガーによって解離しそうになったときに、また慢性疲労や慢性疼痛などの症状が解離反応の一部として生じている場合に、他の別の方法で置き換えて解離を防ぎ、「今ここ」にとどまるためのアイデアを集めました。

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どんな症状も“一枚岩”ではない

本文では、マインドフルネスによって自分のからだの反応を観察し、さまざまな症状が原因不明のものではなく、実際には何かのトリガーをきっかけに連鎖的に生じている反応であることに気づく必要があると書きました。

たとえば、原因不明のEという症状がある場合、それは何の前兆もなく気まぐれに生じているように見えるとしても、「からだの声」に耳を傾け、よく観察するトレーニングを積むうちに、

A(トリガーとなる刺激)→B(条件反射)→C(連鎖反応)→D(連鎖反応)→E(症状)

というように、連鎖的に生じている手続き記憶のパターンだとわかります。

感受性が強すぎるHSPの人の場合、解離症状は四六時中生じているように思えるかもしれません。慢性疼痛や慢性疲労に陥っている人の場合も、症状は常に固定していて、いつも変わらないように思えるかもしれません。

しかし、マインドフルネスでしっかりモニタリングできるようになれば、そうではないと必ず気づきます。

日経サイエンス2015年01月号 のマインドフルネスの特集では、マインドフルネスが線維筋痛症などの慢性疼痛に効果がある理由についてこう書かれていました。

身体のうち痛みが生じている特定部位に注意を意図的に振り向けると、それらの部位の感覚がかすかに揺らぐのに気づいて、常に変わらない“一枚岩”だと思われていた慢性の痛みが絶えず変動する感覚に瓦解するかもしれない。(p49)

慢性疲労や慢性疼痛に悩んでいる人は、その症状は「一枚岩」だと感じています。常に慢性的に生じていて揺るがぬものであると認知しています。

しかし、マインドフルネスで「からだの声」をモニタリングできるようになると、じつは「感覚がかすかに揺らぐ」ことに気づき、「常に変わらない“一枚岩”だと思われていた慢性の痛みが絶えず変動する感覚に瓦解」します。

これがすなわち、ただのEでしかないと思っていた思っていた症状が、じつはA(トリガーとなる刺激)→B(条件反射)→C(連鎖反応)→D(連鎖反応)→E(症状)という連鎖的に生じているパターンだと気づくということです。

4つのストレス反応が順番に生じる

このパターンは、無秩序に生じているわけではなく、生物学的なメカニズムで生じています。

本文で繰り返し説明したように、スポーツ選手のイップスや、不登校の不動状態、解離はみな同じようなパターンで生じています。

まず、外部からの刺激によって過緊張状態になり、超限界段階を突破した瞬間に、解離の不動状態に陥ります。

本文で引用したとおり、奇跡の生還を科学する 恐怖に負けない脳とこころにはこう書かれていました。

生理的な覚醒が高まっていくと、ある点まではパフォーマンスも上昇します。

その点をこえてもなお覚醒度が高まれば、パフォーマンスは急激に低下するので、これをわれわれは「カタストロフ」とよんでいるわけです。

なだらかに、少しずつ低下するんじゃない。がくんと落ちるんです。(p149)

まず外部からの刺激というトリガーがあり、それにからだが反応して過緊張状態になり、超限界段階に到達すると、感覚がシャットダウンし崩壊する解離が生じてます。

このプロセスは、解離と慢性疲労の記事で紹介した、哺乳類に普遍的に備わる4つのストレス反応にそって生じています。

身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアはこう述べています。

キャノンの発見から75年以上も動物行動学および生理学の研究が進展した現在、闘争か逃走反応は、「一つのAと四つのF」という頭文字にまとめられる。

すなわち停止(Arrest:注意の増加、状況の精査)、逃走(Flight:まず逃げようとする試み)、闘争(Fight:動物や人間の逃走が阻害された場合)、凍りつき(Freeze:恐怖―怯えによるこわばり)、そして破綻(Fold:無力感による虚脱状態)。(p60)

解離という反応は、いきなり、前触れも脈略もなく生じることはありません。どんな場合でも、この4つのストレス反応の連鎖の最後に生じています。

トリガーとなる刺激
    ↓
(1)逃走(まずストレスから逃げようとして交感神経系が緊張する)
    ↓
(2)闘争(逃げられない場合、闘おうとして我を忘れる)
    ↓
(3)凍りつき(闘っても勝ち目がないと不動系が起動して身体を凍りつかせる)
    ↓
(4)破綻(まったく逃げ場がなくどうしようもないときエネルギーがシャットダウンされて虚脱する)

というステップで解離は生じます。

慢性疼痛や慢性疲労は、(3)の凍りつきや(4)の破綻に陥ることで生じます。(2)の過緊張状態のまま(3)の凍りつきに閉じ込められてしまえば慢性疼痛になりますし、さらに(4)の破綻でシャットダウンされてしまえば慢性疲労が生じます。

ヴィンスの肩の静止に見られたように、二つの強い本能的反応の運動表現は葛藤を生み出し、凍りつきの状態に至らせてしまう。

通常は伸びる筋肉は縮む筋肉と相互に動くものである。しかしながら、トラウマ的状態では主働筋と拮抗筋が互いに相反する動きをしてしまい、凍りつき(不動状態)を生じさせるのである。

これによってからだのほとんどの部分において衰弱症状に発展する可能性がある。抑制された(不成功の)反応に閉じ込められたエネルギーは非常に強力なため、しばしば重篤な結果をもたらす強い固定化を引き起こしてしまう。(p236)

首や肩、背中の貼りき時間の経過とともに線維筋痛症に進行する可能性が高い。…こうした状態は苦しんでいる人のエネルギーを枯渇させてしまい、慢性疲労症候群という形に進行する可能性もある。(p219)

要するに、(1)逃走(2)闘争という過緊張状態が生じたのに、どちらも成功せず、ストレス源から逃れられないとき、この二つの相反するエネルギーが身動き取れないまま(3)凍りつきに閉じ込められたのが慢性疼痛、さらに(4)の破綻という衰弱に陥ったのが慢性疲労ということになります。

この反応が慢性化してしまった人の場合、目まぐるしい速度で(3)や(4)に到達してしまうので気づきにくいですが、いきなり(3)や(4)に飛んでいるわけではなく、必ず前兆となる予備動作(プリムーブメント)があります。

慢性疲労や慢性疼痛に悩まされている人の場合でも、マインドフルネスでしっかりからだをモニタリングできるようになれば、「“一枚岩”だと思われていた慢性の痛みが絶えず変動する感覚」だとわかり、痛みや疲労が増強する瞬間があることがわかるはずです。

そして、その瞬間に先立って、何かのトリガーがあり、一連のストレス反応がなだれのごとく引き起こされていることに気づきます。

トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際には、そうした気づきについて、こう書かれていました。

セラピーにおいて、クライエントは、調節不全の覚醒状態に先立つ不快な感覚を「あ、きたな」と認識するよう学びます。

麻痺させたり、行動化したり、避けたりするのではありません。覚醒亢進や覚醒低下の身体的な前兆を早期に見極めることを学びます。(p304)

このとき、(3)や(4)のような解離と関係している反応であれば、自分をよく観察すれば、次のような現象を自分が経験していることがわかるでしょう。

ある刺激がきっかけで、からだが緊張して交感神経が高ぶる。ついで凍りつき、思考が飛んで何も考えられなくなり崩壊する。

ぼーとして、意識が「今ここ」から切り離されて、頭が空っぽになったり、空想の世界に入り込んだりする。

感情が麻痺して失感情症になる。いわゆる慢性疲労症候群につきもののブレインフォグや、線維筋痛症につきもののフィブロフォグが起こる。

これが「解離」(凍りつき反応・破綻反応)です。

解離に気づくためのヒント

解離を別の反応で置き換えるためのツールボックス

解離は必ず、トリガーとなる刺激→「逃走反応」→「闘争反応」→「凍りつき反応」→「破綻反応」 の順番で連鎖して起こるものなので、連鎖の途中を別のものに置き換えることができれば、最後の反応が起こるのを食い止めることができます。

それで、本文では、A→B→C→D→E(解離) のようなパターンがからだに染み込んでしまっているのに気づいたら、連鎖的に条件反射してしまう反応を一次保留するスキルをマインドフルネスによって身につけることが大事だと書きました。

なだれのような条件反射を一次保留して、E(解離)が今まさに生じようとしていることに気づけるようになったら、たとえばA→B→C→D→Fのようにして、E(解離)をF(別の反応)で置き換えることで、症状をコントロールできるようになっていきます。

先ほどのトラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際の文脈の続きにはこう書かれていました。

緊張や寒気、重さ、しびれや、ぞくぞくするなどの身体内部の感覚をキャッチし、どのように見極めるかを学び、クライエントはトラウマ的な覚醒状態の前兆を認識し、代替的な対処戦略を計画できるようになります。(p304)

トリガーに気づくことがてきるようになれば、続く反応を一時保留して、「代替的な対処戦略」に置き換えることができるとされています。

しかし本文の説明では、ではいったい何に置き換えればいいのか、という部分が、いくらか説明不足だったので、以下にアイデアをたくさん書いておきます。

注意する点として、これらはすべて身体志向の実践的ツールです。ことばで読んで、頭で理解するだけではまったく無意味です。

本や教科書で読んで知る知識のような陳述記憶ではなく、からだに染み込ませて覚える楽器の弾き方のように手続き記憶として身につけるためのものです。

それぞれ具体的にからだを使って実践する方法の例を含めているので、さまざまな場面で全身を使ってしっかり実践して、それによってからだの反応や感情がどう変化するか観察して、習得していくようにお勧めします。

美味しいスイーツについて本で読んだり、写真で見たりするだけで満足する人がいるでしょうか。ほんものを食べて味わってみなければ、からだで感じることはできません。解離の当事者に必要なのはまさにそのような、からだで味わう経験です。

無理やり抑圧しようとしない

本文で詳しく扱ったように、解離の不動状態に陥る人は、自己抑制が強すぎる人たちです。

身体の緊張を無視して大舞台に立ち続けるプロの選手がなるのがイップスであり、身体のアラームを無視して運動を続けた人がなるのがオーバートレーニングであり、初期の自律神経症状が出ているのに我慢して登校しつづける子がなるのが小児慢性疲労症候群や不登校であり、自分を殺し続けた人が解離性障害になります。

からだがトリガーに反応しているのに無理やり抑制してコントロールしようとした結果が、交感神経系の超限界段階とそれに続くシャットダウンなので、強い意志力でからだの反応を抑えつけようとすればするほど、症状は悪化します。

反応を抑えつけるのではなく、別の反応に置き換える、ということをいつも意識しておきます。

仕組みを知る

まず、連鎖反応の仕組みを知りましょう。

生物のストレス反応は、「トリガーとなる刺激」→「逃走反応」→「闘争反応」→「凍りつき反応」→「破綻反応」の順番で連鎖して起こると書きましたが、このとき生じているのは自律神経系の変動です。

以前の記事で詳しく説明したように、スティーヴン・ポージズのポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)によると、自律神経系は3種類のシステムからなっています。

だから君は慢性疲労に閉じ込められた―生きるエネルギーを枯渇させる解離そして不動状態
解離と慢性疲労は深く関係していて、不動系という生物学的メカニズムによって引き起こされているという点を、不登校や小児慢性疲労症候群の研究と比較しながら分析してみました。

ストレスを感じたとき、人はまず愛着や社会交流をつかさどる副交感神経系によってリラックスしようとします。

それが無理だと、手足を動かして逃走・闘争で対処する交感神経系が働きます。

それでもどうにもならないと不動系(原始的な副交感神経)が稼働して、からだを凍りつき・シャットダウンさせます。

慢性疲労や慢性疼痛は、最後の不動系による凍りつきやシャットダウンが起動している状態です。つまり、それより上の段階で置き換えれば、症状をいくらか防げるということになります。

愛着システムを活性化させる

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法にあるとおり、一番望ましいのは副交感神経系の愛着システムを刺激してリラックスすることです。

私たち人間が苦悩を軽減する最も自然な方法は、触れられて、ハグされて、体を優しく揺り動かされることだ。これは過覚醒の鎮静に効果をもたらす。

そして、自分は損なわれておらず、安全で、守られていて、主導権を握っているという気持ちにさせてくれる。(p352)

解離しそうになっている自分に気づいたら、信頼のおける人と会話する、心から笑う、愛する人と触れ合う、安心できる場所をイメージするなどして、副交感神経を活性化させることができます。

問題なのは、解離する人は、根底に愛着障害などがあるせいで、この副交感神経の機能が弱すぎて不動系に乗っ取られやすいことです。じっくり強化していく辛抱強さが必要です。

いつも頑張っていないと自分には価値がないと感じてしまう人へ―原因は「完璧主義」「まじめさ」ではない
全力を尽くしていないと自分には価値が無いと思ってしまう。休んだり、遊んだりすることに罪悪感を抱いてしまう。そのように感じてしまう人は、自分の限界を超えてやりすぎてしまいます。その原

解離の舞台―症状構造と治療に書かれているように、安全な場所のイメージをしっかり形成しておくことは解離しそうになったときの対応に効果的です。

治療の初期に、患者に完全に安心できて安全な場所を想像してもらい、それを視覚化してもらう。こちらがイメージを先行させるのではなく、あくまで患者個人がそういったイメージを作り出すように促す。

よくあるのは、美しい森の空き地、陽の当たる庭や砂浜、海、安全な部屋などである。

こういった場所のイメージは、患者や交代人格が症状に圧倒されそうになったときに、そこに逃げ込む緊急避難場所として有効である。そこには安全のため鍵をかけることもできる。(p244)

呼吸を整えて声を出す

愛着システムとつながっている副交感神経系は、人とコミュニケーションすることでリラックスするシステムです。つまり顔の表情やのどの筋肉、呼吸といったからだの機能とつながっています。

不動系もまた原始的な副交感神経ですが、不動系が優勢になるとのどが締め付けられて声が出にくくなったり、呼吸系が圧迫されて息苦しくなったりします。

つまり、声や呼吸といった機能は、副交感神経のリラックス反応と、不動系(原始的な副交感神経)の凍りつき反応の影響がせめぎあい、競合している場所だということになります。

不動系により解離しそうになったときは、はっきり大きな声を出して歌ったり、声を出して笑ったり、ゆっくり深呼吸したり、呼吸に注意を向けるマインドフルネスを実践したりすることで、副交感神経系を強化し、不動系を抑制することができます。

身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアでは、「ヴー」という声を出しながら息を吐くことが解離を解除するのに有効だとされています。

この音は内臓を開き、広げて振動させ、シャットダウンまたは過剰に刺激された神経系に新たな信号を送る働きをする。

やり方はきわめて簡単である。「ヴー……」(「ユー」というときの「ウー」のような軽い「ウ」)という音を長く伸ばし、息を履ききるまで、お腹に感じる振動に集中する。

「ヴー」の音をクライアントに初めて出させる際、私はよく、霧深い入り江に鳴り響く、霧笛を想像するように促す。船長たちに陸が誓いことを知らせ、安全に故郷に導くための音である。(p150)

ヴーという音を出す時には、息を完全に吐ききるまで、そっと響かせ続けます。そして吐ききったら、無理に息を吸おうとするのではなく、息が自然と入ってくるに任せます。

頭が真っ白になったりブレインフォグにのっとられそうになったときに試してみれば、効果を実感できると思います。

レム睡眠を確保する

近年の研究では、そもそもトラウマの原因は睡眠障害にあることが多いと考えられています。睡眠不足、睡眠時無呼吸などでレム睡眠が妨げられると、本来レム睡眠中に処理する恐怖記憶が処理されずトラウマ記憶として残ってしまいます。

また睡眠不足の状態では、交感神経系が優勢になり、「逃走・闘争」反応に陥りやすくなります。それはつまりその次の段階の解離にも至りやすくなるということです。

トラウマの過覚醒と関連している睡眠障害には、一般に知られている睡眠薬よりもカタプレス、ミニプレス、インデラルのような降圧剤が効果があると言われています。

このタイプの薬は交感神経の過緊張を抑制するので、超限界段階に至りそうになったときにも役立ちます。詳しくは以下の記事をどうぞ。

「安心の島」に意識を向ける

本文で見たように、一連のトラウマ反応は「からだの記憶」です。具体的に言えば、からだの一部分で、過緊張や虚脱などのトラウマ反応が繰り返されてしまうことにより症状が起こります。

トラウマはからだと結びついているので、「からだの記憶」の影響が弱いからだの部位に注目したり、特定の姿勢をとったりすることが、リラックスに役立つことがあります。

人によってもともとのトラウマ経験やトリガーとなる刺激は違うので、からだのどの部分にトラウマがしまいこまれ、またどの部分が安全かは異なっていて、自分で見つける必要があります。

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法にはこう書かれていました。

私たちはまず、体の中に「安心の島」を確立する。

これは患者を助けて、身動きがとれなかったり、恐れおののいたり、激怒したりしたと感じたときにはいつも地に足の着いた心持ちになれるような、体の部位や姿勢、動きを突き止めてもらうことを意味する。

こうした体の部位は通常、パニックのメッセージを胸部や腹部や喉に伝える迷走神経が分布していない場所にあり、トラウマを統合する際に味方になってもらえる。(p402)

安全の島は、パニックを伝える迷走神経、すなわち不動系が関与していない部分にあることが多いようです。

先に見たとおり、ポリヴェーガル理論によれば、不動系(背側迷走神経)は内臓をつかさどり、交感神経系は手足を、副交感神経系(腹側迷走神経)は顔や社会コミュニケーションとつながっています。

これは、不動系は手足を持たない魚にも備わる原始的システムであり、交感神経系は手足のある両生類や爬虫類など以降に備わり、副交感神経系は哺乳類など社会交流システムのある種に備わっているものだからだとされていました。

生物界で最も新しい人間はこれらすべてを兼ね備えていますが、やはり不動系は内臓、交感神経系は手足、副交感神経系は社会的交流システムを担当しています。

不動系による解離に陥る人は、内臓からのSOSに支配されていて、さまざまな内臓の不快感(胃腸の痛みや息苦しさなど)に頭がいっぱいになり、パニックやシャットダウンを起こします。

それで、安心の島となる場所は、「パニックのメッセージを胸部や腹部や喉に伝える迷走神経が分布していない場所に」あることになります。

だから君は慢性疲労に閉じ込められた―生きるエネルギーを枯渇させる解離そして不動状態
解離と慢性疲労は深く関係していて、不動系という生物学的メカニズムによって引き起こされているという点を、不登校や小児慢性疲労症候群の研究と比較しながら分析してみました。

内臓のさまざまな不快感、たとえば胃腸の締め付けや息苦しさ、のどが締まる感じにとらわれたら、たとえば手足などの「安全な島」に注意を向けることで落ち着きを取り戻すことができます。

たとえば私は患者に、手は何ともないように感じられますかと尋ねる。はいという答えがあれば、手を動かしてその軽さと暖かさとしなやかさを探ってくださいと言う。

そのあとで、患者が胸を締めつけられて息も絶え絶えになっているのに気づいたら、患者を制止して、手に意識を集中し、手を動かしてくださいと言う。

そうすると、自分がトラウマから切り離されていると感じることができる。(p403)

不動系による解離は、手足を動かして抵抗できず、ただじっとして不快刺激を耐え忍ぶしかない状況で生じるので、手足を動かして刺激を押しやるような動作をしたり、伸ばした手をぐるりとまわして、自分のまわりに境界を作るような動作をすることで解離を防げるかもしれません。

身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアにはこんな例が書かれていました。

私はミリアムの注意を、伸ばしている腕と曲げている手首に向けるように導き、この動作をゆっくり繰り返してみるよう提案した。

…最初、彼女は少し戸惑っているようだった。数回繰り返した後、彼女は動きを止め、微笑んでこう言った。

「何かを押しやっているような感じがします。……いいえ、むしろ何かをつかんで向こうへ追いやっている……私にはもっと空間が必要、まさにそういう感じです」。

彼女は自分の前で腕をさっと両側に広げ、自由に動かせる180度の幅を作ってみせた。(p190)

安心の島となる部位や動作は人によって異なります。それはからだが本当はそうしたかったのに、無理やり抑え込んできた動作であることが多いでしょう。

この女性の手足は、本当は害となるものを押しやって、自分の居場所を確保するという闘争・逃走反応を行いたかったのに、無理やりそれを押し込め、不動系によって凍りつかせ、じっと耐えていたのです。

からだが本当は何をしたかったのに、それを無理やり抑え込んできたかを知るには、本文で詳しく扱ったように内的な感覚をじっくり観察し、「からだの声」を最後まで聞くトレーニングが必要です。

闘争、逃走を完了させる

解離は副交感神経系でリラックスできず、続いて生じる「闘争・逃走」の交感神経系でも対処しきれなかったときに生じます。裏を返せば、「闘争・逃走」に成功すれば、解離には至りません。

マインドフルネスで内面を観察し、何かのトリガー刺激をきっかけになだれのごとく解離や疼痛・疲労の増強に至っていることがわかったなら、からだが危険を知らせて過緊張状態になった段階で、自分の意志でトリガー刺激から逃れることができます。

本文で取り上げたとおり、怒りを引き起こす相手の前から去ったり、人目にさらされて「どう思われるだろうか」という恥に追い詰められる場所を後にしたり、学校を自分から捨ててみたりするということです。

 トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際によれば、ある患者は、子ども時代の性的虐待の名残として、両足に強い緊張が慢性的に生じていました。おそらく暴行されたとき、いつも両足が凍りつくのを繰り返し経験していたのでしょう。

例えば、ヴェラは凍りつく傾向について身体の部分に意識を向けると、身体全体、特に両足に緊張があることに気づきました。

セラピストが、もしその緊張にともなう言葉があるとすれば何ですか、とたずねるとヴェラは、まず「私は動くことができません」と言いました。

子ども時代の性的虐待への必要かつ適応的な反応が、凍りつくことだったのです。(p123)

この虐待の遺物ともいえる凍りつき反応に対し、セラピストが処方したのは、逃走を完了させるということでした。

セラピストが両足の緊張に注意を向けるように促したとき、彼女は次のようにコメントしました。「私の足は逃げたがっています」。

彼女は、虐待中には実行できなかった、本来は自分に力を与えてくれる防衛行動を発見したのです。

この気付きで、ヴェラは、逃げるという衝動により意識的になり、足に「ちから」を体験しました。

セラピストに励まされ、足に動く能力が備わっていると感じるために、セラピー中に立って室内を歩きまわりました。そして、その場で走りたいと言いました。(p123)

この場合、文字通りの場所から逃避したわけではありませんが、過去の遺物としてからだに残っていた未完了の逃走反応に気づき、それを活性化させることで解離の凍りつきを治療していきました。

いずれにしても大事なのは、恐れに支配されてみじめに逃げ帰ることではなく、自分の意志で逃走するということです。惨めに追い立てられた経験は再トラウマになりますが、自分で選んでトリガー刺激から逃れた場合は、自信になります。

詳しくは以下の記事で書きました。

はっきり「ノー」と言う

解離傾向の強い人たちは、自ら声を上げることがとても苦手で、しばしば緘黙症と診断されることもあります。

そもそも解離しがちなのは、過剰同調性によって、まわりの空気を読みすぎ、身動きが取れなくなり、はっきりと声を出して「ノー」(いいえ)と言うことができないタイプの人たちなのです。

本文で見たとおり、「どう思われるだろうか」という気持ちにとらわれる恥は解離への直行便です。

空気を読みすぎて疲れ果てる人たち「過剰同調性」とは何か
空気を読みすぎる、気を遣いすぎる、周囲に自分を合わせすぎる、そのような「過剰同調性」のため疲れ果ててしまう人がいます。「よい子」の生活は慢性疲労症候群や線維筋痛症の素因にもなると言

また、トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際が述べるように、苦痛を感じていても、「ノー」ということができず、判を押した口癖のように「大丈夫です」と受け答えしてしまうのは、自己抑制の強い人たちに特有のものです。

たとえば、ソファに座っているクライエントに、見るからに居心地が悪そうなのに、「どうですか?」とか「身体はどんな風に感じていますか?」という質問に対して笑みを作り、「大丈夫です」と答えるかもしれません。

このクライエントの身体的あるいは情緒的な不快さと、本人が報告した心理的状態との間にある分離は、内的な心理的状態と身体的状態との間の不一致や一貫性のなさを示していますが、このことに本人はしばしばまったく気づいていません。(p67)

何を聞かれても「大丈夫です」とつい言ってしまうのは、たいていほぼ無意識の受け答えです。本当はからだやこころが苦痛を感じているときでも、それに気づけない失感情症や失体感症に陥っています。

以前の記事で考えたとおり、こうした傾向は未解決のトラウマが身体反応として現れている、原因不明の慢性疲労、慢性疼痛、自己免疫疾患などの患者によくみられます。

成人型の慢性疲労症候群の文化が抱える「バラムとロバ」現象

はっきり「ノー」といえることと、解離による凍りつきが正反対の結果を招くことは、身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法に載せられている、護身術訓練プログラム、モデル・マギングにまつわる痛ましいエピソードからもわかります。

プログラムが始まったのは、1971年に、カリフォルニア州オークランドで空手の黒帯五段の女性がレイプされたあとだ。

素手で相手を殺すこともできたであろう人に、どうしてこんなことが起こり得たのかと不思議に思った友人たちは、恐れによって技能を使えない状態になったのだと結論した。(p357)

この女性は、すばらしい身体能力を持っていたはずでしたが、恐れによって解離し、凍りついてしまうと何もできませんでした。ちょうどイップスになったスポーツ選手が、凍りつきによってプレーが崩壊してしまうのと同じように。

それで、モデル・マギングのプログラムでは、恐れで凍りついて解離する反応を解除するスキルを訓練します。

モデル・マギングのプログラムでは、女性は「零時」(作戦開始時刻を意味する軍事用語)に置かれて、恐れを積極的な闘争エネルギーに変えることを何回も繰り返し、この凍結反応を解除する術を身につける。

私の患者の一人で、過去に過酷な児童虐待を経験した大学生が、そのプログラムに参加した。最初に会ったときには、彼女は虚脱していて、抑うつ状態で、過度に従順だった。

三か月後の修了式では、巨漢の攻撃者を首尾よく撃退した。…彼女は男性に向かって、両腕を上げて空手に構えをし、穏やかにはっきりと「ノー」と大声で言った。(p358)

この女性は、最初「虚脱していて、抑うつ状態で、過度に従順」という、解離状態と過剰同調性に陥っていました。

しかし、はっきり大声で「ノー」といえるようになると、解離を解除できるようになりました。そればかりか、その後、夜道で本物の暴漢たちに襲われそうになったとき、首尾よく撃退することさえできました。

のちに話してくれたところによると、彼女は先ほどの空手の構えをして「この時を待っていたのよ。さあ、誰からでもかかってきなさい」と叫び返したという。彼らは逃げ去った。(p358)

性被害を防ぐ方法のひとつに、はっきり拒絶の意思表示をして大声で叫ぶことが効果的だと言われますが、それはとりもなおさず、解離による凍りつき反応ではなく、闘争・逃走反応によって、抵抗する姿勢を見せられるからです。

文字通りの暴漢に襲われるわけでなくても、さまざまなトリガー刺激に対して条件反射で解離を起こすのではなく、はっきりと「ノー」と抵抗し、自分の意思を保てるようにするのは、解離を他の反応を置き換える効果的な手段だといえます。

口で「ノー」と言えなければ身体が「ノー」と言うようになる― 抑圧された感情が招く難病と慢性疾患
ガンや自己免疫疾患、慢性疲労症候群(CFS)を含む多くの難病は、突然発症するのではなく、子どものころから抑圧してきた感情が関係している。患者の気持ちに配慮しつつ、ガボール・マテ博士

能動的になる

解離は、逃走も闘争もできず、どうにもできない無力感を抱いたときに生じます。もはや万策尽きた、打つ手なし、とからだが感じたとき、最終手段として不動系がからだを凍りつかせ、シャットダウンするのです。

つまり、まだ自分には何かやれることがある、と感じているうちは、逃走・闘争反応で交感神経系が高ぶることはあっても、超限界段階まで押し切られることはなく、解離は生じません。

「逃走」が無理でも、自分の意志でしっかり「闘争」できれば、その次の「凍りつき」や「破綻」は生じません。

解離しそうになったときは、自分にもまだできることを見つけ、能動的に参加し、自分には間違いなくやれることがあるという感覚を持てれば、解離を防げます。できることを探しましょう。

解離の舞台―症状構造と治療には、解離性同一性障害の女性のこんなエピソードが載せられていました。

祖母に嫌なことを言われて、いつものように攻撃的な人格が出てきて祖母に怒鳴ろうとしたけど、私が、「大丈夫、自分で言うから」と声をかけたら、他の二、三人の人格の声が聴こえて、「大丈夫だよ、まかせて」というようなことを言ってくれ、攻撃的な人物を抑えてくれた。

私自身が自分の言葉でちゃんと話せた。そしたら祖母と揉めることもなかった。こういうことは初めての経験で、「できた」と思った。気持ちがすごくスッとして明るくなった……。(p269)

この場合、祖母に言われた言葉がトリガーとなって、過緊張状態が引き起こされ、超限界段階を迎えて意識がシャットダウンし、攻撃的な人格に乗っ取られる解離反応を起こしそうになりました。

しかし、その一連のなだれのごとく引き起こされる反応の途中で立ち止まり、「大丈夫、自分で言うから」という別の反応で置き換えると、意識が解離して乗っ取られることなく、「今ここ」にとどまることができました。

トリガー刺激に引き出されるままに条件反射を起こすのではなく、反応を保留して、自分でどうするか選ぶことにより、解離をとどめることができたのです。

はっきりと「ノー」と言うのは、自分を誘い出して解離させようとするトリガー刺激に対して、「ノー」と述べて、自分のからだは自分が制御する、という意思表示をすることでもあります。

難病や試練を乗り越える人の共通点は「統御感」ー「コップに水が半分もある」ではなく「蛇口はどこですか」
難病など極めて困難な試練から奇跡の生還を遂げる人たちは、共通の特徴「内的統制」を持っていることが明らかになってきました。「がんが自然に治る生き方」「奇跡の生還を科学する」などの本か

姿勢を変える

ストレス反応はすべて姿勢と結びついています。

副交感神経が優位になればからだはリラックスして自然体になります、闘争・逃走反応が優位のときは手足に力が入ります。しかし不動系が優位になって解離すると、からだが固まったり力が抜けたりして動けなくなります。

裏を返せば、寝転がったり座ったりしている姿勢では不動系にのっとられて解離しやすくなりますが、立ち上がったり歩いたり、その場で手足を自由に動かしたりできれば、交感神経系を活性化させられるということです。

しかし次の瞬間に彼はまた無表情に戻り、からだも諦めたかのように前屈みになった。私は彼に虚脱状態に陥ってほしくなかったので、膝を少し曲げて立ってみるように言った。

立つことには固有受容的で感覚運動的なシステムの活性化と協調が必要とされる。このことはアダムの意識を常にオンラインにしておくという効果があった。(p224)

慢性疼痛のように交感神経系と不動系が両方起動してしまっている人の場合はさらに交感神経系を刺激する必要はありませんが、慢性疲労のように不動系にシャットダウンされている人は、解離しそうになったら立ち上がったり段階的に運動したりすることで感覚を取り戻せます。

特に、解離して現実感が薄れたりふわついたりするときに、地面をぐっと踏みしめて、しっかり地に足がついている感覚を感じ取ることはグラウンディングと呼ばれています。

グラウンディングは、先ほど出てきた「安心の島」の手に集中するエピソードの足バージョンだといえます。手足は不動系ではなく交感神経系によって司られています。

興味深い方法として、立ち上がることのほかに、バランスボールの上に座ることで、解離を起こしにくくするというアイデアもあります。

解離状態の患者には、身体感覚を制御する脳領域(島および帯状回)の大幅な活動低下が認められた。

これに対して立位の場合、固有受容、運動感覚の統合を介してバランスを維持するために、少なくとも何らかの内受容活動と気づきが必要となる。この単純な姿勢の変化が、クライアントが困難な感覚や感情を処理しながら からだの中にとどまっていられるかどうかの相違を生むことが多い。

もう一つの効果的なバリエーションは、クライアントに適切なサイズのバランスボールの上に座ってもらうことである。

ボールの上でバランスを保つことは、平衡維持のために複数の調整を必要とする。

このため、ボールの柔らかい表面からのフィードバックを通じて内的感覚に触れることに役立つだけでなく、筋肉意識(気づき)、接地感覚、中心感覚、防衛反射および体幹の強さを探ることで、身体意識の発達に全く新しい次元がもたらされる。(p140)、

そのほか、次の項で紹介するようバタフライハグのような自分で自分を抱きしめる姿勢は、交感神経系の興奮を抑制し、副交感神経系の愛着システムに訴える力があります。

ラヴィーンはまた、日本古来の仁神術を参考にして、片手を額に当て片手を胸に当てる姿勢や、片手を胸に当て片手を腹部に当てる姿勢を紹介しています。(p153)

こうした姿勢は、もしかすると交感神経系がつかさどる手と、副交感神経がつかさどる顔や、不動系がつかさどる胸、腹などをつなぐことで、それぞれの働きのバランスを取り戻させる働きがあるのかもしれません。

習慣的な姿勢を変化させることで感情を整えるボディワークはいろいろありますが、たとえば 身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法の中でヴァン・デア・コークは、フェルデンクライス・メソッドなどの手法を勧めています。

とはいえ、人は体の芯から安全だと感じなければ、完全に回復することはできない。

したがって私は、治療的(セラピューティック)マッサージ、フェルデンクライス・メソッド、頭蓋仙骨療法といった、何らかのボディーワーク(手技や体操、運動などを通して体から意識に働きかける方法)を受けるように、すべての患者に勧めている。(p352)

また、身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアの中でピーター・ラヴィーンはアレクサンダー・テクニークに言及しています。

アレクサンダー・テクニークの名前は、F・マサイアス・アレクサンダーに由来している。

彼は1890年から1900年の間にその原理を最初に観察し、定式化した人物である。

アレクサンダー・テクニークは、個々人の身体的状況および精神的状況全体を阻害している。誤った姿勢の習慣を軽減させるアプローチである。(p32)

リズムを上書きする

以前の記事で考察したとおり、こうした一連の症状を起こしている「からだの記憶」は一種のリズムです。それは、交感神経系や不動系が起動すると、心拍が変動することからもわかります。

解離は引き込み・共鳴現象と関わるリズム障害かもしれない

トリガーによって過剰に刺激されると、からだは「闘争・逃走」に備えて心拍のリズムをぐんと上げます。しかしどうしようもないと、今度はシャットダウンの解離反応を起こし、心拍のリズムがぐっと下がります。

このような内部のリズム変動を制御するためには、音楽を聞いたり演奏したりして、トラウマ反応のリズムではなく音楽のリズムに同調すること、タッピングによって外からリズムを整えてやることなどが効果的です。

タッピングの方法としては、自分で自分を抱きしめながら、左右交互にタップするバタフライハグが効果的かもしれません。交感神経系が優位になって心拍リズムが早まり、過緊張になりそうになったときに落ち着かせることがてきます。

子ども時代の慢性的なトラウマ経験がもたらす5つの後遺症と5つの治療法
子ども時代の慢性的なトラウマが、統合失調症や双極性障害と見分けにくい様々な問題をもたらすことや、その治療法としてトラウマフォーカスト認知行動療法、自我状態療法などが注目されている点

また身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法では、指圧のツボを順にタッピングするエモーショナル・フリーダム・テクニック(EFT)という方法も紹介されていました。

体のさまざまな場所にある指圧のツボを自分の指で順にタッピングすることも教えた。

よく「エモーショナル・フリーダム・テクニック(EFT)」という呼び名で教えられている手法で、患者が耐性領域の内側にとどまる助けになることが証明されており、PTSDの症状に有効なことも多い。(p437)

エモーショナル・フリーダム・テクニック(Emotional Freedom Techniques)は検索すればやり方を解説した動画がたくさん出てきます。

不動系によってシャットダウンしてしまったときは、楽器を弾いたり、歌を歌ったり、好きな音楽を聞いたりすることで、リズムを上げて、不動状態から抜け出すことができます。

まもなくグループ全体が歌い、動き、立ち上がって踊りだした。それは驚くべき変化だった。人々は生命を取り戻し、表情は同調し始め、生気が体に蘇った。

私は、ここで目にしているものを応用すること、そして、リズムと歌と動きがトラウマの治療にどのように役立ちうるかを研究することを誓った。(p350)

オリヴァー・サックスも、音楽嗜好症(ミュージコフィリア)―脳神経科医と音楽に憑かれた人々の中で、母親が亡くなったとき、解離状態に陥ったこと、しかし音楽がその心身の凍りつき反応を融かしてくれたことを回想しています。

私の感情は「凍りつき」、鬱という言葉では表現しきれない状態に陥った。

何週間も、起きて、服を着て、職場に行って、患者を診て、外見はふつうに見えるようにと努力した。しかし内面は死んでいて、ゾンビのように生気がなかった。

ある日、ブロンクス・パーク・イーストを歩いていると、突然すっと気持ちが軽くなるのを感じた。気分が高揚し、命の、喜びの、ささやきか予感のようなものが感じられる。

そのときはじめて、心象か記憶とまちがえるくらいかすかではあったが、音楽きが聞こえていることに気づいた。歩き続けるとだんだん音楽は大きくなり、とうとうその源までたどり着き、地下室の開いた窓から流れるラジオのシューベルトだとわかった。

その音楽が私を突き刺し、さまざまな心象や感情を次々と解き放った―子どものころの思い出、一緒に過ごした夏休み、母がシューベルト好きだったこと(彼女はよく、すこし調子はずれの声で『夜の歌』を歌っていた)。

私は数週間ぶりに笑みを浮かべたばかりか、声を出して笑った。そして生気を取り戻した。(p405-406)

こうしたリズムを取り戻すための知恵は、さまざまな伝統技法の中にも見られます。

先述した仁神術だけでなく、ヨーガや太極拳、気功など、古来より体系化された伝統的な治療技法に伝わる仕草や姿勢の中には、過覚醒を和らげ、自律神経系のバランスを取り戻すのに役立つ知恵が秘められているように思います。

これらの伝統技法は、西洋医学的には眉唾だとかプラセボにすぎないと言われることがありますが、ヴァン・デア・コークが身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法で書いているように、ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)から理解すれば、科学と伝統を一致させることができます。

だが、これらの型破りな技法がなぜこれほど効果があるのかを私たちが理解し、説明するうえで、ポリヴェーガル理論にはおおいに助けられた。

私たちはこの理論のおかげで、トップダウンの取り組み(社会的関与を行なわせる)とボトムアップの方法(体の緊張を和らげる)を、以前より意識的に組み合わせるようになった。

私たちはまた、呼吸法(プラーナーヤーマ)や詠唱(チャント)から、気功のような鍛錬法や武道、ドラム演奏や合唱、ダンスまで、西洋医学の外で長年行われてきた、他の古い、非薬理学的な取り組みの価値も受け入れやすくなった。

これらの取り組みはみな、人と人との間のリズムや、内臓感覚の自覚、声や表情による意思疎通に依存している。(p143-144)

こうした伝統技法や音楽は、ひとつにはリズムの同調を通して、トラウマ記憶によって乱された自律神経系のバランス改善に寄与します。

宗教上の理由などから、このような技法に抵抗があり、治療に取り入れられない人の場合でも、心拍変動を分析してニューロフィードバックを訓練するようなアプリを使用することで、似たような効果を得ることができます。

今日ではスマートフォンを使って、心搏変動の改善を助けるさまざまなアプリケーションがある。

私たちのクリニックでは、患者はワークステーションで自分の心搏変動の改善訓練ができる。

何らかの理由でヨーガや武道や気功を練習できない患者たちには、自宅で訓練するように勧めている。(p444)

感覚を感じて意識をつなぎとめる

シャットダウンして意識が飛んだり、現実感が薄れたり、失感情症になったり、頭に霧がかかってブレインフォグに陥りそうになったりしたら、強い感覚刺激を与えることで意識を引き戻すことができます。

これは、自傷行為を行なう人たちが無意識のうちにやっている手法です。前に説明したとおり、自傷行為の中には、強い痛みによって、解離しかかっている意識を引き戻すために、無意識のうちに行われているものがあります。

あるいは、過緊張状態になって、超限界段階寸前に閉じ込められているとき、もうひと押しして解離してしまうために自傷する人もいます。自傷行為は解離への往復切符です。

なぜ無意識のうちに自傷をやってしまうのか―リスカや抜毛の背後にある解離・ADHD・自閉症
リストカット、抜毛、頭を壁にぶつけるなどの自傷行為、また自己破壊的な依存症の原因はどこにあるのでしょうか。それらが注目を集めるための演技ではなく、解離という心の働きや、脳の構造と関

もちろん、解離を食い止めるために自傷行為をするわけにはいきませんが、それと似た方法は使えます。たとえば、冷たく冷やした氷枕のようなものを手に当てたり、パルスシャワーを浴びたりすれば、意識がはっきりします。

また、食べる、飲む、味わう、走る、セックスといった行動も、意識を引き戻します。不動系が引き起こす解離とは、動物における仮死状態のことなので、生きている動物がふだんやっていることは何であれ、解離から意識を引き戻す作用があります。

しかしながら、いくら動物が生きていることを実感する活動とはいっても、食べすぎて過食になったり、トレーニングすぎてアドレナリンハイ依存になったり、マスターベーションにふけったりする中毒になると危険です。

事実、トラウマ障害の人の中には、自傷行為をするのと同じ理由で、こうした依存症になってしまう人がいます。身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアはこう述べています。

自分のからだの内部を深く感じられなくなればなるほど、私たちは過度の外部刺激を切望する。(p336)

解離から意識を引き戻すために、別の刺激的な感覚で目覚めさせるという方法は、手っ取り早く効果的ではあるものの、こうした落とし穴がひそんでいることには十分注意すべきです。

そして、注意すべき点として、こうした依存症になりかねない刺激によって解離を解除するのはは、じつは薬物療法もまた同様です。 身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法にはこう書かれています。

人は昔からトラウマ性ストレスに対処するために、薬物やアルコール類を使ってきた。文化や世代によって、好まれるものは違う。

たとえばジン、ウォッカ、ビール、ウイスキー。ハシッシュ、マリファナ、大麻、ガンジャ。コカイン、オキシコドン(オキノーム、オキシコンチン)のような麻薬様物質。

ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)、アルプラゾラム(コンスタン、ソラナックス)、クロナゼパム(リボトリール、ランドセン)のような精神安定剤。

人は切羽詰まると、もっと落ち着いて主導権を握っていると感じるためなら、どんなことでもしようとする。精神医学の主流はこの伝統に従っている。(p367)

つまり、何らかの刺激的な依存症によって解離を和らげようとするのは、精神安定剤などの薬物療法の場合も同じだということです。

こうした外的刺激は手っ取り早く症状に対処するのに役立ちますが、症状をコントロールするのではなく、無理やり抑えつけるだけです。そのため、最も大切な自己コントロール力を身につける助けにはなりません。

だが、薬はトラウマを「治す」ことはできない。乱れた生理機能の表れを抑えることができるだけだ。

また、自己調節を可能にする効果が永続するような教訓を与えてはくれない。

感情と行動を制御するのを助けることはできるが、それには常に代償が伴う―なぜなら薬は、関与、モチベーション、痛み、喜びを調節する科学システムを抑え込むことによって作用するからだ。(p368)

解離やPTSDに対する薬物療法は、一時しのぎにはなります。自己コントロールを育むトレーニングのために、準備を整える助けにはなります。

しかし薬物療法のみによって症状を押さえ込もうとするなら必ず失敗します。間違いなく副作用に悩まされるようになり、より泥沼にはまりこみます。

それで、解離の治療においては、過度の外的刺激によって解離を解除するのではなく、マインドフルネスによって内部の感覚をしっかり探れるようトレーニングし、ここまで挙げた様々な方法を臨機応変に駆使して解離を防ぐのを目指すとよいでしょう。

芸術的に昇華する

最初に述べたとおり、解離を起こしやすいのは、自己抑制が強すぎて、自分の気持ちを限界まで押しとどめて我慢するタイプの人たちです。

本当は自由に動き回りたい、全身で遊びたいのに、過剰同調性によってまわりの空気を読みすぎて、「どう思われるだろうか」という恥にがんじがらめにされて、自分の欲求を殺し、動けなくなっている人が、結果として不動系を起動させ、解離してしまいます。

それを解除するには、自由に動き回れること、特に「どう思われるだろうか」という恐れにとらわれて凍りついていた自分を解き放ち、思うがままに自己表現することが役立ちます。

解離の不動状態に陥っている人は動物園の檻で拘束されて走ることも飛び跳ねることも忘れてしまった動物のようなものなので、広いサバンナで自由に走り回る経験を通して、生き生きとした感情を取り戻すことが必要です。

その方法として、手足を含めたからだを動かすことはもちろん、芸術のようなかたちで、内なる自己を解放することも効果的です。

解離の舞台―症状構造と治療にはこう書かれていました。

患者は幼少時から自分の感情や思考を把握できなかったり、それを表現することに制止がかかっていたりする。

そのため自己を絵画、音楽、対話などさまざまな手段によって表現することは回復の役に立つ。

概して解離の患者は芸術的方面の才能があるように思われる。(p289)

わたしがネット・リアルを問わず、色々な人を観察してきて思うのは、生まれながらに解離傾向の強い人、解離の世界を体験している人たちは、例外なく芸術的な感性がにじみ出ているということです。

たとえ積極的に創作していない場合でも、文章の端々から感受性の強さがにじみ出ているのがわかります。意識せずとも「言葉で絵を描いている」とでも言うのでしょうか。

共感覚のある人は、それがある人とない人の文章を判別できるそうですが、それとよく似ていると思います。

わたしは、解離傾向の強い人たちは、たとえ今まであまりやったことのない芸術活動であったとしても、思い切ってやってみると感性を発揮して楽しめる可能性があると思います。

本文のほうで、わたしが10代のころの箱庭療法を通して不登校と慢性疲労の虚脱状態から抜け出した話を書きましたが、そのときのグループセラピーで、比喩や連想が次々と湧き出てきて、とても楽しいことに気づきました。

わたしは子どものころから色々な創作をいつの間にかやっていましたが、自分にそうした感性があるなどとは微塵も思っていませんでした。

というのも、学校の評価システムの中で作る創作がまったく楽しくなく、しかも点数づけされるせいで、嫌になってしまったからでした。「どう思われるだろうか」と感じながら作る芸術はこころが解離してしまい芸術になりません。

なぜ耐えがたい恥は人を生ける屍にしてしまうのか―「公開羞恥刑」と解離の深いつながり
公衆の面前で恥をかかせるという刑罰「公開羞恥刑」。現代のいじめやSNSの炎上、子ども虐待などが、いかに公開羞恥刑のようにして人を辱め、その結果、被害者の心を殺害し、解離させてしまう

本文で注意書きしたとおり、他人に評価されたり批判されたりすると、恥という解離に引きずり込む流砂に足をとられてしまい、自己表現が縛られ、まわりの期待に合わせて振る舞う過剰同調性に逆戻りするだけです。

しかし、あのときの箱庭療法では、優れたセラピストに導かれ、共感し、一緒に楽しんでもらえたおかげで、感性が戻ってきて、自由に自分を表現でき、走り回れることに気づきました。

解離傾向の強い人の場合、たとえこれまであまり芸術が好きでなかったり、学校の授業の美術や図工は嫌いだったりしても、自分から能動的に芸術に親しんでみれば、意外なほど感性が自由に流れる感覚に気づくのではないかと思います。

からだ全体を使って楽しむ芸術は、とりわけ自己抑制にとらわれていた自己を解放し、不動状態から抜け出す助けになります。

コントロールを奪われそうになったら

こうしたツールをすべて使っても、交感神経が高ぶったり、からだが凍りついたりするのを止められず、どうにもならなくなってパニックになりかけるときがあるかもしれません。

その場合は、基本に立ち戻ります。基本というのは、本文のほうで詳しく説明した、自分をモニタリングするマインドフルネスのことです。

何をやってもあらがえず、コントロールを失いかけているときは、言い換えればA→B→C→D→Eという連鎖反応がなだれのように進んでいる状態、いちばん最初の元のもくあみに戻ってしまっているということです。

このなだれのような一連の反応に流されるのを食い止め、立ち止まって観察するのが基本となるマインドフルネスでした。トリガーとなる刺激にさらされても、ただ観察することに徹し、反応を一次保留するためのスキルです。

この記事で紹介したさまざまなツールは、それができていることを前提として、マインドフルネスの一時停止ができた上で、次の反応を別の反応で置き換えるためのツールでした。

車で例えると、一旦停止ができた上で、右に曲がるか左に曲がるか選べるようになります。

なだれのごとく連鎖反応に呑まれているということは、この基本となる一旦停止のスキルが失われているということです。コントロールを失いかけたなら、パニックになって焦ったり、ここで紹介したツールを必死になって色々試したりするのではなく、一時停止を意識しましょう。

本文で説明したことを参考にして、からだをただ観察し、条件反射を保留するマインドフルネスに立ち返れば、効果的にツールを使える状態に戻ってこれるでしょう。

「からだの記憶」の治療法―解離と慢性疲労のための身体志向のトラウマセラピー
解離やPTSDは「からだの記憶」によって引き起こされる「からだ」を土台として生物学的な現象である、という理解にもとづき、身体志向のトラウマ・セラピーについて考察しました。

息苦しさにとらわれたときは

個人的な経験からですが、解離の症状には、不動系が呼吸を制御しているがゆえに、息苦しさが含まれます。解離状態になると息が浅くなり、深呼吸しようとしても息が入らなくなります。

身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアにはこう書かれていました。

自律神経系が支配する行動のうち目で見てわかるものに、呼吸器系兆候および心血管系兆候がある。

早く浅いかつ/または胸上部の呼吸は交感神経が覚醒している状態を示す。非常に浅い(知覚不能なほどの)呼吸は、不動状態、シャットダウン、解離を示すことが多い。(p173)

わたしの場合息苦しさのあまり、息を吸おうと必死になってからだに力を込めると、余計にからだが凍りついて呼吸が苦しくなるので、過呼吸発作のようなパニック状態になることがありました。

無理して深呼吸すると、実際には神経系の不均衡が増し、せいぜい一時的な安堵しか得られない場合が多い。(p173)

マインドフルネスでは呼吸に注意を向け続けるように指導されますが、こうした解離に伴う息苦しさのせいで、呼吸を意識するあまり、やはり息苦しさが増して、じっとしていられなくなることもありました。

あとになって、トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際を読んだとき、こう忠告されているのを知りました。

西洋医学では、1800年代以来、呼吸法がトラウマ治療に有効だと認識されています。おそらく、自律的な覚醒状態は、常に呼吸の変化に帰着するからでしょう。

…呼吸のエクササイズは、効果があると同時に、トラウマをもつクライエントを急速に不安定にするので、使用するときには注意が必要です。(p314)

わたしが経験していたのは、いわば呼吸の「イップス」ではないかと思います。

本文で説明したとおり、イップスとはスポーツ選手の不随意運動のことで、無理やりプレーをしようとすると、一連の動作の中に不随意運動が巻き込まれ、動作が崩壊します。その動作にトラウマ反応が巻き込まれて記憶されているからです。

うまく呼吸できないときは、意識的に呼吸しようとすると、一連の呼吸の動作の途中で余計な筋肉に力が入るという不随意運動(不動系の固まり反応)が生じ、呼吸という動作が成り立たなくなっているように感じました。

問題となっていたのは、呼吸をコントロールしようとしていたことです。

本来、マインドフルネスでは、どんな刺激に対しても確認するだけで、反応を保留するようトレーニングします。呼吸に注意を向けて、息苦しさを感じたとき、無理に呼吸しようとしてしまうのは、この反応を保留してただ見守るというステップが不十分だからです。

じっくり観察すると、呼吸が深くできないときには、必ずその前に条件反射的にからだに力を入れてしまう予備動作(プリムーブメント)があることに気づくでしょう。そしてからだに力を入れなかったときは息が入ることにも気づくでしょう。

なかなか難しい部分ですが、息苦しさを感じたとき、何も反応せず力を抜き、からだが勝手に呼吸するのをただ見守るよう務めます。最初は困難ですが、しだいに時々成功するようになり、一度でもうまくいくと感覚がつかめてくると思います。

暴れ馬の手綱を握ってコントロールを取り戻すようなイメージを浮かべるのも、冷静さを取り戻す助けになるかもしれません。暴れ馬をコントロールするのに必要なのは無理やり力づくでコントロールしようとするのではなく、穏やかになだめ、導くことです。

無理やりコントロールしようとせず、「今ここ」に意識を集中するコツがつかめてくると、解離の凍りつきが融けて、からだに生気が戻ってくるのを実感できるので、それに取り組むのが楽しみになってきます。

以前は自傷行為や薬で無理やり解除するしかないと思っていた不動状態が、座って何十分か心を整えるだけで少し楽になれるので、悪い習慣が自己コントロールの訓練に置き換わっていきます。

フェルデンクライス・メソッドやヨーガといった身体志向のセラピーを通して、こうした自己コントロールを訓練したベトナム帰還兵のPTSD患者ビルについて、身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法にはこう書かれていました。

教室で体の一部がときおりついていけないことがあったものの、ビルはそのヨーガが気に入った。

身体的な障害を抱えていたにもかかわらず、以前は感じることがなかった身体的な喜びと体を意のままにしている感覚を得た。

かつては精神的な治療が、ヴェトナムでの身の毛もよだつような経験を過去のものにするのを手助けしてくれた。

今度は自分の体と友達になれたおかげで、ビルは身体的な制御の喪失に縛られることなく、人生を送り続けることができた。(p375)

目的は「耐性領域内」にとどまること

ここまで、解離しそうになったときに解離を別の反応で置き換えるさまざまな方法をリストアップしてきました。

大切なのは、どれかひとつの方法で満足しないことです。どんな状況でも常に役立つ万能薬はありません。

A(トリガーとなる刺激)→B(条件反射)→C(連鎖反応)→D(連鎖反応)→E(症状)といった連鎖で解離が生じることを説明しましたが、これは生物学的にいえば、「トリガーとなる刺激」→「逃走反応」→「闘争反応」→「凍りつき反応」→「破綻反応」のことでした。

この一連の連鎖反応のどの段階でも同じ方法が通用することは絶対にありません。

「逃走」や「闘争」の段階では交感神経系が優位になって過緊張状態になり、今にも超限界段階にいたろうとしています。こんなときに、立ち上がったりアップテンポの音楽のリズムに同調したら逆効果です。

そのあとの「凍りつき」の段階では交感神経系と不動系がほぼ同時に働き、「破綻」の段階では不動系がすべてをシャットダウンしています。つまり、各段階によって、対処法は変わってくるということです。

自分が今どの段階にいるかは、マインドフルネスによって、「からだの声」をじっくり聞き、観察できるようになればわかるようになってきます。

そして、自分がいる段階に応じて、その場その場で臨機応変に、この記事で見たような対処法のいずれかを選択できるようになります。

目的とするのは、耐性領域内にとどまる、ということです。身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法にはこう書かれていました。

私たちは、何かのきっかけで過覚醒や低覚醒の状態になるときには、「耐性領域」(最適なかたちで機能できる範囲)の外に押しやられている。

過覚醒の場合には、私たちは反応しやすくなり、混乱に陥る。フィルターが働かなくなるので、音や光に悩まされ、望みもしない過去の光景が心に侵入し、パニックになったり逆上したりする。

低覚醒の状態で機能停止に陥ると、心も身体も麻痺しているように感じ、頭の働きが鈍り、椅子から立ち上がることも難しくなる。(p336)

解離に陥るときには、この低覚醒と過覚醒をジェットコースターのように一瞬にして移動します。

トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際にこう説明されているとおりです。

トラウマ関連の疾患をもつ人は典型的に覚醒亢進(過剰な活性化の体験)や覚醒低下(少なすぎる活性化の体験)になりやすく、しばしば両極端に揺れ動きます。

トラウマを再想起させる刺激で、両方の傾向が自動的に引き起こされ、クライエントは調節不全な覚醒状態のなすがままになります。(p35)

身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアには、ジェットコースターのように過覚醒と低覚醒の間を振り回されてしまうことについて、さらに具体的にこう書かれています。

トラウマを受けた人は、パブロフの超限界段階のように、一方では麻痺とシャットダウン状態、もう一方では恐怖や激しい怒りのような情動があふれてくる状態との間を、激しくかつ予測不可能なやり方で行ったり来たりしていると感じている。

これらの両極の振り幅はしばしば不規則で気まぐれである。

人間のPTSDにおいて、慢性的にこれを患っている人は、しだいにシャットダウン状態になっていく傾向がある。これは、アレキシサイミア(情動的な気づきに欠損により感情を描写したり詳述したりできない)や抑うつ、身体化といった症状として出現する。(p293)

慢性疲労や慢性疼痛の人の場合は、最後の一文のように、耐性領域の下側に位置する解離の不動状態に閉じ込められがちです。

前に書いたとおり、解離とは、交感神経系のアクセルが全開になったとき、不動系の急ブレーキを踏み込んで緊急停止した状態でした。

PTSDと解離の11の違い―実は脳科学的には正反対のトラウマ反応だった
脳科学的には正反対の反応とされるPTSDと解離。両者の違いと共通点を「愛着」という観点から考え、ADHDや境界性パーソナリティ障害とも密接に関連する解離やPTSDの正体を明らかにし

トリガーとなる刺激によって、まず過覚醒になり、ついで超限界段階という耐性領域の上に飛び出てしまい、反動で低覚醒になり、そして最後には耐性領域の下側に飛び出る解離に陥ります。

トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実際には、耐性領域内に留まるとはどういうことか理解するのに役立つ、次のような表が載せられていました。

   感覚の増大
   情動的反応性
   過剰な警戒状態
   イメージの侵入
   無秩序な認知処理
過覚醒領域
―――――――――――――――
  ↑
耐性領域
   最適な覚醒領域
  ↓
―――――――――――――――
低覚醒領域
   感情の相対的不在
   感情の麻痺
   無効な認知処理
   身体的動作の減少  

図2-1 覚醒の3領域:自律神経系の覚醒状態の調整を理解するための簡易モデル(p36)

この表をポリヴェーガル理論に照らした場合は以下のようになります。

   2.交感神経の「闘争/逃走」反応
過覚醒領域
―――――――――――――――
  ↑
耐性領域
  最適な覚醒領域
   1.腹側迷走神経の「社会的関わり」反応
  ↓
―――――――――――――――
低覚醒領域
   
3.背側迷走神経の「固まる」反応

図2-2 3つの覚醒領域と多重迷走神経階層の相関関係(p42)

耐性領域に戻ってくるためには、超限界段階の過覚醒になりそうなときは下側に引き戻し、解離の低覚醒に陥っているときは上側に引き戻す必要があります。ほんの一瞬のうちに変化していく連鎖的反応であっても、その時々で対策は異なっています。

マインドフルネスによって自分をしっかり観察できるようになると、その時々で適切な対策がどれかもわかるようになってきますが、そのためには何を置いてもまず、さまざまなツールをすべて持っていなければなりません。

たくさんの選択肢をツールボックスに入れておく

解離に陥らないために最も大切なことは、「自分には何かできることがある」という感覚です。

解離の不動状態とはすなわち学習性無力感のことだと以前に書きました。どこにも逃げ場がなくなり、「もう打つ手はない」と思った瞬間、からだの生物学的本能が解離を選びます。

自己コントロール感を失い、完全に無力感に支配されると人は解離します。

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子ども虐待のサバイバーたちが、だれからも理解されず、「人類から切り離されて、宇宙でひとりぼっちのように感じる」理由について、異文化のもとで育った異邦人として捉える観点から考察します

どこにも逃げ場がない、という状況に陥らないためには、壁際に追いつめられないこと、言い換えれば、後ろに余裕があることが必要です。

それは、ひとつうまくいかなくても、ほかに様々な方法がツールボックスに入っているので、まだまだやれることはあるはずだ、という心の余裕です。

まずは、この記事で紹介したような方法をすべて、自分のツールボックスに入れておきましょう。そして、この記事以外の情報からも、さまざまなツールを仕入れて、自分のツールボックスに追加していきましょう。

この記事で考えたさまざまなツールは、すべて身体志向のセラピーであることを忘れないでください。頭で理解した気になってはいけません。必ず、ひとつひとつ、具体的なからだの動作として実践して体験してください。

ひとつの項目につき、やれることはたったひとつしかないなんてことはありません。呼吸法にしても声を出すにしても姿勢を変えるにしても、マインドフルネスによる自己観察と並行して行えば、多種多様なやり方があることに気づくでしょう。

そして、自分のからだの動きを通して、感覚の変化をモニタリングし、解離に効果があると少しでも感じられた動作をリストアップして、自分専用のツールボックスにどんどん追加し、いつでも参照し実践できるようにしてください。

壁に貼ったり、いつも持ってるメモ帳に書き込んだり、持ち歩いているスマホアプリにまとめたりして、ここぞというときに見れるようにしてください。トリガーに遭遇したら、思考が飛んでしまうことも多いので、最初のうちは思い出す助けが必要です。

そうするなら、身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアに書かれていたとおり、たとえトリガーにさらされても解離以外の選択肢をいろいろと選べるようになっていき、自己コントロールの自由を取り戻せるようになります。。

以前は恐れ、怒り、防衛、無力感といった反応しかなかった状態から、コンテインメント[反応を一時保留し感情を包み込むこと]によって多数の反応から選択できるようになる。

…私たちは、潜在的な運動の(瞬間ごとの)行動に優先順位を付ける能力を強化する。それによって、最も適切な行動を選択できるようになるのだ。(p384)

いままでは、ジェットコースターのようにただ振り回され、どうしようなく無力感にまとわりつかれていた様々な症状に具体的に対処できるようになると、自己統御感が育まれます。

自分の状態をしっかりモニタリングして、その時々に応じた最適なツールを自分に処方できる自分の専属ドクターになりましょう。

自分を自分でコントロールできるようになり、「自分には何かできることがある」という自信を抱くことこそ、解離という牢獄から抜け出すために最も必要なステップであり、この記事はそのための七つ道具なのです。

「からだの記憶」の治療法―解離と慢性疲労のための身体志向のトラウマセラピー
解離やPTSDは「からだの記憶」によって引き起こされる「からだ」を土台として生物学的な現象である、という理解にもとづき、身体志向のトラウマ・セラピーについて考察しました。
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解離