思考に霧がかかった状態「ブレイン・フォグ」にどう対処するか

「まるで頭に霧がかかったようだ」

120815ブレインフォッグそのように思うことはありますか。思考がうまく働かず、人と会話するのも、文章を読み書きするのも、ちょっとしたことを記憶するのも煩わしい。

こうした慢性疲労症候群(CFS)独特の症状は「ブレイン・フォグ」(brain fog)と呼ばれるそうです。近縁の病気である線維筋痛症(FM)の場合もファイブロ・フォグ(fibro fog)というのが知られています。

このエントリでは、ブレイン・フォグとは何か、そしてどう対処できるかという点を探りたいと思います。うつ病の場合の思考に霧がかかった感覚についても触れています。

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ブレイン・フォグとは

さまざまな病気において、脳の血流が妨げられると、顕著に現れるのが、思考に靄がかかったような状態です。この症状は、CFSではブレイン・フォグ、メンタル・フォグ、FMではファイブロ・フォグなどと呼ばれます。

ブレイン・フォグは一般には高次脳の問題と呼ばれる症状に含まれます。しかし、CFSの場合は、ブレイン・フォグ、つまり「脳の霧」と述べたほうが分かりやすいので、わたしはこちらを用いています。

ブレイン・フォグの高次脳機能障害は、「思考に靄がかかる」とか「霧でかすむような」というように表現されるのですが、それでは表現不足な気もします。

2010年12月16日付のニュースウィークの記事「取れない疲れの原因を探れ」では、CFS患者で作家のローラ・ヒレンブランドについてこう書かれています。

「取れない疲れ」の原因を探れ | アメリカ | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト はてなブックマーク - 「取れない疲れ」の原因を探れ | アメリカ | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

03年にニューヨーカー誌に寄せたエッセーで、ヒレンブランドは関節の痛み、リンパ節の腫れ、吐き気、疲労感について書いた。

むなしく医者を転々とした日々。無関心、恥辱、軽減しない症状。意識がもうろうとして、単語は意味を失い、思考は消えた。

「世界が遠く感じられた」と、ヒレンブランドは書いている。「透明なビニールにくるまれているかのようだった」

脳に霧がかかったような状態になると、筋道立てて考えることができなくなります。適切な言葉を探すことも難しく、コミュニケーションも困難です。おまけに物忘れも相当ひどくなります。本やテレビの話の筋が負えなくなる失読症も生じるかもしれません。

離人症と現実感喪失

CFSのブレインフォグ様の症状は、解離においても見られると言われています。実際には、性質の異なるものかもしれませんが、どちらも、「思考に霧がかかった状態」と表現されることが多く、症状も人それぞれなので、区別するのは困難です。

解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)によると、解離性の離人症は次のような症状を伴うことがあります。

自分と世界の間には半透明の膜があると感じる人が多い。目には見えないが、自分が膜に包まれていると感じている。(p39)

先のローラ・ヒレンブランドの「透明なビニールに包まれているかのようだった」という感想と似ているように思います。

一般に、CFSのブレイン・フォグは、頭が働かないという訴えが中心なのに対し、解離の離人感は、もう少し奇妙な不快感が伴うという特徴があるようです。

たとえば、解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)によると、解離による頭が働かないという訴えの場合は、異物感のような体感異常が伴うことがあります。

数年前から、脳の中に石のような固まりがいくつもできています。固まりは大きくなったり小さくなったりします。大きくなって脳の中いっぱいになると、なにも考えられなくなります。誰かと話していても、なにを言っているのか、さっぱりわからなくなります。(p31)

解離の当事者の中には、世界が白黒に見えたり、薄っぺらい紙でできているようにみえたりする、と述べる人もいます。自分が自分でないように思えたり、生きている心地がしなかったりするとも言われます。

興味深いことに、解離新時代―脳科学,愛着,精神分析との融合の中で、離人感についてこのような説明がありました。

また離人・現実感喪失についてはHPA軸(視床下部-下垂体-副腎皮質軸)の異常も見られるという。

すなわちHPA軸の過敏反応(高いコルチゾールレベルと、ネガティブ・フィードバックによるその抑制が低下していること)のパターンを示すということだ。(Simeon,et al.2001) 

(参考までにうつ病やPTSDは逆に鈍化したHPA軸の反応パターンを示すとされる)。(p109)

ここでは離人感にはHPA軸が関係しているとのことですが、慢性疲労症候群でもやはりHPA軸が関係しているという研究があります。

視床下部の中枢神経が老化や慢性疲労症候群と関係している
脳の視床下部が老化や慢性疲労症候群に関係しているそうです。

また、離人感のHPA軸の反応はうつ病やPTSDと正反対であるとのことですが、やはり慢性疲労症候群もまた、うつ病とは正反対のコルチゾールなどの反応が見られるとされているのは興味深く思えます。

NHKスペシャル ここまで来た! うつ病治療という本には、抗うつ薬を飲んでも思考に霧がかかった感覚が治らなかったある日本の患者が、経頭蓋磁気刺激法(TMS)によって回復したという話がありました。

今ままでは頭に霧がかかったようなモヤモヤした感じだったのが、今では霧が晴れたようなすっきりとした気分ですよ。

薬を飲み続けてきたのに治らなかったうつの症状がなくなって、クリアになったと言うんですかね。(p186)

子どもの慢性疲労症候群の研究から

解離の研究は脇に置いて、慢性疲労症候群の話に戻りましょう。

ブレインフォグは、なぜか慢性疲労症候群(CFS)の研究では、あまり取り上げられることのない症状です。ところが、小児慢性疲労症候群(CCFS)の分野では、かねてから研究されていました。

小児慢性疲労症候群は、これまで大阪市立大学の倉恒先生のチームとは別に研究されてきた慢性疲労症候群の一形態です。

2001年、三池輝久先生を班長とするCCFS研究班が組織され、診断基準や治療法が制定されました。その活動は諸外国とも連携し、現在は「小児慢性疲労症候群国際基準」に基づいて診断・治療・研究が行われています。

わたしの知る限り、小児慢性疲労症候群(CFS)について解説した資料のうち、最も分かりやすいのは、学校を捨ててみよう!―子どもの脳は疲れはてているという三池輝久先生の著書です。より詳しいことは不登校外来―眠育から不登校病態を理解するに書かれています。

CCFSは非常にはっきりした特徴を持つことで知られています。多くの子どもたちに見られる共通症状は(1)強い易疲労性 (2)睡眠相後退症候群 そして(3)学習・記憶機能障害です。最後の学習・記憶機能障害が、いわゆるブレイン・フォグではないかと思います。

これらは、大人の慢性疲労症候群にも見られる特色です。しかし、小児慢性疲労症候群においては特に顕著なため、中核症状と表現されています。

というのも、CCFSでは、学校にいけなくなる不登校という問題が絡んでくるため、思考に霧がかかって学業に集中できなくなるという訴えが重要になってくるからかと思われます。

三池先生は、「小児型慢性疲労症候群では情報の混乱がおこっており、情報が正しく伝えられていない」と指摘しています。また「神経線維間の情報の伝達に混線が起こり始めている、すなわち脳の働きに混乱が生じている」と述べています。(p42)

ブレイン・フォッグは、丁寧に整理した書類を、床に散らけてしまった時の惨状に似ています。すべてがバラバラになり、拾い集めて整理する労力を考えると途方に暮れてしまうのです。ブレイン・フォグは思考がバラバラになった状態です。

この認知の障害はいろいろな場面に影響を与えます。不登校外来―眠育から不登校病態を理解するにはこうあります。

読書をしても頭に入らない、暗記物は何とかこなせるが、文章読解問題や作文が嫌だ、またさらには雑誌やマンガを読むことさえ苦痛である、テレビやラジオを視聴するのが疲れて視聴したくなくなった、目では見ているがストーリーは入っていかない、手芸や絵を描くことが好きだったが面倒くさい、絵は描くが写し描きばかりするようになった、という声を聞く。(p73)

人とのかかわりに障害が起こり、人と会うことに異常な疲労を覚える状態になっている。

…脳機能のバランスを欠くために脳全体の細胞群を総動員して興奮させなければならず、エネルギー消費が高度となり脳神経細胞に対する負担が大きくなる。(p85)

学習・記憶機能障害の原因

こうした学習・記憶機能障害はどのような原因で起こるのでしょうか。

そのひとつは、脳の血流の低下にあります。小児慢性疲労症候群(CCFS)の子どもは、前頭葉や視床において、血流が低下していることがわかっています。

二つ目に、三池先生たちは、MRSを用いた検査によって、前頭葉にコリンという物質が蓄積していることを発見しました。

学習と記憶に重要であるアセチルコリンは、コリンとアセチルCoAから作られる。学習・記憶のコリン作動系神経細胞が、アセチルコリンを使って、学習・記憶のために働き、その後、アセチルコリンはコリンエステラーゼという酵素により、コリンと酢酸に分解される。

このコリンは需要に応じて、再びアセチルコリン産生に使用されるはずであるが、不思議なことに慢性疲労症候群の前頭葉にはコリンが蓄積しており、アセチルコリンの生産に障害がおこっていることを示している。(p203-204)

コリンは記憶や学習をつかさどる神経伝達物質、アセチルコリンの材料です。ところがアセチルコリンが造られなくなってしまって、材料だけが不良在庫になっているのです。

その原因のおおもとは、ミトコンドリアの機能障害にあると見られています。ミトコンドリアという発電所によって、コリンからアセチルコリンを造るためのエネルギーが供給されるからです。

小児型慢性疲労症候群では、学習記憶と生体の活動に必要なエネルギーであるATPそのものに直結するアセチルCoAの生産が障害されている。

このことは若者たちの慢性疲労症候群におけるきわめて強い易疲労性と学習記憶の障害のため、勉強がまったく手につかなくなる状況を説明することができる。(p204)

大人の慢性疲労症候群(CFS)でも、これらと似た研究結果があります。

たとえば、CFSで初めて明らかになった他覚所見は、脳機能異常だったそうです。CFS患者の脳では、前頭葉をはじめ、さまざまな部位で血流が低下していることは、以下のエントリで書きました。

日本の疲労研究が明らかにした「慢性疲労に陥るメカニズム」と対処法まとめ
慢性疲労症候群研究の第一人者、倉恒弘彦先生の講座「慢性疲労に陥るメカニズムと評価・対処法」を参考に、日本の疲労研究の歴史や、慢性疲労の原因などをまとめました。