若年発症もあるレビー小体型認知症の10の症状―薬に過敏,幻視,疲労感,パーキンソン症状など


空が青くてきれいだと思った。
そして、『なぜ私は、空がきれいだと思うのだろう』と不思議に思った。
世界は、灰色でもなければ、歪んでもいなかった。
認知症と言われても、私は、平気で歩き、空をきれいだと想うんだ…。(p115)

なたは「認知症」というとどんなイメージを持っていますか? 

家族のこともわからなくなる、身の回りのことさえ自分でできなくなる、思考力がなくなって話が通じなくなる、そんな悪いイメージがあるかもしれません。

しかし実際には「認知症」にはもっとさまざまな人が含まれています。今回取り上げる「レビー小体型認知症」(DLB)の人は、認知症全体の実に2割を占めますが、特に初期段階では、はっきりとした脳の萎縮は見られないことが多く、思考力を保ち、一見普通の人と変わらないこともあります。

その一方で、薬にとても過敏だったり、重い疲労感などの自律神経症状、パーキンソン病のような震えやこわばり、幻覚など、一見「認知症」とは思えないような症状が強く現れたりします。

特に若年発症の場合は、うつ病など他の病気と誤診され、抗うつ薬などの治療によってかえって悪化し、原因不明の難治性の精神疾患とみなされてしまっている場合もあるようです。

レビー小体型認知症とはどんな病気なのでしょうか。若年発症の場合にはどんな問題があるのでしょうか。パーキンソン病とどのような関係があるのでしょうか。どうやって治療するのでしょうか。

レビー小体型認知症がよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活など、専門家や当事者の本にもとづき、役立つ情報をまとめてみました。

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これはどんな本?

レビー小体型認知症についての情報はまだ比較的少なく、実態がはっきり解明されているとはいえません。

その中で、今回主に参考にしたレビー小体型認知症がよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)は、レビー小体型認知症を世界で初めて発見した小阪憲司先生による、イラスト入りのわかりやすい本です。

そしてもう一冊、私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活は、若年発症のレビー小体型認知症の当事者である、樋口直美さんによる闘病記です。

レビー小体型認知症(DLB)の意外な10の症状

レビー小体型認知症(DLB)は、三大認知症(アルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性)の一つです。

レビー小体型認知症は、1976年、日本の小阪憲司先生によって発見されました。1996年になって「レビー小体型認知症」という呼び名が決まり、診断基準が作られました。

近年の研究では、いわゆる「認知症」の代表格であるアルツハイマー型認知症とは原因や症状が異なり、むしろパーキンソン病と非常に深い関係があることがわかってきました。

これから、レビー小体型認知症に特徴的な10の症状をみていくことにしましょう。もちろん、人によって症状の程度は異なるので、思い当たる点があれば、素人判断せず、専門医を受診することが大切です。

1.「認知症」のイメージとは大きく違う

レビー小体型認知症について調べるにあたり、まず必要なのは、「認知症」の一般的な固定観念を捨て去ることです。私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活にはこう書かれています。

認知症は脳が萎縮する病気だとみなさん思っていらっしゃいますけど、レビーの場合は、脳はほとんど萎縮しません。

最期までその人らしさは失われないと言われています。(p233)

レビー小体型認知症の患者は、わたしたちが思い描く認知症患者のイメージとは大きく異なっています。とりわけ、樋口さんのような若年性の人は、「認知症には見えない」ことによる様々な苦労を経験します。

普通の人にしか見えない私は、どれだけ異常かということを延々と説明しなくてはいけない。どれだけ「できないか」を。

しゃべってもしゃべっても簡単には病気の症状は理解されず、私が毎日直面している困難も苦しさも伝わらない。(p168)

有名なところでは、2014年に亡くなった俳優のロビン・ウィリアムズも死後の病理報告からレビー小体型認知症だったと言われています。(P3)

ロビン・ウィリアムズが亡くなった時、パーキンソン病やうつ病、アルコール依存症といった可能性がニュースで飛び交いましたが、「認知症」のイメージを持った人はほとんどいなかったのではないでしょうか。

樋口さんは、「認知症」という言葉自体、世の中で誤解され、偏見の対象となっていて、病気の実態を正しく伝えていないと述べています。

認知症は(医学的には)病名ではなく、「認知機能の低下によって、日常生活や社会生活に支障をきたす状態」を指す言葉。

今は、「認知症を引き起こす様々な病気の総称」として広く使われているが、多くの矛盾がある。

誤解と偏見を生み、本人と家族を混乱させる原因になっていると思う。(P217)

ロビン・ウィリアムズの病名も、正確には認知症ではなく、パーキンソン症状など多種多様な症状が生じる「レビー小体病」だったとされています。

ロビン・ウィリアムズさんの自殺原因はうつ病ではない? 妻の主張 - ライブドアニュース

病理学においてはレビー小体病にかかっていて、それが彼の命を奪ったのです」

「検死の際、検死官の報告書にはレビー小体が夫の脳や脳幹のほぼ全域に確認されたと明記されていたのですから」と明かした。

それで、レビー小体型認知症について考えるにあたり、「認知症」というイメージをいったん脇に置いてから、この病気の独特な特徴を調べていくことにしましょう。

2.人によって症状の出方がかなり違う

レビー小体型認知症とはどんな病気かを考えるとき、重要なポイントとなるのが、その病名ともなっている「レビー小体」とは何か、という点です。

レビー小体型認知症は、この「レビー小体」と呼ばれる構造物が、脳をはじめ、全身のさまざまな場所にできることで、多彩な症状が引き起こされる病気です。

私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活ではこう説明されています。

それは、レビー小体という物質が、脳や自律神経など全身にたまることによって起こる。

どこにどれだけたまるかによって、症状はまったく違う。パーキンソン症状が出たり、記憶障害が出たり、自律神経症状が出たり、医師もまだよくわからない病気で、先のことはわからない。(p141)

レビー小体とは、α-シヌクレインと呼ばれる特殊なタンパク質が集まって固まることで生じる、小さな丸い構造物です。

このレビー小体が、大脳皮質に多くできるとレビー小体型認知症になります。脳幹の一部である黒質に多くたまると、パーキンソン病になります。グリア細胞に生じると、多系統萎縮症になります。全身の自律神経に多くたまると、さまざまな自律神経異常が生じます。

これら、レビー小体によって起こる病気はどれも近縁の関係にあり、互いに重なりあって発症します。レビー小体が、ある部位から別の部位に広がることも少なくありません。

そのため、専門家の間では、これらは別個の病気ではなく、「レビー小体病」(LBD)「α-シヌクレオパチー」という呼び名で統一し、ひとつの全身病として扱うべきだという考えが広がっています。

樋口さんはご自身の体験談の中でこう述べています。

第1回 「レビー小体病」って?|かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-

ではなぜここで「レビー小体病」と名乗るかといえば、ひとつには、一般にイメージされている「認知症」とは、あまりにも違うからです。

それゆえに誤診が多いという大きな問題もあり、この病気の発見者である小阪憲司先生(医師、横浜市立大学名誉教授)ご自身が、病名から“認知症”を外して、より広い概念をもつ「レビー小体病」とすることを提唱されています。

3.若年性レビー小体型認知症は見逃されやすい

樋口さんは、若年発症のレビー小体型認知症の当事者ですが、なかなか正しい診断にたどりつけず、うつ病や甲状腺機能低下症(橋本病)と誤診されて、長年苦しんだことを書いておられます。

私も41才でうつ病と誤診され、約6年間、誤った薬物治療を受けました。自分でこの病気を疑い、文献を読み漁り始めたのが、49才。

この病気について書かれたものは、活字でもウェブサイトでも片っ端からなんでも読みました。この病気の家族会と連絡を取り、介護家族の方から更に詳しい情報を得ました。

50才の秋、専門医を受診しましたが、診断され、治療が始まったのは、翌年の夏。抗うつ剤で劇的に悪化した日から、丸9年という歳月がかかりました。(p3-4)

一般に、「認知症」というと、高齢者の病気だと思われています。しかし、認知症の代表格であるアルツハイマー型認知症も、レビー小体型認知症も、比較的若くして発症する若年性のものが存在することが知られています。

若年性の認知症は、初期には記憶障害が目立たず、「認知症」らしくないと思われることが少なくありません。

46歳で若年性アルツハイマー病と診断され、私は誰になっていくの?―アルツハイマー病者からみた世界などの本を書いたクリスティーン・ボーデンも、周囲から認知症に見えないと言われ、偏見や誤解にさらされてきたそうです。

レビー小体型認知症も、主に60代以降の年配者にみられる病気ですが、40代以下の若年者にもときおり発症します。

レビー小体型認知症がよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)によると、レビー小体型には、おもに70代前後の高齢者に多い「通常型」(common form)と、30-40代でも発症する「純粋型」(pure form)があります。

高齢発症の「通常型」は様々な程度のアルツハイマー型認知症(AD)を合併しやすく、若年発症の「純粋型」はADは伴わないものの、パーキンソン症状で始まることが多いそうです。(p36)

近縁の病気である若年性パーキンソン病の中には遺伝子が関係すると思われる家族性のタイプがあります。

一方で、レビー小体型認知症のなりやすさに遺伝的な傾向はみられないものの、性格的にきまじめで几帳面、しっかり者の人が多いと考えられています。(p42)

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4.前ぶれとしてのレム睡眠行動障害(RBD)

レビー小体型認知症がよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)によると、レビー小体型認知症には、おもな症状が現われる前から、さまざまな前駆症状が見られる場合があります。その一つがレム睡眠行動障害(RBD)です。

眠っているときにうなされたり、暴れたりするレム睡眠行動障害は、レビー小体型認知症の「前ぶれ」である可能性があります。(p27)

わたしたちは、たいていレム睡眠の時に具体的な夢を見ることが多いと言われています。レム睡眠中は普通、骨格筋が動かないようにロックされているので、夢のなかで体を動かしても、現実で体が動くことはありません。

しかしこの骨格筋の抑制がうまく働かないと 、寝ている間に夢に合わせて大声で叫んだり、暴れたりします。これが、レム睡眠行動障害(RAB)です。

当人は寝ている間のことなので、異常行動に気づいていない場合もありますが、その様子を見ている家族が最初に異変に気づくこともあります。

レビー小体型認知症―臨床と病態によると、レビー小体型認知症では、脳の脳幹部にある、レム睡眠のときの筋活動を抑制するシステムが損なわれている可能性があります。(p153)

レビー小体型認知症の前駆症状には、レム睡眠行動障害のほかに、抑うつ、起立性低血圧、便秘、嗅覚の障害などがあり、発症の数年ないしは数十年前からみられることもあるそうです。(p50,52)

5.薬や気候にとても過敏になる

私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活では、レビー小体型認知症に伴う、薬物過敏性という独特な問題について繰り返し書かれています。

レビーには、薬にとても弱くなるという、他の病気にはない不思議な特徴があります。逆に言えば、少しの量でとても大きな効果が出たりします。(p241)

この過敏性(severe neuroleptic sensitivity)は、レビー小体型認知症の人の半数程度に見られるようです。

さまざまな薬、とりわけ抗精神病薬への過敏性は、パーキンソン病やアルツハイマー病にはあまり目立たない、レビー小体型認知症の独特な特徴のようです。

レビー小体型認知症―臨床と病態によると、レビー小体型認知症では、パーキンソン病に比べ、黒質-扁桃核路の障害や、被殻のドパミンD2受容体の低下によるドーパミン分泌の異常や不安定が見られることがわかっています。

そのため、パーキンソン病に比べて、ドーパミンを増やす薬の効果が乏しかったり、抗精神病薬に過敏性が生じたりするのではないかと推測されていますが、正確なところはわかりません。(p153)

過敏になるのは、薬だけとは限りません。樋口さんはこう述べています。

私は、主治医から「体調の変化にもの凄く敏感な人」と言われています。症状だけでなく薬やツボ刺激などの効果も詳しく感じます。(p181)

レビー小体型認知症の人は、気温や気圧の変化など、さまざまなことに敏感になり、体調が変動しやすくなる場合があるようです。

こうした過敏性は、(関係があるのかどうかは不明ですが)、オリヴァー・サックスがレナードの朝 〔新版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)などで報告している嗜眠性脳炎の患者の記録を思い出させます。

嗜眠性脳炎は、ウイルス性の流行病で、パーキンソン病と似た症状が現れ、パーキンソン病の薬のLドーパが効いたと言われています。

しかし普通では考えられないような薬への過敏性があり、サックスは道程:オリヴァー・サックス自伝のの中でその特徴をこう表現していました。

突然、予測不能な反応の変化が起き、Lドーパに対して極端に過敏になる。この薬を試すたびに異なる反応を示す患者もいる。

私は用量を慎重に量って変えようとしたが、それも効果がない。

…通常の回復力やゆとりをなくしたように思える脳システムに対処するとき、純粋な医学的アプローチや薬物療法ではどうしようもない限界がわかるのだ。(p218)

わたしたちは、通常、薬を飲んだり、まわりの環境の変化に直面したりしても、脳や体に恒常性を保とうとするシステム(ホメオスタシス)が備わっているため、しなる竹のように、ある程度柔軟に対処できます。

しかし何らかの理由で「通常の回復力やゆとり」をなくすと、過敏性が生じ、ちょっとした変化に体が激しく反応してしまうのかもしれません。

こうした過敏性があるので、レビー小体型認知症の患者の薬物療法はとても慎重に進める必要があります。

特に、うつ病などの精神疾患と誤診された場合、誤った薬物療法で大きく体調を崩す危険があるので注意が必要です。

6.強い疲労など多彩な自律神経障害

今困っている症状は、この病気の特徴である自律神経障害です。血圧・心拍数・体温などを一定に保つことができません。

「体調に波があって」と人に言うと、「体調の波ぐらい誰でもあるよ」とよく言われるんですが、血圧の上が80を切ったり、夏でも汗が出ずに発熱したりして、日常生活に支障をきたします。

汗が出すぎる方もいますし、失神を繰り返す方もいます。暑さ・寒さ・気候の変動、そういうものにとても体が弱くなります。(p236)

私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活では、自律神経系のさまざまな体調不良のことも繰り返し出てきます。

「認知症」というと、思考力の低下が主訴だろうと感じるかもしれませんが、実際には、強い慢性疲労や睡眠障害、血圧変動など、さまざまな体調不良のほうが強く出る場合もあります。

自律神経症状の中でも、立ち上がったときにふらつきやめまいが生じる起立性低血圧は、怪我につながる場合もあり、とりわけ注意が必要です。

すでに述べた過敏性の問題のため、気温などの環境の変化に敏感に反応してしまい、体調を一定に保つのが難しいこともあるようです。

レビー小体型認知症―臨床と病態によると、さまざまな全身の自律神経症状は、脳だけでなく、体のさまざまな部分の末梢神経にレビー小体が生じるせいで起こると考えられています。(p155)

7.意識レベルが変わる「認知の変動」

レビー小体型認知症の人は、一般の「認知症」のイメージと異なり、特に初期段階においては脳はほとんど萎縮せず、最期までその人らしさが保たれると言われています。

しかし、「認知の変動」あるいは「認知機能の動揺」(fluctuating cognition)と呼ばれる、独特の認知機能障害がみられます。

「認知の変動」とは、さっきまで頭がしっかりしていたのに、注意力が低下してボーとしたり、混乱したりする波のような変化です。

周期的に覚醒度や注意力が低下し、別人のようになることがあります。その期間は数分のこともあれば、数時間、数週間、あるいはそれ以上続くこともあります。

レビー小体型認知症―臨床と病態の日本の報告によると、「認知の変動」はレビー小体型認知症の患者の8割以上に見られるそうです。(p22)

樋口直美さんは、ご自身の「認知の変動」について私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活でこう述べておられます。

そして自律神経の影響だと思うんですけど、脳の血流が突然低下するために、意識障害を起こします。急にひどい疲れやだるさや眠気を感じたりします。

…これはレビー特有の認知の変動というものだと私は思っています。

…そういう時でもちゃんと、周囲で起こっていることも、そこにいる人の気持ちも全部わかっています。ただ朦朧としていて、受信はできても発信用の回線がオフになっているような感じで反応ができません。(p237)

レビー小体型認知症の診断と治療 〜臨床医のためのオールカラー実践ガイド〜によると、注意力や覚醒度のコントロールには、脳幹から伸びる経路が関係していて、アセチルコリンが重要な役割を果たしています。

今のところはっきりしたメカニズムはわかっていませんが、認知の変動には、アセチルコリン系の機能不全や、脳の各部分のつながりの低下が関係しているのかもしれません。(p200)

そのほか、レビー小体型認知症の認知機能障害には、時間の感覚がおかしくなったり、計算が難しくなったりすることも含まれます。

第5回 私が時間を見失っても|かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-

時間の流れを考えるとき、私は、濃霧の中に一人で立っているような気がします。前に続くはずの未来も、後ろにあるはずの過去も濃い霧の中にあって見えないのです。

霧の中には「ある」とわかっていますが、過去の出来事も未来の予定も自力では見えず、存在を感じることができません。いつも迷子でいるような、寄る辺のない感覚があります。

第6回 指輪の埋まった砂漠を進め!|かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-

ただ、スケジュールだけは、覚えられません。砂漠の真ん中で「ここに指輪、あそこに金貨を埋めた」と言われても覚えようがないように、今週も来週も来月も、いつ何があるのかがわかりません。

何月何日という数字は、覚えようと思えば覚えられますが、意味のない記号に感じ、把握している気がせず、忘れてしまいます。常夏の国のように、7月1日も12月1日も変わりないからです。

オリヴァー・サックスの著書音楽嗜好症(ミュージコフィリア)―脳神経科医と音楽に憑かれた人々によると、時間感覚の異常は、パーキンソン病でも見られる症状で、大脳基底核のドーパミンとの関係が推測されています。(p345,352)

また学校を捨ててみよう!―子どもの脳は疲れはてている (講談社プラスアルファ新書)では、慢性疲労を訴える不登校の子どもたちの学習・記憶機能障害の原因として、アセチルコリンの生産異常がみられるとされています。(p204)

一般に、ドーパミンとアセチルコリンは、シーソーのような拮抗関係にあり、互いに影響しあっていると言われています。

レビー小体型認知症の場合も、ドーパミンとアセチルコリンのバランスの変動が、こうした様々な認知機能の問題につながっているのでしょう。

8.うつ症状が強い

レビー小体型認知症は、認知機能の低下が起きてくるより前に、うつ状態がひどくなることもあります。

そのため、「うつ病」と診断されている人も少なくないと考えられます。(p22)

レビー小体型認知症がよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)のこの言葉が示すように、レビー小体型認知症には、うつ症状が伴うため、うつ病と誤診されることがあります。

樋口さんも、当初はうつ病と診断されましたが、薬物療法によってさまざまな副作用が生じ、より悪化してしまいました。

レビー小体型認知症―臨床と病態によると、レビー小体型認知症の抑うつは、脳の皮質下(青斑核や黒質)に生じるレビー小体が影響している可能性があります。(p156)

それに加えて、レビー小体型認知症に伴う様々な自律神経症状や認知の変動、周囲の人に理解してもらえない悩みなどが、うつ状態を引き起こしている場合もあります。

樋口さんの場合は、憂うつ感や悲観的思考はなかったのに、不眠・頭痛・倦怠感を訴えただけで、うつ病と診断されてしまったそうです。(p66)

9.パーキンソン症状が出る人が多い

すでに述べた通りレビー小体型認知症は、パーキンソン病と密接な関連があります。レビー小体型認知症がよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)にはこう書かれています。

レビー小体型認知症とパーキンソン病の関係は密接です。同じような症状が現われるため、パーキンソン病と診断され、その治療だけを受けている人も少なくありません。(p24)

パーキンソン病と認知症に深い関係があることが報告され始めたのは、1970年代のことでした。当時、それはパーキンソン病とアルツハイマー病の合併だと考えられていました。

しかし日本の小阪憲司先生らが、1976年、パーキンソン症状を伴う認知症患者の脳の大脳皮質や扁桃核にレビー小体が存在することを報告して以来、パーキンソン病に合併しやすいのはレビー小体型認知症であることが明らかになってきました。

(もちろんすでに触れたように、高齢発症の「通常型」など、アルツハイマー型認知症を合併する例もあります)

パーキンソン病とレビー小体型認知症は、どちらもレビー小体という同じ原因物質によって引き起こされるので、互いに重なりあう密接な病気です。

とはいえ、レビー小体型認知症―臨床と病態によると、レビー小体型認知症では、パーキンソン症状が現れても、筋肉のこわばり(筋固縮、寡動など)が強く、安静時の手足のふるえ(振戦)や症状の左右差は少ない傾向があるそうです。(p50,89)

また、パーキンソン病のことがよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)によると、レビー小体型認知症の人のうち、25から50%はパーキンソン病症状がみられません。(p19)

同じレビー小体が関係する病気とはいっても、やはり脳のどの部分にレビー小体が増えるかによって、さまざまな違いが生じるといえるでしょう。

レビー小体型認知症の人がパーキンソン病と診断されている場合、その診断は間違いではありませんが、レビー小体型認知症の方面から見ることで、よりニーズにあった治療を受けられるようになるかもしれません。

10.さまざまな幻覚が生じる人も

レビー小体型認知症を、他の病気と鑑別診断する上で、とても特徴的なポイントとなるのが、幻覚、とりわけ幻視(visual hallcination)の存在です。

樋口さんも幻視の症状がきっかけで、レビー小体型認知症の可能性を考えるようになりました。

一般に幻覚というと、意識がもうろうとしているときに起こると思われがちですが、レビー小体型認知症の幻覚は、しっかり意識を保っているときに生じ、当人が幻覚の内容を具体的に説明できることが多いようです。

このブログで以前取り上げたオリヴァー・サックスの見てしまう人びと:幻覚の脳科学では、正常な思考の持ち主がさまざまな幻覚を見てしまう例がたくさん紹介されています。

樋口さんは、幻視を経験する患者が直面する独特な問題について私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活で、こう語っています。

みなさん今夜、お家に帰られて、夜、寝室の扉を開けた瞬間に、知らない男が眠っていたらどうされますか。

…レビーの、特に高齢の方が叫ぶと、…「頭がおかしい」と怒鳴られ、説教され、バカにされ、BPSDだと決めつけられます。

病院に無理やり連れて行かれて、抗精神病薬を飲まされるかもしれません。

「認知症だから、ない物をあると言って、わけのわからないことをするのよね」と家族の方は言います。

違います。思考力があって、本物にしか見えないものが見えるから、正常に反応しているんです。不審者がいれば怖いです。でも慰められるどころか狂人扱いされます。(p239)

レビー小体型認知症の患者は、思考がとてもはっきりしているときに、本物と見分けがつかないほどリアルな幻視を見ます。

それはたとえば、人だったり、虫だったり、現実にその場にいるとしか思えないような物がはっきりと見えるといいます。

あまりにリアルなので、幻視と思えず、びっくりして反応してしまいますが、家族や周りの人にはそれが見えないため、頭がおかしくなったように思われてしまうのです。

レビー小体型認知症では、幻視だけでなく、見間違い(錯視)や、思い込み(誤認)、実際には鳴っていない音が聞こえる幻聴、実際にはない匂いがする幻臭など、他の形態の幻覚が生じることもあります。

幻臭は、レビー小体型認知症やパーキンソン病の前駆症状として発症より前から現れる嗅覚の低下とも関係しているのかもしれません。

第2回 匂い、このうっとりするもの|かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-

アルツハイマー病の初期に嗅覚が低下することを私は知っていました。まず嗅覚が低下し、それに続いて記憶障害が始まるのだと読みました。嗅覚低下は、認知症が始まる合図なのだと。

(その後、レビー小体病に分類されるパーキンソン病、レビー小体型認知症でも早期に嗅覚障害が起こることを知りました)

年配者に多いシャルル・ボネ症候群では、視野が欠けたことで、脳が視覚を補おうとして幻覚が生じます。幻臭もまた、失くなった匂いを補うために、脳が架空の匂いを再生するために生じている可能性があります。

レビー小体型認知症―臨床と病態によると、幻覚を伴うレビー小体型認知症の人の脳では、後頭葉にある視覚野の血流や糖代謝が低下していることがあり、それが視覚認知障害を引き起こしているのではないかとされています。(p156)

レビー小体型認知症の幻覚は、精神的な問題ではなく脳の視覚機能の誤作動ですが、そのときの感情やストレスによって、回数が増えたり、内容が変化したりもするそうです。(p139)

レビー小体型認知症の幻視は、健康な人でも生じる、雲が何かの形に見えたり、壁のしみが人間の顔に見えたりする現象「パレイドリア」がとても強く出ているものだという説もあります。(p82)

もちろん、レビー小体型認知症でも、幻視が生じない人もいます。

どうやって検査・診断するのか

レビー小体型認知症を簡単に確定診断できる方法は今のところなく、専門家が、さまざまな検査や症状の聞き取りから総合して、レビー小体型認知症かどうか診断します。

レビー小体型認知症を診ることができる医師は、レビー小体型認知症 家族を支える会 専門医師一覧から調べることができます。

用いられる検査には、たとえば、以下のようなものがあるようです。

■認知機能検査
さまざまな質問形式のテストや、描画テストによって、脳の認知機能を調べます。

たとえばMMSE(ミニメンタルステート検査)、ウェクスラー成人知能検査、パレイドリアを誘発する視覚機能検査、時計の形を描く時計描画テスト、ベンダー・ゲシュタルト・テストなどが用いられます。

■脳画像検査
初期は脳の萎縮などがほとんど見られないため、CTやMRIによって、海馬を中心に萎縮が見られるアルツハイマー型認知症や、病変のある多発性脳梗塞と区別できます。

SPECTで脳の血流を調べると、後頭葉の血流低下や、ドーパミンを取り込むタンパク質(ドーパミントランスポーター)の働き低下が見つかることが多いようです。

■心筋機能の検査
心臓の交感神経の働きを調べるMIBG心筋シンチグラフィでは、早期から交感神経の働きが低下し、心臓交感神経の変性が見つかります。90%以上の精度で他の認知症と鑑別できると言われています。

■自律神経機能の検査
呼吸機能を調べる換気応答検査や、起立性低血圧を調べる体位変換検査、交感神経と副交感神経のバランスを調べる心拍変動解析など、さまざまな自律神経の検査でも異常が見つかるようです。

将来的には、レビー小体の原因となっているα-シヌクレインの濃度を調べたり、脳のレビー小体をPETで検出したりする検査方法が開発される可能性があるそうです。

さまざまな治療法・サポート情報

レビー小体型認知症の治療には、さまざまな薬物療法・非薬物療法が用いられます。

私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活でも、リバスタッチパッチなどの薬を活用することで、症状の改善につながった経緯が書かれています。

コリンエステラーゼ阻害薬(AChE阻害薬)

レビー小体型認知症では、脳のマイネルト基底核が損なわれるため、神経伝達物質のアセチルコリンが低下します。アセチルコリンは、脳の認知機能に関わる物質です。

認知症治療薬として知られるコリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンを分解する酵素であるコリンエステラーゼを抑制することで、結果的にアセチルコリンの量を増やす働きを持っています。

コリンエステラーゼ阻害薬は、認知機能が低下していないように思える場合でも使用され、アセチルコリンが増加すると、認知機能以外の症状も改善するそうです。

2016年3月現在、日本で使用できるコリンエステラーゼ阻害薬には以下のようなものがあります。

■アリセプト(ドネペジル)…日本で開発された認知症治療薬。現時点でレビー小体型認知症への効能を取得している唯一の薬。

■レミニール(ガランタミン)…アセチルコリン受容体の働きを強める作用もある。作用時間が比較的短い。

■イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ(リバスチグミン)…皮膚に貼る経皮吸収剤。

NMDA受容体拮抗薬・脳循環代謝改善薬

メマリー(メマンチン)は、脳の記憶や学習に関わるグルタミン酸が過剰になって神経細胞が損なわれるのを防ぐ薬です。コリンエステラーゼ阻害薬と併用することで、病気の進行をさらに遅らせることができると言われています。

サアミオン(ニセルゴリン)などの脳の血流を改善する薬が使われることもあります。

漢方薬

漢方薬のうち、レビー小体型認知症にしばしば用いられる抑肝散は、グルタミン酸の働きを抑え、神経細胞の興奮を鎮める効果があり、幻覚や不眠などに効果があるとされています。

ただしレビー小体型認知症の診断と治療 〜臨床医のためのオールカラー実践ガイド〜によると、今のところ十分なエビデンスがあるわけではありません。(p121)

パーキンソン病治療薬

パーキンソン症状が現われる場合には、ドーパミンの量を増やす、様々なタイプのパーキンソン病治療薬も必要かもしれません。

ただしレビー小体型認知症がよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)によると、パーキンソン病に使われる薬の中でも、抗コリン薬は、アセチルコリンの働きを弱めてしまい、レビー小体型認知症の認知機能の低下を悪化させてしまうので使用できません。(p72)

メラトニン受容体作動薬

レビー小体型認知症―臨床と病態によると、睡眠に関わるホルモンであるメラトニンは、アセチルコリン分泌のリズム調整にも関わっています。

そのため、メラトニンと同様の働きによって睡眠リズムを正す薬である、メラトニン受容体作動薬のロゼレム(ラメルテオン)は、アセチルコリンのバランスを調整し、日中の眠気や幻視など、注意・覚醒度の変動を和らげる効果があるかもしれません。(p121)

その他の薬

そのほか、それぞれの人に症状によって、さまざまな薬が対処療法的に用いられますが、症状や体質、過敏性などは一人ひとり違います。

しっかり話を聞いて柔軟に対処してくれる医師を主治医に選び、専門家の指導のもと、自分にあった薬探しをしていくことが大切です。

非薬物療法

病気についての正確な知識を得て、対応の仕方を学んでいくことや、リハビリテーションで運動機能の低下を防ぐこと、生活に笑いを取り入れストレスを減らすことなど、さまざまな非薬物療法も重要です。

家族や友人の立場にある人が、レビー小体型認知症の「認知の変動」や「幻視」といった独特な症状についてよく知り、当人の気持ちに配慮してサポートすることも大事です。

特に症状が進行してきた場合や、高齢発症でアルツハイマー型認知症(AD)を合併した場合には、さまざまな専門的な支援が必要です。

支援団体、福祉制度など

症状の程度によっては、介護保険制度や、特定疾患医療給付制度(パーキンソン病と診断された場合)などの社会保障制度について調べて活用することができるかもしれません。

どんなサービスや医療を受けられるのか、症状にどう対処すればよいのか、といった点を知るために、家族会や支援組織にアドバイスを求めるのもよいかもしれません。

■レビー小体型認知症家族を支える会

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まだまだ研究途上の病気

レビー小体型認知症は、まだ比較的、研究の歴史が新しく、未解明な点が多く残されている病気です。

若年性レビー小体型認知症の当事者となった樋口直美さんは、自身の経験を通して、これまでの認知症の「常識」の中には誤ったものが多くあることに気づいたといいます。

私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活にはこう書かれています。

レビー小体型認知症の場合は、認知機能の状態に大きな波がある。重度でない限り)悪い時は、認知症だが、良い時は違う。

薬の副作用などで一時的に悪化しても、薬を調整すればまた持ち直す。

決して右肩下がりに認知機能が落ちていくわけではない。10年進行しない人、認知症にならない人さえいる。(p217)

どんな病気でもそうですが、医師や専門家にしかわからないこともあれば、自ら病気と闘う患者本人が語らなければ誰も気付かないこともあります。

医師には多数の患者を見ている者にしか見えない発見があります。患者やその家族には当事者になった者にしか理解できない気づきがあります。

レビー小体型認知症の研究は、今後、こうした医師視点、患者視点双方が研磨し合い、よりはっきりとした病態が明らかにされていくことでしょう。

また、樋口直美さんの本からは、レビー小体型認知症の中でも、特に若年性の患者は、かなりの数が見過ごされ、うつ病など他の病気と誤診されている可能性がうかがえます。

慢性疲労症候群の学習・記憶障害に、認知症と類似するアセチルコリンの低下が見られることはすでに述べたとおりですし、幻視や認知の変動は、若年者の場合、解離性障害とみなされているかもしれません。

そのような患者に、抗認知症薬を用いたらどうなるのか、今後ぜひ研究が進んでほしいところです。記憶に新しいところでは、認知症の薬であるメマリー(メマンチン)が、線維筋痛症の認知機能障害に効果があるというニュースがありました。

この記事を読んで、自分や家族がレビー小体型認知症に当てはまるかもしれないと感じた人は、ぜひ、今回参考にした二冊の本を読んでみるようお勧めします。

医師でもあり、レビー小体型認知症の発見者でもある小阪憲司先生のレビー小体型認知症がよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)と、当事者の立場から実態を描き出している樋口直美さんの私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活は、レビー小体型認知症をさまざまな角度から考える助けになると思います。

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